8月 06

アクセシビリティの観点からWebブラウザで標準で取り入れて欲しいUI

6年ほど前に以下のエントリで電子書籍のUIでWebブラウザのUIをまねて欲しいところを書いたことがありますが(6年前かぁ・・・)、今回は逆の話で、WebブラウザのUIで電子書籍のUI(機能というべきかもしれない)を取り入れて欲しいという話。

 ウェブサイトに自治体や公的機関のサイトで、文字の拡大縮小や白黒反転機能などを備えているものものあります。これの要否については、OSやブラウザの標準の機能で備えているので、それを阻害しないようなウェブサイト作りをするべきで、まずはそれにリソースを割くべきという考えがおそらく主流なのだと思います。私も基本的にはこれに同意しますが、一方で、OSやウェブブラウザの機能がどこまで使いやすいかということもやや疑問がなくはありません。

 例えば、OSで白黒反転表示することは可能ですが、これはPC上で行う全ての作業が白黒反転されてしまうので、これに切り替えて使うには、かなりの覚悟がいるというか、白黒反転でなければもう使えないという方に限られてしまうのではないかと思ったりする。

 私も子どもが寝かしつけで抱っこしている際は、部屋を真っ暗にして、iPhoneで電子書籍などを読んでいたこともありましたが(片手で指挟んででも読めるし、暗いところでも読めるので重宝した→当時のエントリ)、そういう場合は、普通の画面ではまぶしすぎるので、白黒反転表示で環境によって読んでいましたが、環境によって、表示を切り替えたいというニーズもあるのではないか。
 
 いわゆる「健常者」と、いわゆる「障害者」の間にはとても大きな層があって、例えば、高齢者の方などはだんだんWebブラウザが使いづらくなっていくことに気がつかないまま、使わなくなるか、遠ざかってしまうという人もいるのではないか。

 Webブラウザで文字の拡大縮小はだいたいついていますし、ボタンで変更できるUIを備えたブラウザもある。しかし、それ以外は、ユーザー側で表示を切り替えるのはかなりハードルが高い。ウェブサイトごとに表示を切り替えたい気もするし、環境に応じて切り替えたい。

 電子書籍だと、文字拡大や、フォント変更、行間変更、配色変更などはほぼ標準的についていますが、Webブラウザでもそういう機能とそれを気軽に使えるUIを備えてもらえないかなと思ったりする。拡張機能で追加できるかもしれないけど、標準で備えてもらってこそ多くの人の手の届くと思うので。

8月 03

アクセシビリティの観点から電子書籍のおけるTTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきか

 総務省から電子書籍のアクセシビリティを確保するための調査研究の報告書が出たこともあって、また、それに関係しての前後の動きだと思いますが、電子書籍のアクセシビリティに関係するイベントが最近、開催されることもあって、タイトルにあるようにアクセシビリティの観点から電子書籍のおけるTTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきかという議論が起きています。

 端的にいって、SSMLなどを用いてTTSによる読み上げの正確性を保障することについては、賛否両論、というより、Web関係者の間では、批判的な意見が多いような印象がありますが、私の考えをまとめておこうかと思います。知識不足からくる思い込みもあるかと思いますので、ご容赦を。

 結論から言えば、TTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきかは求められるニーズと負担できるコストによる、つまり、コンテンツ次第なので一律に全部保障すべきであるとか、TTSに任せておけばよいとも言えない、というのが正直なところです。誤読があっても許容できる(それよりもむしろ早く提供してほしいというニーズがつよい)ものもあるでしょうが、一方で、教科書や辞書、児童向けの書籍(ルビなどが多くふられている書籍などはイメージしやすいでしょうか)などのように、正確な読み上げが求められるものが確かにあります。

 ですので、コンテンツの性質と目的、正確性を求められるニーズ、負担できるコストに応じての水準で、正確性を保障していければよいのだろうと考えています。問題は、現在の状況は、この「応じての」対応ができないことです。
 
 現時点では、SSML(ヨミ情報等をTTSに渡すマークアップ言語)やPLS(ヨミ情報の辞書)に対応したEPUBの閲覧環境や制作環境がないため、TTSでは、読み上げの正確性のニーズに対して、現状では対応できません。そのため、肉声等によって正確に読み上げられた音声ファイルを作成する(つまり、録音図書かマルチメディアDAISYとして作成する)しか方法がありません。
 
 つまり、誤読も許容してTTSの辞書任せで読み上げさせるか、マルチメディアDAISY化(つまり、肉声等による読み上げで完全に正確な読み上げを保障するもの)か、のどちらかしか選択肢がしかなく、その中間がありません。たとえば、基本的に誤読は許容するけど、専門用語や人名、地名などの誤読はなくしたいとか、ルビが振られている箇所だけは誤読をなくしたいという中間的なニーズにあった対応方法がなく、そのゼロか百かのいずかの選択をせざるを得ない状態です(正確にはルビを読み上げさせるとか、部分的なマルチメディアDAISY化というのも考えられなくはないですが)。

 また、EPUBリーディングシステムのMedia Overlaysへの対応が進んでいるとはまだまだ言えない状況であるため、上の後者(音声化)の選択も実質的にはとりづらく、アクセシビリティの観点からみれば、EPUBは誤読を許容するコンテンツしか入る余地がない状況です。

