Accessible EPUB Reading System – DAISYユーザーのためにEPUB 3リーディングシステムが求められること

 DAISYユーザーがDAISY的にEPUBを利用するためにはコンテンツであるEPUBファイルがアクセシブルである必要がありますが、そのアクセシビリティ機能を受け止めるビューワーも必要です。これまでのエントリで、DAISYリーダーのEPUB対応やDAISYから生成したEPUBを確認してきました。確認していく中でDAISYユーザーのためにEPUB 3リーディングシステムの要件がある程度まとまってきましたので、以下にまとめてみました。と言いましても、私のDAISY利用に対する理解が浅いため、知る人が読めば正直いろいろと過不足あろうかと思います(おそらくEPUBも・・・)。お気づきの点はご指摘いただけると幸いです。
 なお、インプットとして、W3CのUser Agent Accessibility Guidelines (UAAG) 2.0を参考にしました。まずはきちんと要件が整理されたW3CのUAAGを参照いただいた上で、以下をご覧いただければと思います。
 

1.テキストと色の設定

1.1. テキストの設定を変更できる

 フォント、フォントのサイズ、行間などを設定できる。

1.2. 色の設定を変更ができる

 テキストの色や背景色など色とコントラストを設定することできる。
 

2. 操作可能であること

2.1. 全ての機能をキーボードで操作できる

 リーディングシステムが持つ全ての機能をキーボードで操作できる。

2.2 文書の構造を活用した様々なレベルのフォーカスの移動ができる

 センテンス、パラグラフ、セクション、節、章などコンテンツ文書の構造を活用した様々なレベルのフォーカスの移動ができる。また、図、テーブル、註などユーザーにとって不要な箇所はフォーカスをスキップできる。音声合成によるテキスト読み上げ(TTS)、収録済み音声による読み上げ(Media Overlaysなど)の再生のフォーカスについても同様である。
 

3. ナビゲーション

3.1. 目次

 epub:type=”toc”で提供される目次だけではなく、Page Listランドマークなど様々なナビゲーションに対応している。

3.2. メタデータ

 メタデータはユーザーがコンテンツを開かなくても内容を識別する重要なナビゲーションである。タイトルだけではなく、著者、出版社、出版年などEPUBが持つメタデータをユーザーにコンテンツの選択するための情報としてユーザーは利用できる。また、拡張したメタデータの語彙にも対応している。

3.3. コンテンツ文書の構造を理解できる

 見出し、セクション、テープルなどコンテンツ文書の構造を理解し、ユーザーに伝えることができる。また、埋め込まれたセマンティクス(epub:type属性)も理解し、ユーザーに伝えることができる。

3.4. テキスト検索

 目次、本文などのテキストを全文検索できる。
 
 

4. 音声合成によるテキスト読み上げ(TTS:Text-To-Speech)

 音声合成によるテキスト読み上げ(TTS:Text-To-Speech)ができる。日本語ユーザーを対象とする場合は、日本語TTSエンジンと英語TTSエンジンを搭載している。

4.1. 非テキストコンテンツの代替テキストへのアクセス

非テキストコンテンツに提供される代替テキストにアクセスし読み上げることができる。

4.2. 読み情報へのアクセス

 PLSSSML、ruby要素にアクセスし、読み情報を取得できる。

4.3 読み上げ箇所を明示できる

 ハイライト表示などの方法で読み上げられている箇所を明示できる。

4.4. 言語情報の取得

 コンテンツ文書に埋め込まれた言語情報を取得して、適切な言語で読み上げることができる。

4.5. CSS 3 Speech

  CSS 3 Speechに対応している。

4.4. 読み上げの制御

  ボリューム、速度、間、ピッチ、ピッチレンジなど読み上げ音声を細かく制御することができる。
 

5. Media Overlays

 収録済みの音声の再生とテキストを同期させるMedia Overlaysに対応している。

5.1. 読み上げ箇所を明示できる

 ハイライト表示などの方法で読み上げられている箇所を明示できる。

5.2. 読み上げの制御

  ボリューム、速度、間、ピッチ、ピッチレンジなど収録済みの読み上げ音声の再生を細かく制御することができる。
 
 

