「音訳」(おんやく)とは、文字情報や図表などの視覚情報を聴覚情報、つまり、音声に忠実に置き換える行為で、具体的には紙媒体の図書や雑誌をDAISYやテープという形式によって録音図書や録音雑誌にすることなどを指しています。視覚障害者等のための情報保障の手段の1つです。
いわゆる「朗読」とよく混同されますが、視覚情報を忠実に音声に置き換えることが求められますので、本文のテキスト情報だけではなく、図や表、写真のような非テキスト情報に対してはその説明をする必要があります。また、同音異義語・記号等、文字、略称をただそのまま読んだのでは意味が正しく伝わらないものがありますので、意味がわかるよう、必要に応じて説明をつける、1文字ずつ読む、略称を元のフルネームに戻して読んだり等々を行う必要があります。繰り返しますが、視覚情報を忠実に聴覚情報に変換することが求められますので、誤読のないように読むことが求められます。日本語だと、漢字の読みの問題がありますので、読みの調査を含めた事前の調査が欠かせません。その資料の分野の知識をある程度を知っていなければ、これらの調査を行うこともできませんから、対象資料の専門性が高くなればなるほど難易度は高くなっていきます(例えば、医学系の書籍に掲載された画像に説明をつけることを想像していただけば・・・)。
前置きが長くなってしまいました。ここからが本題漫画の音訳についてです。
視覚情報を忠実に音声に置き換えることが求められる音訳ですが、対象が漫画になるとどうなるかという話を少々。漫画の音訳について日本ライトハウス情報文化センター「ワンブックワンライフ」で少し紹介されています。
近畿視情協録音製作委員会では、昨年から各施設がまんがの音訳に取り組んでいけるよう、読み方の要点や製作作業の流れなどを整理してきました。今回の録音分科会では、この報告がなされた後、まんが表現の基本について学びました。
まんが音訳は、絵と文字で表現されたものを音声化します。文章の読み上げと絵の説明の順序、絵の描写の説明の仕方(音訳者により個人差がある)、コマの変わり目やページの変わり目の案内方法など、さまざまな工夫が必要になります。説明が多すぎるとストーリーの流れが損なわれますし、少ないと内容が理解できにくくなるため、バランスが大切です。
報告では利用者の感想も発表され、まんがの音訳に対する期待感が伝わってきました。また、10年以上前からまんが音訳に取り組んでいるグループN-BUNの方々にもお話を伺いました。原本から文章を抜き出し、絵の説明などを加えた「シナリオ原稿」を作成してから録音することなど、実際の作業について説明されました。
後半の講義では、花園大学の畑先生による「まんがの読み方」の講義があり、まんが表現の基本について説明を受けました。まんがの紙面には「重要な情報」と「背景的な情報」があること。それらを判別するには、コマの位置や、コマ内部のレイアウトが関係していること。具体的には、ページがめくられる前後のコマが重要であることや、コマの内部では台詞と台詞の間(視線の通り道)に人物(表情)が描かれており、これらは重要な情報。それ以外の視線から外れやすいものなどは背景的な情報であることが多いなど、非常に興味深いお話でした。
まんが表現の基本を学ぶことで、音訳の際、優先して伝えるべき情報が把握しやすくなり、聴きやすい録音図書の製作につながります。今後も各施設・団体で協力し、まんが音訳の基本ルールを作っていければよいと思いました。
from 日本ライトハウス情報文化センター「ワンブックワンライフ」2014年2月号
他のジャンルの資料と同じような詳細な説明を漫画の絵に対して付すと、コマのテンポを損ねてしまうかもしれない。しかし、逆に説明を省きすぎると必要なコマの状況が伝わらない。コマの大きさにも意味がありますので、コマ割りをどのように音訳で表現するべきか。セリフの読み上げと絵の説明はどういう順序で行うべきか。擬音などの漫画独特の表現方法をどう音訳するか。などなど漫画ならではの苦労があるようです。
ウェブや「サピエ図書館」を調べるとまんがDAISYを製作している機関はすでにいくつかあるようです。「ワンブックワンライフ」を読むかぎりまだまだ試行錯誤の段階なのかもしれません。漫画の音訳について詳しく知りたい。