障害者差別解消法の施行まであと1年弱となりました。公共図書館向けのいろいろなサービスが障害差差別解消法の対応できる的なことを謳うようになると思いますが、電子書籍サービスもおそらくはその1つでしょう。
個々の電子書籍ベンダの状況はよくわかりませんが、アクセシビリティ対応についてはベンダごとにそれぞれ重きを置くところがさまざまではないかと思います。「アクセシブルな電子書籍」と一言で言っても、図書館が考える「アクセシブルな電子書籍」とベンダ側(と出版社)が考えるそれが同じとは限らないため、図書館が考える「アクセシブルな電子書籍」が何かを明示する必要があるのではないかと考えています。利用者に対して直接サービスを提供する図書館側が考える「アクセシブルな電子書籍」の要件を整理して提示し、認識に齟齬が生じることを防ぐことが重要です。
例えば、以下について要件の優先順位を示したガイドラインを提示することで、ベンダやコンテンツプロバイダが自分が提供するサービスやコンテンツが、客観的に自己評価でき、かつ、今後どのように改善していけばよいのか、その道筋を示すというのは一つの方法です。
- (出版社と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える「アクセシブルな電子書籍」とは何か。
- (ビューワー開発者と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな閲覧環境」とは何か。
- (電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな提供方法」とは何か。
この方法の大きな利点は、ベンダ側に要件を提示できるだけではなく、図書館側が電子書籍サービスの導入やコンテンツの購入に際して、これらを「障害差差別解消法の対応」という文言に左右されずに客観的に評価できることです。
障害の状況は人によってそれぞれ異なりますので、全ての方が満足するものを提供することは困難です。ベンダが出してきたものに対して、問題点を指摘することは無論重要ですが、図書館側が考える「アクセシブルな電子書籍」を明示せずに、ベンダが問題を指摘され続けるという状況は、ベンダにとっては、ゴールが見えないため、やる気を削ぐ可能性もあり、あまり望ましいことではありません。
そこで、ガイドライン的なものを提示することで、だれもがサービスやコンテンツを客観的に評価でき、問題点を顕在化できるようにする。そして、現実的に実装できる道筋を示す。ベンダ側も全ての要件を一気に満たすことは難しくても、道筋が示されれば、優先順位の高い要件から「合理的配慮」の範囲内で少しずつ実装してくれるかもしれない。企業全体としてその気はなくても、内部の人がやる気を出して可能な範囲で少しずつ改善してくれるかもしれないし、あるいは、ガイドラインによる客観的な評価をもって、上を説得するようになるかもしれない。後半は希望的観測もありますが、ガイドラインのあり方は、ウェブアクセシビリティガイドラインで知られるW3CのWCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)はロールモデルになるものだと思います。
利用者に接してサービスを提供する図書館は、障害者のニーズをくみ上げて出版社やベンダーに「アクセシブルな電子書籍」とは何かを伝えることができるし、その役割を果たすことでアクセシブルな電子書籍の普及に貢献することができるはずです。
要件を整理してガイドラインを作成するということは、関係者間で「アクセシブルな電子書籍」の認識を一致させる必要がまずはあり、相当大変なことだ思いますが、それは必要な調整ではないかととも思います。
私が図書館側の人間なので、今回は「図書館」を中心に述べてきましたが、視覚障害者情報提供施設(いわゆる、点字図書館)に置き換えても同じことが言えるはずです。立場としては図書館と点字図書館は同じであるはずですので、連携して取り組めればよいかもしれません。米国のEPUB 3 Implementation Projectが出版社、リーディングシステム開発者、コンテンツ販売者、サービスプロバイダ、そして、アクセシビリティ関係のコミュニティが集まって要件を整理したように、日本でももっと広いくくりで領域をまたいでこういうものが作れると本当はもっとよいのでしょうか。