8月 03

アクセシビリティの観点から電子書籍のおけるTTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきか

 総務省から電子書籍のアクセシビリティを確保するための調査研究の報告書が出たこともあって、また、それに関係しての前後の動きだと思いますが、電子書籍のアクセシビリティに関係するイベントが最近、開催されることもあって、タイトルにあるようにアクセシビリティの観点から電子書籍のおけるTTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきかという議論が起きています。

 端的にいって、SSMLなどを用いてTTSによる読み上げの正確性を保障することについては、賛否両論、というより、Web関係者の間では、批判的な意見が多いような印象がありますが、私の考えをまとめておこうかと思います。知識不足からくる思い込みもあるかと思いますので、ご容赦を。

 結論から言えば、TTSの読み上げの正確性をどこまで保障するべきかは求められるニーズと負担できるコストによる、つまり、コンテンツ次第なので一律に全部保障すべきであるとか、TTSに任せておけばよいとも言えない、というのが正直なところです。誤読があっても許容できる(それよりもむしろ早く提供してほしいというニーズがつよい)ものもあるでしょうが、一方で、教科書や辞書、児童向けの書籍(ルビなどが多くふられている書籍などはイメージしやすいでしょうか)などのように、正確な読み上げが求められるものが確かにあります。

 ですので、コンテンツの性質と目的、正確性を求められるニーズ、負担できるコストに応じての水準で、正確性を保障していければよいのだろうと考えています。問題は、現在の状況は、この「応じての」対応ができないことです。
 
 現時点では、SSML(ヨミ情報等をTTSに渡すマークアップ言語)やPLS(ヨミ情報の辞書)に対応したEPUBの閲覧環境や制作環境がないため、TTSでは、読み上げの正確性のニーズに対して、現状では対応できません。そのため、肉声等によって正確に読み上げられた音声ファイルを作成する(つまり、録音図書かマルチメディアDAISYとして作成する)しか方法がありません。
 
 つまり、誤読も許容してTTSの辞書任せで読み上げさせるか、マルチメディアDAISY化(つまり、肉声等による読み上げで完全に正確な読み上げを保障するもの)か、のどちらかしか選択肢がしかなく、その中間がありません。たとえば、基本的に誤読は許容するけど、専門用語や人名、地名などの誤読はなくしたいとか、ルビが振られている箇所だけは誤読をなくしたいという中間的なニーズにあった対応方法がなく、そのゼロか百かのいずかの選択をせざるを得ない状態です(正確にはルビを読み上げさせるとか、部分的なマルチメディアDAISY化というのも考えられなくはないですが)。

 また、EPUBリーディングシステムのMedia Overlaysへの対応が進んでいるとはまだまだ言えない状況であるため、上の後者(音声化)の選択も実質的にはとりづらく、アクセシビリティの観点からみれば、EPUBは誤読を許容するコンテンツしか入る余地がない状況です。

 また、別の問題として、TTSが読み上げない文字の存在があります(基本的にSHift-JISでサポートしていない文字に多いと考えればよいみたい)。

図 3 TTS ソフトの読み上げ可能な領域と読み上げ不可の領域。音声合成システム(TTS)が読める範囲は、JIS X 0208:1997の範囲、つまり、第2水準までの6879文字であり、JIS X 0213:2004に含まれている文字で第3水準以降の4354文字はTTSでの読み上げに対応してないことが示されている
日本語の文字は JIS 第 1 水準、第 2 水準を規定した JIS X 0208:1997 と、第 3 水準、第 4 水準を規定した JIS X 0213:2004、そしてこれらに含まれない外字などが存在する。TTS ソフトで読み上げ可能な文字は現状では JIS X 0208:1997 の範囲にとどまっており、JIS 化されている文字のほぼ半分が読み上げ対象外となっている。
from 「(PDF)音声読み上げによるアクセシビリティに対応した電子書籍制作ガイドライン」p11より

 TTSは、これらの文字の存在そのものは、認識はするものの、まったく読み上げません。誤読でも読み上げてくれれば、全盲者でもその存在を認識できますが、読み上げない文字を全く認識することができません。こういう文字はSSMLなどで読みを入れて読み上げられるようにするしか方法はないのではと思います。

 全文にSSMLを入れるというのは、おそらくは当面、かなりの高コストなのでしょうが、部分的にここだけは読み上げを保障したいというところにSSMLを使うとか。制作環境でルビタグを入れる箇所には、自動的にSSMLも入れる機能を実装する(略ルビとかいろいろあるので、修正は必要でしょうか。)ことで、ルビがふられた箇所の読み上げの正確性を保障するとか(児童書など出版社が子どもに対する配慮でルビが必要だと判断した箇所に結果として読み上げが保障されることになる)とかできないだろうかと考えるわけです。
 
 EPUB 3では、SSMLに加えて、PLSという形式で全体にわたる読み情報の指定を辞書という形で持たることができます。本文中に何度も出てくる固有名詞や地名、索引に掲載される用語についてPLS辞書を持たせるだけでもかなり誤読を減らすことができるはずです。EPUB3の仕様では、TTSが読み上げる優先順位は、

SSML>PLS>TTSの辞書

となっています。全文にSSMLを埋め込む方法がもっとも読み上げの正確性を保障できますが、仕様通りに実装されているならば、全体にわたる読み情報の指定は、PLS辞書で、それ以外の例外的な読み方法の提供はSSMLで指定するだけでもかなりの正確性を担保できるのではないかと思います。地名などは、PLS辞書を使い回せないのかとも思ったりしますが、これはどうなのでしょうか。

 上に紹介した総務省の報告書には、ウェブアクセシビリティガイドラインで知られるW3CのWCAG2.0に倣って、読み上げ対応について、達成度を3段段階にわけて要件を提示しています。
 個々の要件やそれぞのレベルについては、議論のあるところかもしれませんが、私は全体的な傾向は概ね同意できます。

  • まずは、出版される全ての出版物でレベル1を目指す。
  • その中からコンテンツの性質、ニーズに応じてレベル2や3を目指す(今は、それを実現できる実装が制作環境にも節欄環境にもないので、まずはそれの実現が必要ですが)。
  • そして、場合によっては図書館等が視覚障害者等の利用者のリクエストを受ける形で、著作権法第37条第3項に基づいてアクセシビリティ機能を追加して、レベルを引き上げる(著作権法第37条第3項でアクセシビリティの追加をどこまでできるかは議論のあるところですが)

というは、考えとしてありではないかと思いました。

表 1-1 音声読み上げによる電子書籍アクセシビリティの実現レベル(案)

