テレビ放送のバリアフリー化(視聴覚障害者向け放送の普及促進)の状況について

 子どもがいるとなかなか騒がしくて、テレビ放送を静かな環境でじっくり聞くことがなかなか難しいため、字幕表示をすることがよくあります。デジタル放送になって字幕表示が容易になり、NHKが聴覚障害者向けの字幕をがんばって提供していることは認識していたのですが、民法もドラゴンボールも仮面ライダーも生放送のニュース番組も字幕を提供していて、「あれ?以前からこんなに提供されていたっけ?」と思うことがたびたび。
 ということで、少し調べてみました。調べたといっても、総務省のサイトを調べただけですが、以下のページに情報が集約されています。

公開されているもので最新のものは以下の平成25年度実績です。

 上から、聴覚障害者向けの字幕放送と手話、視覚障害者向けの音声解説の実績を以下に転載します。聴覚障害者向けの字幕放送はそれなりに提供されているようですが、聴覚障害者向けの手話と視覚障害者向けの音声解説は、まだまだこれからという状況のようです。

聴覚障害者向け情報保障

字幕放送

平成25年度における字幕放送等の実績の概要は、以下のとおりです。(注1)(注1) マルチ編成を行っている場合には、放送時間は、チャンネルごとの放送時間を合計したもの。(テキスト版はこちら

【字幕放送】(注2)(注3)

  「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の普及目標の対象となる放送番組における字幕番組の割合(注4) 総放送時間に占める字幕放送時間の割合
NHK(総合) 84.8% [+1.3ポイント] 72.3% [+4.4ポイント]
NHK(教育) 63.2% [+7.9ポイント] 54.5% [+6.4ポイント]
在京キー5局(注5) 95.5% [+2.2ポイント] 52.3% [+2.4ポイント]
在阪準キー4局(注6) 94.1% [+2.1ポイント] 47.5% [+3.1ポイント]
在名広域4局(注7) 89.2% [+4.5ポイント] 44.4% [-0.1ポイント]
全国の系列ローカル局(在阪準キー4局及び在名広域4局を除く101社) 69.4% [+3.0ポイント] 38.1% [+2.0ポイント]

                                                 ※[ ]は対前年度比
(注2) 各放送事業者における個別の字幕放送実績については別表2参照。
(注3) 字幕放送の実施事業者数は、平成25年度において地上民放テレビ127社中125社(※オープンキャプションを含むと127社)。(平成24年度と同じ。)
(注4) 2週間のサンプル週(平成25年5月27日(月)~6月2日(日)及び11月25日(月)~12月1日(日))における調査。
 普及目標の対象となる放送番組とは、7時から24時までの間に放送される番組のうち、次に掲げる放送番組を除くすべての放送番組をいう。

  • 技術的に字幕を付すことができない放送番組(例 現在のところ、複数人が同時に会話を行う生放送番組)
  • 外国語の番組
  • 大部分が器楽演奏の音楽番組
  • 権利処理上の理由等により字幕を付すことができない放送番組

(注5) 在京キー5局:日本テレビ放送網(株)、(株)TBSテレビ、(株)テレビ朝日、(株)フジテレビジョン、(株)テレビ東京
(注6) 在阪準キー4局:(株)毎日放送、朝日放送(株)、讀賣テレビ放送(株)、関西テレビ放送(株)
(注7) 在名広域4局:中部日本放送(株)、東海テレビ放送(株)、名古屋テレビ放送(株)、中京テレビ放送(株)
     *平成26年4月1日より、(株)CBCテレビに免許承継

手話放送

【手話放送】(注11)(注12)

  総放送時間に占める手話放送時間の割合
NHK(総合) 0.2% [±0.0ポイント]
NHK(教育) 2.5% [±0.0ポイント]
在京キー5局 0.1% [±0.0ポイント]
在阪準キー4局 0.1% [±0.0ポイント]
在名広域4局 0.1% [±0.0ポイント]
全国の系列ローカル局(在阪準キー4局及び在名広域4局を除く101社) 0.1% [±0.0ポイント]

                                                ※[ ]は対前年度比
(注11) 各放送事業者における個別の手話放送実績については別表4参照。
(注12) 手話放送の実施事業者数は、平成25年度において地上民放テレビ127社中86社。(平成24年度は90社。)

 

視覚障害者向けの情報保障

音声解説放送

【解説放送】(注8)(注9)

  「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の普及目標の対象となる放送番組における解説番組の割合(注10) 総放送時間に占める解説放送時間の割合
NHK(総合) 9.8% [+0.4ポイント] 8.9% [+0.9ポイント]
NHK(教育) 13.6% [+1.2ポイント] 12.0% [+0.1ポイント]
在京キー5局 5.4% [+1.1ポイント] 2.0% [+0.5ポイント]
在阪準キー4局 5.5% [+1.2ポイント] 2.0% [+0.4ポイント]
在名広域4局 4.7% [+1.5ポイント] 1.7% [+0.5ポイント]
全国の系列ローカル局(在阪準キー4局及び在名広域4局を除く101社) 3.3% [+0.8ポイント] 1.6% [+0.4ポイント]

                                                   ※[ ]は対前年度比
(注8) 各放送事業者における個別の解説放送実績については別表3参照。
(注9) 解説放送の実施事業者数は、平成25年度において地上民放テレビ127社中117社。(平成24年度と同じ。)
(注10) 普及目標の対象となる放送番組とは、7時から24時までの間に放送される番組のうち、権利処理上の理由等により解説を付すことができない放送番組を除くすべての放送番組としている。
 なお「権利処理上の理由等により解説を付すことができない放送番組」とは次に掲げる放送番組である。

