障害者差別解消法と図書館サービス 1 -そもそも障害者差別解消法とは-

 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称:「障害者差別解消法」)は、合理的配慮の提供などを義務づけ、障害者の権利の保障と実質的平等を確保することを目的として具体的な措置や義務を定めた法律で、2016年(平成28年)4月に施行を予定しています。
 
 エントリを何回かに分けて、この法律と図書館サービスとの関係を整理してみたいと思います。

1. この障害者差別解消法成立の背景

 後でも少し触れる「障害者の権利に関する条約」(通称:障害者権利条約)批准のための法整備の一環として制定されたものです。2013年6月に障害者差別解消法と障害者雇用促進法の改正法が成立したところで、2014年1月に日本政府は障害者権利条約に批准しています。
2006年12月 「障害者の権利に関する条約」(通称:障害者権利条約)採択
2011年8月  障害者基本法の改正(公布・施行)
2012年6月  障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)の成立
2013年6月  障害者差別解消法の成立・障害者雇用促進法の改正
2014年1月  日本が障害者権利条約を批准
 この障害者差別解消法は、2011年8月に改正された障害者基本法の第四条(以下)を具体化するために制定されたものです。

(差別の禁止)
第四条  何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
2  社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
3  国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

つまり、国際条約である障害者権利条約から、以下のように
障害者権利条約
  ↓
障害者基本法
  ↓
障害者差別解消法
という流れで、「障害を理由とする差別」を解消する措置が、具体化され、義務化されています。ですので、障害者差別解消法を理解するためには、障害者基本法と障害者権利条約も必要に応じて参照しなければなりません。
 例えば、用語の定義ですが、以下のように、「合理的配慮」、「障害に基づく差別(障害を理由とする差別)」、「障害者」などの重要なキーワードが、障害者権利条約と、障害者基本法・障害者差別解消法のいずれかにしか定義されていません。もちろん障害者権利条約、障害者基本法、障害者差別解消法はそれ単体で成立する独立したものであるため、それぞれで理解できるようになっていますが、より深く理解するためには必要に応じて、障害者権利条約で定義されたものを参照する必要があります。

障害者権利条約 障害者基本法 障害者差別解消法
障害に基づく差別(障害を理由とする差別) 定義有り 定義無し 定義無し
合理的配慮 定義有り 定義無し 定義無し
障害者 定義無し 定義有り 有り
社会的障壁 定義無し 定義有り 定義有り
ユニバーサルデザイン 定義有り 定義無し 定義無し
意思疎通 定義有り 定義無し 定義無し
言語 定義有り 定義無し 定義無し

2. 「障害を理由とする差別」とは何か

 「障害を理由とする差別」については、障害者権利条約 第二条の定義のところで以下のように定義されています。

障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。 (障害者権利条約 第二条 定義 「障害に基づく差別」より)

 
 「障害を理由とする差別」は、障害者の基本的人権を侵害する者であり、それには「合理的配慮の否定を含む」とあるように、合理的配慮を提供しないことも含まれています。これが障害者差別解消法では、以下のように

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 
「障害を理由とする差別」は以下のように区別して整理されています。「障害者の権利利益を侵害することとならないよう」とあるように合理的配慮の不提供が、障害者権利条約の考え方を受けて障害者の権利権益を侵害するものとして規定されているところは重要です。

  • 障害を理由とする不当な差別的取扱い
  • 合理的配慮の不提供

3. 障害者差別解消法における「障害者」とは

 では、「障害者」とは?ということになります。障害者基本法及び障害者差別解消法では、以下のように定義され、障害者手帳保持者に限定されません。また、障害は社会的障壁と相対することで生じるものとするいわゆる「社会モデル」の考え方に基づいた定義となっており、障害者差別解消法はこの「社会的障壁」の除去を目的としたものと言えます。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。(第二条)

 

医学モデルと社会モデル
医学モデル
機能障害機能障害(impairment)= 障害(disability)。つまり、機能障害(impairment)を障害(disability)の原因と見なす考え方
社会モデル
機能障害(impairment)×社会的障壁= 障害(disability)。つまり、機能障害(impairment)と社会的障壁(つまり、その機能障害に社会が対応できていない状況)が相対する時に障害(disability)が発生するという考え方

