ウェブアクセシビリティを考慮する場合、、ガイドラインであるW3CのWCAG2.0と日本のJIS X8341-3:2010に対する理解が重要になってきます。この2つのドキュメントの位置づけと読み方を中心にまとめました。
なお、これから言及するドキュメントに日本語訳がある場合で、特に断りのない場合は財団法人日本規格協会もしくはウェブアクセシビリティ基盤委員会による日本語訳です。
目次
Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0の概要
Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) はW3Cが策定したウェブコンテンツアクセシビリティのガイドラインで、WCAG2.0が2008年にW3C勧告になっています(最初のWCAG 1.0は1999年にW3C勧告として公開)。
そして、WCAG2.0は先日、国際規格(ISO/IEC 40500:2012)にもなりました(中身はWCAG2.0と同じ)。
WCAG2.0はW3Cの規格文書であり、コロコロとその内容を変更するわけにはいきません。長期的な使用に耐えうるよう技術非依存な形で抽象的に記述されており、具体的な意図や技術などについては、以下の関連文書を参照するようになっています。
- How to Meet WCAG 2.0
クイックレファレンス。 - Understanding WCAG 2.0
抽象的に記述されたWCAG2.0の個々のガイドラインについてその意図、基準、意義を具体的に解説し、関連するTechniques for WCAG 2.0の項目を案内などしています。
(2008年12月版日本語訳, 2010年1月エディターズドラフト版日本語訳) - Techniques for WCAG 2.0 (日本語訳)
HTML、CSS、PDFといったWeb技術のトピックごとに実装方法を解説したドキュメントです。不適合事例などといういわゆる失敗事例についても解説しています。
つまり、WCAG2.0を理解するためには、WCAG2.0だけではなく、上の関連文書も参照する必要があるのです。
JIS X8341-3:2010とWCAG2.0の関係
日本のウェブコンテンツアクセシビリティについて規定した最新の規格はJIS X8341-3:2010(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ)です。2004年に発表されたJIS X8341-3:2004を見直し、WCAG2.0の成果を取り込んで2010年に発表されました。
なお、閲覧だけなら日本工業標準調査会のウェブサイトから無料で可能です。
JIS X8341-3:2010 は「箇条7 ウェブコンテンツに関する要件」にWCAG 2.0 ガイドラインをほぼそのまま取り込む形になっています。
例: WCAG 2.0の1.4.8 とJIS X8341-3:2010の7.1.4.8
章節の関係も維持されている(WCAG 2.0の「1.4.8」がJIS X8341-3:2010の「7.1.4.8」に)
○WCAG 2.0の”1.4.8 Visual Presentation”
1.4.8 Visual Presentation
For the visual presentation of blocks of text, a mechanism is available to achieve the following: (Level AAA)
Foreground and background colors can be selected by the user.
Width is no more than 80 characters or glyphs (40 if CJK).
Text is not justified (aligned to both the left and the right margins).
(以下、略)
○JIS X8341-3:2010の「7.1.4.8 視覚的な表現に関する達成基準」
7.1.4.8 視覚的な表現に関する達成基準
テキストブロック(テキストの一文よりも長いもの)の視覚的な表現には、次を実現するメカニズムを提供しなければならない。
a) 利用者が前景色と背景色を選択できる。
b) 1行の長さを、半角文字(英数字以外も含む。)で80字以内(日本語、中国語及び韓国語の場合は、40字以内。)収めることがができる。
c) テキストが、均等割付けされていない「両端そろ(揃)えではない。」。
(以下 略)
注記 この達成基準は、等級AAAの達成基準である。
つまり・・
- JIS X8341-3:2010の基準に従うことで、WCAG2.0に従うことになり、さらにWCAG2.0を国際規格化したISO/IEC 40500:2012に従うことにもなる。
- JIS X8341-3:2010を理解するためには、上述のWCAG2.0の関連文書を読む必要がある。
ということになります。
なお、JIS X8341-3:2010にあって、WCAG2.0にないものは、「箇条6 ウェブアクセシビリティの確保・向上に関する要件」と「箇条8 試験方法」あたりのようです。
JIS X8341-3:2010(=WCAG2.0)の達成基準
JIS X8341-3:2010「箇条7 ウェブコンテンツに関する要件」の各要件には、やさしいほうから
- 等級A
- 等級AA
- 等級AAA
の三段階の達成基準が設けられています(WCAG2.0と同じ)。
各機関、団体は達成基準のいずれかの等級の要件をどの程度を満たすかを目標として設定します。設定した目標はウェブサイト上で公開することが推奨されています。そういえば、最近、自治体、企業のウェブサイトで以下のようなページを見かけるようになりました。
ウェブサイトを外部の企業に発注する場合、仕様書に
JIS X8341-3:2010 に対応する
と書くのではなく、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が公開する「JIS X 8341-3:2010 対応発注ガイドライン 2012年8月版」にあるように、
