身体障害者福祉法における視覚障害者情報提供施設(いわゆる「点字図書館」)等の規定の変遷

 視覚障害者情報提供施設(いわゆる「点字図書館」)等は、身体障害者福祉法によって法的に位置づけられています(厚生労働省所管の障害者福祉施設)。視覚障害者情報提供施設が役割を拡大していく中で、身体障害者福祉法における規定も随時変更されてきました。今回は、身体障害者福祉法における点字図書館(視覚障害者情報提供施設)の規定の変遷を追ってみました。なお、日本法令索引を目視で1つ1つ変遷を拾うことでまとめたため、見落としのある可能性があります。ご注意ください。

 昭和24年の身体障害者福祉法制定時には「第三十三条 点字図書館は、点字刊行物を盲人の求に応じて閲覧させる施設とする。」とかなり短いものでしたが、現行法(平成26年6月13日法律第67号)では、以下のように規定されています。

平成26年6月13日法律第67号

(視聴覚障害者情報提供施設)
第三十四条  視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、視覚障害者用の録音物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、若しくはこれらを視聴覚障害者の利用に供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)若しくは手話通訳等を行う者の養成若しくは派遣その他の厚生労働省令で定める便宜を供与する施設とする。

 なお、「厚生労働省令で定める便宜」は「身体障害者福祉法施行規則(最終改正:平成27年3月31日厚生労働省令第五五号)」で以下のとおり定められています。

(法第三十四条 に規定する厚生労働省令で定める便宜)
第十八条  法第三十四条 に規定する厚生労働省令で定める便宜は、点訳又は手話通訳等を行う者の養成又は派遣、点字刊行物等の普及の促進、視聴覚障害者に対する情報機器の貸出、視聴覚障害者に関する相談等とする。

 
 視覚障害者情報提供施設(いわゆる「点字図書館」)等に関係する第三十三条あるいは第三十四条 は、以下のとおり、これまで5回改正されています。 最後の平成11年改正(施行日の関係で最後に)は中央省庁再編にかかる文言レベルの修正ですので、重要な改正は2から5と言えるでしょうか。

  1. 昭和24年 身体障害者福祉法制定(昭和24年12月26日法律第283号)
  2. 昭和29年改正(昭和29年3月31日法律第25号)
  3. 昭和59年改正(昭和59年8月7日法律第53号)
  4. 平成2(1990)年改正(平成2年6月29日法律第58号)
  5. 平成12年改正(平成12年6月7日法律第101号)
  6. 平成11年改正(平成11年12月22日法律第160号)

1. 昭和24年 身体障害者福祉法制定(昭和24年12月26日法律第283号

 (点字図書館)
第三十三条 点字図書館は、点字刊行物を盲人の求に応じて閲覧させる施設とする。

2. 昭和29年改正(昭和29年3月31日法律第25号

(点字図書館)
第三十三条 点字図書館は、無料又は低額な料金で、点字刊行物を盲人の求に応じて閲覧させる施設とする。

改正点(昭和29年3月31日法律第25号より)

◎身体障害者福祉法の一部を改正する法律
(中略)
 第三十三条中「点字図書館は、」の下に「無料又は低額な料金で、」を加える。

3. 昭和59年改正(昭和59年8月7日法律第53号)

 この改正で録音図書の提供が新たに規定されました。日本点字図書館が録音図書の製作を開始し、「声の図書館」を開設したのが1958年(昭和33年)ですから、26年が経過しています。 旧著作権法が全面改正された1970年(昭和45年)の著作権法(昭和45年法律第48号)では、すでに第37条で著作権者の許諾を必要とせずに点字図書館が録音図書の製作を行うことが認められているので、著作権法と比べると身体障害者福祉法への追加はかなりの時間がかかっています。

 (点字図書館)
第三十三条 点字図書館は、無料又は低額な料金で、点字刊行物及び盲人用の録音物を盲人の利用に供する施設とする。

改正点(昭和59年8月7日法律第53号より)

◎身体障害者福祉法の一部を改正する法律
(中略)
第三十三条中「点字刊行物を盲人の求に応じて閲覧させる」を「点字刊行物及び盲人用の録音物を盲人の利用に供する」に改める。

4. 平成2(1990)年改正(平成2年6月29日法律第58号

 この改正で、「聴覚障害者情報提供施設」が新たに規定され、点字図書館、点字出版施設が「視覚障害者情報提供施設」として位置づけられました。この改正で「録音物」という言葉が消えてしまいましたが、「その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するもの」に含まれるということでしょうか。

 第三十三条 視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、又はこれらを視聴覚障害者の利用に供する施設とする。

改正点(平成2年6月29日法律第58号より)

 ◎老人福祉法等の一部を改正する法律
(中略)
(身体障害者福祉法の一部改正)
(中略)
第三十三条及び第三十四条を次のように改める。
  (視聴覚障害者情報提供施設)
 第三十三条 視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、又はこれらを視聴覚障害者の利用に供する施設とする。
 第三十四条 削除

5. 平成12年改正(平成12年6月7日法律第101号

 点訳が追加され、これは聴覚障害者情報提供施設についてだと思いますが、手話通訳の要請・派遣も新たに追加されました。また、「その他」ということで、法律を改正しなくても厚生省の政令でいろいろと追加できるようになりました。
 また、「その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するもの」では不十分だと考えられたのか、「録音物」という言葉が復活しています。

