IFLAの障害者サービスに関する2つの分科会

IFLA(国際図書館連盟)には、障害者サービスに関係する以下の2つの分科会(Section)があります。

特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(IFLA/LSN)

概要

 生活状況や身体障害、精神障害などで、通常の図書館サービスや図書館資料を利用をすることができない人に焦点を当てています。日本でいうところの「障害者サービス(図書館利用に困難がある人々に対するサービス)」と、ほぼ同じ範囲を対象としています。具体的には、聴覚障害者などの身体障害者だけではなく、ディスレクシアのある人、認知症のある人、入院患者、受刑施設に入所している者、ホームレスの人、看護施設に入所している人などが対象です。
この分科会は、聴覚障害者、ディスレクシアのある人、認知症のある人、入院患者、受刑施設に対する図書館サービスガイドラインや「読みやすい図書のためのIFLAガイドライン」など様々なガイドラインを作成しています(→ “Publication“)。
概念的には視覚障害者なども対象に含まれるはずですが、プリントディスアビリティのある人は後半で紹介する「印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(IFLA/LPD)」とある程度の棲み分けがなされていると思います。とはいえ、完全に棲み分けられるわけではないので、対象が重複しているところは当然あります。また、IFLA/LPDとの連携もよくなされているらしい。
 この分科会は、IFLAが創設されて4年後の1931年に病院図書館(患者図書館)小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)として創設されています(IFLAの7番目の小委員会。特定のユーザーに対する図書館サービスに焦点を当てた最初の小委員会)。入院患者には障害のある人々もいるということにから、対象が徐々に拡大されていったようです。経緯はDINFが日本語訳を掲載していますが、「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会の歴史的概観」がわかりやすい。

分科会は同年、病院図書館(患者図書館)小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)として創設され、その使命は、入院中の人々、つまり病院に閉じ込められているがために、通常の図書館資料を利用できない人々に対する、専門的な図書館サービスの促進であった。本と読書を治療を助ける手段として利用する読書療法は二の次だった。しかし小委員会はすぐに、入院の直接的な原因ではないことが多いさまざまな障害のために、感覚補助具・運動補助具などが使用できる特別な資料や特別なサービスを必要としている患者がいることに気づいた。このようなニーズはまた、さまざまな理由により外出ができない、地域の人々にも認められることが明らかになった。このニーズを憂慮し、多種多様な委員を抱えているがために問題解決に取り組みやすい立場にあった小委員会では、理由は何であれ従来の図書館や資料、サービスを利用できない人々を対象として含めるべく、長い時間をかけて焦点を拡大していった。
from 「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会の歴史的概観」 序論

関連

変遷

1931年8月29日 病院図書館小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)

1952年 病院図書館委員会(Committee on Hospital libraries)

1964年(1962年?) 病院図書館小分科会(Hospital Libraries Sub-section)

1964年にIFLAは新規約 55 を採択。その際に分科会(Section)と小分科会(Sub-section)が設けられ、病院図書館委員会は、公共図書館分科会(Public LibrariesSection)の中の小分科会となる。なお、別の資料(PDF)で1962年という記載もあり。

1966年 病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)

1977年 入院患者および障害のある読者に対する図書館サービス分科会(Section on Library Services to Hospital Patients and Handicapped Readers)

「一般市民にサービスを提供する図書館部会(Division of Libraries Serving the General Public)」に所属する分科会。

1984年 図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(Section of Libraries Serving Disadvantaged Persons : LSDP)

2008年 特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(Library Services to People with Special Needs Section : LSN)

参考

印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(IFLA/LPD)

概要

視覚障害やディスレクシアなどの印刷物を読むことに障害がある人々、つまり、プリントディスアビリティのある人々に焦点を当てた分科会です。以下の経緯にもあるように、上で紹介したIFLA/LSNの前身となる分科会から分離独立した分科会で、当初は視覚障害者を対象としていましたが、2008年に対象をプリントディスアビリティに拡大しています。
 IFLAは、「盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)のある人々の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約」の成立に向けて動いた強力な推進機関の1つですが、その中心になっているのがこの分科会です。
また、DAISYの歴史とも、かなり深い関係を持っています

