7月 12

EUがマラケシュ条約に批准にむけた法整備をほぼ終える

 欧州議会は以下の規則(REGULATION)と指令(DIRECTIVE)を2017年7月6日に採択して、EUとしては、必要な法整備はほぼ終えたらしい。あとは、指令(DIRECTIVE)に基づいて加盟国が国内法の法整備をしていくことになる (期限はEU官報掲載後から12ヶ月以内)。
 マラケシュ条約については、批准の主体が各加盟国ではなく、EUであるということが、欧州裁判所の判決ででている(参考 :IP Watch記事)ので、EUが批准すればEU加盟国はすべてマラケシュ条約の加盟国になる。EUの批准の時期は、加盟国の国内法の整備後でしょうか(そうなると1年後)。
 
 EUのマラケシュ条約批准に向けた動きそのものは各方面で歓迎されていますが、権利者に補償金を支払うスキームにしてしまったようで、それについては、当事者団体やIFLAなどから懸念が示されているというか、反発されているらしい(例えば、欧州盲人連合の声明[PDF]など)。

規則(REGULATION)
Texts adopted – Thursday, 6 July 2017 – Cross-border exchange between the Union and third countries of accessible format copies of certain works and other protected subject-matter for the benefit of persons who are blind, visually impaired or otherwise print disabled ***I – P8_TA-PROV(2017)0313

指令(DIRECTIVE)
Texts adopted – Thursday, 6 July 2017 – Permitted uses of certain works and other protected subject-matter for the benefit of persons who are blind, visually impaired or otherwise print disabled ***I – P8_TA-PROV(2017)0312

 以下は上についての欧州議会のプレスリリースとIFLAブログ、IP Watchの記事。

 EUの規則と指令については以下などを参照。

3月 12

著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめで示された障害者の情報アクセスに関する著作権法改正の方向性

 いろいろなメディアで報道もされているので、もういまさらという感じですが、2月24日の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)で中間まとめがまとめられ、次の著作権法の改正の方向性が示されています。

 現在、中間まとめはパブコメにかけられています。報道によれば、改正法案が国会に提出されるのが、早ければ今開催されている通常国会でとのこと。果たして間に合うのか(ここに乗るかどうか。→第193回国会での内閣提出法律案一覧 / 内閣法制局)。

 図書館に関係するところがてんこ盛りで全てここで紹介することはできませんので、ここでは、障害者サービスに関係する障害者の情報アクセスに限定して紹介します。中間まとめについては、facebookの次のグループで図書館関係者が詳しく紹介さしていますので、こちらをご参照ください。

経緯

 今回、示された障害者の情報アクセスに関する法改正は、2016年9月に発効したWIPOの「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(マラケシュ条約)」の批准のための法整備の一環でもあります。マラケシュ条約の批准に向けた著作権法の改正については、平成26年度から著作権分科会法制・基本問題小委員会(当初は国際小委委員会)で検討がなされていましたが、平成26年度のまとめ[PDF]の以下にあるとおり、権利者団体と障害者団体の意見の隔たりがあるため、平成27年度以降は、文化庁が間に入る形で権利者団体と障害者団体の間で協議が続けられていました。今回の中間まとめでは、その関係者協議での一定の結論が示されています。

(「平成26年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について」1ページより)
障害者団体からは、マラケシュ条約の締結に必要な手当の他、視覚障害・聴覚障害等に係る多岐にわたる要望が寄せられた一方、権利者団体からは、マラケシュ条約の締結に必要な手当については前向きな反応があったものの、その他の要望事項については、反対若しくは慎重な立場が示され、両者の意見にかなり隔たりがあることが明らかとなった。障害者団体からは、マラケシュ条約の締結のために必要な最低限度の法改正だけを先行するのではなく、障害者の情報アクセスの充実の観点から、その他の要望事項についても併せて所要の措置を講じてほしいとの意向が示されたことから、主査より、まずは両者の意見集約に向けた取組を行った上で、改めて小委員会で検討を行うよう提案がなされた。

 関係者協議の経緯は今回の法制・基本問題小委員会(第6回)の資料として付されている以下でも伺うことができます。

法改正の方向性

 障害者の情報アクセスに関する著作権法改正の方向性については、「第3章 障害者の情報アクセス機会の充実」にまとめられています。改正する方向で示されているものは、主に以下の3点です。

