IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様とその実装方法集のドラフトを公開

IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様のエディターズドラフトとその実装方法を解説したTechniquesのエディターズドラフトを2016年4月に公開しています。そして、この7月にはその第2版が公開されています。

 文書のタイトルに”Discovery”という文言があるように、アクセシブルなコンテンツを発見するためのメタデータの要件にも力点が置かれています。
 この両文書はW3Cの”Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0″とその関連文書である”Techniques for WCAG 2.0″の関係に相当するものを想定しているのでしょうね。

 IDPFはEPUB3のアクセシビティガイドラインを以下のように数年前から公開しています。

 これとの関係はよく分かりませんが、W3Cドキュメントの体裁に則った2016年に公開された仕様書に移行されることになるのでしょうか。たぶん。
 実際、要件とその実装方法を切り離した上のドキュメントのほうが全体的にすっきりしている気がする。

マルチメディアDAISYを普及させるための方法としていくつか

 音声とテキストを保持し、音声が読み上げる箇所のテキストをハイライトするマルチメディアDAISYが視覚障害やディスレクシアなどの様々な理由で読書に困難のある人にたいして幅広く有効であることは形式であることは疑いないところですが、テキストと音声それぞれをつくり、さらにそれを掛け合わせる必要があり、製作コストがそれなりにかかるため、普及しているとは言えない状況です。しかし、少しでも(可能であれば、商業ベースで)普及させるために、図書館としてこういう手立ては取り得るんじゃないかと思うところを思いつきで何点か。書いていて、マルチメディアDAISYに限定されるものではないかなと思いましたが。
 

1 アクセシブルな電子書籍の要件をまとめたガイドラインを作成する

  • 最終的にはマルチメデァアDAISYにたどり着くようなアクセシブルな電子書籍製作のためのガイドラインを作成する。
  • そもそも「アクセシブルな電子書籍」に対する関係者の認識に相違がかなりある。その相違を解消し、「アクセシブルな電子書籍」の要件を様々な領域がわかるようにするために要件をまとめたガイドライン。いろいろな業界の関係者を巻き込んで作成すれば、このガイドラインを作成するプロセスそのものがアクセシブルな電子書籍と何かというコンセサンスを形成するはず。
  • ガイドラインは、全ての要件を平たく挙げるのではなく、要件の優先順位を示す。たとえば、等級Aの要件を満たせば、スクリーンリーダーで読み上げさせれば誤読がありうるが、それでも読み上げさせることができるもの、等級AAAであれば、肉声の音声と同期したマルチメディアDAISYか、誤読がないようにSSMLを埋め込んだ電子書籍などになるなど。
  • アクセシブルなテキストDAISYライクな電子書籍も十分に出ていない状態で、出版社にいきなりマルチメディアDAISY作ってほしいと要望を出しても難しいと思う。そこで、まずはアクセシブルなテキストDAISYから目指す(ボランティアベースでマルチメディアDAISYを製作するにしても、紙の書籍からマルチメディアDAISYを作るよりは、テキストDAISYからマルチメディアDAISYを作る方がコストは安く押さえられるはず)。

ガイドラインの作成については、以下でまとめたことがあります。

2 マルチメディアDAISY普及のための団体を図書館の外に立ち上げる

  • 理解のある出版社あるいは出版関係者を巻き込んでマルチメディアDAISY普及のための団体を立ち上げる。
  • 様々な業界におけるマルチメディアDAISYの橋頭堡となるべき団体があるべきだと思う。
  • その団体で商業ベースでマルチメディアDAISYを出版するにはどうすればよいか研究したり、定期的に啓発イベントを行ったりする。
  • 出版社という組織ではなく、まずはその中にいる編集者に興味を持ってもらい、働きかける。そのためには、こういう団体が存在するほうがよいのではないか。
  • 岩田美津子さんがたちあげた「点字つき絵本の出版と普及を考える会」という団体はロールモデルになるのではないか。

3 技術者をもっと巻き込む

  • アクセシビリティに関心のある技術者や研究者は多い。また、技術的にやれる余地はかなり残されているのではないかと思う。著作権法第37条クラスタが抱えている問題をもっとオープンにして様々な技術者や研究者が参加しやすい体制を。
  • 例えば、青空文庫は、こんなに困っているんですということをアピールでアイデアソンを開いて、幅広い技術者の関心を集めた。こういう手法はもっと採用されるべき。
    青空文庫を救え!「Code for 青空文庫」アイデアソン #1 レポート #‎aozorahack

4 オーディオブック関係者/団体との連携を図る

  • 商業ベースでマルチメディアDAISYを出版させるビジネスモデルとしては、米国のアマゾンのImmersion Readingがやっているような、オーディオブックとKindle図書を別々に販売し、両方を購入した人にはその両方を掛け合わせて、マルチメディアDAISY機能として利用できる方法はかなり有効ではないか。
    Kindleで洋書を読むならImmersion Readingを使ってみよう
  • オーディオブック業界とはもっと連携を図って、図書館側の要望を伝えてもよいのではないか。ユーザー側の意見として