 また、別の問題として、TTSが読み上げない文字の存在があります(基本的にSHift-JISでサポートしていない文字に多いと考えればよいみたい)。

図 3 TTS ソフトの読み上げ可能な領域と読み上げ不可の領域。音声合成システム(TTS)が読める範囲は、JIS X 0208:1997の範囲、つまり、第2水準までの6879文字であり、JIS X 0213:2004に含まれている文字で第3水準以降の4354文字はTTSでの読み上げに対応してないことが示されている
日本語の文字は JIS 第 1 水準、第 2 水準を規定した JIS X 0208:1997 と、第 3 水準、第 4 水準を規定した JIS X 0213:2004、そしてこれらに含まれない外字などが存在する。TTS ソフトで読み上げ可能な文字は現状では JIS X 0208:1997 の範囲にとどまっており、JIS 化されている文字のほぼ半分が読み上げ対象外となっている。
from 「(PDF)音声読み上げによるアクセシビリティに対応した電子書籍制作ガイドライン」p11より

 TTSは、これらの文字の存在そのものは、認識はするものの、まったく読み上げません。誤読でも読み上げてくれれば、全盲者でもその存在を認識できますが、読み上げない文字を全く認識することができません。こういう文字はSSMLなどで読みを入れて読み上げられるようにするしか方法はないのではと思います。

 全文にSSMLを入れるというのは、おそらくは当面、かなりの高コストなのでしょうが、部分的にここだけは読み上げを保障したいというところにSSMLを使うとか。制作環境でルビタグを入れる箇所には、自動的にSSMLも入れる機能を実装する(略ルビとかいろいろあるので、修正は必要でしょうか。)ことで、ルビがふられた箇所の読み上げの正確性を保障するとか(児童書など出版社が子どもに対する配慮でルビが必要だと判断した箇所に結果として読み上げが保障されることになる)とかできないだろうかと考えるわけです。
 
 EPUB 3では、SSMLに加えて、PLSという形式で全体にわたる読み情報の指定を辞書という形で持たることができます。本文中に何度も出てくる固有名詞や地名、索引に掲載される用語についてPLS辞書を持たせるだけでもかなり誤読を減らすことができるはずです。EPUB3の仕様では、TTSが読み上げる優先順位は、

SSML>PLS>TTSの辞書

となっています。全文にSSMLを埋め込む方法がもっとも読み上げの正確性を保障できますが、仕様通りに実装されているならば、全体にわたる読み情報の指定は、PLS辞書で、それ以外の例外的な読み方法の提供はSSMLで指定するだけでもかなりの正確性を担保できるのではないかと思います。地名などは、PLS辞書を使い回せないのかとも思ったりしますが、これはどうなのでしょうか。

 上に紹介した総務省の報告書には、ウェブアクセシビリティガイドラインで知られるW3CのWCAG2.0に倣って、読み上げ対応について、達成度を3段段階にわけて要件を提示しています。
 個々の要件やそれぞのレベルについては、議論のあるところかもしれませんが、私は全体的な傾向は概ね同意できます。

  • まずは、出版される全ての出版物でレベル1を目指す。
  • その中からコンテンツの性質、ニーズに応じてレベル2や3を目指す(今は、それを実現できる実装が制作環境にも節欄環境にもないので、まずはそれの実現が必要ですが)。
  • そして、場合によっては図書館等が視覚障害者等の利用者のリクエストを受ける形で、著作権法第37条第3項に基づいてアクセシビリティ機能を追加して、レベルを引き上げる(著作権法第37条第3項でアクセシビリティの追加をどこまでできるかは議論のあるところですが)

というは、考えとしてありではないかと思いました。

表 1-1 音声読み上げによる電子書籍アクセシビリティの実現レベル(案)

レベル 電子書籍コンテンツ リーダー
0 ・音声読み上げを行えるようなテキストデータを持たない場合。 ・OS が提供するアクセシビリティ支援機能を利用することができない場合。
・又は、電子書籍専用端末が、アクセシビリティ支援機能を持たない場合。
1 ・音声読み上げに対応できるよう、テキストデータを持っていること(紙面が画像で構成されている固定レイアウト型の場合は、マルチレンディション1により、画像とは別にテキストデータを持つ)。
・かつ、最低限の構造化がなされていること。
・電子書籍コンテンツに含まれるテキストデータを、OS が提供するアクセシビリティ支援機能に渡せること、またはリーダーがテキストデータを読み上げできること。
・また、電子書籍の構造に従い、最低限のナビゲーション機能が利用できること。
2 ・テキストを正しく読み上げできるよう、誤読しやすい部分や音声化しないと内容伝達に支障がある画像等(例えば外字)に対して、正しい読み方の情報を持っていること。
・かつ、章や節などが正しく構造化されていること。
・電子書籍コンテンツに含まれるテキストデータを、OS が提供するアクセシビリティ支援機能に加え、TTS ソフト等のアクセシビリティ支援ツール等に出力できること。
・又は、レベル 2 以上の電子書籍コンテンツが持つ読み方の情報をテキストデータとともに出力できること。
・上記に加え、電子書籍コンテンツの構造に従い、目次と本文の間の移動、飛ばし読みなど適切なナビゲーション機能が提供されていること。
3 ・レベル 2 に加え、電子書籍のテキスト及び音声化しないと内容伝達に支障がある画像等(例えば外字)のすべてに対して、正しい読み方の情報もしくは正しく読み上げられた音声データファイル(audio データ)を持っていること(肉声、TTS は問わない)。
・また、発話する言語種別に関する情報、発話音声の種別(性別、声質等)に関する情報を持っていること。
・レベル 2 に加え、レベル 2 以上の電子書籍コンテンツが持つ、読み方その他発話に関する情報に基づき、その指示とおりに正しく読み上げできること。
・その際に、読み上げスピードの変更等、利用者に適した読み上げを行えるように調整を行えること。
・また音声データファイルを持つ電子書籍の audio データを再生することができ、メディアオーバーレイ(mediaoverlays)の機能が再生可能なこと。