  1. 第37条第3項における受益者の範囲に身体障害などにより読字に支障がある者を含めることを明文化
  2. 第37条第3項により認められる著作物の利用行為に公衆送信(メールによる提供)を追加
  3. 第37条第3項により複製等を行える主体の拡大(ボランティア団体の追加及び文化庁長官の個別指定に係る事務処理の円滑化)

 全て著作権法第37条第3項に関係するところなので、第37条を先に転載しておきます。

(視覚障害者等のための複製等)
第三十七条  公表された著作物は、点字により複製することができる。
2  公表された著作物については、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。
3  視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

1. 第37条第3項における受益者の範囲に身体障害などにより読字に支障がある者を含めることを明文化

 
 著作権法第37条第3項の受益者として定義されている「視覚障害者等」は、「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」と定義されており、視覚表現の認識に問題があるものに限定されるようによめ、肢体不自由などの理由でページがめくれない、もてない、姿勢が維持できないという理由で紙の書籍を読めない者が含まれているかどうか条文の分理上明らかではありません。

 図書館関係団体と権利者団体がまとめた「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37 条第3 項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」」では、上記の肢体不自由者も含むようになっており、また、マラケシュ条約で受益者される範囲にも含まれることから、「身体障害等により読字に支障のある者を加えるための所要の規定の整備を行うことが適当」としています。

(中間まとめ46ページより)
我が国において効力を発生している障害者権利条約においては,「締約国は,国際法に従い,知的財産権を保護する法律が,障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するための全ての適当な措置をとる。」とされている。
こうした国際条約上の義務の履行という観点のほか,身体障害等により読字に支障がある者と,視覚障害等により視覚による表現の認識に障害がある者との間で情報アクセスの機会における差異を設けるべき合理的な理由は認められない。
加えて,権利者団体からもマラケシュ条約の締結に必要となる規定の整備については前向きな反応が示されており,実務上も権利者団体の理解のもとで作成された法第37条第3項に基づく複製等に関するガイドラインに基づき身体障害等により読字に支障のある者のためにも複製等が行われているところである。
これらのことを踏まえれば,法第37条第3項における受益者の範囲について,身体障害等により読字に支障のある者を加えるための所要の規定の整備を行うことが適当である。

2 第37条第3項により認められる著作物の利用行為に公衆送信(メールによる提供)を追加

 第37条第3項では、図書館等の複製の主体は受益者である視覚障害者等に自動公衆送信(提供側がサーバーにコンテンツを上げておいて、利用者がそれをダウロードする)は認めていましたが、公衆送信(提供側が利用者にメールによって提供する)ことは認められていません。しかし、パソコンの利用に習熟していないために、アカウントを取得して、サービス提供側のウェブサイトにアクセスして、ダウンロードする操作をすることが困難な人が多い問題がありました。しかし、メールの送受信はそれと比べ、利用できる人が多いため、図書館等が行うメール送信サービスによりアクセシブルな形式となった著作物を視覚障害者等に対して送信することも含めることを求める要望があがっていました。今回の中間まとめでは、「図書館等が行うメール送信サービスがダウンロード型のサービスに比べて権利者により不利益を与え得るとは評価できないことから、法第37条第3項における権利制限の対象とすることが適当」と整理されています。

 サーバーを設置してダウンロードサービスを提供できるところは限られてしまいますので、メールで直接提供できるようになることは、提供側にとっても大きいですね。

(中間まとめ46ページより)
関係者間協議において,権利者団体からは,既に自動公衆送信を行うことが権利制限の対象になっていることに鑑みれば,メール送信サービスについても権利制限の対象としても良いと考えられるが,送信されるコンテンツが健常者にも利用可能な状態に置かれないように留意する必要があるとの意見が示され,これに対し障害者団体からは,図書館等が行うメール送信サービスは,録音図書などとともに暮らしに関わる情報を視覚障害者等に送信するものであって,送信の対象は法第37条第3項に定められている受益者に限られており,健常者への送信は法の範囲を超えるものなので,そうしたことが起きないよう普及・啓発を図っていきたい,との意見が示された。
その上で,関係者間協議においては,現在の法第37条第3項では自動公衆送信を行うことが権利制限の対象となっている一方,図書館等が行うメール送信サービスがダウンロード型のサービスに比べて権利者により不利益を与え得るとは評価できないことから,法第37条第3項における権利制限の対象とすることが適当であるとの整理に至っている。こうした整理は妥当なものと考えられ,障害者団体より図書館等が行うメール送信サービスという具体的なサービスの態様が示されていることからすれば,法第37条第3項に基づき図書館等がメール送信サービスを行うことができるよう,所要の規定の整備を行うことが適当である。

