DAISYの種類とバージョン 2019年更新版

※本エントリは、2014年9月に公開した「DAISYの種類とバージョン」の更新版です。
 DAISY (Digital Accessible Information SYstem) は、視覚障害者や発達障害者など読書に困難のある方々のための書籍コンテンツの国際規格です。日本では、「デジタル録音図書の国際標準規格」と紹介されることが多いですが、「録音図書」より幅広いコンテンツを包含するフォーマットでテキストデータ主体のDAISYもあります。
 DAISYの種類としてテキストDAISY、音声DAISY、マルチメディアDAISYがあります。また、DAISYのバージョンには、現在も使用されている、または使用されようとしている仕様のバージョンとして、DAISY 2.02、DAISY3、EPUB 3があります。
 これらのDAISYの種類とバージョンを整理してみました。

1. DAISYの種類

 DAISYには、おおざっぱに言ってテキストDAISY、音声DAISY、マルチメディアDAISYの3つの種類のDAISYがあります。特徴を表にまとめると以下のような感じになります。

DAISYの種類
種類 目次のテキストデータ 本文フルテキスト 目次・本文等を読み上げた音声データ 現在、日本で仕様されている主なバージョン
音声DAISY 有り 無し 有り DAISY2.02
テキストDAISY 有り 有り 無し DAISY3、そろそろEPUB3?
マルチメディアDAISY 有り 有り 有り DAISY2.02

 「2.DAISYのバージョン」で紹介するように、DAISYには、DAISY2.02、DAISY3、EPUB3(DAISY4世代)の3つのバージョンがありますが、いずれのバージョンでもテキストDAISY、音声DAISY、マルチメディアDAISYを製作することが可能です。

音声DAISY

 DAISYという言葉から最もイメージしやすいのが音声DAISYでしょうか。いわゆる録音図書のデジタル版です。「DAISY」という名称が、もともと”Digital Audio-based Information SYstem”であったように、当初は録音図書テープではできなかった録音図書のランダムアクセスを可能とするデジタル録音図書の規格として策定されたものでした。音声DAISYがもっとも歴史のあるタイプのDAISYになるかと思います。
 目次等のナビゲーションに関係するテキストデータは格納しますが、本文部分は本文を音訳した(視覚情報である本文を音声化した)音声データのみになります。音声ファイルを格納しているので、1タイトル単位のファイルサイズは大きくなります。100MB、200MBはざらです。
 現在も日本では、音声DAISYが最も多く製作されています。製作に使用されているフォーマットは、ほぼDAISY2.02です。
 EPUB3で製作した「音声DAISY」を製作することも可能です。試していませんが、EPUBに対応したPTR3などのようなDAISY環境であれば、たぶん利用できるはず。
DAISY2.02からの変換。音声の再生は0:40あたりから)

テキストDAISY

 目次と本文のテキストデータで構成されるDAISYです。Kindle Storeなどで販売されている電子書籍をイメージするとわかりやすいと思います。ほぼそれに近いものです。音声ユーザーは、スクリーンリーダーによって読み上げさせて利用します。本文テキストの文字の拡大縮小や配色の変更等が可能です。
 
 音声DAISYや後述のマルチメディアDAISYのように音声ファイルをもっていないため、音声DAISYやマルチメディアDAISYと比べると、ファイルサイズは非常に軽量です。
 欧米言語には、このテキストDAISYがよく使われているそうです。
 日本では、著作権法の権利制限規定でプリントディスアビリティのある方のためにテキストデータを製作できるようになったのが2010年からでさほど日が経っていないため、音声DAISYほどは普及はしていません。テキストDAISYの閲覧環境のほうがPCの操作が必要であるなど、ICTスキルが求められることもハードルを高めている原因ですが、近年は、PTR3などのように読み上げ機能を備えたDAISY環境も出てきていますので、いずれはハードルは下がるかもしれません。
 テキストDAISYは、DAISY3で製作されることが多いですが、DAISYの閲覧環境におけるEPUB3の対応も進んできているので、テキストDAISYは、EPUB 3への移行が今後進むかもしれません。
 なお、商用で流通しているいわゆる「電子書籍」は、目次とテキストデータで構成されるテキストDAISYとも言えますので、日本でも「テキストDAISY」的なコンテンツは、電子書籍の普及で一気に増えている、ともいえます。個人的に感じる商業の電子書籍と、テキストDAISYの大きな違いは、以下の3点です。