(PDF)電子書籍のアクセシビリティを確保するための調査研究報告書』3ページ(PDFのページでは8/84ページ)より

 話は少し逸れて、最後に申し上げておくと、電子書籍のアクセシビリティという話になると、議論が読み上げ対応が集中しすぎてしまっている印象があります。アクセシビリティが求められるのは、読み上げソフト利用者に限定されないので、アクセシビリティメタデータやリーディングシステムの実装(どのような支援機能が必要か 文字サイズ変更、行間変更、配色変更、縦書き・横書き変更 etc.)などなど、スコープを拡げて要件を整理していく必要があると思います。

7月 31

EPUB3で製作された録音図書にも対応したDAISY再生機器PTR3

発売が予定されているDAISY再生機器プレクストークPTR3がEPUB3にも対応しています。これが、EPUB3のMedia Overlaysに対応しており、EPUB3で製作された録音図書(本文部分が音声のみ)に対応しているようです(おそらくは、すでに発売されているプレクストーク PTN3も)。

 以下のエントリを書いたのが2013年6月だから、EPUB3で録音図書を製作できることを私が知ったのもそのあたり。

そのことを知ってから、EPUB3で録音図書が再生できる環境が整備されれば、

  • 特定の機器や再生環境に依存せず、メインストリームなEPUBの環境で録音図書が再生できるようになる(それは、たくさんあるEPUBの閲覧環境を選択できることを意味し、自分にあった閲覧環境を選ぶことができる選択肢ができる
  • 商用のオーディオブックがEPUB3で販売されるようになれば、それはいわゆるDAISY録音図書、あるいはその近似値。図書館や点字図書館が著作権法の権利制限規定で製作するのを待つまでもなく、ユーザーが購入することができるようになる<(商用コンテンツと、図書館製作コンテンツのフォーマット上の境目が曖昧になる)/li>

 ということが実現されるのではないかとわくわくしていました。EPUB3録音図書の閲覧環境が整備されることを今か今かと待ちわびていましたが、その一歩がついに現実に。
 

7月 27

厚生労働省「平成24年度児童養護施設入所児童等調査」より

 厚生労働省は、児童福祉法に基づいて、5年おきに児童養護施設に入所している児童など、社会的に養護されている児童の実態調査を実施しています。最新の調査は平成25年2月1日現在のものです。

 
 上の調査結果を見ていただければよく、また、この調査を一部分だけを取り出して紹介するのも若干はばかられるのですが、社会的に養護されている児童で「障害等あり」の割合も「表6 心身の状況別児童数」としてまとめられています。障害のある児童が多いとは伺っていたのですが、正直に申し上げて、思った以上に多い、というのが、この表を見た最初の感想でした。この調査では、養護されることになった理由や虐待の有無などと養護される経緯や養護前の状況もまとめられていますが、これらと関連して考えてしまいます。

6 児童の心身の状況(里親委託児、養護施設児、情緒障害児、自立施設児、乳児院児、母子施設児、ファミリーホーム児、援助ホーム児)

児童の心身の状況については、里親委託児、養護施設児、情緒障害児、自立施設児、乳児院児及び母子施設児において「障害等あり」の割合が、それぞれ 20.6%(前回 18.0%)、28.5%(前回 23.4%)、72.9%(前回 70.7%)、46.7%(前回 35.4%)、28.2%(前回 32.3%)、17.6%(前回 16.3%)となっており、乳児院児を除き前回調査より増えている。また、ファミリーホーム児及び援助ホーム児の「障害等あり」の割合は、それぞれ 37.9%、37.0%となっている。
「表6 心身の状況別児童数」の表。厚生労働省が公開している同じ表のエクセルファイルへリンクをこの後に掲載しています。

参考 「表6 心身の状況別児童数」のエクセル版

 上の表6というよりも、この調査報告全体を読んで児童の読書環境はどうなっているのだろうかという関心から、児童擁護施設等に対して図書館が実施しているサービス等を探してみたところ、大阪府立中央図書館がおはなし会や読み聞かせを行っている例が見つかった。他の例はまだ見つかっていませんが、どのような例があるでしょうか。

7月 12

EUがマラケシュ条約に批准にむけた法整備をほぼ終える

 欧州議会は以下の規則(REGULATION)と指令(DIRECTIVE)を2017年7月6日に採択して、EUとしては、必要な法整備はほぼ終えたらしい。あとは、指令(DIRECTIVE)に基づいて加盟国が国内法の法整備をしていくことになる (期限はEU官報掲載後から12ヶ月以内)。
 マラケシュ条約については、批准の主体が各加盟国ではなく、EUであるということが、欧州裁判所の判決ででている(参考 :IP Watch記事)ので、EUが批准すればEU加盟国はすべてマラケシュ条約の加盟国になる。EUの批准の時期は、加盟国の国内法の整備後でしょうか(そうなると1年後)。
 
 EUのマラケシュ条約批准に向けた動きそのものは各方面で歓迎されていますが、権利者に補償金を支払うスキームにしてしまったようで、それについては、当事者団体やIFLAなどから懸念が示されているというか、反発されているらしい(例えば、欧州盲人連合の声明[PDF]など)。

規則(REGULATION)
Texts adopted – Thursday, 6 July 2017 – Cross-border exchange between the Union and third countries of accessible format copies of certain works and other protected subject-matter for the benefit of persons who are blind, visually impaired or otherwise print disabled ***I – P8_TA-PROV(2017)0313