複製等を行える主体の拡大

 著作権法第37条第3項に基づいて受益者だる視覚障害者等のために複製を行える主体は、著作権法施行令第2条で限定列挙されています。限定列挙されていない機関・団体については、個別に文化庁長官が個別に指定する仕組みになっています。障害者関係施設等の視覚障害者等が入所する施設や図書館等は、複製の主体として限定列挙されていますが、録音図書や拡大図書の作成等を行っているボランティア団体は、列挙されていません。そのため、ボランティア団体が著作権法第37条第3項に基づいて録音図書などを製作しようとする場合は、図書館等の手足という形で行うか、文化庁長官の個別指定を受ける必要がありました。ボランティア団体の中には、図書館等の手足としてではなく独自に音訳に取り組むものも多いため、複製の主体として限定列挙に含めるよう要望が出されていました。
  
 関係者協議の結果、「権利者の利益を不当に害さないための一定の条件を課した上で,現行制度よりも簡易な方法で複製等を行うことができる主体になり得ることができるようにするための所要の措置(例えば,一定の類型については個別に文化庁長官の個別指定を受けずとも主体になり得るよう政令に規定する等)を講じることが適切」という結論を出しています。

 「一定の条件」を著作権法施行令で解釈の迷いなく判断できるように明記できるのかが気になるところです。中間まとめの注98にあるように、関係者協議では「関係者間協議においては,利用者の登録制度を具備していることや,団体における事業責任者が著作権法に関する基礎的な講習を受講していることなどが考えられる」という議論があったようです。

 あわせて、文化庁長官の個別指定を受ける手続を負担に感じて尻込みしてしまうボランティアグループが少なくないことから、「文化庁長官による指定を受けるための手続に関する改善の要望等があれば,文化庁において対応を検討することが適当」 と、個別指定をうける手続きの改善についても言及されています。
 
 複製の主体については、大学について、「大学等の図書館及びこれに類する施設」 が限定列挙され、大学図書館が該当することは明記されていますが、以前、以下に書いたように、障害学生に支援を行っている障害学生支援室が含まれるかどうかは解釈が定かではないので、このタイミングでそれもわかるようになるとよいなぁと思います。

(中間まとめ47ページより)
関係者間協議において,権利者団体からは,要望には基本的に賛成するものの,主体を無制限に拡大することには慎重であるべきであり,個別指定ではなく,より緩やかな仕組みを採る場合は,主体が守るべき要件を定める等の何らかの制度整備が必要であるとの意見が示された。
法第37条第3項に基づき複製等を行うことができる主体を制限列挙する令第2条第1項第1号は,ⅰ視覚障害者等向けの情報提供事業を組織的に実施し得る者であること,ⅱ(健常者への流出防止等に配慮した)一定の法令順守体制が確保されていること,ⅲ外形的に権利制限規定の適用となる主体か否かが確認できること,といった共通点を持つ主体を挙げているものと考えられる。
この点,障害者団体からは,ボランティアグループ等が障害者のための録音図書等の作成に果たしている役割は,令第2条第1項第1号で制限列挙されている事業者と比べても劣らない,若しくはより大きいと認められる場合もあるとの意見が示された。
特に,拡大図書やDAISY等は,平成21年の著作権法改正により新たに権利制限規定の対象となったことから,十分な量の図書が提供できていないという事情がある中で,これらのボランティアグループ等が法第37条第3項の規定に基づき拡大図書やDAISY等を作成することができるようになると,視覚障害者等に対しこれらのアクセシブルな図書をより一層普及させることができるものと考えられる。
こうしたことに鑑みれば,現行制度を見直し,ボランティアグループ等についても,上記ⅰ~ⅲに整理したような共通点も踏まえ,権利者の利益を不当に害さないための一定の条件を課した上で,現行制度よりも簡易な方法で複製等を行うことができる主体になり得ることができるようにするための所要の措置(例えば,一定の類型については個別に文化庁長官の個別指定を受けずとも主体になり得るよう政令に規定する等)を講じることが適切である。

 