レベル 電子書籍コンテンツ リーダー
0 ・音声読み上げを行えるようなテキストデータを持たない場合。 ・OS が提供するアクセシビリティ支援機能を利用することができない場合。
・又は、電子書籍専用端末が、アクセシビリティ支援機能を持たない場合。
1 ・音声読み上げに対応できるよう、テキストデータを持っていること(紙面が画像で構成されている固定レイアウト型の場合は、マルチレンディション1により、画像とは別にテキストデータを持つ)。
・かつ、最低限の構造化がなされていること。
・電子書籍コンテンツに含まれるテキストデータを、OS が提供するアクセシビリティ支援機能に渡せること、またはリーダーがテキストデータを読み上げできること。
・また、電子書籍の構造に従い、最低限のナビゲーション機能が利用できること。
2 ・テキストを正しく読み上げできるよう、誤読しやすい部分や音声化しないと内容伝達に支障がある画像等(例えば外字)に対して、正しい読み方の情報を持っていること。
・かつ、章や節などが正しく構造化されていること。
・電子書籍コンテンツに含まれるテキストデータを、OS が提供するアクセシビリティ支援機能に加え、TTS ソフト等のアクセシビリティ支援ツール等に出力できること。
・又は、レベル 2 以上の電子書籍コンテンツが持つ読み方の情報をテキストデータとともに出力できること。
・上記に加え、電子書籍コンテンツの構造に従い、目次と本文の間の移動、飛ばし読みなど適切なナビゲーション機能が提供されていること。
3 ・レベル 2 に加え、電子書籍のテキスト及び音声化しないと内容伝達に支障がある画像等(例えば外字)のすべてに対して、正しい読み方の情報もしくは正しく読み上げられた音声データファイル(audio データ)を持っていること(肉声、TTS は問わない)。
・また、発話する言語種別に関する情報、発話音声の種別(性別、声質等)に関する情報を持っていること。
・レベル 2 に加え、レベル 2 以上の電子書籍コンテンツが持つ、読み方その他発話に関する情報に基づき、その指示とおりに正しく読み上げできること。
・その際に、読み上げスピードの変更等、利用者に適した読み上げを行えるように調整を行えること。
・また音声データファイルを持つ電子書籍の audio データを再生することができ、メディアオーバーレイ(mediaoverlays)の機能が再生可能なこと。

(PDF)電子書籍のアクセシビリティを確保するための調査研究報告書』3ページ(PDFのページでは8/84ページ)より

 話は少し逸れて、最後に申し上げておくと、電子書籍のアクセシビリティという話になると、議論が読み上げ対応が集中しすぎてしまっている印象があります。アクセシビリティが求められるのは、読み上げソフト利用者に限定されないので、アクセシビリティメタデータやリーディングシステムの実装(どのような支援機能が必要か 文字サイズ変更、行間変更、配色変更、縦書き・横書き変更 etc.)などなど、スコープを拡げて要件を整理していく必要があると思います。

7月 31

EPUB3で製作された録音図書にも対応したDAISY再生機器PTR3

発売が予定されているDAISY再生機器プレクストークPTR3がEPUB3にも対応しています。これが、EPUB3のMedia Overlaysに対応しており、EPUB3で製作された録音図書(本文部分が音声のみ)に対応しているようです(おそらくは、すでに発売されているプレクストーク PTN3も)。

 以下のエントリを書いたのが2013年6月だから、EPUB3で録音図書を製作できることを私が知ったのもそのあたり。

そのことを知ってから、EPUB3で録音図書が再生できる環境が整備されれば、

  • 特定の機器や再生環境に依存せず、メインストリームなEPUBの環境で録音図書が再生できるようになる(それは、たくさんあるEPUBの閲覧環境を選択できることを意味し、自分にあった閲覧環境を選ぶことができる選択肢ができる
  • 商用のオーディオブックがEPUB3で販売されるようになれば、それはいわゆるDAISY録音図書、あるいはその近似値。図書館や点字図書館が著作権法の権利制限規定で製作するのを待つまでもなく、ユーザーが購入することができるようになる<(商用コンテンツと、図書館製作コンテンツのフォーマット上の境目が曖昧になる)/li>

 ということが実現されるのではないかとわくわくしていました。EPUB3録音図書の閲覧環境が整備されることを今か今かと待ちわびていましたが、その一歩がついに現実に。
 

6月 14

EPUB Accessibility 1.0 概要

 EPUB3.1の仕様と同時に公開されたEPUBのアクセシビリティの仕様 EPUB Accessibility 1.0 について概要をまとめてみました。

仕様及び関連文書

  EPUBのアクセシビリティの仕様は、EPUB Accessibility 1.0 。これは規格として策定されたものなので、長期的な使用に耐えうるように、その時々の技術には依存しない形で書かれているため、要件も抽象的な記述になっている。具体的な実装方法は、関連文書であるEPUB Accessibility Techniquesに参照することになる。これは、WCAGとWCAGの関連文書である”Techniques(実装方法集)”と同じ関係。EPUB Accessibility Techniques に似た立ち位置の文書として 古くからあるEPUB 3 Accessibility Guidelines が存在するが、Techniques のさらなる追加の説明文書的な立ち位置として整理されているらしい。
  

 また、EPUBもウェブ技術を使用しているので、アクセシビリティの要件をのかなりの部分をWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0 に拠っているので、これも参照する必要がある。

EPUB Accessibility 1.0が対象とするEPUBのバージョンの範囲

 EPUB3.1と同じタイミングで公開されたものだが、EPUBの特定のバージョンを対象とするものではなく、古いバージョン又は将来のバージョンも含む全てのEPUBのバージョンを対象とする。

EPUB Accessibility 1.0のポイント

 個人的にポイントと感じたところは以下。

  • アクセシビリティメタデータは必須。超重要。この仕様で最低限満たすべきとしているラインがアクセシビリティメタデータを提供すること。
  • WCAG2.0のレベルAが必須要件。レベルAAは推奨。なので、非テキストコンテンツに対する代替テキストは必須
  • 音声(非テキストコンテンツ)が主たるコンテンツである録音図書は、WCAG2.0の要件を満たすものではない(代替テキストがないから)。しかし、不可ではない。特定の利用者に最適化されたものであり、だからこそ、それとわかるアクセシビリティメタデータを提供することが重要
  • ページ数のある紙版等のバージョンがある場合は、ページ番号は提供すべきとしている
  • TTSによる読み上げの支援(SSML、PLS)に関する規定はなし
  • DRMは否定していないが、支援技術によるアクセスを阻害する制限は不可
  • 補論という形で閲覧ソフトと配信システムの要件も規定されている

