最近の厚生労働省の以下の調査でも点字の利用率が1割をきったことが少し話題になりました。これについて少し。
上の調査では、65歳未満の視覚障害者で8.2%、65歳以上で7.4%が情報入手手段として点字と回答していますが、この割合は有効回答数に基づいて出した割合なので、31万人の手帳を所持する視覚障害者を母数で算出した割合ではないということが1つと、さらにこの情報手段を問う質問の視覚障害者の有効回答数が、65歳未満で73人、65歳以上で175人、うち、点字を使用していると回答したのがそれぞれ、6人と13人で、母数、子数になる人数がどちらも非常に少ないので、この割合がさも31万人の割合として一人歩きするのはちょっと危険かなという気がします。
厚生労働省が平成8年、平成13年、平成18年に行った身体障害児・者等実態調査では、無作為に抽出した標本調査とはいえ、視覚障害の手帳所持者を母数に利用率を算出しているので、こちらのほうがまだよい気がする。
とはいえ、これらの調査における点字利用率は、平成8年調査で9.2%、平成13年調査で10.6%、平成18年調査で12.7%だったので、1割前後を行き来しているという点で平成28年度調査と差はありません。視覚障害の障害者手帳所持者を母数とするなら、点字利用率は約1割と理解してもよいのでしょうか(結局、平成28年調査の数値でいいじゃんとなりそうですが・・)。
点字利用率が1割前後と低い理由は、厚生労働省の調査において、調査対象になっている視覚障害の障害者手帳所持者における高齢者の割合が高いことに理由があるのだろうと思います。平成28年調査では、障害者手帳をもつ視覚障害者も約31.2万人で60歳以上が24万人(76.9%)とかなりの割合を占めています。多少割合は前後しますが、60歳以上が7割前後占めるとい傾向は平成8年調査からさほど変わっていません。平成28年調査では、障害別の統計は出ていませんが、身体障害手帳所持者全体について、はじめて取得した年齢をみると、50 歳以降と答えた者の割合が61.3%、60歳以降と答えた者の割合でも47%。年齢層ごとの割合が視覚障害者と手帳所持者全体と似た傾向を示していますので、初めて手帳を取得した年齢についてもおそらく似た傾向あり、高齢になって初めて視覚障害の手帳を取得した人、つまり、高齢になって視覚障害になった中途失明者が多くいるのではないかと思います。
点字はある程度若いうちに学習しないと習得が困難と言われておりますので、そもそも習得が困難な年齢層が母数で大きな割合を占めてしまっていることが、点字の利用率を下げてしまっていることの原因だと思います。
若年、青年層に限定すれば、点字の利用率は高くなるのではないかと思い、年齢別の点字利用率を調査しているものがないか調べたところ、厚生労働省の平成8年の調査で調べていました(以下転載)。全体で9.2%だったところ、20代から40代までは3割前後になります。なお、平成8年の調査は18歳以上のものを調査対象としているので、18歳未満は記載されていませんが、18歳未満も含まれていれば、もう少し上がるかもしれません。
年齢階級 | 総数 | 点字ができる | 点字ができない | 回答なし |
---|---|---|---|---|
総数 | 305(100.0) | 28(9.2) | 237(77.7) | 40(13.1) |
18歳から19歳 | 1(100.0) | — | 1(100.0) | 1(100.0) |
20歳から29歳 | 7(100.0) | 2(28.6) | 3(42.9) | 1(14.3) |
30歳から39歳 | 12(100.0) | 3(25.0) | 6(50.0) | 3(25.0) |
40歳から49歳 | 26(100.0) | 9(34.6) | 13(50.0) | 5(19.2) |
50歳から59歳 | 43(100.0) | 5(11.6) | 32(74.4) | 6(14.0) |
60歳から69歳 | 67(100.0) | 5(7.5) | 59(88.1) | 3(4.5) |
70歳以上 | 138(100.0) | 3(2.2) | 118(85.5) | 17(12.3) |
不詳 | 10(100.0) | 1(10.0) | 6(60.0) | 4(40.0) |
盲学校では生徒は点字で授業をうけていると伺ってしますし、若年層の教育の観点から考えると、視覚障害者(特に全盲者)にとっても点字の重要性はまだまだあるのではないでしょうか。
日本点字図書館が2014年に以下のような調査結果を公開しています。これも関連して紹介します。