 なお、中間まとめは、複製の主体の拡大に関連して、権利者団体側より、複製の無制限の主体の拡大は「粗悪な音訳図書の流通につながり,文学作品をより良い状態で鑑賞できる機会が失われる」という懸念が示され、音訳サービスの質を担保する制度が必要だという意見が出ていることにも言及しています。音訳の質の問題について中間まとめは、著作権法第37条第3項は「音訳の質を確保するための体制を有することまでは求められていないものと解されることから,主体の拡大に当たって新たにこうした体制を求めることは適当ではない」とし、(権利者団体、障害者当事者団体、図書館等の)「当事者間での協力の発展による音訳サービスの質の向上が望ましい」という結論を出しています。

4 その他

 放送番組に対するアクセス環境の改善のための法改正についても障害者団体から要望が挙げられていましたが、「権利制限規定の必要性及び具体的な制度設計の在り方については、現時点では両当事者において十分な認識の共有及び意見の集約がなされるには至っていない」として、引き続き検討が継続されることになりました。

11月 02

大学の障害学生支援室が著作権法第37条第3項の複製の主体に該当するかについての文化庁著作権課の見解

 著作権法第37条第3項では、著作権法施行令で定められた施設は視覚障害その他の理由で読書に困難のある人々のために著作者の許諾なく複製が行えるという権利制限が規定されています。大学については、著作権法施行令第二条第一項第一号ロにおいて、

大学等の図書館及びこれに類する施設

が複製の主体(著作権法第37条第3項に基づく複製が行える機関)として規定されています。

 大学図書館が複製の主体に含まれることは間違いありません。しかし、「これに類する施設」に何が該当するかという点です。

 現状として、視覚障害など障害のある学生のために著作物のテキストデータの作成は、ほとんどの大学で障害学生支援室のような学生支援部局が行っており、大学図書館でそれを行っているところは立命館大学図書館などのごく少数の例外を除き、ほとんどありません。

 大学図書館は著作権法第37条第3項の規定に基づいて著作物の複製が行えますが、障害学生支援室が、上の「これに類する施設」に該当するとは文字だけでは解釈できないために、障害学生支援室は、著作権法第30条に基づき、学生の私的複製(手足理論)という形でしか著作物を複製することしかできなかったのではないかと思います。この場合、学生の私的複製という形ですので、テキストデータを作成しても、製作を依頼した学生にしか渡すことしかできず、同じ著作物のテキストデータをリクエストした他の学生への提供も大学間で相互貸借や共同利用ができません。

 ちなみに、大学として、著作物のテキストデータ(「教材のテキストデータ化」)の作成をしているところは、以下の日本学生支援機構の平成26年度の調査によれば、89の大学が実施しています。

 各大学でどれだけの数が製作されているかまではこの調査ではわかりませんが、これだけの数の大学で製作したテキストデータの共同利用が進んでいないということは、非常にもったいないことだと思います。これについて、平成24年度に文部科学省が立ち上げた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」でも議論され、報告書でも言及されています。

 他の学生への提供も大学間で相互貸借や共同利著作権法第37条第3項に基づく複製であれば可能です。障害学生支援室が「これに類する施設」に該当する施設という解釈がはっきりすれば、各大学が作成したテキストデータなどの共同利用が一気に進む可能性があります。

 これについて、内閣府の障害者政策委員会の8月の会議で、障害者政策委員長である静岡県立大学教授の石川准先生の質問に回答する形で、文化庁著作権課が公に見解を示しました。議事録も公開されるはずですが、動画は公開されており、それを確認することができます。障害学生支援室が全て含まれるというわけでもなさそうですが、大学図書館の趣旨に合致するものが含まれるという見解です。該当部分のテキストを起こしてみました(一字一句すべてが正確というわけではないので、ご注意を)。