JIS X 8341-3:2010の等級Aに準拠すること。
本仕様書における「準拠」という表記は、情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2010 対応度表記ガイドライン 第1版 – 2010年8月20日」で定められた表記による。
(http://waic.jp/docs/jis2010-compliance-guidelines/index.html)
という書き方が求められます。
なお、等級AAAの要件に適合、もしくは準拠することを目標とすることは、コンテンツによっては等級AAAを完全に満たすことができないため、「推奨しない」とWCAG2.0やみんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)に書かれてあったりしています。まずは等級A、等級AAの達成基準に適合、準拠することを目指すのが現実的なのでしょう。
WCAG2.0とJIS X8341-3:2010が対象とするウェブコンテンツとは
WCAG2.0とJIS X8341-3:2010の対象は、ウェブサイトではなく、ウェブコンテンツ(Web技術によって作成されたコンテンツ)であり、ウェブサイトだけではありません。EPUBなどの電子書籍フォーマットなどもその対象になるかと思います。
ウェブコンテンツとは、ウェブブラウザ、支援技術などのユーザーエージェントによって利用者に伝達されるあらゆる情報及び感覚的な体験を指し、例えば、ウェブアプリケーション、ウェブシステム、携帯端末などを用いて利用されるコンテンツ、インターネット、イントラネット、CD-ROMなどの記録媒体を介して配布されるウェブコンテンツ技術を用いて制作された電子文書、ウェブブラウザを用いて操作する機器などに適用する。
from JIS X8341-3:2010「1.適用範囲」
Web技術はその汎用性の高さから、電子文書のフォーマットやアプリケーションのGUI部分、家電などなど、その利用される範囲はさらに拡大していくものと思われます。それはWCAG2.0とJIS X8341-3:2010の適用範囲が今後拡大していくことを意味しますので、ガイドラインに対するより深い理解が求められることになります。Webに慣れていない業種にとっては大変なことではありますが、アクセシリビリティガイドラインの標準化がWebを超えて進むことになれば、よいことのほうが多いような気がします。
(補足)HTML5の仕様 ※2013/1/3追記
ウェブアクセシビリティを考慮する場合には、W3Cが規定するウェブに関する各種仕様、特にHTMLの仕様は参照する必要があります。
HTMLの仕様には各要素・各属性にどのように記述するべきかが記述されていますので、img属性のalt属性には何に記述するべきか迷った場合などに参考になるはずです。HTMLもバージョンごとに要素や属性の定義が変化していますので、準拠するHTMLのバージョンの仕様を参照しましょう。すでにHTML5の仕様が勧告候補になっています。img要素など既存の要素の定義もかなり見直されているようですので、HTML5に準拠する場合は注意が必要です。
- HTML5 A vocabulary and associated APIs for HTML and XHTML
(Web制作者向けのサブセット版の日本語訳をHTML5日本語化で参照することができます。今のところ、ほとんど?全て?@momdo_さんが訳されているような・・。すごい・・)
参考文献
- ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)
このウェブサイトで公開されている各種ドキュメント類はほぼ全て必読です(私自身、まだ全部読んだわけではないのですが)。 - みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)
公的機関のホームページをJIS X 8341-3:2010に準じてアクセシブルにするためにやるべきこと、その手順や段取りなどが示されています。 - 『Webアクセシビリティ完全ガイド―2010年改正JIS規格対応』(アライド・ブレインズ編、日経BP、2010年)
現時点では唯一のJIS X 8341-3:2010の解説書です。JIS X 8341-3:2010を理解しようと思うなら必読ですが、これだけは充分ではないので、次は、もしくは最初から”Understanding WCAG 2.0 (日本語訳)”を読むとよいと思います。 - 『JISハンドブック 38 高齢者・障害者等[アクセシブルデザイン]』
アクセシブルデザインに関する規格がまとめられたJISハンドブックです。JIS X 8341は高齢者・障害者配慮設計指針(アクセシブルデザイン)分野における情報通信関係の規格でウェブコンテンツはその枝番3がふられています。JIS X 8341-3:2010の規格票単体を購入することも可能ですが、JIS X 8341-3:2010単体で3,150円、 JISハンドブックは、もろもろの規格が収録されて8,085円ですので、アクセシブルデザインに関係するその他の規格も参照したい場合はハンドブックがお得です(→収録規格[PDF])
【参考】高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス(JISX8341)
JISX8341-1 第1部:共通指針
JISX8341-2 第2部:情報処理装置
JISX8341-3 第3部:ウェブコンテンツ
JISX8341-4 第4部:電気通信機器
JISX8341-5 第5部:事務機器
JISX8341-7 第7部:アクセシビリティ設定
関連エントリ
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- アクセシビリティに配慮した代替テキストの話
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