4. 障害者差別解消法によって具体的な措置が義務付けられている機関

 障害者差別解消法が障害者の権利の保障と実質的平等を確保するために各機関に義務付けている大きな柱が以下の4つです。

  • 障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止(第七条第一項、第八条第一項)
  • 環境の整備(事前的改善措置)(第五条)
  • 合理的配慮の提供(第七条第二項、第八条第二項)
  • 職員向け対応要領の作成・公開(第九条、第十条)
  •  
     上について具体的な措置を義務づけている対象は以下の通りです。

    • 行政機関等
      • 国の行政機関
      • 独立行政法人等
      • 地方公共団体
      • 地方独立行政法人
    • 事業者(商業その他の事業を行う者)

     
     そして、図書館は以下のように割り振られます。

    • 公共図書館:「地方公共団体」
    • 国立大学の大学図書館:「独立行政法人等」※
    • 公立大学の大学図書館:「地方独立行政法人」
    • 私立大学の大学図書館:「事業者」
    • 私立の図書館: 「事業者」
    • 学校図書館: 運営主体による

    ※国立大学法人は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令」によって「独立行政法人等」にあたることが規定されます。
     結論から申せば、上の4本柱は以下のように義務付けられています。

    (行政機関等)
    公共図書館
    公立大学図書館
    (行政機関等)
    国立大学図書館
    (事業者)
    私立大学図書館
    不当な差別的取扱いの禁止 義務 義務 義務
    環境の整備 努力義務 努力義務 努力義務
    合理的配慮の提供 義務 義務 努力義務
    対応要領の作成・公開 努力義務
    (設置主体である地方自治体全体に対する努力義務)
    義務
    (国立大学法人全体に対する義務)

    詳細はまた次回に。
    次回以降の更新予定
    障害者差別解消法と図書館サービス 2 -合理的配慮の考え方-
    障害者差別解消法と図書館サービス 3 -セットで考える合理的配慮、環境整備、そして、不当な差別的取扱いの禁止-
    障害者差別解消法と図書館サービス 4 -障害者差別解消法と図書館サービス-
    障害者差別解消法と図書館サービス 5 -(おまけ)障害者差別解消法に係る職員向け対応要領の作成と公開について-

    大学の障害学生支援室が著作権法第37条第3項の複製の主体に該当するかについての文化庁著作権課の見解

     著作権法第37条第3項では、著作権法施行令で定められた施設は視覚障害その他の理由で読書に困難のある人々のために著作者の許諾なく複製が行えるという権利制限が規定されています。大学については、著作権法施行令第二条第一項第一号ロにおいて、
    大学等の図書館及びこれに類する施設
    が複製の主体(著作権法第37条第3項に基づく複製が行える機関)として規定されています。
     大学図書館が複製の主体に含まれることは間違いありません。しかし、「これに類する施設」に何が該当するかという点です。
     現状として、視覚障害など障害のある学生のために著作物のテキストデータの作成は、ほとんどの大学で障害学生支援室のような学生支援部局が行っており、大学図書館でそれを行っているところは立命館大学図書館などのごく少数の例外を除き、ほとんどありません。
     大学図書館は著作権法第37条第3項の規定に基づいて著作物の複製が行えますが、障害学生支援室が、上の「これに類する施設」に該当するとは文字だけでは解釈できないために、障害学生支援室は、著作権法第30条に基づき、学生の私的複製(手足理論)という形でしか著作物を複製することしかできなかったのではないかと思います。この場合、学生の私的複製という形ですので、テキストデータを作成しても、製作を依頼した学生にしか渡すことしかできず、同じ著作物のテキストデータをリクエストした他の学生への提供も大学間で相互貸借や共同利用ができません。
     ちなみに、大学として、著作物のテキストデータ(「教材のテキストデータ化」)の作成をしているところは、以下の日本学生支援機構の平成26年度の調査によれば、89の大学が実施しています。