  • DRMフリーであること(障害者が利用する様々な環境で利用できるように)、
  • 論理目次の情報がより詳細に記入されること(ナビゲーション機能が強化されている)、
  • 画像には代替テキストが提供されていること

テキストDAISYだから、という要件ではないため、商業的に流通している一部の電子書籍でも上の要件を満たしているものがでています。 DAISYと商業流通コンテンツの境界線があいまいになりつつといえます(それが望ましいと思いますが)。

マルチメディアDAISY

 テキストDAISYと音声DAISYの特徴をあわせもったDAISYで、本文のテキストデータと読み上げ音声の両方をもち、音声を再生する際には以下のように本文テキストの該当箇所をハイライト表示させる機能を持っています。
マルチメディアDAISY図書の「ごん狐」

 音声ファイルを格納しているので、ファイルサイズは大きくなります。マルチメディアDAISYは全盲の視覚障害者だけではなく、ロービジョン、発達障害、知的障害など通常の紙の書籍では読書するのに困難のある様々な方にも有用であるため、今後普及が期待されているDAISYです。ただし、テキストDAISYと音声DAISYの両方を製作し、それを1つにマージするようなものなので、それ相応のコストがかかります。
 マルチメディアDAISYは、DAISY2.02で製作されることが多いです。
 

2. DAISYのバージョン

 DAISYにはDAISY2.02、DAISY3、DAISY4世代のEPUB3の3つのバージョンがあります。
DAISYのバージョンの図。DAISY2.02からDAISY3、続いて、DAISY4世代へ。DAISY4世代は交換フォーマットと配布フォーマットに分かれ。交換フォーマットはDAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)、配布フォーマットがEPUB
 なお、DAISY 2.02とDAISY 3は同じDAISYという名称ながら、ファイル構成も全く異なるもので、別のファイル形式と言えます。このあたりはそれぞれの策定の経緯も関係しています。詳しくは以下をご参照ください。

DAISY2.02

仕様の概要
  • Recommendation, February 28 2001(DAISY Consortium)
  • URL: http://www.daisy.org/z3986/specifications/daisy_202.html日本語訳
  • ファイル: SMIL1.0 + XHTML1.0 + CSS2.1 + 音声ファイル(MP3、PCMなど)など
  • 目次ファイル:Navigation Control Center (NCC) document(ファイル名は”ncc.html”または”NCC.HTML”)
  • メタデータを格納しているファイル:Navigation Control Center (NCC)ドキュメント(ファイル名は”ncc.html”または”NCC.HTML”)
特徴
  • 必須ファイルは、1つのNavigation Control Center (NCC) document(ファイル名は”ncc.html”または”NCC.HTML”)と1つ以上のSMILファイル。
  • Navigation Control Center (NCC)ドキュメントとテキストコンテンツドキュメントファイル(本文部分のテキスト)はXHTML1.0に準拠したドキュメント。
  • SMILドキュメントはSMIL1.0に準拠したドキュメント。
  • CSS2.1仕様に付録として記載されているAudio CSS(ACSS)も使用可。
  • ルビ表示を含め、漢字などの読み情報を格納する機能はサポートされていない。
  • CDなどの媒体にいれて配布する想定だったためか、EPUBのようなZIPアーカイブ化して単一ファイルとしてカプセル化するコンテナフォーマットは特に規定されていない。

参考 DAISY 2.0

仕様の概要

 DAISY2.02の前のバージョンとして、DAISY2.0があります。ファイルの構成はDAISY2.02とほぼ同じですが、テキストベースのコンテンツファイルのhtmlファイルが、DAISY2.0はHTML4.0です。現在、DAISYが2.0の仕様に基づいて製作されることはさすがにありませんが、過去に製作されたDAISYの中にはDAISY2.0のものが結構残っているようです。

