曖昧になるWebコンテンツと「書籍」コンテンツの境界 – HTML5電子書籍余話 その2 –

 当初、このエントリは「Webサイト化する電子書籍– HTML5電子書籍(2) -」のまとめとして書いていたものだったのですが、いつものように長くなってしまったので、エントリを独立させました。
 

1.前回のエントリをうけて

 というわけで前回のエントリでは「Webサイト化した電子書籍」と「電子書籍的UI」を付与する方法について紹介してきました。あのエントリをお読みいただいた方の中には以下のような疑問を抱いた方もいるのではないかと思います。
 
 従来のWebサイトとWebサイト化した電子書籍を区別する必要はあるのか。
  
 コンテンツの由来が紙の「書籍」由来であろうとWebオリジナルであろうとWebサイトとしては同じではないか、「電子書籍的UI」はデザイン上の些細な違いでしかない。そうお考えの方もいらっしゃるだろうと思います。
  正直、意見が分かれるところだと思いますが、私自身は後で述べる理由で少なくとも紙の出版物が消滅するということでもない限りは、今後もある程度区別はされていくと考えています。しかし、WebとWebサイト化した「書籍」コンテンツがビュワーとして同じようなデバイスとブラウザを共有している以上、その違いはこれまでのWebと「書籍」のような絶対的なものではなくなり、相対的なものになっていくだろうも考えています。 
 
 

2. Webコンテンツと電子書籍の共通する大前提

 Webコンテンツもリフロー型電子書籍(Webサイト化したものに限らず)は以下のような様々なサイズのデバイスに対応しなければなりません。
デスクトップ、タブレット、スマートフォンの図
 
 Webコンテンツや「書籍」コンテンツがどれほど優れたデザインをしていようと、読者が読むデバイスで読みづらかったらその読者にとってその「優れたデザイン」は何も意味はありません。「Web」や「書籍」というコンテンツそのもののデザインを論じる前に、その読まれるデバイスへの最適化するためのUIを考慮する必要があります。つまり、デバイスのインターフェイスを無視したコンテンツのUIはありえないということですが、言い換えると
 
  デバイスのインターフェイスがコンテンツのUIを規定する。 
 とも言えます。これが大前提です。
 Webコンテンツとリフロー型電子書籍の場合は、特定のデバイスのインターフェイスの制約に規定されるのでなく、様々なスクリーンサイズのデバイスのインターフェイスに対応しなければならないという制約がコンテンツのUIを規定することになります。
 
 同じ制約のもとで読みやすいUIを追求していく限り、Webコンテンツも「書籍」コンテンツも似たUIを持つ可能性はあります。Webサイト化した電子書籍はデバイスだけではなく、Webブラウザというビュワーまで同じくするのですからなおさらです。
 
 

3. 「電子書籍的UI」の意義

 では、Webコンテンツと「書籍」コンテンツは同じデバイス上で読まれる限りは同義ではないかと言われてしまいそうですが、
  Webコンテンツと「書籍」コンテンツは長さが違う。 
  
  ということで、他にもいろいろと違いはあるのですが、端的にいえば、長さという点で大きく異なります。
 
 「書籍」というコンテンツは100頁強の量でも少ない部類に入りますが、Webコンテンツは紙に打ち出せば、A4で数頁で収まるものが主流です。WebコンテンツのUI(Webデザイン)は大雑把にいえば、そのA4で数頁という長さに最適化するためにこれまで試行錯誤してきたわけです(もちろんそれだけではないですけど)。同じデバイス上で読むとはいえ、WebコンテンツのUIに「書籍」コンテンツにそのまま適用するわけにはいきません。
 将来の有り様はわかりませんが、現在の「書籍」コンテンツには長いコンテンツを読むことに集中できるUIが求められています。「Webサイト化した電子書籍」に「電子書籍的UI」というものを付与する意味があるとすれば、そこにこそ意味があるのだと思いますし、Webコンテンツと「書籍」コンテンツを分かつものだと思います。つまりは、長いコンテンツを読むのに適したUIが「電子書籍的UI」なのであって、必ずしもページめくりのエフェクトが必要だとか具体的なUIを指しているわけではありません。長いコンテンツを読むのに適したUIはコンテンツごとに異なってくるわけですから。
 
 「書籍」コンテンツが100頁強でも短いとされるのはその前提として「紙の書籍」が存在するからです。同じコンテンツが紙版と電子版で刊行という次元の話ではなく、紙の書籍という存在そのものが比較の対象として「書籍」コンテンツの長さをある程度規定している。50頁や100頁の「書籍」コンテンツは読者に「短い」と感じさせ続けるわけです。
  

4. 曖昧になるWebコンテンツと「書籍」コンテンツの境界

 とはいえ、Webコンテンツと「書籍」コンテンツの違いは絶対的なものではなく、相対的な違いではしかないと思います。ここでは、長さを1つの基準にしましたが、「書籍」コンテンツの影響を受けて「長くなるWebコンテンツ」が出てくるでしょうし、もちろんWebコンテンツの影響をうけて「短くなる書籍」コンテンツもでてくるでしょう。Webコンテンツと「書籍」コンテンツの境界線はどんどんあいまいになっていくことになります。
 従来のWebコンテンツと比較すると長い過ぎる、しかし、「書籍」コンテンツと比較すると短いと思えるWebと「書籍」の中間に位置するような、Webとも「書籍」ともカテゴライズできないコンテンツがでてくることに私自身は期待もしているのです。これについては一度以下のエントリで詳しく書いたことがあります。
「書籍」と呼ぶには短い電子書籍というコンテンツと従来よりちょっと長くなったWebというコンテンツの相対的な関係
 

【おまけ】ここであまり書かなかったこと

 このエントリでは「電子書籍的UI」の付与の仕方とその意義については述べましたが、「電子書籍的UI」についてはほとんど言及しませんでした。すでに長いこのエントリがさらに長くなるからというのが主な理由ですが、過去のエントリでも一度書いたことがあります。この長いエントリを読んだ後でもさらに読んでやろうという奇特な方がいらっしゃったら、一度お読みいただけると幸いです。
ぼくのかんがえる電子書籍リーダーのUI : 紙の書籍のUIを真似ただけでは足りなくて