参考

関連エントリ

EPUB 3とDAISY 4の関係
DAISYからEPUB 3に変換する
DAISY再生ソフト・機器のEPUB対応

"Accessible Publishing : Best Practice Guidelines for Publishers" ver.4.0

 EDItEURより”Accessible Publishing Best Practice Guidelines for Publishers”のver.4.0が2013年6月4日に公開されています。このガイドラインは World Intellectual Property Organization (WIPO)の出資によるEnabling Technologies Frameworkプロジェクトのジョイントプロジェクトとして作成されたものです。
  HTML版の他にEPUB版、Word版が公開されています。

 2011年4月に公開されたver.1.0版の日本語訳を日本障害者リハビリテーション協会情報センターが公開しています。

 ver.1.0からver4.0まではマイナーアップデートとのこと。Ver.1.0tと比較してver.4.0では、仕様が確定したEPUB 3に関する記述が増えているようです。

必ずしも全てのEPUB 3が「DAISY」ではない

 支援技術開発機構の濱田麻邑さんがカレントアウェアネスに以下のような記事を投稿しています。EPUB 3とDAISY-AI(DAISY 4)の関係やEPUB 3のもつアクセシビリティ機能について簡潔に説明されていますので必読です。

 EPUBがアクセシビリィな機能を持つフォーマットであることに加え、DAISY-AI(DAISY 4)の配布フォーマットであることも知られるようになりました。しかし、一方で上の記事で濱田さんが以下のようなご指摘をされているように、EPUBで作ったからと言って必ずしもそのコンテンツがアクセシブルなわけではありません。
 

このように多様なアクセシビリティ機能がある一方で、EPUB3に準拠していてもアクセシブルでない電子出版物も製作できてしまうといった課題もある。

 
 EPUB 3というフォーマットは、DAISYが備えるアクセシブルな機能を包含していますので、EPUBでDAISY並のアクセシブルなコンテンツを作ることは可能です。しかし、可能であるというだけでして、EPUB 3で作れば、みんな「DAISY」だ、もしくはDAISY並にアクセシブルであるというわけではありません。「DAISYとEPUBの統合」という部分が強調されすぎて、EPUB 3で作りさえすれば、DAISYと同じアクセシビリティを備えたことになると思われる傾向があるように感じられ、ちょっと心配もしています。
 ウェブサイトがW3CのHTMLの仕様に準拠して作成されたからといって必ずもアクセシブルではないように、EPUBがアクセシブルであるかどうは、作り手がアクセシビリティにどの程度配慮するかに左右されます。EPUBはすでに数多く作成されていますが、アクセシビリティの観点からみればおそらく玉石混合といった状態ではないでしょうか。
epub
 
 EPUBはあくまでアクセシブルなコンテンツをいれることができる器です。しかし、その器に入れるコンテンツをアクセシブルにするのは実際にコンテンツを作る人です。
 EPUBをよりアクセシブルにするためのガイドラインがIDPFから公開されています。このガイドラインを参照して少しでもアクセイブルなEPUBが作られることが望まれます。

どこまで頑張ればDAISY並のアクセシビリティと言えるかという明確な線引きは難しいですが、テキストDAISYから生成されたEPUBでも以下は備えているはずです。
  

  • TTSに対する配慮(読み情報の提供や適切な順序で読み上げられるようコンテンツを作成するなど)
  • 様々なレベルでのナビゲーション(目次、コンテンツの構造化、コンテンツ文書へのセマンティクス、原資料のページ数情報など)
  • 読者の選択肢を制限しない(色、フォントサイズ、レイアウトなどを固定しない)

「コンテンツ文書へのセマンティクスの付与」については以下をご覧ください。

正直、BORN EPUBでは、コンテンツ文書へのセマンティクスの付与が一番抜け落ちそうな気がします。
 

関連エントリ

EPUB 3とDAISY 4の関係
DAISYからEPUB 3に変換する
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