ANSI/NISO Z39.86-2005 (DAISY3)

仕様の概要
  • Approved April 21, 2005 by the American National Standards Institute
    Reaffirmation approved April, 2012 by the American National Standards Institute
    ANSI/NISO Z39.86-2005
  • URL: http://www.daisy.org/z3986/2005/Z3986-2005.html日本語訳
  • ファイル: SMIL2.0 + XML1.0(DTBook XML) + CSS2.1+ 音声ファイル(MP3、PCMなど)+OPF+NCX など
  • 目次ファイル:NCX(Navigation Control file for XML applications)ファイル
  • メタデータを格納しているファイル: Open eBook Forum Package File (OPF)
特徴
  • パッケージファイルであるOPFファイルはOpen eBook Publication Structure 1.2仕様に準拠。
  • 目次ファイル:NCX(Navigation Control file for XML applications)ファイルはEPUB2でも採用されている。
  • DAISY XML(またはDTBook XML):DTBook XML要素セットを使用して記述されたXML1.0のテキストベースのコンテンツファイル。
  • DTBook XML要素セットを使用したコンテンツファイル(DAISY XML)はEPUB2でも使用可。
  • CSS2.1仕様に付録として記載されているAudio CSS(ACSS)も使用可。
  • ルビ表示を含め、漢字などの読み情報を格納する機能はサポートされていない(日本では、独自の実装でルビ表示を実現しているところがあるようですが、仕様上はサポートされていない)。
  • CDなどの媒体にいれて配布する想定だったためか、EPUBのようなZIPアーカイブ化して単一ファイルとしてカプセル化するコンテナフォーマットは特に規定されていない。
その他

 欧米圏では、このDAISY3が主に使用されているようです。DAISY 3という名称で知られていますが、米国の標準規格として認証されていますので、”ANSI/NISO Z39.86-2005″と呼ばれることも多いです(DAISY3と呼ばれることが少ない)。2012年に再確認(reaffirmed)されたので末尾に”R2012″がついて、”ANSI/NISO Z39.86-2005 (R2012)”と表記されることもあります。名称にあるとおり、”ANSI/NISO Z39.86-2005″は2005年に承認されたものですが、”ANSI/NISO Z39.86-2005″の前のバージョンの仕様として2002年に承認された”ANSI/NISO Z39.86-2002″もあります。”ANSI/NISO Z39.86-2002″もDAISY3です。
 米国では、個別障害者教育法(IDEA 2004)により、出版者は教科書などの教材のデータをNIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格)というフォーマットで提出することが義務づけられています。そのNIMASにDAISY3のサブセットが採用されています。

DAISY4世代(EPUB3とDAISY AI)

 DAISY4世代は、ユーザーが使用する配布フォーマットと製作者側がもつ交換フォーマットに分かれています。配布フォーマットはEPUB 3、交換フォーマットがDAISY AI(Authoring and Interchange)で米国の標準規格として認証もされましたので”ANSI/NISO Z39.98-2012″と呼ばれます。

EPUB 3

仕様の概要
  • Recommended Specification 26 June 2014 by International Digital Publishing Forum ※EPUB 3.0は2011年10月11日勧告
  • URL:http://idpf.org/epub/301
  • ファイル:HTML5(XHTML5)+CSS2.1(と一部のCSS3)+SMIL3.0+音声や動画ファイル+OPF など
  • 目次ファイル:EPUB Navigation Document(ファイル名は”nav.xhtml”とされていることが多い)
  • メタデータを格納しているファイル: パッケージドキュメントファイルのOPFファイル
特徴

 TTSサポートのところで触れていますが、ruby要素、インラインSSML、PLSによっての読みの情報を格納できるようになりました。日本語コンテンツとしては非常に大きなことですね。あと、DAISY2.02、DAISY3では特に規定されていなかったZIPアーカイブ化が規定されたことがとても大きい。