障害者政策委員会 第25回動画 分割 2/2

※該当部分は、「第25回動画 分割 2/2の」58分33秒から1時間2分31秒。

障害者政策委員長 石川准氏

情報アクセシビリティと関係して、あるいは、教育とも関わってくる話ですが、著作権法の37条に関する点につきまして、文化庁著作権課にお聞きしたいのですけれども、政令で指定された機関が、視覚による読書に困難のある人々を対象として、著作物を複製することは、著作権者の許諾なしに認められる、というのがその37条の規定でありますけれども、その政令の中で大学の場合は、大学図書館がそのような機関として指定されております。ただし、現状の各大学における障害学生支援というのは、障害学生支援室といったところが中心になって行っておりまして、そこが例えば、視覚障害等あるいはディスレクシアの学生に対して著作物を電子データ化するといった作業も行っておりますけれども、これがそもそも著作権法第37条に基づく複製にあたるのかどうかということについて、各大学とも半信半疑、というところがございまして、したがって、共同利用、相互貸借みたいなこともできずにいるという状況がございます。それにつきまして、文化庁著作課としてのご見解、つまり、大学図書館等と書いてあって、障害学生支援室とは書いていないけれども、それも含むのか、あるいは、列挙型の規定となっているので、書いていないことは含んでいないのか、ということについて、この場を借りて、ご見解をいただけると有り難いと思います。

文化庁著作権課課長補佐 秋山氏

お問い合わせのありました著作権法37条3項の適用に関する部分ですけれども、同項の権利制限規定の適応のある主体に関しては政令で定める、ということになってございます。さきほどご説明いただいたとおりです。この政令でございますけれでも、著作権法施行令第二条第一項第一号ロにおきまして、この37条3項の規定の適用がうけられる主体として、「大学等の図書館及びこれに類する施設」と、このように定められてございます。ここにいう、「これに類する施設」といいますのは、大学図書館のように図書等の資料を備え置いて、学生に資料の貸出等の情報提供を行う機能、こういった機能を担う施設が想定されているものと解されるところでございまして、必ずしも名称が大学図書館となっていなくても、当然、その他のものが含まれるということは念頭に置かれているものと理解してございます。したがいまして、行政、私どもとしてまして、個々の事例への法令の適用関係について、個別に判断を申し上げる立場ではございませんけれども、ご質問のありましたのような、障害学生支援室といった名称を冠する組織につきましても、通常、上記の大学図書館のような趣旨に合致するものも多いと考えられますので、そうしたものにつきましては、基本的に「これに類する施設」に該当するというふうに解釈することもできるのではないかというふうに考えています。

障害者政策委員長 石川准氏

ありがとうございました。大変、明快なご回答をいただきまして、感謝いたします。

 

 障害者学生支援室のような学生支援部署も著作権法第37条第3項の複製の主体になりえる解釈を文化庁が公の場で議事録に残る形で示したことは大きいと思います。しかし、「大学図書館の趣旨に合致する」という条件めいたものがついていることが正直、わかりづらいところがありますね。情報提供だけすれば条件に合致するのか、資料も備えることがもとめられるのか。前者であれば、テキストデータ化をしているところは全て該当すると考えてよいように思いますが、後者の資料を備えることまで求められると該当するところはぐっと減る気がします。

参考

著作権法

第三十七条  3  視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

著作権法施行令

第二条  法第三十七条第三項 (法第八十六条第一項 及び第三項 並びに第百二条第一項 において準用する場合を含む。)の政令で定める者は、次に掲げる者とする。
一  次に掲げる施設を設置して視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う者(イ、ニ又はチに掲げる施設を設置する者にあつては国、地方公共団体又は一般社団法人等、ホに掲げる施設を設置する者にあつては地方公共団体、公益社団法人又は公益財団法人に限る。)
イ 児童福祉法 (昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項 の障害児入所施設及び児童発達支援センター
ロ 大学等の図書館及びこれに類する施設
ハ 国立国会図書館
ニ 身体障害者福祉法 (昭和二十四年法律第二百八十三号)第五条第一項 の視聴覚障害者情報提供施設
ホ 図書館法第二条第一項 の図書館(司書等が置かれているものに限る。)
ヘ 学校図書館法 (昭和二十八年法律第百八十五号)第二条 の学校図書館
ト 老人福祉法 (昭和三十八年法律第百三十三号)第五条の三 の養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム
チ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)第五条第十一項 に規定する障害者支援施設及び同条第一項 に規定する障害福祉サービス事業(同条第七項 に規定する生活介護、同条第十二項 に規定する自立訓練、同条第十三項 に規定する就労移行支援又は同条第十四項 に規定する就労継続支援を行う事業に限る。)を行う施設
二  前号に掲げる者のほか、視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法第二条第六項 に規定する法人をいう。以下同じ。)のうち、視覚障害者等のための複製又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力、経理的基礎その他の体制を有するものとして文化庁長官が指定するもの