障害者差別解消法の三本柱-障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止、環境整備、合理的配慮の提供-

この記事はWeb Accessibility Advent Calendar 2014 – Adventarの8日目のエントリです。おそらく他の方のエントリとだいぶ趣きが異なることになりそうですが、アクセシビリティに深く関係があり、社会に大きな影響を与えることになる法律「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」を取り上げます。

障害者差別解消法の概要

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」は、障害者の権利の保障と実質的平等を確保することを目的として具体的な措置や義務を定めた法律です。2013年6月に公布され、2016年4月に施行される予定です。

障害者差別解消法が障害者の権利の保障と実質的平等を確保するための大きな柱が以下の3つです。

  • 障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止(第七条第一項、第八条第一項)
  • 環境の整備(事前的改善措置)(第五条)
  • 合理的配慮の提供(第七条第二項、第八条第二項)

それぞれの詳細は、下で説明しますが、簡単に申せば、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止は、障害を理由にサービスや機会の提供を拒否したりしてはならないということで、これは大原則です。そして、環境の整備ですが、これは施設のバリアフリー化、ウェブサイトをアクセシビリティに配慮してつくるなどして、根本から可能な限り障壁をなくし、障害者も利用しやすい環境を整備しましょうということです。そして、この2つでも足りないところを、個別具体的に細やか配慮(合理的配慮)を提供することで補うということになります。図で表すと以下のような三層構造になるでしょうか。

三層構造の図である。一番下の層が「不当な差別的取扱いの禁止」、次の層が「環境の整備(事前的改善措置)」、そして、一番上の層が「合理的配慮」。「合理的配慮」については、ケースAからケースDまで異なる高さで表されており、ケースBについては、高さが0、つまり、「合理的配慮」がない。

合理的配慮については、「障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止」と「環境の整備(事前的改善措置)」で足りないところを、個別具体的に合理的配慮の提供で補うということで、それを表すためにケースAからDを異なる高さで示しています。パターンBの場合は、その障害者にとって「障害を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止」と「環境の整備(事前的改善措置)」で足りているため、障害者が除去を求める障壁もなく、特別な合理的配布の提供が特に必要ないパターンです。きちんと環境が整備され、障害者が配慮の提供を求める必要がないケースBが理想のケースと言えます。しかし、障害の状況や場面、状況によって、求められる配慮も異なりますので、全ての障害者の要望に応える環境を整備することは現実的は難しいと思われます。個別具体的に細やかな配慮を提供する必要があります。

障害者差別解消法では、行政機関等(国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体など)と民間事業者(商業その他の事業を行う者。目的の営利・非営利、個人・法人の別を問いません)に対してそれぞれ以下のように義務づけられています。

国の行政機関等 地方公共団体 民間事業者
障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止 義務 義務 義務
環境の整備(事前的改善措置) 努力義務 努力義務 努力義務
合理的配慮の提供 義務 義務 努力義務

障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止

第七条第一項(国の行政機関等、地方自治体)、第八条第一項(民間事業者)で、「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と民間事業者も含めて義務として規定されています。

つまり、正当な理由なく、障害を理由としてサービスや機会の提供を拒否したり、何かしらの制約をつけてはならないということです。ここで気をつけて欲しいのは、障害者の実質的な平等を確保するための特別な対応は、不当な差別には当たらないということです。つまり、後で述べる合理的配慮の提供は差別ではありませんし、無論、逆差別でもありません。また、合理的な配慮を提供するために、プライバシーに配慮しつつ、障害の状況を障害者に確認することも、不当な差別ではありません。

環境の整備(事前的改善措置)

これは、後で述べる合理的な配慮がなるべく必要にならないように、不特定多数の障害者を対象に障害者が利用しやすい環境をあらかじめ整備しておけということです。施設におけるバリアフリー化や情報の取得・利用・発信におけるアクセシビリティ向上などの他、職員に対する研修などソフト面の対応も含まれています。一朝一夕にできることでなく、また、技術の進展によって状況も変わりうることから、努力義務とされているようです。しかし、合理的配慮を必要とする場面が多数存在しうる場合は、その都度、合理的配慮を提供して対応するのではなく、環境を改善して、根本から解決していくことが重要です。