 印象としては、この仕様はそれほど高いハードルを設けていない。アクセシビリティメタデータを提供すれば、EPUB Accessibility 1.0の必須要件に準拠したと言えるものは多いのではないか。DRMだな。DRMかなぁ…

概要

 EPUB Accessibility 1.0は、要件の適合によって以下のとおり、発見可能なEPUB出版物、アクセシブルなEPUB出版物、最適化されたEPUB出版物の3つに整理されている。

発見のメタデータ要件 アクセシビリティの要件 最適化(規格またはガイドライン識別)の要件
発見可能なEPUB出版物 適合  
アクセシブルなEPUB出版物

適合 適合  
最適化されたEPUB出版物

適合   適合

 

発見のためのメタデータ要件

 EPUB 3 Publication(OPFファイル)に格納されるメタデータにschema.orgのアクセシビリティメタデータ以下のように包含することを求めている。詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

必須(must)

推奨(recommended)

任意(optional)

アクセシビリティの要件

 以下のとおり。

○WCAGとの適合性

 
 WCAGレベルAが必須(must)、WCAGレベルAAが推奨(recommended)となっている
 WCAGが求める要件も幅広いので、ここで全て網羅できないが、レベルAで求められている以下は直接関係がある要件だろうか。画像等の非テキストコンテンツに代替テキストの提供を必須としている点は重要(webだと最近だと提供することが常識になっていますが、電子書籍だとどこまで提供されているか・・・)。

原則 1: 知覚可能 – 情報及びユーザインタフェース コンポーネントは、利用者が知覚できる方法で利用者に提示可能でなければならない。
ガイドライン 1.1 テキストによる代替: すべての非テキストコンテンツには、拡大印刷、点字、音声、シンボル、平易な言葉などの利用者が必要とする形式に変換できるように、テキストによる代替を提供すること。

1.1.1 非テキストコンテンツ: 利用者に提示されるすべての非テキストコンテンツには、同等の目的を果たすテキストによる代替が提供されている。ただし、次の場合は除く: (レベル A)
(中略)

ガイドライン 1.3 適応可能: 情報、及び構造を損なうことなく、様々な方法 (例えば、よりシンプルなレイアウト) で提供できるようにコンテンツを制作すること。
1.3.1 情報及び関係性: 何らかの形で提示されている情報、 構造、及び関係性は、プログラムによる解釈が可能である、又はテキストで提供されている。 (レベル A)
1.3.2 意味のある順序: コンテンツが提示されている順序が意味に影響を及ぼす場合には、正しく読む順序はプログラムによる解釈が可能である。 (レベル A)
1.3.3 感覚的な特徴: コンテンツを理解し操作するための説明は、形、大きさ、視覚的な位置、方向、又は音のような、構成要素が持つ感覚的な特徴だけに依存していない。 (レベル A)

ガイドライン 1.4 判別可能: コンテンツを、利用者にとって見やすく、聞きやすいものにすること。これには、前景と背景を区別することも含む
1.4.1 色の使用: 色が、情報を伝える、動作を示す、反応を促す、又は視覚的な要素を判別するための唯一の視覚的手段になっていない。 (レベル A)
(中略)
1.4.3 コントラスト (最低限) : テキスト及び文字画像の視覚的提示に、少なくとも 4.5:1 のコントラスト比がある。ただし、次の場合は除く: (レベル AA)
(中略)
1.4.4 テキストのサイズ変更: キャプション及び文字画像を除き、テキストは、コンテンツ又は機能を損なうことなく、支援技術なしで 200% までサイズ変更できる。 (レベル AA)
1.4.5 文字画像: 使用している技術で意図した視覚的提示が可能である場合、文字画像ではなくテキストが情報伝達に用いられている。ただし、次に挙げる場合を除く: (レベル AA)
(中略)

原則 2: 操作可能 – ユーザインタフェース コンポーネント及びナビゲーションは操作可能でなければならない。
(中略)
ガイドライン 2.4 ナビゲーション可能: 利用者がナビゲートしたり、コンテンツを探し出したり、現在位置を確認したりすることを手助けする手段を提供すること。
2.4.1 ブロックスキップ: 複数のウェブページ上で繰り返されているコンテンツのブロックをスキップするメカニズムが利用できる。 (レベル A)
2.4.2 ページタイトル: ウェブページには、主題又は目的を説明したタイトルがある。 (レベル A)
2.4.3 フォーカス順序: ウェブページが順を追ってナビゲートできて、そのナビゲーション順が意味又は操作に影響を及ぼす場合、フォーカス可能なコンポーネントは、意味及び操作性を損なわない順序でフォーカスを受け取る。 (レベル A)
2.4.4 リンクの目的 (コンテキスト内) : それぞれのリンクの目的が、リンクのテキスト単独で、又はリンクのテキストとプログラムによる解釈が可能なリンクのコンテキストから判断できる。ただし、リンクの目的がほとんどの利用者にとって曖昧な場合は除く。 (レベル A)
2.4.5 複数の手段: ウェブページ一式の中で、あるウェブページを見つける複数の手段が利用できる。ただし、ウェブページが一連のプロセスの中の1ステップ又は結果である場合は除く。 (レベル AA)
2.4.6 見出し及びラベル: 見出し及びラベルは、主題又は目的を説明している。 (レベル AA)
(中略)

原則 3: 理解可能 – 情報及びユーザインタフェースの操作は理解可能でなければならない。
ガイドライン 3.1 読みやすさ: テキストのコンテンツを読みやすく理解可能にすること。
3.1.1 ページの言語: それぞれのウェブページのデフォルトの自然言語がどの言語であるか、プログラムによる解釈が可能である。 (レベル A)
3.1.2 一部分の言語: コンテンツの一節、又は語句それぞれの自然言語がどの言語であるか、プログラムによる解釈が可能である。ただし、固有名詞、技術用語、言語が不明な語句、及びすぐ前後にあるテキストの言語の一部になっている単語又は語句は除く。 (レベル AA)
(中略)

原則 4: 堅牢 (robust) – コンテンツは、支援技術を含む様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分に堅牢 (robust) でなければならない。
ガイドライン 4.1 互換性: 現在及び将来の、支援技術を含むユーザエージェントとの互換性を最大化すること。

