Bookshareのマラケシュ条約批准国AE向けガイド

 Bookshareマラケシュ条約批准国のAuthorized Entity向けのガイドを2018年1月公開しています。Bookshareはマラケシュ条約で求められるすべての要件を履行できるよと、条約批准国のAuthorized Entityに加入を呼びかけています。

 読んでみて、ざっと気になったところを箇条書きしました。BookShareについては後述で紹介しているエントリを参照。

  • Booshareは60万タイトル以上のコレクションを保有
  • 1200件の書籍をプリントディスアビリティのある人に届けた実績がある
  • 80カ国に55万人のユーザーを持ち、34の言語の書籍を持つ(国際的なアクセシブルなデータの提供には実績がある)
  • マラケシュ条約批准国が自国の著作法の権利制限規定に基づいて製作したアクセシブルなデータをBookshareにアップロードすると、自動的にすべての条約批准国の有資格の利用者(eligible users )、つまり、マラケシュ条約で受益者に規定されるプリントディスアビリティのある人に提供することができる(データの提供範囲を、条約批准国の受益者やAEに制限することができる)
  • 一方で出版社等から許諾を得て提供しているアクセシブルなデータで、その出版社から得られた許諾が提供範囲に地理的な制限を設けている場合、許諾上利用することができない国からのアクセスがあれば、Bookshareの検索結果にも表示させないということができる。許諾ペースのものと権利制限ベースのコンテンツを織り交ぜて適切に提供することができる。
  • Seven Point Digital Rights Management Planに基づいて著作物の不正利用を防止している。
  • 個人ユーザーは、Booskshareに直接ユーザー登録して利用することもできる(この場合は、自身でプリントディスアビリティの証明書を提出する必要がある)が、パートナー機関が自国の当該ユーザーの証明書のBookshareへの提出を仲介することができる。また、パートナー機関がまとまった数のメンバーシップを購入することができる(この場合、パートナー機関はBookshareに登録ユーザーの個人を特定できる情報を提供しなくてもよい)。
  • 多種多様なコンテンツの利用方法
  • WIPOのAccessible Books Consortium Global Book ServiceはBtoB、つまり、機関同士がアクセシブルなデータの交換に持ちうるサービスであり、個人が直接サービスを利用できないが、Bookshareは個人にもサービスを提供している。

関連エントリ

みんなの美術館プロジェクトの「みんなの美術館 デザインノート」

 すでに旧聞に属する話ですが、みんなの美術館プロジェクトの美術館XインクルーシブXデザイン実行委員会が「みんなの美術館 デザインノート」を公開しています。
 
 視覚に障害のある人、歩行が困難な人、日本語以外を母語とする人、聴覚に障害のある人、親子連れ(乳幼児)、知的・発達に障害のある人、高齢の人が、来館前(印象・情報)、施設(機能・態勢)、展示案内(情報・鑑賞環境)、鑑賞後(体験の蓄積・醸成)のそれぞれの美術館・博物館利用に係るフォーズにおいて感じる障壁を紹介しているほか、それらを解消するアイデアがまとめられています。

ワークショップを重ねて、「気づき」をまとめたもののようです。図書館でもいろいろなイベントを開催するので、参考になるかも。
 

ウェブブラウザの「リーダー」モードの実装状況

ウェブブラウザでメインコンテンツ部分に集中にして閲覧することができるモードがあります。以下のようにメインコンテンツ部分のみを表示し、フォントサイズや配色等を変更できる機能です。Safariが「リーダー」モードを実装したことが端を発していますが、最近では、Safari以外でのいろいろなブラウザがそれに相当する機能を備える様になっています

アドレスバーの横のリーダーモードボタンを押すとリーダーモードが表示され、文字サイズや配色、フォントが変更できる
Safariのリーダーモード

 「アクセシビリティの観点からWebブラウザで標準で取り入れて欲しいUI」というエントリでも書いたことがありますが、閲覧環境を柔軟に変更できる機能は、OSでもなく、支援技術でもなく、そして、ウェブサイト側でもなく、本当はウェブブラウザ側で実装する必要があるのではないかと感じていますが、このリーダーモードはそれに近い機能と言えます。
ブラウザの「リーダー」モードの実装状況とそのモードが備えている機能を少しまとめてみました。