指令(DIRECTIVE)
Texts adopted – Thursday, 6 July 2017 – Permitted uses of certain works and other protected subject-matter for the benefit of persons who are blind, visually impaired or otherwise print disabled ***I – P8_TA-PROV(2017)0312

 以下は上についての欧州議会のプレスリリースとIFLAブログ、IP Watchの記事。

 EUの規則と指令については以下などを参照。

6月 14

EPUB Accessibility 1.0 概要

 EPUB3.1の仕様と同時に公開されたEPUBのアクセシビリティの仕様 EPUB Accessibility 1.0 について概要をまとめてみました。

仕様及び関連文書

  EPUBのアクセシビリティの仕様は、EPUB Accessibility 1.0 。これは規格として策定されたものなので、長期的な使用に耐えうるように、その時々の技術には依存しない形で書かれているため、要件も抽象的な記述になっている。具体的な実装方法は、関連文書であるEPUB Accessibility Techniquesに参照することになる。これは、WCAGとWCAGの関連文書である”Techniques(実装方法集)”と同じ関係。EPUB Accessibility Techniques に似た立ち位置の文書として 古くからあるEPUB 3 Accessibility Guidelines が存在するが、Techniques のさらなる追加の説明文書的な立ち位置として整理されているらしい。
  

 また、EPUBもウェブ技術を使用しているので、アクセシビリティの要件をのかなりの部分をWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0 に拠っているので、これも参照する必要がある。

EPUB Accessibility 1.0が対象とするEPUBのバージョンの範囲

 EPUB3.1と同じタイミングで公開されたものだが、EPUBの特定のバージョンを対象とするものではなく、古いバージョン又は将来のバージョンも含む全てのEPUBのバージョンを対象とする。

EPUB Accessibility 1.0のポイント

 個人的にポイントと感じたところは以下。

  • アクセシビリティメタデータは必須。超重要。この仕様で最低限満たすべきとしているラインがアクセシビリティメタデータを提供すること。
  • WCAG2.0のレベルAが必須要件。レベルAAは推奨。なので、非テキストコンテンツに対する代替テキストは必須
  • 音声(非テキストコンテンツ)が主たるコンテンツである録音図書は、WCAG2.0の要件を満たすものではない(代替テキストがないから)。しかし、不可ではない。特定の利用者に最適化されたものであり、だからこそ、それとわかるアクセシビリティメタデータを提供することが重要
  • ページ数のある紙版等のバージョンがある場合は、ページ番号は提供すべきとしている
  • TTSによる読み上げの支援(SSML、PLS)に関する規定はなし
  • DRMは否定していないが、支援技術によるアクセスを阻害する制限は不可
  • 補論という形で閲覧ソフトと配信システムの要件も規定されている

 印象としては、この仕様はそれほど高いハードルを設けていない。アクセシビリティメタデータを提供すれば、EPUB Accessibility 1.0の必須要件に準拠したと言えるものは多いのではないか。DRMだな。DRMかなぁ…

概要

 EPUB Accessibility 1.0は、要件の適合によって以下のとおり、発見可能なEPUB出版物、アクセシブルなEPUB出版物、最適化されたEPUB出版物の3つに整理されている。

発見のメタデータ要件 アクセシビリティの要件 最適化(規格またはガイドライン識別)の要件
発見可能なEPUB出版物 適合  
アクセシブルなEPUB出版物

適合 適合  
最適化されたEPUB出版物

適合   適合

 

発見のためのメタデータ要件

 EPUB 3 Publication(OPFファイル)に格納されるメタデータにschema.orgのアクセシビリティメタデータ以下のように包含することを求めている。詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

必須(must)

推奨(recommended)

任意(optional)

アクセシビリティの要件

 以下のとおり。

○WCAGとの適合性

 
 WCAGレベルAが必須(must)、WCAGレベルAAが推奨(recommended)となっている
 WCAGが求める要件も幅広いので、ここで全て網羅できないが、レベルAで求められている以下は直接関係がある要件だろうか。画像等の非テキストコンテンツに代替テキストの提供を必須としている点は重要(webだと最近だと提供することが常識になっていますが、電子書籍だとどこまで提供されているか・・・)。

原則 1: 知覚可能 – 情報及びユーザインタフェース コンポーネントは、利用者が知覚できる方法で利用者に提示可能でなければならない。
ガイドライン 1.1 テキストによる代替: すべての非テキストコンテンツには、拡大印刷、点字、音声、シンボル、平易な言葉などの利用者が必要とする形式に変換できるように、テキストによる代替を提供すること。

1.1.1 非テキストコンテンツ: 利用者に提示されるすべての非テキストコンテンツには、同等の目的を果たすテキストによる代替が提供されている。ただし、次の場合は除く: (レベル A)
(中略)

ガイドライン 1.3 適応可能: 情報、及び構造を損なうことなく、様々な方法 (例えば、よりシンプルなレイアウト) で提供できるようにコンテンツを制作すること。
1.3.1 情報及び関係性: 何らかの形で提示されている情報、 構造、及び関係性は、プログラムによる解釈が可能である、又はテキストで提供されている。 (レベル A)
1.3.2 意味のある順序: コンテンツが提示されている順序が意味に影響を及ぼす場合には、正しく読む順序はプログラムによる解釈が可能である。 (レベル A)
1.3.3 感覚的な特徴: コンテンツを理解し操作するための説明は、形、大きさ、視覚的な位置、方向、又は音のような、構成要素が持つ感覚的な特徴だけに依存していない。 (レベル A)