  • パッケージファイルであるOPFファイルはEPUB Publications 3.0.1に準拠。
  • 動画・音声ファイルのサポート。
  • SMIL3.0のサブセットが仕様に組み込まれ、テキストと同期した形で音声を再生することが可能になった(EPUB Media Overlays)。DAISYとしては、当たり前の機能ですが、EPUBとしては大きな機能の追加です(動画とテキストの同期は不可)。
  • MathMLのサポート。
  • JavaScriptのサポート。
  • Text-to-speechのサポート機能強化(ruby要素、CSS3 Speech Module、インラインSSML、PLS(Pronunciation Lexicon Specification)をサポート)。
  • 国際化対応(縦書きなどの日本語組版対応など)。
  • (EPUBとしては、当然のことであるが、)ZIPアーカイブ化して単一ファイルとしてカプセル化するコンテナフォーマットの仕様が「DAISY」としてはようやく盛り込まれた。
その他

 DAISYの閲覧環境におけるEPUB 3の対応も近年進んできています。新しく出るもの、メーカーのメンテがなされているものはだいたい対応してきていると言ってよい状況。

 ちなみにEPUBで作れば、全てがDAISYユーザーが満足するアクセシブルなコンテンツになるかというとそうではありません。作り手がアクセシビリティを意識して製作する必要があります。DAISYコンソーシアムは、DAISYユーザーが満足するようなアクセシブルなEPUBを”Accessible EPUB“と呼び、一応、他のEPUBと区別しているようです。

DAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)

仕様の概要

 DAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)に準拠したファイルを少なくとも私は未だにほとんど見たことがありません。DAISYコンソーシアムもEPUB 3 移行プロジェクトでEPUB3への移行は力入れているようですが、DAISY AIはあまり力を入れているように見えません。以下のような用途を想定してようですが・・。
メタデータ、音声、本文データ、SMILなどを持った交換フォーマットDAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)から配布フォーマットであるEPUBと点字データ、拡大図書などに変換される図です

石川准、河村宏、立岩真也、青木千帆子の4氏による座談会記録

2014年に公開された石川准、河村宏、立岩真也、そして青木千帆子の4氏による座談会記録が公開されています。
視覚障害学生石川准と東大図書館員河村宏:その1970年代から21世紀へ

  • 視覚障害者のICT方面の支援技術(スクリーンリーダーとか点字ディスプレイとか)の歴史
  • 1970年代から80年代の障害学生に対する大学の支援状況
  • 研究者から見た図書館や点字図書館のサービス
  • 視覚障害者にとってのテキストデータ
  • マラケシュ条約(は直接言及されていませんが、石川氏が米国のRFBから録音図書を取り寄せていた話は、条約が実現を目指す未来を示している)

と書かれてアンテナが反応する方は必読かと。

EPUBの非テキストコンテンツに長文の代替テキストをつける

 プリントディスアビリティのある人の利用を想定して、学術書のEPUBを制作するにあたり、原本にある図や表、写真などでEPUBでは、画像として挿入するコンテンツ(以下、「非テキストコンテンツ」)について、それと同じ目的を果たし、同じ情報を提供するためのテキスト(以下「代替テキスト」)をどのように提供するかという点でしばらく悩んでいました(今も悩んでいる)。代替テキストは、制作の対象が学術書であること(資料的要素の高い非テキストコンテンツが多い)、また、それに付随して、利用される想定が、アカデミックな用途であること、音訳での非テキストコンテンツの説明のノウハウ(仕様)をそのまま活用したことから、代替テキストも長文のものが多くなります。DIAGRAM Centerが公開している以下のガイドラインで作成される代替テキストをイメージすると、それに近いものだと思います(これに準拠したわけではないのですが、情報の粒度や内容は結果として似てくる気がします。要件を整理すると考えることは似てくるのでしょうか)。

 代替テキスト簡潔に短く済むのであれば、alt属性に記述すればよいのですが、長文になると、alt属性に記述するのが躊躇われます。そこで、alt属性以外の方法で、長文の代替テキストをどのように提供するべきか、以下の1から3-4を検証しましたが、結論から述べると、現在のEPUBの閲覧環境の実装を考慮すると、3-4のハイパーリンクが最も妥当という結論になりました。