関連

変遷

1977年 盲人、身体障害者に対する図書館サービスのための国際連携のためのワーキンググループ(Working Group for the international coordination of library services for blind and physically disabled individuals)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1978年 盲人図書館ワーキンググループ(Working Group of Libraries for the Blind)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1979年 盲人図書館ラウンドテーブル(Round Table of Libraries for the Blind)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1983年 盲人図書館分科会(Section of Libraries for the Blind : SLB)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)から独立。

2003年 盲人図書館分科会(Libraries for the Blind Section : LBS)

日本に訳してしまうと同じ「盲人図書館分科会」になってしまいますが、IFLAの分科会名のフォーマットにあわせるための名称変更のようです。

2008年 印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(Libraries Serving Persons with Print Disabilities Section : LPD)

参考

IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様とその実装方法集のドラフトを公開

IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様のエディターズドラフトとその実装方法を解説したTechniquesのエディターズドラフトを2016年4月に公開しています。そして、この7月にはその第2版が公開されています。

 文書のタイトルに”Discovery”という文言があるように、アクセシブルなコンテンツを発見するためのメタデータの要件にも力点が置かれています。
 この両文書はW3Cの”Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0″とその関連文書である”Techniques for WCAG 2.0″の関係に相当するものを想定しているのでしょうね。

 IDPFはEPUB3のアクセシビティガイドラインを以下のように数年前から公開しています。

 これとの関係はよく分かりませんが、W3Cドキュメントの体裁に則った2016年に公開された仕様書に移行されることになるのでしょうか。たぶん。
 実際、要件とその実装方法を切り離した上のドキュメントのほうが全体的にすっきりしている気がする。

視覚障害者等にデータ配信サービスを提供する日本の電子図書館サービスの歴史

 著作権法第37条第3項でいうところの「視覚障害者等」、つまり、視覚障害その他の理由で印刷物を読むことに困難のある人(プリントディスアビリティのある人)を対象に、点字データやDAISYデータなどのデータをダウンロードできるサービスを提供している電子図書館サービスが、大きなところで日本では現在、以下の2つ存在します(データ数でいえば、サピエ図書館が圧倒的に大きいのですが)。

 この障害者向けのデータをダウンロードできる電子図書館サービス、日本ではIBMが点訳用ソフトの開発とともに、点字データを共有するサービス「IBM てんやく広場」を1988年に始めたところまで遡ります。
 
 そのてんやく広場から現在に至るまで、システムの名前が変わったり、新たに現れたり、統合したりといろいろと経緯を経て現在に至っているわけですが、その経緯をまとめた図を作成しました。総合目録データベースを提供する電子図書館サービスも含めると、NDLの点字図書・録音図書全国総合目録を入れたり、日本点字図書館のNITを入れたりと図がかなり複雑になるので、今回は省略しました。ですので、以下の図では、NDLの視覚障害者等用データ送信サービスが唐突に2014年に出てきた感じになってしまいました。
電子図書館サービスの経緯をまとめた図です。時系列に1988年 IBMてんやく広場、1993年てんやく広場(運営がIBMから日本盲人社会福祉施設協議会に移ったことによる改名)、1998年 ないーぶネット(てんやく広場から名称を変更)、2004年 びぶりおネット(日本点字図書館と日本ライトハウスによるDAISY配信サービス)、2010年 サピエ図書館(ないーぶネットとびぶりおネットの統合、2014年 NDLの視覚障害者等用データ送信サービス
最後のNDLからサピエ図書館への「システム連携」の矢印は、NDLとサピエ図書館のシステム連携によって、NDLが提供するデータもサピエ図書館を通じて利用することができることを意味しています。

参考リンク

関連エントリ