ガイドライン 1.4 判別可能: コンテンツを、利用者にとって見やすく、聞きやすいものにすること。これには、前景と背景を区別することも含む
1.4.1 色の使用: 色が、情報を伝える、動作を示す、反応を促す、又は視覚的な要素を判別するための唯一の視覚的手段になっていない。 (レベル A)
(中略)
1.4.3 コントラスト (最低限) : テキスト及び文字画像の視覚的提示に、少なくとも 4.5:1 のコントラスト比がある。ただし、次の場合は除く: (レベル AA)
(中略)
1.4.4 テキストのサイズ変更: キャプション及び文字画像を除き、テキストは、コンテンツ又は機能を損なうことなく、支援技術なしで 200% までサイズ変更できる。 (レベル AA)
1.4.5 文字画像: 使用している技術で意図した視覚的提示が可能である場合、文字画像ではなくテキストが情報伝達に用いられている。ただし、次に挙げる場合を除く: (レベル AA)
(中略)

原則 2: 操作可能 – ユーザインタフェース コンポーネント及びナビゲーションは操作可能でなければならない。
(中略)
ガイドライン 2.4 ナビゲーション可能: 利用者がナビゲートしたり、コンテンツを探し出したり、現在位置を確認したりすることを手助けする手段を提供すること。
2.4.1 ブロックスキップ: 複数のウェブページ上で繰り返されているコンテンツのブロックをスキップするメカニズムが利用できる。 (レベル A)
2.4.2 ページタイトル: ウェブページには、主題又は目的を説明したタイトルがある。 (レベル A)
2.4.3 フォーカス順序: ウェブページが順を追ってナビゲートできて、そのナビゲーション順が意味又は操作に影響を及ぼす場合、フォーカス可能なコンポーネントは、意味及び操作性を損なわない順序でフォーカスを受け取る。 (レベル A)
2.4.4 リンクの目的 (コンテキスト内) : それぞれのリンクの目的が、リンクのテキスト単独で、又はリンクのテキストとプログラムによる解釈が可能なリンクのコンテキストから判断できる。ただし、リンクの目的がほとんどの利用者にとって曖昧な場合は除く。 (レベル A)
2.4.5 複数の手段: ウェブページ一式の中で、あるウェブページを見つける複数の手段が利用できる。ただし、ウェブページが一連のプロセスの中の1ステップ又は結果である場合は除く。 (レベル AA)
2.4.6 見出し及びラベル: 見出し及びラベルは、主題又は目的を説明している。 (レベル AA)
(中略)

原則 3: 理解可能 – 情報及びユーザインタフェースの操作は理解可能でなければならない。
ガイドライン 3.1 読みやすさ: テキストのコンテンツを読みやすく理解可能にすること。
3.1.1 ページの言語: それぞれのウェブページのデフォルトの自然言語がどの言語であるか、プログラムによる解釈が可能である。 (レベル A)
3.1.2 一部分の言語: コンテンツの一節、又は語句それぞれの自然言語がどの言語であるか、プログラムによる解釈が可能である。ただし、固有名詞、技術用語、言語が不明な語句、及びすぐ前後にあるテキストの言語の一部になっている単語又は語句は除く。 (レベル AA)
(中略)

原則 4: 堅牢 (robust) – コンテンツは、支援技術を含む様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分に堅牢 (robust) でなければならない。
ガイドライン 4.1 互換性: 現在及び将来の、支援技術を含むユーザエージェントとの互換性を最大化すること。

4.1.1 構文解析: マークアップ言語を用いて実装されているコンテンツにおいては、要素には完全な開始タグ及び終了タグがあり、要素は仕様に準じて入れ子になっていて、要素には重複した属性がなく、どの ID も一意的である。ただし、仕様で認められているものを除く。 (レベル A)
4.1.2 名前 (name) ・役割 (role) 及び値 (value) : すべてのユーザインタフェース コンポーネント (フォームを構成する要素、リンク、スクリプトが生成するコンポーネントなど) では、名前 (name) 及び役割 (role) は、プログラムによる解釈が可能である。又、状態、プロパティ、利用者が設定可能な値はプログラムによる設定が可能である。そして、支援技術を含むユーザエージェントが、これらの項目に対する変更通知を利用できる。 (レベル A)

 

<余談 EPUB形式の録音図書>

 少し話はそれるが、EPUB形式の録音図書について。WCAGは、以下のような要件もある。

ガイドライン 1.2 時間依存メディア: 時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること。
1.2.1 音声のみ及び映像のみ (収録済) : 収録済の音声しか含まないメディア及び収録済の映像しか含まないメディアは、次の事項を満たしている。ただし、その音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合は除く: (レベル A)
収録済の音声しか含まない場合:時間依存メディアに対する代替コンテンツによって、収録済の音声しか含まないコンテンツと同等の情報を提供している。
収録済の映像しか含まない場合: 時間依存メディアに対する代替コンテンツ又は音声トラックによって、収録済の映像しか含まないコンテンツと同等の情報を提供している。
1.2.2 キャプション (収録済) : 同期したメディアに含まれているすべての収録済の音声コンテンツに対して、キャプションが提供されている。ただし、その同期したメディアがメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合は除く。 (レベル A)
(中略)
1.2.7 拡張音声解説 (収録済) : 前景音の合間が、音声解説で映像の意味を伝達するのに不十分な場合、同期したメディアに含まれているすべての収録済の映像コンテンツに対して、拡張音声解説が提供されている。 (レベル AAA)