  (視聴覚障害者情報提供施設)
 第三十四条 視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、視覚障害者用の録音物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、若しくはこれらを視聴覚障害者の利用に供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)若しくは手話通訳等を行う者の養成若しくは派遣その他の厚生省令で定める便宜を供与する施設とする。

改正点(平成12年6月7日法律第101号より)

◎社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律
(中略)
(身体障害者福祉法の一部改正)
第三条 身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)の一部を次のように改正する。
(中略)
  第三十三条中「点字刊行物」の下に「、視覚障害者用の録音物」を加え、「、又は」を「、若しくは」に、「供する」を「供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)若しくは手話通訳等を行う者の養成若しくは派遣その他の厚生省令で定める便宜を供与する」に改める。
(中略)
第四条 身体障害者福祉法の一部を次のように改正する。
(中略)
第三十四条を削り、第三章中第三十三条を第三十四条とし、第三十二条の次に次の一条を加える。

6. 平成11年改正(平成11年12月22日法律第160号

  公布日は5の「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律」の方が後になりますが、「中央省庁等改革関係法施行法」(平成13年1月6日施行)の施行日が前者(平成12年6月7日公布・施行)より後になるため、法への反映は「中央省庁等改革関係法施行法」が後になります。中央省庁再編により、厚生省と労働省を廃止・統合され、厚生労働省になったことによる改正です。

  (視聴覚障害者情報提供施設)
 第三十四条 視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、視覚障害者用の録音物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、若しくはこれらを視聴覚障害者の利用に供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)若しくは手話通訳等を行う者の養成若しくは派遣その他の厚生労働省令で定める便宜を供与する施設とする。

改正点(平成11年12月22日法律第160号より)

 ◎中央省庁等改革関係法施行法
(中略)
 (身体障害者福祉法の一部改正)
第六百十五条 身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)の一部を次のように改正する。
  本則(第十五条第十一項、第十九条の二第五項及び第四十一条第一項を除く。)中「厚生省令」を「厚生労働省令」に、「厚生大臣」を「厚生労働大臣」に、「大蔵大臣」を「財務大臣」に改める。
(中略)
附則
 (施行期日)
第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

関連エントリ

1936年に東京盲学校の卒業生が点字図書を帝国図書館に寄付、それを受けて帝国図書館が点字図書の提供を開始?

1916年(大正5年)に東京盲学校(現在の筑波大学附属視覚特別支援学校)の学生が点字図書200冊を東京市立本郷図書館に寄託し、東京市立本郷図書館は点字文庫を開設したことが公共図書館による障害者への情報提供の嚆矢とされています。
 では、帝国図書館ではどうだったのだろうかと思っていたのですが、国立国会図書館デジタルコレクションで、偶然、以下の記事をみつけたので、メモとして。
 1936年(昭和11年)に東京盲学校の卒業生が点字図書を帝国図書館に寄付しています。そして、同年の『帝国図書館報』に初めて点字図書の書誌の掲載がされ、以後、継続的に点字図書の書誌が掲載されるようになります。寄付された点字図書の書誌が、『帝国図書館報』に掲載されたのかどうかはわかりませんが、時期的に深い関係がありそう。国立図書館における障害者への情報提供の最初の事例になるかもしれない。
 東京盲学校の卒業生による点字図書寄付については、『本邦の図書館界』(岡山県中央図書発行)第12に朝日新聞の記事を転載する形で紹介されています。東京盲学校の卒業生が点字図書を寄贈して帝国図書館に点字図書館に要請したとの1936年(昭和11年)の記事です。

該当する記事を掲載したページの画像。次にその記事をテキストに起こしたものを掲載しています
国立国会図書館デジタルコレクション – 本邦の図書館界. 第12(p5)の該当部分

 上の記事をテキストにしたのが以下です。

點字図書館設立の為に盲人が図書を寄贈

官立東京盲学校の卒業生杉山眞平君外十三名は帝國図書館に松本館長を訪れて點字図書一四四冊の寄附を申出で「日本全國15萬の盲人の為是非點字図書室を設置して戴きたい」と懇願した。松本館長は「十分努力しよう」と誓った。之の杖を頼りの盲人達の美談は本所■(注: 字がつぶれて判読できず。「區」か?)の吉野志郎氏が今春二十九歳を最後として病逝したが、同家は比較的財政に恵まれてゐた。そして志郎氏は生前口癖の様に「點字図書館が欲しい」と云ってゐたので志郎氏の父元吉氏が盲人達に百圓贈った。盲人達は之を基礎として皆々不自由な身で八方奔走し點字図書の蒐集に力め今回前記の様に一四四冊の蒐集に成功し之を帝國図書館に寄附したのである(昭一一、一〇、五 東京朝日)

 同年に刊行された『帝国図書館報』第29冊第12号に初めて点字図書の書誌も掲載されました。
国立国会図書館デジタルコレクション – 帝国図書館報. 第29冊第12号
 以下、該当部分のページの画像です。リンク先は国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている同雑誌の該当するページへのリンク。
点字図書の書誌が掲載されたページその1
点字図書の書誌が掲載されたページその2
ここに掲載された図書が、国立国会図書館に引き継がれているかどうかも気になるところですが、NDL-OPACで確認できる範囲では所蔵されているかどうかは確認できませんでした。