1 長文の代替テキストを画像の後に配置する

 一番単純なのは、以下のパターン1のように画像の直後にその長文の代替テキストを置くことです。例えば、以下のような感じ。

<figure>
<figcation>表1-1 平成元年から平成20年までのブログエントリ数 </figcation>
<p>※著者が「○○白書」から構成を変更して作成</p>
<img src="../table1_1.jpg" alt="表1-1の画像。内容説明はこの後にあり。">
</figure>
<p>表1-1の内容説明、開始。</p>
(長文の代替テキスト本文)
<p>内容説明、終わり</p>

 しかし、上のように本文の間に長文の代替テキストそのまま置いてしまうと、本文を読み上げている時に長文の代替テキストも上から順に読み上げてしまいます。全ての読者に長文の代替テキストを読み上げさせることになり、本文のみを読みたい読者にとっては、必要がない箇所を読ませてしまうことになってします。

2 スキップリンクをつける

 1にスキップリンクをつけて、長い内容説明をスキップできるようにする方法もあります。DAISY2.02で作成される音声DAISYでも、図表などの内容説明をスキップできるよう、これと同様の対応がよくされています。

<figure>
<figcation>表1-1 平成元年から平成20年までの某</figcation>
<p>※著者が「○○白書」から構成を変更して作成</p>
<img src="../table1_1.jpg" alt="表1-1の画像。内容説明はこの後にある。">
</figure>
<a href="#desc_end01">内容説明スキップ<a>
<p>表1-1の内容説明、開始。
(長文の代替テキスト本文)
<p id="desc_end01">内容説明、終わり</p>

 これはEPUBのどの閲覧環境の実装でも可能なはずですので、現在でも採用できる対応だと思います。ただ、長文の代替テキストを持つ非テキストコンテンツが1点、2点であればともかく、多くある場合は、本文だけが読みたい人は、その都度、スキップリンクを使用することが必要になりますので、煩わしいかもしれません。長文の代替テキストを必要とする人だけが、その都度、操作してそれを長文の代替テキストを読めるようにしたほうがよいかもしれません。
 

3 別の場所に長い説明テキストを配置する

 長文の代替テキストが複数ある場合は、章末なり、巻末にまとめておいて、本文から必要なユーザーが参照できるようにするという方法考えられます。これについては、方法が以下のようにいくつか提案されています。まとめると、longdesc属性を使用する方法、WAI-ARIAを使用する方法、単純にハイパーリンクを配置する方法の3つでしょうか。

3-1 longdesc属性を使用する

 HTMLのlongdesc属性を使用する方法です。longdesc属性の用途としては、別のところに配置した長文の代替テキストへのURLを格納する属性で、まさに今回の目的にぴったりの属性です。以下は、長文の代替テキストを本文と分けてhtmlファイルを作成した例ですが、別に同一html内に長文の代替的スを配置し、longdesc属性で関連付けても仕様上は全く問題ないはず。

<!--本文-->
<figure>
<figcation>表1-1 平成元年から平成20年までの某</figcation>
<p>※著者が「○○白書」から構成を変更して作成</p>
<img src="../table1_1.jpg" alt="表1-1の画像。内容説明はこの後にある。" longdesc=”longdescription01.html#desc1_1" >
</figure>

<!--longdescription01.htmlファイル。各非テキストコンテンツの内容説明が章ごとに集約されている例-->
<section>
<h1>第1章の図表の内容説明</h1>
<section>
<h2 id="desc1_1">表1-1 平成元年から平成20年までの某 の内容説明</h2>
(表1-1の長文の代替テキスト本文)
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-2 昭和25年から昭和41年までの甲乙丙 の内容説明</h2>
(表1-2の長文の代替テキスト本文)
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-3 平成と昭和における玩具の対象年齢の推移 の内容説明</h2>
(表1-3の長文の代替テキスト本文)
</section>
…
</section>

 longdesc属性は、ほとんど使用されていないためか、一度HTMLの仕様から消えて、また、HTML5の拡張仕様として2015年に復活したようです。

 
 そういう状況なので、現時点において、EPUBの閲覧環境で実際に使用できるものかどうかです。EPUB閲覧環境よりは実装が進んでいるはずの、ウェブブラウザとスクリーンリーダーの組み合わせ(PC-Talker+IE11、NVDA+FF)で検証してみました。