 上の要件については、以下のエントリを参照。

 つまり、音声には聴覚障害等の理由で利用できない人のために代替となるテキストデータを提供するということが求められています。1.2.2などは満たすとまさにEPUB with Media Overlays(マルチメディアDAISY)。音声を主たるコンテンツとするEPUB形式の録音図書(目次データのみがテキスト)は、WCAG レベルAの要件を満たせないということになる。つまり、「アクセシブルなEPUB出版物」である要件は満たせない。

 ただし、EPUB Accessibility 1.0 はEPUB形式の録音図書を否定はしていない。これについては、考え方を以下のように整理している。

  • WCAGは幅広いユーザーを対象とするので、録音図書のように、視角障害者に利用できても聴覚障害者に利用できないコンテンツは、WCAGの要件に適合しないということになる
  • しかし、特定のユーザーに最適化されたEPUB出版物をEPUB Accessibility 1.0はを否定しない。
  • その代わり、発見のメタデータの包含を提供することを重視し、豊富なアクセシビリティメタデータによって必要とする特定のターゲットに的確に発見されることを想定
  • EPUB形式の録音図書は、「概要」に掲載した表で言うところの、「アクセシブルなEPUB出版物」にはなれないが、「発見可能なEPUB出版物」と「最適化されたEPUB出版物」にはなれる

○EPUBのための追加要件

 WCAGだけでは規定できないEPUB独自の要件として、ページナビゲーションとメディアオーバーレイについて、以下のとおり規定している。EPUB独自の要件といえば、TTSのサポートとしてSSMLやPLSなども他にも言及されてもよい要件はいろいろあると思うが、ページナビゲーションとメディアオーバーレイ以外に言及はない。ちなみに関連文書のEPUB Accessibility Techniques 1.0 にもページナビゲーションとメディアオーバーレイ以外の言及はない。EPUB 3 Accessibility Guidelines まで行くといろいろある。

ページナビゲーション

 
 以下の場合は、ページナビゲーションを提供するべき(should)。

  • EPUB版とは別にページ数のあるバージョンの出版物(紙版の出版物等)がある場合
  • 教育等で印刷版とEPUB版の両バージョンを併用することが想定されるとき
メディアオーバーレイ

メディアオーバーレイドキュメント(SMILドキュメント)内にあるる全ての「スキップ可能な構造(skippable structures)」と「回避可能な構造(escapable structures」を識別することを保証する。

※といっても、DAISY3のようにコンテンツに「スキップ可能な構造(skippable structures)」と「回避可能な構造(escapable structures」を設定するのではなく、EPUB3の場合は、メディア オーバーレイ要素の epub:type 属性によって提供されるセマンティクス(ここは、footnoteですよ、figureですよという情報)に基づいて、リーディングシステムがスキップ機能や回避機能を提供することを想定しているので、何をすればよいのだろうか。きちんとepub:type 属性によってセマンティクスを提供するということだろうか。

最適化(規格またはガイドライン識別)の要件

 EPUB Accessibility 1.0 の「最適化(規格またはガイドライン識別)の要件」では、適合している規格、ガイドラインを識別するための情報を dcterms の conformsTo プロパティで提供することが必須(must)とされている。なお、WCAGもその対象になるが、WCAGだけは、「最適化(規格またはガイドライン識別)の要件」ではなく、「アクセシビリティの要件」として整理されている。

 詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

配信(提供)にあたっての要件

デジタル著作権管理(DRM)

EPUB 出版物に適用される場合、製作者は、支援技術によるアクセスを阻害する制限を課してはならない(must not)。

配信業者に提供するメタデータ

  配信業者に提供するメタデータについても、その形式でアクセシビリティメタデータが提供できるならば、(配信業者が求めなくても)アクセシビリティメタデータを提供しなくてはならない(must)。

 これも詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

おまけ

EPUB Accessibility 1.0 はあくまでコンテンツに対する要件をスコープとしているが、補論として配信システムとリーディングシステムの要件も提示している。

配信システムの要件

  • ユーザーインターフェイスは、[WCAG 2.0] レベル AA に適合しなければならない(must)。
  • 利用可能なアクセシビリティ メタデータによって、検索結果を絞り込む機能を提供しなければならない(must)。

リーディングシステムの要件

  • 全ての [A11Y Test Suite] の基本的なアクセシブル リーディング システムのテストを合格しなければならない(must)。
  • User Agent Accessibility Guidelines (UAAG) 2.0レベル AA 適合性の要件を満たすべきである(should)。
3月 12

著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめで示された障害者の情報アクセスに関する著作権法改正の方向性

 いろいろなメディアで報道もされているので、もういまさらという感じですが、2月24日の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)で中間まとめがまとめられ、次の著作権法の改正の方向性が示されています。

 現在、中間まとめはパブコメにかけられています。報道によれば、改正法案が国会に提出されるのが、早ければ今開催されている通常国会でとのこと。果たして間に合うのか(ここに乗るかどうか。→第193回国会での内閣提出法律案一覧 / 内閣法制局)。

 図書館に関係するところがてんこ盛りで全てここで紹介することはできませんので、ここでは、障害者サービスに関係する障害者の情報アクセスに限定して紹介します。中間まとめについては、facebookの次のグループで図書館関係者が詳しく紹介さしていますので、こちらをご参照ください。

