「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることを規定した条約と国内法

 「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることについて、障害者権利条約と国内法がどう規定しているかについて、少しまとめてみました。
 

障害者の権利に関する条約(障害者権利条約) 第二条 定義

「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。

 「障害に基づく差別」の定義ですが、「障害を理由とする差別」と同じと考えてよいと思います。ここでは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限で、あらゆる分野における障害者の人権を侵害する行為を「障害に基づく差別」と定義しています。それに「合理的配慮の否定を含む」と合理的配慮の不提供も人権侵害である「障害に基づく差別」と定義していることが重要です。

障害者基本法

(差別の禁止)
第四条  何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない
2  社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
3  国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 2011年に改正された障害者基本法の障害を理由とした差別を禁止した第四条です。国内法で初めて合理的配慮に言及したものです。ここでは、障害者権利条約を受けて、障害を理由として障害者の権利権益を侵害してはならないと第四条第1項で規定しています。そして、第四条第2項では、「前項の規定に違反することとならないよう」、つまり、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしないように、合理的配慮を提供しなければならないと規定しています。
 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
(事業者における障害を理由とする差別の禁止
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

 障害者差別解消法で、障害を理由とする差別の禁止を行政機関等(第七条)と民間事業者(第八条)に具体的に義務付けたものです。障害者権利条約で定義された「障害を理由とする差別(障害に基づく差別)」を障害差別解消法の第七条と第八条では、以下のように二つに分けて整理しています。

  • 障害を理由とする不当な差別的取扱い
  • 合理的配慮の不提供

 二つに分けたのは、合理的配慮の提供の義務付けが行政機関等と民間事業者で異なるからだと思いますが、いずれにしても、合理的配慮の不提供も「障害を理由とする差別」とし、合理的配慮を提供しないことが「障害者の権利利益を侵害」する行為であることを規定しています。