JDC/JEPA共催『普通の書籍が読めない人に読書機会を提供する: EPUB電子書籍のアクセシビリティ』講演会

11月26日に開催されたJDC/JEPA共催『普通の書籍が読めない人に読書機会を提供する: EPUB電子書籍のアクセシビリティ』講演会の記録が公開されています。以下のページからもたどれますが、講演動画も公開されています。

講演の動画であとから観られるだけでもありがたいですが、文字としてスライドを追いながら講演記録を追えるのは、大変ありがたいです。記録を作成する側は文字起こしやスライドの挿入など大変だと思いますが、広がってほしい方法です。

講演会の内容は上で確認できるので余り触れませんが、EPUBアクセシビリティJIS規格の話に加え、出版社の立場から相賀昌宏さんの登壇があり、ディスレクシア当事者お二人からの2つの報告あり、おそらく馴染みの無い方にはわかりづいらであろうWCAGとEPUB Accessibilityの関係について、木達一仁さんによるご報告など、「2時間半という限られた時間によくぞここまで詰め込んだな」と思わせるいう内容でした。関係者の皆様、お疲れさまでした。

ところで、EPUBの話から離れて、「おぉ」と関心を引いたのが、河村 宏(国際DAISYコンソーシアム理事)さんご講演のDAISYができるまでの振り返りのところでした。

DAISY開発の経緯は、過去のご講演などでも話されていたかもしれませんが、河村さんの話は具体的で、文献ではなかなか探れない部分も多かったので興味深かったです(トロントからナイアガラまで片道3時間のドライブがDAISYの方向性を決めたという話とか)。当時の河村さんのご年齢と自分の年齢を考えながら、その凄さを改めて感じたり。

参考

JIS X 23761:2022(EPUBアクセシビリティ)が制定

EPUBのアクセシビリティ要件をまとめたJIS X 23761:2022がISO/IEC 23761:2021に対応する規格として8月22日に制定されました。

JIS X 23761:2022は、 上のJSAサイトで購入できるほか、閲覧のみであれば、日本産業標準調査会(JISC)で可能です(なぜ日本規格協会のHPでは部分的にしか見られないのか・・)。

JIS X 23761は、2017年に策定されたIDPFのEPUB Accessibility 1.0 に由来しています。このEPUB Accessibility 1.0がベースとなり、国際規格としてISO/IEC 23761:2021が制定され、それが今回JIS化されたという経緯があります。このEPUB Accessibility 1.0が、

このEPUBが誰にとってアクセシブルなのか(誰にとってアクセシブルではないのか)をメタデータとして情報を提供して、ユーザーが実際に利用する前にはっきりわかるようにせよ

というスタンスをとり、アクセシビリティメタデータの提供、特にアクセスモードの提供を必須としたことは、当時から深く同意できることだったので、機会があれば触れて紹介していました。そのEPUB Accessibilityが今回、JIS化まで至ったことは感慨深いです。

他でもすでに紹介もされていますが、JIS X 23761の主な内容は以下のとおりです。

  1. だれにとってアクセシブルなのか、そして、どのようなアクセシビリティの機能を有するのかをメタデータとして提供することを必須とすること。
  2. EPUB出版物がアクセシブルであることの要件
    • ページナビゲーション、メディアオーバーレイズなどのEPUB特有の部分について、要件を制定。それ以外のウェブコンテンツに共通する大部分はWCAG2.0(JIS X 8341-3) に則るとしている(WCAG 2.0レベルA(JIS X 8341-3)が必須、WCAG 2.0レベルAA(JIS X 8341-3)が推奨) 
  3. 規格本体には含まれないが、附属書として、日本語固有の事情(ルビ、わかち書き、読み上げの問題)が整理されている。

対応するISO/IEC 23761:2021に同等性において、一致する(identical)規格であるため、JIS X 23761に対応することで、ISO/IEC 23761:2021にも対応することにもなります。

JIS X 23761本体は抽象的な要件制定にとどめていますので、具体的な実装方法は関連文書に位置付けられているW3Cの達成方法集”EPUB Accessibility Techniques”を参照する必要があります。

ISO規格が元になっているため、JISはISO制定当時のTechniques 1.0を参照するように促していますが、附属書で若干言及もされているTechniques 1.1を参照する方が今となってはよいかもしれません。

今後の課題は、いよいよJIS X 23761の普及です。以下、私見ですが・・

JIS X 23761は、EPUB Accessibility Techniquesを参照する必要がある上、アクセシビリティの大部分をWCAG 2.0に委ねているため、WCAG 2.0とその関連文書も参照する必要もあり、参照しなければならない文書が多岐にわたります。例えば、WACGのレベルAへの準拠が必須ということから、画像に対して代替テキストの提供が求められるということを理解する必要があります。制作されるEPUBのほとんどが内製ではなく、外注によって制作されていると思いますが、(おそらくWeb技術などにあまり精通していない方が多いであろう)外注する側の出版社の担当者が、どのように仕様にかいて制作会社に発注すれば、JIS X 23761に対応したEPUBができるのかは、整理が必要かもしれません。

JIS X 23761は、EPUBというコンテンツを対象とした規格ですが、出版社がこの仕様に則ってEPUBというコンテンツをよりアクセシブルするだけは十分ではありません。JIS X 23761の「9. 配信」でも言及されていますが、そのEPUBとユーザーの間を繋ぐ書店が、アクセシビリティメタデータに対応し、ユーザーが自分にとって使い易いコンテンツを容易に発見できるようしていくこと、そして、支援技術を阻害しない形でデジタル著作権管理を適用させるなどの注意が払われることで、初めてJIS X 23761が活かせるのだと思います。

課題をいくつか書いてしまいましたが、JISの制定まで至ったからこそ、次の課題に臨めるようになりました。大きな一歩前進だと思います(お疲れ様でした!)。今後のJIS X 23761の普及でアクセシブルな読書環境が大きく拡大することを祈ります。

関連エントリ

EPUB accessibilityがISO/IEC 23761として公開

EPUB accessibilityがISO/IEC 23761として、2月(5日?)に公開されました。

W3CのEPUB accessibility1.0がIS化されたものですが、Schema.org等の外部仕様への参照が関連文書(EPUB Accessibility Techniques)を参照させる形の間接的なものに変わるなど少し体裁と(内容も?)は変わっているようです。W3Cで検討しているEPUB accessibility1.1の方が近いかもしれません(まだ細部の確認はしていないが)。
日本規格協会 のページに掲載されていますが、日本が国際規格提案を行っています。

規格概要
EPUB電子書籍がどこまでアクセシブルかを明示する。読者は、自分に読めるものを電子書店で選べるようになる。
紹介文
日本でも読書バリアフリー法が2019年に制定されているように、アクセシブルな電子書籍(印刷物だと判読できない人にも読めるもの)が求められている。この規格はデイジーコンソーシアムが中心となって原案を作成し、日本が国際規格提案を行った。

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