DAISYの後継の規格がEPUB 3にという話になると、これまでDAISYでコンテンツを作成してきた機関もいつEPUBに移行するべきなのかという話にもなるかと思います。
IDPFとDAISY Consortiumにおいて、EPUB 3やZ39.98-AI(いわゆる「DAISY4」)などでエディタとして仕様の作成に貢献したMatt Garrish氏が自身のブログで、DAISYからEPUBへの移行をいつ行うべきかについて書いています。移行のタイミングについてよく相談をうけているみたいですね。
Matt Garrish氏はEPUBへの移行のタイミングについて完璧な回答は難しいとしつつ、以下のように書いています。箇条書きでポイントをまとめると、以下のとおりです。
- EPUB 3のリーディングシステムの実装がまだ不完全。
- EPUBに対応していないDAISYプレイヤーを設置し、利用者に使わせているのであれば、EPUBへの移行の可否はそれらのデバイスのアップデート次第。
- 移行コスト次第では、EPUB 3の新機能も魅力的ではないこともあるだろう。
- EPUBが機能的にDAISYに勝っている点は、多くの読者にとってはあまり重要でないことである。
- 同じSMIL技術を活用しているので、音声ありEPUBとDAISY3、DAISY2.02を区別できるユーザーは多くない。
- ユーザーがほぼ障害者に限定されていたDAISYと異なり、EPUBのようなメインストリームのフォーマットは著作権法に定める権利制限の規定と衝突するかもしれない。
- 上の理由で、EPUBへの移行は、図書館の資料の製作・購入及び図書館間貸出の方法を変更することを意味する。出版社からライセンスの提供を受ける必要があるかもしれない。
- 既存のDAISY関係のツールが最新のOSで動かなくなれば、変化へ踏み出す動機も持ちうるだろう。
- Webコンテンツの同様、EPUBの変化は早い。 EPUB 4が出ても後方互換性は保証されない(かもしれない)。DAISYフォーマットのように静的ではないので、アウトプットフォーマットを1つに絞るべきか、複数管理するべきかでずっと悩むことになる。
- EPUB 3の転換点は、教育の領域から来るかもしれない。EPUB 3の新機能は、教育関連のコンテンツに向いているので、EPUB3の採用への後押しが教育分野に来るようになっている(例えば、EDUPUB参照)
- 教育分野の後押しはEPUBのリーディングシステムや製作ツールの改善を推し進めるだろうが、それでも、あなたの置かれているユニークな状況のために移行の問題を完全に解決することは決してないだろう。
DAISYユーザーにはEPUBに移行したメリットは感じづらい。ビューワーなどの実装も完全ではないので、無理してて今移行する必要はない。あなたの環境も含めて機が熟するまで待てということでしょうか。
EPUBに移行した場合、ビューワーの操作方法の習熟などの学習コストをユーザーに強いることになりますし、DAISYユーザーが自然とEPUBを使用するようになるまでは難しかろうと思います。そのためには、DAISYユーザーでも使えるEPUBビューワーの普及と、アクセシブルなEPUBコンテンツの質量ともの拡大が必要でしょうか。
2014/02/19追記
上で紹介したMatt Garrish氏のブログは、その後、DAISY Planet2014年1月号に転載され、それが日本障害者リハビリテーション協会によって日本語に翻訳されて、以下で公開されています。
目次
関連エントリ
EPUB 3とDAISY 4の関係
- EPUB3 ≒ DAISY4 — EPUB 3とDAISY 4の関係と現在の状況 –
- 必ずしも全てのEPUB 3が「DAISY」ではない
- DAISY-AI(DAISY 4)コンテナだっ!
- Accessible EPUB Reading System – DAISYユーザーのためにEPUB 3リーディングシステムが求められること
DAISYからEPUB 3に変換する
- DAISY4からEPUB3への橋渡し役、DAISY Pipeline 2
- DAISY Pipeline 2のGUI版
- 音声のみのDAISY(DAISY 2.02)から EPUB 3 with Media Overlaysを生成する
- マルチメディアDAISY(DAISY 3)から EPUB 3 with Media Overlaysを生成する
- DAISY-AI(DAISY4)から生成したEPUB 3のセマンティクス(epub:type属性)
DAISY再生ソフト・機器のEPUB対応
<
ul>