"Accessible Publishing : Best Practice Guidelines for Publishers" ver.4.0

 EDItEURより”Accessible Publishing Best Practice Guidelines for Publishers”のver.4.0が2013年6月4日に公開されています。このガイドラインは World Intellectual Property Organization (WIPO)の出資によるEnabling Technologies Frameworkプロジェクトのジョイントプロジェクトとして作成されたものです。
  HTML版の他にEPUB版、Word版が公開されています。

 2011年4月に公開されたver.1.0版の日本語訳を日本障害者リハビリテーション協会情報センターが公開しています。

 ver.1.0からver4.0まではマイナーアップデートとのこと。Ver.1.0tと比較してver.4.0では、仕様が確定したEPUB 3に関する記述が増えているようです。

W3C WAIの「障害を持つ人はどのようにWebを利用しているのか」

 W3CのWeb Accessibility Initiative (WAI)が障害がある人のWeb利用についてまとめた文書(草案)を2012年8月に公開しています。Webの利用に困難を抱えるユーザーの状況をいくつもの事例を交えながら具体的に紹介しています。WCAGのようなガイドラインは便利なもので、それに従っていくだけで、それなりにアクセシブルなコンテンツを作ることはできます。しかし、個々の要件を満たすために作業をしていく中でなぜこれをしなければならないのか、この要件を満たすことで解決できるユーザーの抱える困難がよくわからないと感じる人もいるのではないかと思います。そんなことを思うようになった方におすすめです。

 この文書は主に以下の4つで構成されています。

  • Stories of Web Users
    (Webの利用に障害を持つ以下のWebユーザーの話)
  • Diversity of Web Users
    Webの利用を困難にさせる障害及びその障害を持つ人がWebの利用においてぶつかるバリアについて)
  • Diversity in Web Use
    (Webの利用に障害を持つ人の様々なWebの利用方法について。支援技術の紹介など)
  • Accessibility Principles
    (ウェブサイト、ウェブアプリケーション、ブラウザ、その他ツールに求められる要件)

  ”Diversity of Web Users“は、身体的障害などに加え、以下をWebを利用する上での困難として紹介しています。

  • コンピュータスキルが低いなどの年齢に関係する障害
  • 事故や手術などによって一時的な抱えるようになった障害(Temporary impairments)
  • 日差しが強いところでスクリーンが見えない、激しい騒音のためにコンテンツの音声が聞こえない等のある状況によって抱える状況的制限(Situational limitations)
克服するべきWeb利用の困難をW3Cが幅広く捉えていることがわかり、大変興味深い文書です。

必ずしも全てのEPUB 3が「DAISY」ではない

 支援技術開発機構の濱田麻邑さんがカレントアウェアネスに以下のような記事を投稿しています。EPUB 3とDAISY-AI(DAISY 4)の関係やEPUB 3のもつアクセシビリティ機能について簡潔に説明されていますので必読です。

 EPUBがアクセシビリィな機能を持つフォーマットであることに加え、DAISY-AI(DAISY 4)の配布フォーマットであることも知られるようになりました。しかし、一方で上の記事で濱田さんが以下のようなご指摘をされているように、EPUBで作ったからと言って必ずしもそのコンテンツがアクセシブルなわけではありません。
 

このように多様なアクセシビリティ機能がある一方で、EPUB3に準拠していてもアクセシブルでない電子出版物も製作できてしまうといった課題もある。

 
 EPUB 3というフォーマットは、DAISYが備えるアクセシブルな機能を包含していますので、EPUBでDAISY並のアクセシブルなコンテンツを作ることは可能です。しかし、可能であるというだけでして、EPUB 3で作れば、みんな「DAISY」だ、もしくはDAISY並にアクセシブルであるというわけではありません。「DAISYとEPUBの統合」という部分が強調されすぎて、EPUB 3で作りさえすれば、DAISYと同じアクセシビリティを備えたことになると思われる傾向があるように感じられ、ちょっと心配もしています。
 ウェブサイトがW3CのHTMLの仕様に準拠して作成されたからといって必ずもアクセシブルではないように、EPUBがアクセシブルであるかどうは、作り手がアクセシビリティにどの程度配慮するかに左右されます。EPUBはすでに数多く作成されていますが、アクセシビリティの観点からみればおそらく玉石混合といった状態ではないでしょうか。
epub
 
 EPUBはあくまでアクセシブルなコンテンツをいれることができる器です。しかし、その器に入れるコンテンツをアクセシブルにするのは実際にコンテンツを作る人です。
 EPUBをよりアクセシブルにするためのガイドラインがIDPFから公開されています。このガイドラインを参照して少しでもアクセイブルなEPUBが作られることが望まれます。

どこまで頑張ればDAISY並のアクセシビリティと言えるかという明確な線引きは難しいですが、テキストDAISYから生成されたEPUBでも以下は備えているはずです。
  

  • TTSに対する配慮(読み情報の提供や適切な順序で読み上げられるようコンテンツを作成するなど)
  • 様々なレベルでのナビゲーション(目次、コンテンツの構造化、コンテンツ文書へのセマンティクス、原資料のページ数情報など)
  • 読者の選択肢を制限しない(色、フォントサイズ、レイアウトなどを固定しない)

「コンテンツ文書へのセマンティクスの付与」については以下をご覧ください。

正直、BORN EPUBでは、コンテンツ文書へのセマンティクスの付与が一番抜け落ちそうな気がします。
 

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