合理的配慮の提供

「合理的配慮」は、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、過度の負担が生じない範囲内でそれに応える個別具体的な対応です。一言で言えば、障害者の社会的障壁除去の求めに対して「運用で対応できる対応」もしくは「現場でできる対応」を行うということになるでしょうか。
例として、障害者差別解消法に基づく基本方針(原案)には以下が挙げられています。

・車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
・筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮
・障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更

障害者の求めに応じて、どこまで行うべきかということが頭を悩ませるところではないかと思います。しかし、配慮を提供する側の状況と、配慮を求める障害者の障害の状況によって異なりますので、個別具体的に判断するしかありません。過度の負担にあたると判断される場合は、その理由を障害者に説明し、代わりにどのような対応が可能であるかということを障害者と相談しながら考えていかなければなりません。
公平・公正の観点から一律のサービスを提供していたところには、これまでと異なる対応が求められることになりますので、戸惑うところもあるかもしれませんが、障害者のことを第一に考え、柔軟に細やかな配慮を提供していくことが必要ではないかと思います。

また、「合理的配慮の提供」が義務付けられているところに特に念を押しておきたいのは、「合理的配慮」=「運用で対応できる対応」ということで、運用で対応できる範囲で限定的に対応すればよいということでは当然ありません。運用で対応できない範囲は根本的な解決が必要ということですから、環境の整備(事前的改善措置)によって中長期的にでも根本的に解決していくことが求められます。環境の整備(事前的改善措置)は努力義務ではありますが、環境の整備(事前的改善措置)と合理的配慮の提供はセットで考えるべきでしょう。

おわりに

以上、長々と書いてしまいましたが、今回は、上の三本柱を中心に障害者差別解消法を紹介させていただきました。障害者差別解消法では、この三本柱の実効性を担保するために、国の行政機関や地方自治体に様々な措置を義務づけていますが、それについては、また別の機会に紹介したいと思います。

障害者差別解消法に興味がある方は、以下の内閣府のサイトに掲載されている説明資料がお勧めです。ここで触れた基本方針案でもわかりやすい説明がなされています。

また、障害者差別解消法を扱った書籍も刊行されています。条項ごとの詳細解説や障害者差別解消法成立の経緯が掲載されています。

関連エントリ

障害者差別解消法に基づく基本方針案のパブリックコメント開始

障害者差別解消法に基づく基本方針(原案)に関する意見募集に(パブリックコメント)が開始されました。期間は平成26年11月26日(水)~12月25日(木)。

 基本方針は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」第6条(以下)に基づいて策定されるされるもので、障害者差別解消法の施行における基本的な事項を定めるものです。最終的に閣議決定(行政の最高意思決定)されます。年内の閣議決定が目標とされていると最近報道されたばかりですが、今年の仕事納めは12月26日(金)なので、パブコメを終えた翌日に閣議決定になる?

第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向
二 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項
三 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項
四 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項
3 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない。
5 内閣総理大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
6 前三項の規定は、基本方針の変更について準用する。

この基本方針に基づいて、国の行政機関と独立行政法人等、主務大臣は、以下のとおり対応要領と対応指針を作成することになります。

  • 国の行政機関と独立行政法人等(いずれも同法第2条参照)は職員が適切に対応するために必要な要領(対応要領)を作成し、公表しなければなりません。(対応要領の作成・公表は義務)(同法第9条)。
  • 地方公共団体に職員が適切に対応するために必要な要領(対応要領)を作成することに努めなければなりません。(対応要領の作成・公表は努力義務)(同法第10条)
  • 主務大臣にこの基本方針に基づいて事業者が適切に対応するために必要なガイドライン(「対応指針」)を作成し、公表しなければなりません。(対応指針の作成・公表は義務)(同法第11条)

 基本方針原案は、上の作成にあたり、障害者その他の関係者を構成員に含む会議の開催、障害者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるための必要な措置を講ずることを求めています。
 検討の経緯は、障害者政策委員会の配付資料や議事録で確認することができます。

 平成26年9月1日時点の以下のスケジュールでは、平成27年の夏頃を目途にま基本方針を踏まえ、行政機関等において「対応要領」、主務大臣において「対応指針」を作成することになっているようです。