4.1.1 構文解析: マークアップ言語を用いて実装されているコンテンツにおいては、要素には完全な開始タグ及び終了タグがあり、要素は仕様に準じて入れ子になっていて、要素には重複した属性がなく、どの ID も一意的である。ただし、仕様で認められているものを除く。 (レベル A)
4.1.2 名前 (name) ・役割 (role) 及び値 (value) : すべてのユーザインタフェース コンポーネント (フォームを構成する要素、リンク、スクリプトが生成するコンポーネントなど) では、名前 (name) 及び役割 (role) は、プログラムによる解釈が可能である。又、状態、プロパティ、利用者が設定可能な値はプログラムによる設定が可能である。そして、支援技術を含むユーザエージェントが、これらの項目に対する変更通知を利用できる。 (レベル A)

 

<余談 EPUB形式の録音図書>

 少し話はそれるが、EPUB形式の録音図書について。WCAGは、以下のような要件もある。

ガイドライン 1.2 時間依存メディア: 時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること。
1.2.1 音声のみ及び映像のみ (収録済) : 収録済の音声しか含まないメディア及び収録済の映像しか含まないメディアは、次の事項を満たしている。ただし、その音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合は除く: (レベル A)
収録済の音声しか含まない場合:時間依存メディアに対する代替コンテンツによって、収録済の音声しか含まないコンテンツと同等の情報を提供している。
収録済の映像しか含まない場合: 時間依存メディアに対する代替コンテンツ又は音声トラックによって、収録済の映像しか含まないコンテンツと同等の情報を提供している。
1.2.2 キャプション (収録済) : 同期したメディアに含まれているすべての収録済の音声コンテンツに対して、キャプションが提供されている。ただし、その同期したメディアがメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合は除く。 (レベル A)
(中略)
1.2.7 拡張音声解説 (収録済) : 前景音の合間が、音声解説で映像の意味を伝達するのに不十分な場合、同期したメディアに含まれているすべての収録済の映像コンテンツに対して、拡張音声解説が提供されている。 (レベル AAA)

 上の要件については、以下のエントリを参照。

 つまり、音声には聴覚障害等の理由で利用できない人のために代替となるテキストデータを提供するということが求められています。1.2.2などは満たすとまさにEPUB with Media Overlays(マルチメディアDAISY)。音声を主たるコンテンツとするEPUB形式の録音図書(目次データのみがテキスト)は、WCAG レベルAの要件を満たせないということになる。つまり、「アクセシブルなEPUB出版物」である要件は満たせない。

 ただし、EPUB Accessibility 1.0 はEPUB形式の録音図書を否定はしていない。これについては、考え方を以下のように整理している。

  • WCAGは幅広いユーザーを対象とするので、録音図書のように、視角障害者に利用できても聴覚障害者に利用できないコンテンツは、WCAGの要件に適合しないということになる
  • しかし、特定のユーザーに最適化されたEPUB出版物をEPUB Accessibility 1.0はを否定しない。
  • その代わり、発見のメタデータの包含を提供することを重視し、豊富なアクセシビリティメタデータによって必要とする特定のターゲットに的確に発見されることを想定
  • EPUB形式の録音図書は、「概要」に掲載した表で言うところの、「アクセシブルなEPUB出版物」にはなれないが、「発見可能なEPUB出版物」と「最適化されたEPUB出版物」にはなれる

○EPUBのための追加要件

 WCAGだけでは規定できないEPUB独自の要件として、ページナビゲーションとメディアオーバーレイについて、以下のとおり規定している。EPUB独自の要件といえば、TTSのサポートとしてSSMLやPLSなども他にも言及されてもよい要件はいろいろあると思うが、ページナビゲーションとメディアオーバーレイ以外に言及はない。ちなみに関連文書のEPUB Accessibility Techniques 1.0 にもページナビゲーションとメディアオーバーレイ以外の言及はない。EPUB 3 Accessibility Guidelines まで行くといろいろある。

ページナビゲーション

 
 以下の場合は、ページナビゲーションを提供するべき(should)。

  • EPUB版とは別にページ数のあるバージョンの出版物(紙版の出版物等)がある場合
  • 教育等で印刷版とEPUB版の両バージョンを併用することが想定されるとき
メディアオーバーレイ

メディアオーバーレイドキュメント(SMILドキュメント)内にあるる全ての「スキップ可能な構造(skippable structures)」と「回避可能な構造(escapable structures」を識別することを保証する。

※といっても、DAISY3のようにコンテンツに「スキップ可能な構造(skippable structures)」と「回避可能な構造(escapable structures」を設定するのではなく、EPUB3の場合は、メディア オーバーレイ要素の epub:type 属性によって提供されるセマンティクス(ここは、footnoteですよ、figureですよという情報)に基づいて、リーディングシステムがスキップ機能や回避機能を提供することを想定しているので、何をすればよいのだろうか。きちんとepub:type 属性によってセマンティクスを提供するということだろうか。

最適化(規格またはガイドライン識別)の要件

 EPUB Accessibility 1.0 の「最適化(規格またはガイドライン識別)の要件」では、適合している規格、ガイドラインを識別するための情報を dcterms の conformsTo プロパティで提供することが必須(must)とされている。なお、WCAGもその対象になるが、WCAGだけは、「最適化(規格またはガイドライン識別)の要件」ではなく、「アクセシビリティの要件」として整理されている。

 詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

配信(提供)にあたっての要件

デジタル著作権管理(DRM)

EPUB 出版物に適用される場合、製作者は、支援技術によるアクセスを阻害する制限を課してはならない(must not)。

配信業者に提供するメタデータ

  配信業者に提供するメタデータについても、その形式でアクセシビリティメタデータが提供できるならば、(配信業者が求めなくても)アクセシビリティメタデータを提供しなくてはならない(must)。

 これも詳細は、以下のエントリにまとめたのでそちらを参照。

おまけ

EPUB Accessibility 1.0 はあくまでコンテンツに対する要件をスコープとしているが、補論として配信システムとリーディングシステムの要件も提示している。

配信システムの要件

  • ユーザーインターフェイスは、[WCAG 2.0] レベル AA に適合しなければならない(must)。
  • 利用可能なアクセシビリティ メタデータによって、検索結果を絞り込む機能を提供しなければならない(must)。

リーディングシステムの要件

  • 全ての [A11Y Test Suite] の基本的なアクセシブル リーディング システムのテストを合格しなければならない(must)。
  • User Agent Accessibility Guidelines (UAAG) 2.0レベル AA 適合性の要件を満たすべきである(should)。
1月 29