     各大学でどれだけの数が製作されているかまではこの調査ではわかりませんが、これだけの数の大学で製作したテキストデータの共同利用が進んでいないということは、非常にもったいないことだと思います。これについて、平成24年度に文部科学省が立ち上げた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」でも議論され、報告書でも言及されています。

     他の学生への提供も大学間で相互貸借や共同利著作権法第37条第3項に基づく複製であれば可能です。障害学生支援室が「これに類する施設」に該当する施設という解釈がはっきりすれば、各大学が作成したテキストデータなどの共同利用が一気に進む可能性があります。
     これについて、内閣府の障害者政策委員会の8月の会議で、障害者政策委員長である静岡県立大学教授の石川准先生の質問に回答する形で、文化庁著作権課が公に見解を示しました。議事録も公開されるはずですが、動画は公開されており、それを確認することができます。障害学生支援室が全て含まれるというわけでもなさそうですが、大学図書館の趣旨に合致するものが含まれるという見解です。該当部分のテキストを起こしてみました(一字一句すべてが正確というわけではないので、ご注意を)。

    障害者政策委員会 第25回動画 分割 2/2

    ※該当部分は、「第25回動画 分割 2/2の」58分33秒から1時間2分31秒。

    障害者政策委員長 石川准氏

    情報アクセシビリティと関係して、あるいは、教育とも関わってくる話ですが、著作権法の37条に関する点につきまして、文化庁著作権課にお聞きしたいのですけれども、政令で指定された機関が、視覚による読書に困難のある人々を対象として、著作物を複製することは、著作権者の許諾なしに認められる、というのがその37条の規定でありますけれども、その政令の中で大学の場合は、大学図書館がそのような機関として指定されております。ただし、現状の各大学における障害学生支援というのは、障害学生支援室といったところが中心になって行っておりまして、そこが例えば、視覚障害等あるいはディスレクシアの学生に対して著作物を電子データ化するといった作業も行っておりますけれども、これがそもそも著作権法第37条に基づく複製にあたるのかどうかということについて、各大学とも半信半疑、というところがございまして、したがって、共同利用、相互貸借みたいなこともできずにいるという状況がございます。それにつきまして、文化庁著作課としてのご見解、つまり、大学図書館等と書いてあって、障害学生支援室とは書いていないけれども、それも含むのか、あるいは、列挙型の規定となっているので、書いていないことは含んでいないのか、ということについて、この場を借りて、ご見解をいただけると有り難いと思います。

    文化庁著作権課課長補佐 秋山氏

    お問い合わせのありました著作権法37条3項の適用に関する部分ですけれども、同項の権利制限規定の適応のある主体に関しては政令で定める、ということになってございます。さきほどご説明いただいたとおりです。この政令でございますけれでも、著作権法施行令第二条第一項第一号ロにおきまして、この37条3項の規定の適用がうけられる主体として、「大学等の図書館及びこれに類する施設」と、このように定められてございます。ここにいう、「これに類する施設」といいますのは、大学図書館のように図書等の資料を備え置いて、学生に資料の貸出等の情報提供を行う機能、こういった機能を担う施設が想定されているものと解されるところでございまして、必ずしも名称が大学図書館となっていなくても、当然、その他のものが含まれるということは念頭に置かれているものと理解してございます。したがいまして、行政、私どもとしてまして、個々の事例への法令の適用関係について、個別に判断を申し上げる立場ではございませんけれども、ご質問のありましたのような、障害学生支援室といった名称を冠する組織につきましても、通常、上記の大学図書館のような趣旨に合致するものも多いと考えられますので、そうしたものにつきましては、基本的に「これに類する施設」に該当するというふうに解釈することもできるのではないかというふうに考えています。

    障害者政策委員長 石川准氏

    ありがとうございました。大変、明快なご回答をいただきまして、感謝いたします。

     
     障害者学生支援室のような学生支援部署も著作権法第37条第3項の複製の主体になりえる解釈を文化庁が公の場で議事録に残る形で示したことは大きいと思います。しかし、「大学図書館の趣旨に合致する」という条件めいたものがついていることが正直、わかりづらいところがありますね。情報提供だけすれば条件に合致するのか、資料も備えることがもとめられるのか。前者であれば、テキストデータ化をしているところは全て該当すると考えてよいように思いますが、後者の資料を備えることまで求められると該当するところはぐっと減る気がします。