経緯

 今回、示された障害者の情報アクセスに関する法改正は、2016年9月に発効したWIPOの「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(マラケシュ条約)」の批准のための法整備の一環でもあります。マラケシュ条約の批准に向けた著作権法の改正については、平成26年度から著作権分科会法制・基本問題小委員会(当初は国際小委委員会)で検討がなされていましたが、平成26年度のまとめ[PDF]の以下にあるとおり、権利者団体と障害者団体の意見の隔たりがあるため、平成27年度以降は、文化庁が間に入る形で権利者団体と障害者団体の間で協議が続けられていました。今回の中間まとめでは、その関係者協議での一定の結論が示されています。

(「平成26年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について」1ページより)
障害者団体からは、マラケシュ条約の締結に必要な手当の他、視覚障害・聴覚障害等に係る多岐にわたる要望が寄せられた一方、権利者団体からは、マラケシュ条約の締結に必要な手当については前向きな反応があったものの、その他の要望事項については、反対若しくは慎重な立場が示され、両者の意見にかなり隔たりがあることが明らかとなった。障害者団体からは、マラケシュ条約の締結のために必要な最低限度の法改正だけを先行するのではなく、障害者の情報アクセスの充実の観点から、その他の要望事項についても併せて所要の措置を講じてほしいとの意向が示されたことから、主査より、まずは両者の意見集約に向けた取組を行った上で、改めて小委員会で検討を行うよう提案がなされた。

 関係者協議の経緯は今回の法制・基本問題小委員会(第6回)の資料として付されている以下でも伺うことができます。

法改正の方向性

 障害者の情報アクセスに関する著作権法改正の方向性については、「第3章 障害者の情報アクセス機会の充実」にまとめられています。改正する方向で示されているものは、主に以下の3点です。

  1. 第37条第3項における受益者の範囲に身体障害などにより読字に支障がある者を含めることを明文化
  2. 第37条第3項により認められる著作物の利用行為に公衆送信(メールによる提供)を追加
  3. 第37条第3項により複製等を行える主体の拡大(ボランティア団体の追加及び文化庁長官の個別指定に係る事務処理の円滑化)

 全て著作権法第37条第3項に関係するところなので、第37条を先に転載しておきます。

(視覚障害者等のための複製等)
第三十七条  公表された著作物は、点字により複製することができる。
2  公表された著作物については、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。
3  視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

1. 第37条第3項における受益者の範囲に身体障害などにより読字に支障がある者を含めることを明文化

 
 著作権法第37条第3項の受益者として定義されている「視覚障害者等」は、「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」と定義されており、視覚表現の認識に問題があるものに限定されるようによめ、肢体不自由などの理由でページがめくれない、もてない、姿勢が維持できないという理由で紙の書籍を読めない者が含まれているかどうか条文の分理上明らかではありません。

 図書館関係団体と権利者団体がまとめた「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37 条第3 項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」」では、上記の肢体不自由者も含むようになっており、また、マラケシュ条約で受益者される範囲にも含まれることから、「身体障害等により読字に支障のある者を加えるための所要の規定の整備を行うことが適当」としています。

(中間まとめ46ページより)
我が国において効力を発生している障害者権利条約においては,「締約国は,国際法に従い,知的財産権を保護する法律が,障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するための全ての適当な措置をとる。」とされている。
こうした国際条約上の義務の履行という観点のほか,身体障害等により読字に支障がある者と,視覚障害等により視覚による表現の認識に障害がある者との間で情報アクセスの機会における差異を設けるべき合理的な理由は認められない。
加えて,権利者団体からもマラケシュ条約の締結に必要となる規定の整備については前向きな反応が示されており,実務上も権利者団体の理解のもとで作成された法第37条第3項に基づく複製等に関するガイドラインに基づき身体障害等により読字に支障のある者のためにも複製等が行われているところである。
これらのことを踏まえれば,法第37条第3項における受益者の範囲について,身体障害等により読字に支障のある者を加えるための所要の規定の整備を行うことが適当である。

2 第37条第3項により認められる著作物の利用行為に公衆送信(メールによる提供)を追加

 第37条第3項では、図書館等の複製の主体は受益者である視覚障害者等に自動公衆送信(提供側がサーバーにコンテンツを上げておいて、利用者がそれをダウロードする)は認めていましたが、公衆送信(提供側が利用者にメールによって提供する)ことは認められていません。しかし、パソコンの利用に習熟していないために、アカウントを取得して、サービス提供側のウェブサイトにアクセスして、ダウンロードする操作をすることが困難な人が多い問題がありました。しかし、メールの送受信はそれと比べ、利用できる人が多いため、図書館等が行うメール送信サービスによりアクセシブルな形式となった著作物を視覚障害者等に対して送信することも含めることを求める要望があがっていました。今回の中間まとめでは、「図書館等が行うメール送信サービスがダウンロード型のサービスに比べて権利者により不利益を与え得るとは評価できないことから、法第37条第3項における権利制限の対象とすることが適当」と整理されています。

 サーバーを設置してダウンロードサービスを提供できるところは限られてしまいますので、メールで直接提供できるようになることは、提供側にとっても大きいですね。

(中間まとめ46ページより)
関係者間協議において,権利者団体からは,既に自動公衆送信を行うことが権利制限の対象になっていることに鑑みれば,メール送信サービスについても権利制限の対象としても良いと考えられるが,送信されるコンテンツが健常者にも利用可能な状態に置かれないように留意する必要があるとの意見が示され,これに対し障害者団体からは,図書館等が行うメール送信サービスは,録音図書などとともに暮らしに関わる情報を視覚障害者等に送信するものであって,送信の対象は法第37条第3項に定められている受益者に限られており,健常者への送信は法の範囲を超えるものなので,そうしたことが起きないよう普及・啓発を図っていきたい,との意見が示された。
その上で,関係者間協議においては,現在の法第37条第3項では自動公衆送信を行うことが権利制限の対象となっている一方,図書館等が行うメール送信サービスがダウンロード型のサービスに比べて権利者により不利益を与え得るとは評価できないことから,法第37条第3項における権利制限の対象とすることが適当であるとの整理に至っている。こうした整理は妥当なものと考えられ,障害者団体より図書館等が行うメール送信サービスという具体的なサービスの態様が示されていることからすれば,法第37条第3項に基づき図書館等がメール送信サービスを行うことができるよう,所要の規定の整備を行うことが適当である。