いわゆるウェブサイトの「障害者対応」のページについて

 ウェブサイトのアクセシビリティについて、JIS規格に準拠してウェブアクセシビリティを確保することとは別に、いわゆる「障害者対応」のためにはテキストベースのサイトを用意しなければ十分に対応できない(そして、それが別インターフェイスを用意することを意味するので、なかなかできない)、みたいな話をいろいろなところで聞くことがあります。そういう話を聞く度にもやもやっとするので、この「もやもや」について、少し考えを整理しておきたい。あくまで私の理解なので、正しいかどうかは分からない。なお、そういうUIを設けているサービスもありますが、それ自体は素晴らしいことで、当然ながらそのサイトを否定するものではありません。設けられるなら設けたほうがよいし、内容によっては必要なサイトもあるだろうと思います。
 
 私がもやもやっとしているのは、

「障害者対応」のためにはテキストベースのサイトを用意しなければ十分に対応できない、からの、それが別インターフェイスを用意することを意味する、からの、なかなか難しい

になりがちなところです。

 テキストのみが使用されているサイトであろうが、画像がびしばし使われたビジュアルなサイトであろうが、読み上げソフトは基本、テキストしか読まないので、読み上げソフト利用者から見れば、どちらも「テキストベースのサイト」になります。ビジュアルなサイトのアクセシビリティが問題になる場合は、読み上げソフトから見た「テキストベースのサイト」としてみた場合の、読み上げソフトユーザーにとってもそのサイトが使い勝手がわるいとか、読み上げソフトで使えない機能があるということから問題なのであって、画像をふんだんに使用したビジュアルなサイトだからではないはず。

 だから、ビジュアルなサイトをだから、「障害者対応のテキスト版サイト」を別に用意しなければという話でもないのではないかは思う。障害者対応のページ、或いは、テキスト版のサイトが必要であるという認識が広まることは、逆にそういうサイトを設け無ければ、いわゆる「障害者対応」ができないという認識が広まることになり、普通は同じサイトに複数のインターフェイスを持つことはなかなか困難なので、自分のところは「障害者対応」はできないんだというあきらめがひろまってしまうことを恐れている。

 読み上げソフトユーザーは、音声でサイトを利用する。つまり、フォーカスを一カ所ずつあてながら、音声で順番に読み上げてサイトを理解する。視覚的に全体の構成を把握し、必要な箇所をすぐに特定して、そこを読むということが難しい。読み上げソフトユーザーの利用を想定する場合、それを考慮したサイトにしなければならないと思う。不必要な情報がすくなく、そのページのメインコンテンツにすぐにたどり着けるシンプルな構成のサイトのほうがつかいやすいのだろうと思う。

 「障害者対応」と銘打っているサイトが読み上げソフト利用者にとって使いやすいのは、テキスト版サイトだからというよりも、ターゲットが読み上げソフト利用者に絞られているから、その辺がしっかり考慮されているという話だろうと思います(無論、それだけではないですが)。

 実はモバイル向けのサイトは上で書いたシンプルなそれに該当することが多いのではないかと思う。個人的には、JIS規格にはもちろん準拠しつつ、

レスポンシブウェブデザイン×モバイルファースト

のコンセプトでつくれば、読み上げソフトの利用者にも使いやすいサイトになるのではないかと思うのだけど、どうなのだろうか。JIS規格に準拠してウェブサイトを構築しても、レイアウトが複雑だったり、一ページの情報量が多すぎて読み上げソフト利用者には使いづらいサイトになる可能性もあるが、レスポンシブウェブデザインで製作すれば、少なくともスマホ利用を想定した線形のコンテンツも想定するだろうし、それにモバイルファーストをかみ合わせれば、必要な情報がすぐにたどり着くように、また、無駄な情報がそぎ落とされるようになるのではないか。

 ウェブ利用時間におけるスマホの占める割合の増加や、Googleの最近の以下の動きもある。SSOといっしょに一緒に考えてみる価値はあると思う。

Google ウェブマスター向け公式ブログ: モバイル ファースト インデックスに向けて

 無論、レスポンシブウェブデザイン×モバイスファーストだけで、全てが解決するわけではなく、サイトの内容によっては、シンプルにすることが難しく、読み上げソフトの利用者にとって使いやすいUIを用意したほうが望ましいものもあると思いますが、スマホ版を用意できるようなほとんどウェブサイトにとっては、できることがまだまだあるのではないかと思う。

1月 07

EPUB 3.1の仕様とそれに含まれるEPUBのアクセシビリティに関する仕様

 1月5日にEPUB 3.1の仕様がIDPFで承認されました。

 EPUB 3.1の仕様は、EPUB Packages 3.1、EPUB Content Documents 3.1、EPUB Open Container Format (OCF) 3.1などの複数の仕様で構成されています。2016年に公開されていたEPUB 3.1のドラフト版はありがたいことにIMAGEDRIVEさんが日本語訳を公開してくれています。EPUB3.01からの変更点を解説した”EPUB 3.1 Changes from EPUB 3.0.1″も含めて翻訳してくださっていますので、ご参照ください。

 EPUB 3.1の仕様では、アクセシビリティに関する仕様が規定され、その関連文書としての実装方法をまとめた文書が公開されました。

 よりアクセシブルなEPUBコンテンツを制作する要件についてまとめられているほか、必要な人が自分にあったアクセシブルなコンテンツをきちんとを発見できるようにするため、EPUBコンテンツに包含すべきアクセシビリティメタデータの要件についても整理されています。

EPUB Accessibility 1.0と関連文書であるEPUB Accessibility Techniques 1.0(実装方法集)の関係は、W3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0/a>とそのTechniques for WCAG 2.0(実装方法集)の関係に倣ったものだと思われます。技術的なテクニックは随時変更できるように仕様本体から切り離したのでしょう。WCAGと実装方法集の関係の詳細については、以下をご参照ください。

12月 30

全視情協「テキストデイジー・マルチメディアデイジーデータ 再生機器・ソフトウェアに関する調査結果(2015)」

 公開されてずいぶん日がたちますが、視覚障害者情報提供施設(いわゆる点字図書館)の全国組織である全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)が「テキストデイジー・マルチメディアデイジーデータ再生機器・ソフトウェアに関する調査結果」(平成28年3月31日)を平成28年5月19日に公開しています。DAISY再生ソフトのEPUB対応の予定についても調査されています。

全視情協:各種資料 – テキストデイジー再生機器等に関する調査結果(2015)