 PC-Talker+IE11だと、「説明付き」、NVDA+FFだと、「詳細説明あり」と読み上げてくれます。しかし、エンターを押すと、NVDA+FFだとlongdesc属性で指定された箇所に遷移するのですが、PC-Talker+IE11だと、うまく遷移してくれませんでした。もう少し検証が必要かもしれませんが、ウェブブラウザとスクリーンリーダーの組み合わせでもこの状況なので、おそらくそれより実装が遅れているEPUBの閲覧環境では、まだ利用できる段階ではないと思われました。

3-2 WAI-ARIAのaria-describedbyを使用する

 WAI-ARIAのaria-describedbyを使用する方法です。longdesc属性の対応が進んでいないためか、IDPFの掲示板でもaria-describedbyを使用することが勧められていたりしています。aria-describedbyを使用する場合は、同一のhtmlファイル内に長文の代替テキストを配置する必要があるようです。


<figure><!--本文-->
<figcation>表1-1 平成元年から平成20年までの某</figcation>
<p>※著者が「○○白書」から構成を変更して作成</p>
<img src="../table1_1.jpg" alt="表1-1の画像。内容説明はこの後にある。" aria-describedby=”#desc1_1" >
</figure>
……
<!--同一htmlファイル内の末尾-->
<section>
<h1>第1章の図表の内容説明</h1>
<section>
<h2 id="desc1_1">表1-1 平成元年から平成20年までの某 の内容説明</h2>
(表1-1の長文の代替テキスト本文)
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-2 昭和25年から昭和41年までの甲乙丙 の内容説明</h2>
(表1-2の長文の代替テキスト本文)
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-3 平成と昭和における玩具の対象年齢の推移 の内容説明</h2>
(表1-3の長文の代替テキスト本文)
</section>
…
</section>

 aria-describedby は、フォームにフォーカスを当てた時のようにimg要素にフォーカスを当てたら、長文の代替テキストが有無言わさず読み上げられる懸念もあったのですが、以下のサンプルで検証してみました。

 結果は以下のとおり。ウェブブラウザとの組み合わせも以下なので、EPUBにaria-describedbyを使用するのは現段階ではちょっと時期尚早かなという感じ。

PC-Talker+IE11 NVDA+FF
Image with aria-describedby Attribute (Same Page Description) 画像にフォーカスをあてるとその箇所を読み上げる。 画像にフォーカスをあててもaria-describedbyで紐づけた箇所は読み上げず
Image with aria-describedby Attribute (Link to External Page Description) リンクテキストを読み上げる。エンターを押すと、リンク先に移動するが、aria-describedbyで紐づけたリンクテキストのリンク先と異なる。 「詳細説明あり」と読む。エンターを押すとaria-describedbyで紐づけたリンクテキストのリンク先に遷移

 なお、Accessibility Test Suiteにもaria-describedbyのサンプルが公開されており、少し古いものの、以下で検証結果が公開されていますが、img要素に用いるにはまだまだという印象があります。

 

3-3 WAI-ARIA の aria-details を使用する(未検証)

 まだ時期尚早と思い、検証まではしていませんが、将来的はaria-detailsを使用する方法も有り得そうです(longdesc属性とどちらの未来がくるのか・・)。aria-describedby よりは aria-details のほうが属性の目的にかなっているかもしれません。

aria-details属性は、aria-describedbyによって通常提供されるよりも詳細な情報を提供する単一の要素を参照する。
Accessible Rich Internet Applications (WAI-ARIA) 1.1 日本語訳 – aria-details (プロパティ)

3-4 ハイパーリンクを使用する

longdesc属性やaria-describedby が使用できないとなると、単純に長文の代替テキストのハイパーリンクを配置するという方法が考えられます。これについては、以下の例2と例3でサンプルが掲載されています。

例えば、以下の様な感じでしょうか。長文の代替テキストから本文に戻れるように相互リンクにしています。 なお、以下は、同一htmlファイル内に長文の代替テキストを配置していますが、別のhtmlファイル内に配置しても特に問題ありません。