複製等を行える主体の拡大

 著作権法第37条第3項に基づいて受益者だる視覚障害者等のために複製を行える主体は、著作権法施行令第2条で限定列挙されています。限定列挙されていない機関・団体については、個別に文化庁長官が個別に指定する仕組みになっています。障害者関係施設等の視覚障害者等が入所する施設や図書館等は、複製の主体として限定列挙されていますが、録音図書や拡大図書の作成等を行っているボランティア団体は、列挙されていません。そのため、ボランティア団体が著作権法第37条第3項に基づいて録音図書などを製作しようとする場合は、図書館等の手足という形で行うか、文化庁長官の個別指定を受ける必要がありました。ボランティア団体の中には、図書館等の手足としてではなく独自に音訳に取り組むものも多いため、複製の主体として限定列挙に含めるよう要望が出されていました。
  
 関係者協議の結果、「権利者の利益を不当に害さないための一定の条件を課した上で,現行制度よりも簡易な方法で複製等を行うことができる主体になり得ることができるようにするための所要の措置(例えば,一定の類型については個別に文化庁長官の個別指定を受けずとも主体になり得るよう政令に規定する等)を講じることが適切」という結論を出しています。

 「一定の条件」を著作権法施行令で解釈の迷いなく判断できるように明記できるのかが気になるところです。中間まとめの注98にあるように、関係者協議では「関係者間協議においては,利用者の登録制度を具備していることや,団体における事業責任者が著作権法に関する基礎的な講習を受講していることなどが考えられる」という議論があったようです。

 あわせて、文化庁長官の個別指定を受ける手続を負担に感じて尻込みしてしまうボランティアグループが少なくないことから、「文化庁長官による指定を受けるための手続に関する改善の要望等があれば,文化庁において対応を検討することが適当」 と、個別指定をうける手続きの改善についても言及されています。
 
 複製の主体については、大学について、「大学等の図書館及びこれに類する施設」 が限定列挙され、大学図書館が該当することは明記されていますが、以前、以下に書いたように、障害学生に支援を行っている障害学生支援室が含まれるかどうかは解釈が定かではないので、このタイミングでそれもわかるようになるとよいなぁと思います。

(中間まとめ47ページより)
関係者間協議において,権利者団体からは,要望には基本的に賛成するものの,主体を無制限に拡大することには慎重であるべきであり,個別指定ではなく,より緩やかな仕組みを採る場合は,主体が守るべき要件を定める等の何らかの制度整備が必要であるとの意見が示された。
法第37条第3項に基づき複製等を行うことができる主体を制限列挙する令第2条第1項第1号は,ⅰ視覚障害者等向けの情報提供事業を組織的に実施し得る者であること,ⅱ(健常者への流出防止等に配慮した)一定の法令順守体制が確保されていること,ⅲ外形的に権利制限規定の適用となる主体か否かが確認できること,といった共通点を持つ主体を挙げているものと考えられる。
この点,障害者団体からは,ボランティアグループ等が障害者のための録音図書等の作成に果たしている役割は,令第2条第1項第1号で制限列挙されている事業者と比べても劣らない,若しくはより大きいと認められる場合もあるとの意見が示された。
特に,拡大図書やDAISY等は,平成21年の著作権法改正により新たに権利制限規定の対象となったことから,十分な量の図書が提供できていないという事情がある中で,これらのボランティアグループ等が法第37条第3項の規定に基づき拡大図書やDAISY等を作成することができるようになると,視覚障害者等に対しこれらのアクセシブルな図書をより一層普及させることができるものと考えられる。
こうしたことに鑑みれば,現行制度を見直し,ボランティアグループ等についても,上記ⅰ~ⅲに整理したような共通点も踏まえ,権利者の利益を不当に害さないための一定の条件を課した上で,現行制度よりも簡易な方法で複製等を行うことができる主体になり得ることができるようにするための所要の措置(例えば,一定の類型については個別に文化庁長官の個別指定を受けずとも主体になり得るよう政令に規定する等)を講じることが適切である。

 

 なお、中間まとめは、複製の主体の拡大に関連して、権利者団体側より、複製の無制限の主体の拡大は「粗悪な音訳図書の流通につながり,文学作品をより良い状態で鑑賞できる機会が失われる」という懸念が示され、音訳サービスの質を担保する制度が必要だという意見が出ていることにも言及しています。音訳の質の問題について中間まとめは、著作権法第37条第3項は「音訳の質を確保するための体制を有することまでは求められていないものと解されることから,主体の拡大に当たって新たにこうした体制を求めることは適当ではない」とし、(権利者団体、障害者当事者団体、図書館等の)「当事者間での協力の発展による音訳サービスの質の向上が望ましい」という結論を出しています。

4 その他

 放送番組に対するアクセス環境の改善のための法改正についても障害者団体から要望が挙げられていましたが、「権利制限規定の必要性及び具体的な制度設計の在り方については、現時点では両当事者において十分な認識の共有及び意見の集約がなされるには至っていない」として、引き続き検討が継続されることになりました。