目次は以下のとおり。
1.カテゴリー別 機種・ソフトウェア 4ページ
2.機能別調査結果 5ページ
(1)再生可能なデイジーデータ 5ページ
(2)移動可能な単位 5ページ
(3)飛ばし読み(スキッパブル)機能 6ページ
(4)文字の読み上げ、検索機能 6ページ
(5)テキスト表示、ノートテイク(印付け等)機能 6ページ
(6)テキストデイジーデータの再生について 7ページ
(7)インターネット接続とサピエ図書館のデータの再生機能について 8ページ
(8)EPUB3への対応(対応予定) 9ページ
3.機種・ソフトウェア別機能調査結果 10ページ
(1)ブレイルセンスU2 10ページ
(2)ブレイルセンスオンハンドU2ミニ 10ページ
(3)Voice-Trek DS-902 10ページ
(4)Olympus Sonority 11ページ
(5)BMS16 12ページ
(6)BMS40 12ページ
(7)My BookⅢ 13ページ
(8)ボイスオブデイジーVer.4 for iOS 14ページ
(9)ボイスオブデイジーVer.4 for Android 14ページ
(10)Dolphin EasyReader 6.03 日本語版 14ページ
(11)Dolphin EasyReader Express 6.06 113 16ページ
(12)AMIS 3.13 日本語版 17ページ
(13)プレクストークPTN2 18ページ
(14)プレクストークポケットPTP1 19ページ
(15)プレクストークリンクポケットPTP1/LINK 19ページ
(16)いーリーダー 20ページ
資料1 カテゴリー別 機種・ソフトウェア 一覧表 22ページ
資料2 機能別調査結果 一覧表 23ページ

12月 24

DAISY(Digital Accessible Information SYstem)開発史年表(開発前史から2012年まで)

 デジタル録音図書の国際規格であるDAISY(Digital Accessible Information SYstem)の開発の歴史について、まとめました。

 公刊されたものや公開されている情報をもとに作成しましたが、いくつもの情報を繋いでまとめたので、結果として、間違っているところがあるかもしれません。また、規格の策定や標準化は、つまるところ、意見や立場の異なる人や組織の調整を形にするという作業なので、関係する機関のその当時の事情や、関係者の一人一人のパーソナリティが結構大きく作用したり、さらに組織間や関係者同士の人間関係も影響を与えたりするのではないかと思われるので、大事なところが抜けているかもしれません。
 
 このエントリをまとめて、少しだけ私の感想を述べると、DAISY関係者は、デジタル録音図書規格の国際共同開発の開始から2年でDAISYによる国際標準化を2年という短い期間で成し遂げています。しかし、視覚障害者のための録音図書がカセットテープで製作されていた1980年代から1990年代は、録音図書テープのデジタル化とデジタル録音図書のニーズが高かったらしく、デジタル録音図書の規格が各国で乱立する可能性のあったようなので、デジタル録音図書の標準化は、時期的に1997年あたりがギリギリのところだったのかもしれません。DAISYという規格で、デジタル録音図書の仕様を統一させることに成功したことで、国際的な録音図書データ交換が可能になり、それがマラケシュ条約成立の環境整備に繋がっています。DAISYによるデジタル録音図書の国際標準化の成功は、本当に偉大と言うほかありません。

目次

  1. DAISY開発前史(1995年まで)
  2. デジタル録音図書規格の国際共同開発の開始と DAISY Consortium の結成(1995年から1996年まで)
  3. DAISYの国際評価試験と事実上の「国際標準化」(1997年)
  4. DAISYのマルチメディア対応(DAISY2の開発)(1997年から2001年)
  5. DAISYの日本における普及(1998年から2001年)
  6. DAISY3の開発(1996年から2004年)
  7. EPUBとDAISY(1998年から2012年)

1. DAISY開発前史(1995年まで)

当時の録音図書をめぐる状況

 録音図書はアナログのカセットテープによって製作されていたが、カセットテープには、以下のような問題があった。

  • カセットテープは、収録できる時間が1巻あたり90分という時間的制約があり、原本1冊分で10時間を超えることが当たり前の録音図書では、かなりの巻数になってしまっていた。
  • ページを開くように任意の箇所に移動する機能はない。
  • 磁性の変化で劣化してしまうため、コピーを繰り返すと音質が落ちてしまう。
  • 図書館の立場で考えると、マスターテープの劣化が問題になっており、半永久的に保存できるメディアが求められた。
  • 万国郵便連合(Universal Postal Union)の合意によって、点字及び録音図書の郵便料金は無料とされていたが、録音図書に使用されるカセットのフォーマットが国や機関によって異なっていたため、その国、機関から取り寄せた録音図書を聞くには、そのフォーマットに対応したプレーヤーも必要だった(詳細は、第2章 デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制」の注22等を参照)。

1986年

■ 8月

 国際図書館連盟(IFLA)東京大会における盲人図書館分科会(Section of Libraries for the Blind, 略称は IFLA/SLB )第4回国際専門家会議において、デジタル録音図書の国際的な議論が公の場で初めてなされる。

<参考文献>

1988年

 スウェーデン国立録音点字図書館 (Swedish Library of Talking Books and Braille。略称はTPB(スウェーデン語名での略称)。現在のSwedish Agency for Accessible Media(MTM))がDAISY(Digital Audio-based Information System : デジタル音声情報システム)プロジェクトをスタート。1991年からは政府の助成を受けて3カ年プロジェクトとして技術開発が始まる。

1993年

 スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)のプロジェクトの元で、同国のLabyrinten DATA社が初期DAISY(Digital Audio-based Information System)を試作。同年、日本でも、シナノケンシが厚生省の呼びかけでデジタル録音図書プレーヤーの開発に着手。なお、両者の機能は同じだが、互換性がなかったらしい。

1994年

 DAISY(スウェーデンのもの)の再生システム(Windows環境)の最初のプロトタイプが完成。

<参考文献>

2. デジタル録音図書規格の国際共同開発の開始と DAISY Consortium の結成(1995年から1996年まで)

1995年

■ 4月

 カナダのトロントでIFLAのデジタル録音図書の標準化をめぐる国際会議( 3rd International Meeting to Discuss Audio Technology as Applied to Library Service for Blind Individuals )が開催される。当時、IFLA/SLBの議長を務めていた河村宏氏が、シナノケンシが試作したデジタル録音図書プレーヤーを会議に持参して委員に披露する。それに対して、米国議会図書館(LC)の障害者サービス部門である視覚障害者及び身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped。略称は NLS。)のトップから試作品の紹介について米国議会図書館がこれを推奨していると思われると困るというクレームがつく。
<メモ>
 会議のその後の議論が先鋭化したのちの発言ということではあるが、NLCのトップは以下のような趣旨の発言をしたらしい。