「リーダー」モードの実装状況とその機能
ブラウザ名 標準実装 モード名称 文字の拡大縮小 背景色と文字色の変更 フォント変更
(フォントの種類)
文字間隔調整 行間調整 縦書・横書の変更 合成音声による
読み上げの呼び出し
その他
Chrome(Mac OS)
68.0.3440.84
無し
Fiirefox(Windows 10 / Mac OS)
61.0.1
有り リーダービュー 有り 有り 有り
(2種類)
有り 有り 無し 有り
Microsoft Edge
42.1734.1.0
有り 読み取りビュー 有り 有り 無し 有り 無し 無し 有り
Safari(Mac OS)
11.1.2
有り リーダー 有り 有り 有り
(4種)
無し 無し 無し 無し
Moblie Safari (iOS) 有り リーダー 有り 有り 有り
(4種)
無し 無し 無し 無し
Vivaldi (Windows 10 / Mac OS)
1.15.1147.55
有り リーダービュー 有り 有り 有り
(2種類)
無し 有り 有り 無し 幅調整有り
Internet Explore 11 無し
NetReaderⅡ 無し

 

※2018/08/11 追記

 kazuhito さんより本エントリについて、Re: ウェブブラウザの「リーダー」モードの実装状況 というリプライエントリをいただきました(ありがとうございます)。
 本エントリの以下の言葉について

閲覧環境を柔軟に変更できる機能は、OSでもなく、支援技術でもなく、そして、ウェブサイト側でもなく、本当はウェブブラウザ側で実装する必要があるのではないかと感じています

 上について、以下のようなコメントをいただいていますので、少しだけ補足を。

kzakzaさんは優先順位を説いていらっしゃるようなのですが、そこは自分は異なる意見を持っています。ユーザーニーズに寄り添うための機能は、コンテンツの側とそれを表示する側の両方に必要だし(表示がコンテンツそのものからある程度分離されていないと「リーダー」モードだってうまく機能しないはず)、両方が相応の機能を備えてはじめてユーザーニーズを満たし得ると思います。そして表示する側に位置付けられるブラウザ(というかUA)、支援技術、OSはそれぞれに異なるレイヤーにあって、異なる価値なり機能提供が可能であるからして、やはりそれら全てがいい塩梅に連携・協調してこそ……と思います。
Re: ウェブブラウザの「リーダー」モードの実装状況

 私の理解に相違なければ、kazuhito さんの上のコメントに全く異論はありません(むしろ強く同意します)。追記冒頭で書いた本エントリの言葉は、ウェブの閲覧環境を柔軟に変更できる機能を標準で搭載するべきはブラウザではないか、ぐらいの意味で書いたもので、それは排他的な役割分担を意図したものではなく、支援技術やコンテンツ側にそれを実装すること自体を否定するつもりはありません。
 
 kazuhito さんが「それぞれに異なるレイヤーにあって、異なる価値なり機能提供が可能」と書かれているように、それぞれのレイヤーがそれぞれの守備範囲と目的やベクトルを持っています(端的に言って、ウェブを利用するだけでは収まらない人はOSなり、支援技術の利用は欠かせないでしょうし、適した閲覧環境も人によってかなり異なるはずなので、支援技術のフォローが必要な人も)。それらが協調したり、場合によって異なるベクトルから重複した役割を担うことで、100人のユーザーがそれぞれ自分の使いやすい100通りの環境を選択できることが望ましいのだろうと考えています。
 ただ、それを前提として、「アクセシビリティの観点からWebブラウザで標準で取り入れて欲しいUI」で書いたことがありますが、OS、支援技術やコンテンツ側でフォローできないところがあると感じていて、ウェブの閲覧環境については、他のレイヤーよりももっと負うべきものがブラウザ(UA)にはあるのではないか、というものがこの追記冒頭で再掲した本エントリの一文の趣旨でした。ただ、改めて読むと、「OSでもなく、支援技術でもなく、そして、ウェブサイト側でもなく、本当はウェブブラウザ側で」という書きぶりが、読む方に排他的な機能の棲み分けを想起させてしまいますね。今頃気がつきました(すいません 汗)。