  • 権利処理上の理由により解説を付すことができない放送番組
  • 2か国語放送や副音声など2以上の音声を使用している放送番組
  • 5.1chサラウンド放送番組
  • 主音声に付与する隙間のない放送番組

「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることを規定した条約と国内法

 「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることについて、障害者権利条約と国内法がどう規定しているかについて、少しまとめてみました。
 

障害者の権利に関する条約(障害者権利条約) 第二条 定義

「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。

 「障害に基づく差別」の定義ですが、「障害を理由とする差別」と同じと考えてよいと思います。ここでは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限で、あらゆる分野における障害者の人権を侵害する行為を「障害に基づく差別」と定義しています。それに「合理的配慮の否定を含む」と合理的配慮の不提供も人権侵害である「障害に基づく差別」と定義していることが重要です。

障害者基本法

(差別の禁止)
第四条  何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない
2  社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
3  国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 2011年に改正された障害者基本法の障害を理由とした差別を禁止した第四条です。国内法で初めて合理的配慮に言及したものです。ここでは、障害者権利条約を受けて、障害を理由として障害者の権利権益を侵害してはならないと第四条第1項で規定しています。そして、第四条第2項では、「前項の規定に違反することとならないよう」、つまり、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしないように、合理的配慮を提供しなければならないと規定しています。
 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
(事業者における障害を理由とする差別の禁止
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

 障害者差別解消法で、障害を理由とする差別の禁止を行政機関等(第七条)と民間事業者(第八条)に具体的に義務付けたものです。障害者権利条約で定義された「障害を理由とする差別(障害に基づく差別)」を障害差別解消法の第七条と第八条では、以下のように二つに分けて整理しています。

  • 障害を理由とする不当な差別的取扱い
  • 合理的配慮の不提供

 二つに分けたのは、合理的配慮の提供の義務付けが行政機関等と民間事業者で異なるからだと思いますが、いずれにしても、合理的配慮の不提供も「障害を理由とする差別」とし、合理的配慮を提供しないことが「障害者の権利利益を侵害」する行為であることを規定しています。

勉強会で「障害者差別解消法と図書館サービス」というテーマで発表したスライド

 京都情報図書館学学習会 第227回(2015年9月25日)で、障害者差別解消法と図書館サービスというテーマで発表させていただいたので、そのスライド資料を公開用に一部編集して公開しました。


 
 テキスト版とhtml版は以下。

 テキスト版は情報保障のために事前に配布したものを上のスライドと同様に公開用に一部編集したものです。html版は、スクリーンリーダーで見出し単位(この場合はスライド単位)でスキップできる点ではこちらのほうが便利であろうと思い、事後に製作したものです。html版まで製作するのであれば、PowerPointではなく、HTMLベースのプレゼン用のフレームワークを使って発表してもよかったかもしれない。 
 今回の発表では、障害者差別解消法は、図書館に全く新しい義務を課すものではなく、図書館が行っている障害者サービスと同じ目的を持つものであり、むしろそれを支援するものであること、そして、そもそも図書館の障害者サービスは「すべての人に全ての資料とサービスを提供する」という図書館本来の使命に基づくものであるのだから、障害者差別解消法の施行が迫るこのタイミングで、図書館サービスという視点で改めて考えてみませんかということを言いたかったけど、正直、あまり整理されていなかったように思う。
 このテーマはもう少し整理したいところです。
 ところで、最後に余談として、乙武さんの以下の話を取り上げました。

 この話は、障害者差別解消法的にいろいろと考えるべき要素があります。概要をかいつまんで紹介すると。

  • 乙武さんが銀座のイタリアンレストランに予約をして夕食をとろうと試みる(車椅子を使用していることは事前に伝えていない)
  • レストランはエレベータが止まらない2階にある
  • レストラン側は乙武さんが車椅子を使用しているからと入店を拒否した

 車椅子だからと入店を拒否することは、おそらく障害者差別解消法で言うところの、民間事業者も禁止事項となる不当な差別的取扱いに該当するでしょう。しかし、エレベータが2階に止まらないということは、乙武さんは、自分もしくは同伴者でなんとかできなければ、レストラン側が合理的配慮を提供しなければ、入店はできない。しかし、合理的配慮の提供そのものは、民間事業者は努力義務となっているため、仮に入店そのものは拒否しなくても、店側が合理的配慮を提供しなければ、結局、乙武さんは入店できないことになってしまう。どう考えるべきか。
 
 おそらくは乙武さんが使用している車椅子は電動の車椅子でしょうから、非常に重くて男2人でも担いで階段に上るのは難しいのではないかと思います。できそうなのは、車椅子は1階に置いておいて、乙武さんを担いで2階に上がることですが、夕食の時間ということは、レストランそのものが非常に忙しい時間帯であり、合理的配慮を提供するだけの余裕がない可能性もあります。さあ、どうする。どうすれば、乙武さんがこのお店で食事ができないという事態をさけられたかということですが、ここでお互いが対立し、一方的にそれぞれが意見を言いあうよりは、建設的対話を重ねて問題の解決がはかれればよかったのかもしれません(このケースで問題になってしまっているのは、乙武さんが店側からそういう誠意を感じられなかったことによるところが大きいように思えます)。
 なお、いろいろと考える要素はありますが、払うべき合理的配慮というのは、個別具体的な対応ですので、当事者同士が納得するものが結論といえるものになると思います。その場に立ち会っていない第三者が論じても、それらしい意見は言えても、おそらくは正解といえる最終的な結論は出せないということは注意が必要かと思います。