  • 米国の利用者は現在の録音図書に満足しており、今後10年は利用者に提供するシステムの変更は行わない。
  • マスターテープのデジタル化の研究は勧めるが、国際標準化のためにそれを行うわけではない。
  • デジタル録音図書の国際標準化はIFLAで進めるべきだ。

 そこで、河村宏氏は、IFLAの役員全員(理事?)に集まってもらい、
(1) 2年以内に次世代録音図書の標準化をはかることをIFLAの名前で宣言する。
(2) その目標達成のために国際共同開発組織を発足させる
という二点を確認し、デジタル録音図書の標準化の検討が開始される。

<参考文献>

その後、7月、8月、12月の3回にわたり、スウェーデン、イギリス、日本で協議を行い、以下で合意する。

  • スウェーデンが開発していた録音図書の規格(当時のDAISY)を元に次世代録音図書の国際標準規格を開発
  • どのメーカーも参入できるように技術仕様は公開する。
■ 8月

 IFLAイスタンブール大会において、IFLA/SLBは、次世代録音図書の国際標準化の期限を2年後のコペンハーゲン大会までと決定する。

<参考文献>

1996年

■ 5月

 日本、スペイン、英国、スイス、オランダ、スウェーデンの6カ国により国際共同開発機構として DAISY Consortium がストックホルムで結成される(米国は参加を拒否)。TPBの Ingar Beckam 氏が最初の 会長 (Chair) となる。設立当時の会員施設は、以下の6機関・団体。

  • (日本)全国点字図書館協議会(現在の全国視覚障害者情報提供施設協会
  • (スペイン)スペイン盲人協会 (The Spanish National Organization of the Blind, O.N.C.E.)
  • (英国)英国王立盲人援護協会 (Royal National Institution for the Blind, RNIB)
  • (スイス)スイス視覚障害者図書館 (Swiss Library for the Blind and Visually Impaired, SBS)
  • (オランダ)オランダ視覚障害学生図書館 (The Dutch Library for Visually and Print Handicapped Students and Professionals, SVB)
  • (スウェーデン)スウェーデン国立点字録音図書館(The Swedish Library of Talking Books and Braille, TPB)と、スウェーデン視覚障害者協会(The Swedish Association of the Visually Impaired, SRF)
<参考文献>
■ 7月

 日本で、デジタル音声情報システムの標準化・実用化・促進にむけて、日本盲人社会福祉施策協議会とシナノケンシを軸とした「デジタル音声情報システム促進委員会」が結成される。

<参考文献>
■ 12月

 米国のNLSが米国情報標準化機構(NISO)を通じてデジタル録音図書の規格を策定することを発表。これがDAISY3の開発につながる。NISOがデジタル録音図書の標準化について定期的に討議するようになったのは1997年5月からになる。NLSのMichael M. Moodie氏がNISOのワーキンググループの議長を務めた。詳細は後述の「6. DAISY3の開発(1996年から2004年)」を参照)。

3. DAISYの国際評価試験と事実上の「国際標準化」(1997年)

国際評価試験の概要

 DAISYの開発のために、視覚障害者に実際に使用してもらい、コメントをもらう国際的な評価試験が行われる。この国際評価試験のために、評価試験実施委員会が日本国内と海外に分かれて組織され、河村宏氏が両方を統括する責任者を務めた。国際評価試験を経て、発展途上国を含む利用者の要求を反映した次世代録音図書国際標準規格案としてまとめられる。

 日本国内では、上述の「デジタル音声情報システム促進委員会」が DAISY Consortium と協力して100以上の国内施設・団体と実施した。点字図書館、盲学校関係者、ロバの会などのボランティアグループが手探りで評価用のDAISY図書を製作し、シナノケンシが試作したプレクストークを数百人の視覚障害者に実際に使用してもらい、感想とコメントを求めた。

 海外では、32カ国、千数百員以上の視覚障害者の参加を得て実施した。
○国際評価試験参加国
 アイスランド、アメリカ、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、インド、ウルグアイ、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、タイ、チェコ、チリ、デンマーク、ドイツ、日本、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、マケドニア、マレーシア、南アフリカ、ロシア。

1997年

■ 3月

・国際評価試験の中間評価会議が京都ハートンホテルで開催される。
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)が3月に毎年開催する「技術と障害会議」(Technology and Persons with Disabilities Conference : CSUN Conference)において米国でDAISYが初めて紹介される。RFB&D( Recording for the Blind & Dyslexic 。現在のLearning Ally )の技術チームの3人(うち1人はGeorge Kerscher 氏?)は、「これを境に人生が変わった」と当時を述懐。

■ 4月

河村宏氏が DAISY Consortium の暫定マネージャーに就任。

■ 5月

 DAISY Consortium は 「次世代録音図書のフォーマットに関する国際会議」(国際デジタル録音図書仕様会議)をスウェーデンのシグツナ(Sigtuna)で開催。DAISYをHTMLベースに変更し、マルチメディアに対応した第二世代(詳細は後述の「4. DAISYのマルチメディア対応(DAISY2の開発)」を参照)に進化させることを決定(その決定をうけて、米国RFB&DがDAISY Consortium への加入を決定する。)。30名の専門家がそれぞれの所属する団体に持ち帰って検討した後に正式な決定がなされるという留保つきではあったが、はじめて具体的に仕様を統一する方向が一致して確認された。

■ 7月18日から20日

国際評価試験の最終評価の国際会議が、東京の戸山サンライズで開催される。

■ 8月24日から8月25日

 IFLAコペンハーゲン大会の直前に同じコペンハーゲンで開催された DAISY Consortium 会議の最終日に米国のRFB&Dが DAISY Consortium に正式に加入する。なお、米国のNLSが加入するのは、2006年5月9日になる。

■ 8月27日から8月29日

 IFLAコペンハーゲン大会におけるIFLA/SLB 専門会議においてデジタル録音図書の「事実上の国際標準」(業界関係者の共通の認識となった)になる。
※テープのデジタル化を予定している各国の機関もIFLA大会の結果を見てから最終決断をするという暗黙の合意があったらしい。スペインなどは独自に開発し完成させたデジタル化設備の稼働を一時止めてまで国際動向に合わせようとした。

<参考文献>
■ 10月

米国RFB&D の George Kerscher 氏が DAISY Consortium のマネージャーになる。

4. DAISYのマルチメディア対応(DAISY2の開発)(1997年から2001年)

1997年

■ 5月

 DAISY Consortium は 「次世代録音図書のフォーマットに関する国際会議」(国際ディジタル録音図書仕様会議)をスウェーデンのシグツナ(Sigtuna)で開催。DAISYをHTMLベースに変更することで、ネットサーバーでの提供を可能にし、マルチメディアに対応した第二世代に進化させることに決定する。第二世代開発プロジェクトは、最初に打ち合わせた場所にちなんでシグツナ・プロジェクトと呼ばれる。