<!--本文-->
<figure>
<figcation>表1-1 平成元年から平成20年までの某</figcation>
<p>※著者が「○○白書」から構成を変更して作成</p>
<img src="../table1_1.jpg" alt="表1-1の画像。内容説明はこの後にある。" aria-describedby=”#desc1_1" >
<p><a id="ref1_1″ href="#desc1_1">画像の詳細な内容説明へのリンク</a></p>
</figure>
…
<section>
<h1>第1章の図表の内容説明</h1>
<section>
<h2 id="desc1_1">表1-1 平成元年から平成20年までの某 の内容説明</h2>
(表1-1の長文の代替テキスト本文)
<p><a href="#ref1_1">本文へ戻る</a></p>
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-2 昭和25年から昭和41年までの甲乙丙 の内容説明</h2>
(表1-2の長文の代替テキスト本文)
<p><a href="#ref1_2">本文へ戻る</a></p>
</section>
<section>
<h2 id="desc1_2">表1-3 平成と昭和における玩具の対象年齢の推移 の内容説明</h2>
(表1-3の長文の代替テキスト本文)
<p><a href="#ref1_3">本文へ戻る</a></p>
</section>
…
</section>


 ハイパーリンクは、おそらくどのEPUB閲覧環境でも実装されていますので、別の場所に長文の代替テキストを配置する場合はこの方法が現時点においては、もっとも取れうる方法だと思います。そして、長文の代替テキストが多々使用されるEPUBの場合も、この方法が妥当という結論に個人的にはなりました。
 
 上では、epub:typeのnoteref、endnotes、endnoteを使用していますが、現時点ではあってもなくても問題無いかと思います。ただ、これらをつけるとEPUBの閲覧環境では、リンクではなく、ポップアップとして長文の代替テキストが表示される可能性があります。その場合のスクリーンリーダーでの読み上げはどうなのか、長文だとポップアップにはどのように表示されてしまうのかというあたりは、要検証でしょうか。
※2017年12月21日追記
 epub:typeのnoterefを使用すると、iBooks、KoboのiOS版、Microsoft Edgeでテキストがポップアップして表示されること、iBooksはポップアップ先のファイルのサイズを100kb程度に留めないとビューアがハングアップする可能性があることをご指摘いただきました。長文の代替テキストでは、100kbを超える可能性が高いこと、そもそもポップアップで長文の代替テキストを表示させることで利便性が高まるかどうか疑問があることから、上のサンプルコードからepub:typeのnoteref、endnotes、endnoteを記述している部分を削除しました。

余談 EPUB 3 CG での議論

 W3C EPUB 3 Community Groupの2017年11月30日の電話会議でも長文の代替テキストの提供について議論されていました。この11月30日会議の議事録から該当部分を転載します。

Best practices for extended descriptions
Avneesh:: no way to provide extended descriptions currently. Data attributes/ Described_by has limitations for images. Publishers want longer descriptions. Screen readers have difficulty if text is long.
Avneesh: http://kb.daisy.org/publishing/docs/html/images.html#ex-02
Avneesh: https://benetech.app.box.com/s/5zt5jbz4fydu8hlqulb649l2vdo736mq
Avneesh:: need a simple alternative that will work in most reading systems. Matt made recommendation based on simple linking mechanism. Link above ... described_by is not going away. this is one of several options. diagramcentral.org BISG already aware and discussing QuickStart guide. ... One concern - information is outdated in IDPF guidance. Knowledgebase is providing outdated info to publishers.
Luc Audrain: +1
Tzviya:: why is ARIA necessary? HTML recommendations seem sufficient.
Tzviya: see https://github.com/w3c/html/issues/561
Clapierre:: publishers dont want URL link as text (ugly) testing with an image that links but clickable images are problem in some readers
Rachel:: need for extended descriptions in science, psychology, etc. Cant disrupt visual user experience and degrade pedagogical experience.
Wolfgang: s/cant/can't/
Avneesh:: latest version of Edge supports but IE will not collapse it.
Minutes 30 November 2017 · w3c/publ-cg Wiki