アクセシブルな電子書籍とは何かを示すガイドラインの話(の続き)

 先のエントリで、以下の3つについて図書館がガイドラインを作成して要件を提示してはどうかという話をしました。

  • (出版社と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える「アクセシブルな電子書籍」とは何か(コンテンツ作成ガイドライン)
  • (ビューワー開発者と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな閲覧環境」とは何か(ビューワーのガイドライン)
  • (電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな提供方法」とは何か(コンテンツ提供ガイドライン)

 
 それぞれについてどのようなガイドラインを作成するべきなのか、参考になる先行的なものを含めてまとめてみました。

1.「アクセシブルな電子書籍」を示すコンテンツ作成ガイドライン

 EPUBのようなHTMLやCSS等のWeb標準技術をベースとした形式は、ウェブアクセシビリティのガイドラインとして知られるW3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0( = JIS X8341-3:2010 = ISO/IEC 40500:2012)が対象とする「ウェブコンテンツ(Web技術によって作成されたコンテンツ)」に該当します。 

ウェブコンテンツとは、ウェブブラウザ、支援技術などのユーザーエージェントによって利用者に伝達されるあらゆる情報及び感覚的な体験を指し、例えば、ウェブアプリケーション、ウェブシステム、携帯端末などを用いて利用されるコンテンツ、インターネット、イントラネット、CD-ROMなどの記録媒体を介して配布されるウェブコンテンツ技術を用いて制作された電子文書、ウェブブラウザを用いて操作する機器などに適用する。
from JIS X8341-3:2010「1.適用範囲」
参考: ウェブアクセシビリティガイドラインWCAG 2.0とJIS X8341-3:2010に関する整理

 
 EPUBの場合は、JIS化もISO化もしているWACG2.0に則って製作していけばよいはず、というよりは、本来的には(特に公的機関などは)しなければならないはずです。しかし、WACG及びJIS 8341-3:2010の双方が参照すべきとする具体的な実装方法を説明した「WCAG 2.0 実装方法集」には、まだアクセシブルなEPUBの製作方法が掲載されていません(アクセシブルなPDFの作成方法はすでに掲載されている)。WACGの関連文書において、実装方法が具体的に示されない現時点では、WCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)に則って作成せよと言われてもまだ難しいかもしれません。将来的には、「WCAG2.0 実装方法集」にEPUBの実装方法も掲載され、官公庁などが刊行物のEPUB版制作を外注する時にその仕様書に「JIS 8341-3:2010の達成等級AAを準拠すること」等々の一文を追加するだけで済むようになれば理想的ですが、少なくとも今はまだ存在しないため、電子書籍向けにブレークダウンしたものが必要です。
 EPUBについては、IDPFがアクセシビリティガイドラインを公開しています。EPUBについてもっともまとまったものだと思います。

 しかし、上のIDFPのガイドラインは各要件が平たく説明され、優先順位が示されている訳ではありません。優先順位はWCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)の達成等級が参考になりますが、米国の出版団体 Association of American Publishers (AAP) が上のガイドラインの中で優先順位の高い要件13を挙げていますので、これも参考になると思います。

2. 電子書籍の「アクセシブルな閲覧環境」を示すビューワーのガイドライン

 閲覧環境についても、W3CのUser Agent Accessibility Guidelines(UAAG)2.0があります。これは上のコンテンツ作成ガイドラインであるWACG 2.0と対になっているようなもので、Web技術を用いて製作される電子書籍の閲覧環境も対象に対象になります。JIS規格どころかまだW3C勧告にもなっていませんが、参考になる部分が大きいはずです。

 米国の出版団体 Association of American Publishers (AAP) もEPUB 3 リーディングシステムに優先的に実装してもらいたい10の機能を公開しています。

 そして、DAISYコンソーシアムが電子書籍リーディングシステムのアクセシビリティを評価するためのチェックリストを公開しています。これについては、手前味噌ながら、私が翻訳して公開しています。

 最後に、これは本当に手前味噌ですが、EPUBの閲覧環境については、私も私案として要件をまとめてみたことがあります。これを、EPUBに限定しないように抽象化しつつ、優先順位の高い要件を3段階くらいでランク付けすれば、それなりにそれなりかも。

3. 「アクセシブルな提供方法」を示すコンテンツ提供ガイドライン

 これについては、参照するべきガイドラインは特に思いつきませんが、少なくとも以下の5点はポイントになるはずです。

  • 上の1と2のガイドラインを準拠すること
  • DRMが上の1と2のガイドラインの準拠を妨げないこと
  • アクセシビリティメタデータの提供(参考:メタデータを電子書籍のアクセシビリティの議論の俎上にそろそろのせませんか
  • 電子書籍プラットフォームのウェブサイトのウェブアクセシビリティをWCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)に準拠する形で担保すること
  • ユーザービリティ(コンテンツ入手までの手順をなるべく少なくするなど)

 

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