1998年

■ 4月

 プレクスター(現在のシナノケンシ)が世界初の視覚障がい者用デジタル録音図書読書機 TK-300の発売を開始する(この時点ではDAISY1.0のみに対応していたものと思われるが、10月にはすでにDAISY2.0に対応していた。 参考 プレクストークユーザーズマニュアル1998年10月 TK-300,TK-300B共通)。

■ 6月

 W3CがSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language) 1.0の仕様を勧告。
※SMIL1.0の草案を確認すると、1998年2月から4月の間の時期からDAISY Consortium の George Kerscher 氏は、SMIL 1.0仕様の開発に加わったと思われる。

■ 9月

 DAISY Consortium が、HTML4.0とSMIL1.0をベースにしたDAISY2.0の仕様を勧告。

2001年

■ 2月

 DAISY Consortium が、XHTML1.0とSMIL1.0をベースにしたDAISY2.02の仕様を勧告。XMLをベースとしたDAISY3が安定するまでの経過期間中のDAISY図書の基礎となるように意図された。

■ 12月

 DAISYの正式名称が “Digital Audio-based Information SYstem”から “Digital Accessible Information SYstem” となる。

5. DAISYの日本における普及(1998年から2004年)

厚生省(現在の厚生労働省)補正予算事業(平成10年度から平成12年度)

 平成10年度から平成12年度の厚生省の補正予算事業によって、全国の点字図書館等にDAISYの全国的な一斉導入される。500ユニット以上の製作システムと8800台のDAISY再生機器が日本障害者リハビリテーション協会から貸与される。2580タイトルのDAISY録音図書と601タイトルのデジタル法令集も製作され、全国の点字図書館等に日本障害者リハビリテーション協会から提供される。
2001年2月末までに13万タイトル以上のDAISY図書の貸し出しがあり、あらたに5500タイトルのDAISY録音図書が製作された。

<参考文献>

1998年

■ 4月

・名古屋ライトハウスがDAISY録音図書の貸し出しを開始。

2004年

 日本点字図書館がネットワーク配信サービス「びぶりおネット」がサービスを開始。

2006年

 著作権法が改正され、点字図書館等が視覚障害者に著作権者の許諾を得る必要なく、録音図書データの自動公衆送信を行うことが可能になる。

6. DAISY3の開発(1996年から2004年)

 DAISY3の仕様の開発が、DAISY2の開発と並行する形で、米国の規格としてNLSの主導?で始まる。上で述べたようなNLSのデジタル録音図書に対する対応を鑑みると、このタイミングでDAISY3の規格に結実するデジタル録音図書の標準化の議論が米国のNLS主導で始まる経緯はよくわからない。ここは、NLSという組織ではなく、人をみるべきところかもしれない(公刊あるいは公開された情報ではそこまでは読み取れなかったが)。もしかすると、NISOでWGの議長を務めたNLSのMichael M. Moodie 氏のリーダーシップによるところが大きかったのではないかと想像する。

1996年

■ 12月

 米国のNLSがデジタル録音図書の規格を米国情報標準化機構(NISO)を通じて策定することを発表する。

1997年

■ 5月

 米国情報標準化機構(NISO)のデジタル録音図書のあり方を議論する標準化委員会の最初の会議が開催される。NLSのMichael M. Moodie 氏がNISOのワーキンググループの議長を務めた。ここでの検討に DAISY Consortium も参加する。

1998年

■ 7月

 NLSが将来計画 “Digital Talking Books: Planning for the Future“で、デジタル録音図書のNISO内での標準化(つまり、DAISY3の開発)を含め、次世代のデジタル規格の録音図書に移行する計画を発表する。

2002年

■ 3月

 DAISY3仕様がANSI/NISP Z39.86-2002として米国の標準規格の1つに認定。

2004年

 米国で障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act : IDEA)が改正され、DAISY-XML方式の全国指導教材アクセシビリティ標準規格(National Instructional Materials Accessibility Standard : NIMAS)が制定される。就学前から高校までの全ての教科書をNIMASファイルに変換して、全国指導教材アクセシビリティセンター(NIMAC)を通じて配信されることになる。

2005年

■ 4月

 ANSI/NISO Z39.86-2002ANSI/NISO Z39.86-2005として改訂される。

<参考文献>

7. EPUBとDAISY(1998年から2012年)

1998年

■ 10月

 Open eBook initiative が発足。

<参考文献>

1999年

■ 9月

 Open eBook Publication Structure 1.0 が公開される(エディタの一人がDAISY Consortium の George Kerscher氏)。

2000年

■ 1月

 Open eBook Forum(OEBF) が発足。

■ 3月

 Open eBook Forum(OEBF) がニューヨークで最初の総会を開催。DAISY Consortium の George Kercher 氏がOEBFの理事会の議長に選出される。

<参考文献>

2007年

■ 9月

 IDPFが、EPUB2を構成する仕様であるOpen Packing Format (OPF) 2.0 と Open Publication Structure (OPS) 2.0の仕様を承認。EPUB2でDAISY XMLの語彙とDAISYのナビゲーションモデルをEPUBに採用される。

2008年

 ANSI/NISO Z39.86(DAISY3)の後継規格を、交換フォーマット(Part A : Authoring and Interchange Framework)と配布フォーマット(Part B : Distribution)を分けて開発する方向で DAISY Consortium が開始。

<参考文献>

2010年

■ 5月

 IDPF内においてWorking Groupが立ち上がり、EPUB3(当時は、EPUB 2.1)の開発が正式に開始される。

■ 10月

 IDPFが開発中しているEPUB3において、DAISY4世代の配布フォーマットとして求められる主要な要件が全て採用されることになったため、 DAISY Consortium の理事会はインドにおける会議において、DAISY4の配布フォーマットとEPUB3の”merger(統合)”を決定する。以後、DAISY4世代の仕様の開発は、DAISY AIの開発に注力することになる。

<参考文献>

2011年

■ 11月

 IDPFがEPUB 3.0の仕様を勧告。

2012年

■ 7月

 DAISY Consortium のDAISY AI (ANSI/NISO Z39.98-2012(Authoring and Interchange Framework for Adaptive XML Publishing Specification)) が米国の標準規格として承認される。

全体の主な参考文献

  全体を通してDAISYの開発の歴史を理解する上で、参考にした主な文献です。上で掲載した参考文献も一部再掲しています。

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