出版社が作っているEPUBはアクセシブル?

 このエントリは、Webアクセシビリティ Advent Calendar 2018 20日目のエントリです。
 アクセシブルな電子書籍の刊行を出版社に求める声をよく耳にします。そこで、気になるのが、実際に出版社が作っている電子書籍のアクセシビリティは、実際どうなのかということです。ここで言う「出版社が作る電子書籍」というのは、エンドユーザーがアマゾンなどの書店から購入できる電子書籍、ではなく、その前の段階で、出版社がアマゾンなどのプラットフォームに提供する電子書籍のことを指しています。
 このエントリーでは、出版社が制作するリフローな電子書籍について、そして、この過程では、リフローな電子書籍はほぼEPUBで作られているようですので、リフローなEPUBについて書きます。
 

アクセシブルなEPUBの要件

 アクセシブルなEPUBの条件は、EPUB Accessibility 1.0として一応仕様化されています。この仕様では、もっとも重要なコンテンツのアクセシビリティ要件を、WCAGにほぼそのまま参照して、WCAGレベルAが必須(must)、WCAGレベルAAが推奨(recommended)としています。これだけだと分かりづらいので、WCAGの要件を現在のEPUBの閲覧環境(以下、「RS」)の実装等を勘案しながら、電子書籍の要件に整理すると、概ね以下の5つになるのではないかと思います。

  1. 文字情報は論理的順序(人間が読んで自然な順序)で配列したテキストデータとして提供する。
  2. 目次などの適切なナビゲーションが提供されている。
  3. アウトラインに従って、見出しやパラグラフ、テーブル、リストなどを適切に構造化する。
  4. コンテンツへの支援技術のアクセスを妨げず、表現については、支援技術やリーディングシステムの機能を用いて利用者自身が行う閲覧環境の設定に干渉しない。
  5. 画像等の非テキストコンテンツに対してそれを説明するテキストなどの代替コンテンツを提供する。

 本当はこの5つの要件にEPUB Accessibility 1.0も必須要件とする「6.アクセシビリティに関する情報を含めて、適切なメタデータを提供する」を追加したいところ。しかし、これに対応するRS側の実装がないので、ここでは省略します。
 出版社が制作するリフローなEPUBが上の1から5の要件をどれだけ満たせているかです。

出版社が作るEPUB

出版社がリフローなEPUBを製作する場合は、電書協EPUB 3制作ガイド (以下「電書協ガイド」)に沿って作られています。これを主に参照しつつ、電子書籍販売大手であり、出版社向けの制作ガイドラインを公開しているアマゾンのKindle パブリッシング・ガイドライン[PDF](以下、「Kindleガイドライン」)も必要に応じて参照します。

1 文字情報は論理的順序(人間が読んで自然な順序)で配列したテキストデータとして提供する。

リフローなEPUBで作るというだけで、満たされている。

2. 目次などの適切なナビゲーションが提供されている。

 これは目次に関しては電書協ガイドが求める最低ラインが

版元から特に指示がないかぎり、カバーページ、目次ページ、奥付ページへのリンクのみとする

とあり、これだけだとナビゲーションとしての目次機能は不十分と感じますが、アマゾンのKindleガイドラインでは、本の構造が階層的にわかるような論理目次の作成を強く推奨しているためか、少なくともアマゾンに納入されるリフローなEPUBは詳細な目次ナビゲーションがかなりの割合で提供されているように感じます(表紙と目次以外の論理目次がないリフローなKindle本もなくはないですが)。
 3の要件にも関係しますが、見出しを含めて適切に構造化されていることもナビゲーション上重要です。

3. アウトラインに従って、見出しやパラグラフ、テーブル、リストなどを適切に構造化する。

 電書協ガイドでは、テーブルに係る要素(table, td,thなど)、リストに係る要素(ulなど)、キャプションに係る要素(figure, figcation)が、RSによる対応を想定しない要素としており、実際にテーブルは画像として挿入されることがほとんどで、構造化はほとんどのEPUBでなされていませんが、見出しやパラグラフの構造化はきちんとされていそうです。3の要件はある程度満たされているのではないかという気がします

  1. コンテンツへの支援技術のアクセスを妨げず、表現については、支援技術やリーディングシステムの機能を用いて利用者自身が行う閲覧環境の設定に干渉しない。

出版社がアマゾンなどのプラットフォームに提供する段階で支援技術へのアクセスを妨げるDRMがかけるはずがないので、この段階では満たせているのではないか。そして、電書協ガイドやKindleガイドラインを見る限り、RSの表示機能を阻害するような、作られ方はされてないと思います(思いたい)。

  1. 画像等の非テキストコンテンツに対してそれを説明するテキストなどの代替コンテンツを提供する。

これは、最近、Kinldeガイドラインで代替テキストの提供が求められるようになったものの、現状では一部の例外を除き、販売されている電子書籍で代替テキストが提供されている事例は、ほとんどないのではないかと思います。
 
 つまり、出版社が制作する段階では、リフローなEPUBは

  1. 目次などの適切なナビゲーションが提供されている。
  2. 文字情報は論理的順序(人間が読んで自然な順序)で配列したテキストデータとして提供する。
  3. アウトラインに従って、見出しやパラグラフ、テーブル、リストなどを適切に構造化する。
  4. コンテンツへの支援技術のアクセスを妨げず、表現については、支援技術やリーディングシステムの機能を用いて利用者自身が行う閲覧環境の設定に干渉しない。
     
    は概ね満たせているのではないかなと。

まとめ

 電子書籍に関するアクセシビリティ上の問題について、よく耳にするのが、

  • 読み上げに対応していない
  • RSが使いづらい、アクセシブルではない、

というものです。アクセシビリティ上のユーザーの不満はRSや読み上げソフト対応に由来するものが多い印象があります。
 
 これはプラットフォーマが提供するRS上の問題に起因するところでもありますが、ユーザーの使い慣れたソフト、スクリーンリーダーで読めないという点が大きな問題なのではないかと思います。つまり、

  1. コンテンツへの支援技術のアクセスを妨げず、表現については、支援技術やリーディングシステムの機能を用いて利用者自身が行う閲覧環境の設定に干渉しない。

のDRMに起因する問題が大きいのではないかと思います。そう考えると、アクセシビリティについて、出版社側でさらにできることは画像への代替テキストの提供ぐらいではないかと思います。それを除けば、すでにある程度アクセシブルなEPUBを出版社自身は制作しているのにその自覚を持っている出版社は多くないと推測されることから、「アクセシブルな電子書籍を刊行してほしい」と出版社に対して要求するのは、さらになにかアクセシビリティについて特殊なことをしなければならないと出版社側に感じさせ、必要以上に高いハードルを設けられているように思わせるだけで、問題の解決にならないような気がしてきています。
 DRMに起因するアクセシビリティ上の課題は大きいと感じています。「デザイニング Web アクセシビリティ(電子書籍版)」「図書館利用に障害のある人々へのサービス アクセシブルなEPUB版」のようにDRMフリーで出せるのが、EPUBにも対応したDAISY閲覧環境が増えてきている現在、もっとも理想的ではありますが、現時点においてはそれでビジネスモデルが成立しないのでしょうか。難しいです。
 DRMの仕様がオープン化されて複数のRSが実装可能にすることを想定したEPUB LCPか、支援技術からのアクセスは阻害しないDRMというものがでてくればよいのでしょうが。
次は pagu0602 さんのエントリです。