    参考

    著作権法

    第三十七条  3  視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

    著作権法施行令

    第二条  法第三十七条第三項 (法第八十六条第一項 及び第三項 並びに第百二条第一項 において準用する場合を含む。)の政令で定める者は、次に掲げる者とする。
    一  次に掲げる施設を設置して視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う者(イ、ニ又はチに掲げる施設を設置する者にあつては国、地方公共団体又は一般社団法人等、ホに掲げる施設を設置する者にあつては地方公共団体、公益社団法人又は公益財団法人に限る。)
    イ 児童福祉法 (昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項 の障害児入所施設及び児童発達支援センター
    ロ 大学等の図書館及びこれに類する施設
    ハ 国立国会図書館
    ニ 身体障害者福祉法 (昭和二十四年法律第二百八十三号)第五条第一項 の視聴覚障害者情報提供施設
    ホ 図書館法第二条第一項 の図書館(司書等が置かれているものに限る。)
    ヘ 学校図書館法 (昭和二十八年法律第百八十五号)第二条 の学校図書館
    ト 老人福祉法 (昭和三十八年法律第百三十三号)第五条の三 の養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム
    チ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)第五条第十一項 に規定する障害者支援施設及び同条第一項 に規定する障害福祉サービス事業(同条第七項 に規定する生活介護、同条第十二項 に規定する自立訓練、同条第十三項 に規定する就労移行支援又は同条第十四項 に規定する就労継続支援を行う事業に限る。)を行う施設
    二  前号に掲げる者のほか、視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法第二条第六項 に規定する法人をいう。以下同じ。)のうち、視覚障害者等のための複製又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力、経理的基礎その他の体制を有するものとして文化庁長官が指定するもの

    「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることを規定した条約と国内法

     「障害を理由とする差別」が障害者の権利権益の侵害に該当するいうこと、それに合理的配慮の不提供も含まれることについて、障害者権利条約と国内法がどう規定しているかについて、少しまとめてみました。
     

    障害者の権利に関する条約(障害者権利条約) 第二条 定義

    「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。

     「障害に基づく差別」の定義ですが、「障害を理由とする差別」と同じと考えてよいと思います。ここでは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限で、あらゆる分野における障害者の人権を侵害する行為を「障害に基づく差別」と定義しています。それに「合理的配慮の否定を含む」と合理的配慮の不提供も人権侵害である「障害に基づく差別」と定義していることが重要です。

    障害者基本法

    (差別の禁止)
    第四条  何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない
    2  社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
    3  国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

     2011年に改正された障害者基本法の障害を理由とした差別を禁止した第四条です。国内法で初めて合理的配慮に言及したものです。ここでは、障害者権利条約を受けて、障害を理由として障害者の権利権益を侵害してはならないと第四条第1項で規定しています。そして、第四条第2項では、「前項の規定に違反することとならないよう」、つまり、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしないように、合理的配慮を提供しなければならないと規定しています。
     

    障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)

    (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止
    第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
    2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
    (事業者における障害を理由とする差別の禁止
    第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
    2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

     障害者差別解消法で、障害を理由とする差別の禁止を行政機関等(第七条)と民間事業者(第八条)に具体的に義務付けたものです。障害者権利条約で定義された「障害を理由とする差別(障害に基づく差別)」を障害差別解消法の第七条と第八条では、以下のように二つに分けて整理しています。

    • 障害を理由とする不当な差別的取扱い
    • 合理的配慮の不提供

     二つに分けたのは、合理的配慮の提供の義務付けが行政機関等と民間事業者で異なるからだと思いますが、いずれにしても、合理的配慮の不提供も「障害を理由とする差別」とし、合理的配慮を提供しないことが「障害者の権利利益を侵害」する行為であることを規定しています。