先のエントリで、以下の3つについて図書館がガイドラインを作成して要件を提示してはどうかという話をしました。
- (出版社と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える「アクセシブルな電子書籍」とは何か(コンテンツ作成ガイドライン)
- (ビューワー開発者と電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな閲覧環境」とは何か(ビューワーのガイドライン)
- (電子書籍プラットフォームに対して)図書館が考える電子書籍の「アクセシブルな提供方法」とは何か(コンテンツ提供ガイドライン)
それぞれについてどのようなガイドラインを作成するべきなのか、参考になる先行的なものを含めてまとめてみました。
1.「アクセシブルな電子書籍」を示すコンテンツ作成ガイドライン
EPUBのようなHTMLやCSS等のWeb標準技術をベースとした形式は、ウェブアクセシビリティのガイドラインとして知られるW3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0( = JIS X8341-3:2010 = ISO/IEC 40500:2012)が対象とする「ウェブコンテンツ(Web技術によって作成されたコンテンツ)」に該当します。
ウェブコンテンツとは、ウェブブラウザ、支援技術などのユーザーエージェントによって利用者に伝達されるあらゆる情報及び感覚的な体験を指し、例えば、ウェブアプリケーション、ウェブシステム、携帯端末などを用いて利用されるコンテンツ、インターネット、イントラネット、CD-ROMなどの記録媒体を介して配布されるウェブコンテンツ技術を用いて制作された電子文書、ウェブブラウザを用いて操作する機器などに適用する。
from JIS X8341-3:2010「1.適用範囲」
参考: ウェブアクセシビリティガイドラインWCAG 2.0とJIS X8341-3:2010に関する整理
EPUBの場合は、JIS化もISO化もしているWACG2.0に則って製作していけばよいはず、というよりは、本来的には(特に公的機関などは)しなければならないはずです。しかし、WACG及びJIS 8341-3:2010の双方が参照すべきとする具体的な実装方法を説明した「WCAG 2.0 実装方法集」には、まだアクセシブルなEPUBの製作方法が掲載されていません(アクセシブルなPDFの作成方法はすでに掲載されている)。WACGの関連文書において、実装方法が具体的に示されない現時点では、WCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)に則って作成せよと言われてもまだ難しいかもしれません。将来的には、「WCAG2.0 実装方法集」にEPUBの実装方法も掲載され、官公庁などが刊行物のEPUB版制作を外注する時にその仕様書に「JIS 8341-3:2010の達成等級AAを準拠すること」等々の一文を追加するだけで済むようになれば理想的ですが、少なくとも今はまだ存在しないため、電子書籍向けにブレークダウンしたものが必要です。
EPUBについては、IDPFがアクセシビリティガイドラインを公開しています。EPUBについてもっともまとまったものだと思います。
しかし、上のIDFPのガイドラインは各要件が平たく説明され、優先順位が示されている訳ではありません。優先順位はWCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)の達成等級が参考になりますが、米国の出版団体 Association of American Publishers (AAP) が上のガイドラインの中で優先順位の高い要件13を挙げていますので、これも参考になると思います。
2. 電子書籍の「アクセシブルな閲覧環境」を示すビューワーのガイドライン
閲覧環境についても、W3CのUser Agent Accessibility Guidelines(UAAG)2.0があります。これは上のコンテンツ作成ガイドラインであるWACG 2.0と対になっているようなもので、Web技術を用いて製作される電子書籍の閲覧環境も対象に対象になります。JIS規格どころかまだW3C勧告にもなっていませんが、参考になる部分が大きいはずです。
米国の出版団体 Association of American Publishers (AAP) もEPUB 3 リーディングシステムに優先的に実装してもらいたい10の機能を公開しています。
そして、DAISYコンソーシアムが電子書籍リーディングシステムのアクセシビリティを評価するためのチェックリストを公開しています。これについては、手前味噌ながら、私が翻訳して公開しています。
最後に、これは本当に手前味噌ですが、EPUBの閲覧環境については、私も私案として要件をまとめてみたことがあります。これを、EPUBに限定しないように抽象化しつつ、優先順位の高い要件を3段階くらいでランク付けすれば、それなりにそれなりかも。
3. 「アクセシブルな提供方法」を示すコンテンツ提供ガイドライン
これについては、参照するべきガイドラインは特に思いつきませんが、少なくとも以下の5点はポイントになるはずです。
- 上の1と2のガイドラインを準拠すること
- DRMが上の1と2のガイドラインの準拠を妨げないこと
- アクセシビリティメタデータの提供(参考:メタデータを電子書籍のアクセシビリティの議論の俎上にそろそろのせませんか)
- 電子書籍プラットフォームのウェブサイトのウェブアクセシビリティをWCAG2.0( = JIS X8341-3:2010)に準拠する形で担保すること
- ユーザービリティ(コンテンツ入手までの手順をなるべく少なくするなど)