全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN) 第1回大会 参加メモ

 全国高等教育障害学生支援協議会(Association on Higher Education and Disability of Japan : AHEAD JAPAN) 第1回大会に1日目、2日目全ての日程参加してきました。AHEAD JAPANは高等教育機関における障害学生支援に関する相互の連携・協力体制を確保を目的に2014年10月に成立した団体です。
日程、場所、プログラム等は以下。

大会概要

日時:2015年6月19日(金曜日)、6月20日(土曜日)
場所:東京大学先端科学技術研究センター(東京都目黒区駒場4-6-1)
詳細: 全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN) 第1回大会
 で、これはその参加メモです。
 1日目のプレカンファレンスには200名は参加していたそうで、おそらく2日目もそれくらい。まさに全国の障害学生支援関係者が一同に介していた感じではなかったかと思います。図書館関係者で参加していたのは、佛教大学の松戸宏予先生をのぞけば、おそらく私一人ぐらいだったと思います。
 この大会全体の大きなテーマが

  • 2015年4月に予定されている障害者差別解消法の施行に向けて国公立大学と私立大学に求められる対応

というもので、特に国立大学法人は、職員向けの対応要領を今年度中に作成することが義務づけられているので、時期的にはすでに待ったなしの状況。ということもあり、障害学生支援に積極的な大学が多く参加したということもあり、私が参加した国公立大学等分科会も含めて具体的で前向きな検討がなされている印象でした(私立大学等分科会のほうは参加していないので知りませんが・・・)。
 障害者差別解消法で求められる大学の対応については、以下にまとめたので、こちらをご参照ください。

 日本学生支援機構(JASSO)の実態調査でもわかることですが、今回の大会での議論、ポスター発表等を見ると、聴覚障害者、発達障害者、肢体不自由の学生が在学する大学が多く(JASSOの調査だと、病弱・虚弱の学生も多い)、視覚障害の学生が在学する大学は少ないということもあって、関心も前者に対する支援のほうが高い。公共図書館の障害者サービスが視覚障害者に対するサービスから始まっているので、「障害者」といえば視覚障害者がまず頭に浮かびますが、図書館が視覚障害者以外の障害者に対するサービスをもっと充実させないといけないのかなと思ったり。視覚障害者の障害学生そのものが少ないという点については、視覚障害者が大学進学に到達するには、勉学の上でいろいろな障害があるということも。公共図書館における障害者サービスと大学図書館におけるそれもだいぶ意味が変わってくるのでしょうか。
 2日間のイベントの内容を逐一紹介するのはさすがにやめておきますが、ざっくりと。
 

1日目プレカンファレンス

 1日目。プレカンファレンスといいつつ、障害学生支援について先進的な大学の具体的な取り組みついて情報交換されたり、対応要領の作成を想定した議論があったりと、大会の本丸はこの1日目だったと思います。

セミナー「差別解消法と合理的配慮の提供に向けた体制整備に必要なこと」

 配付資料として、協議会が作成した対応要領案が配布され、それを石川准先生(静岡大学)、村田淳先生(京都大学)、高橋知音先生(信州大学)、竹田一則先生(筑波大学)が解説。私立大学関係者向けには、柏倉秀克先生(日本福祉大学)が文部科学省から告示だされる対応指針を想定した体制整備について日本福祉大学の事例を紹介しつつ解説。
 「合理的配慮の否定」は、「障害を理由とする不当な差別的取り扱い」(これは事業者(民間)含めて禁止されている)に繋がるものですが、<「合理的配慮の提供」ができない>(「合理的配慮の提供」は、公的機関は義務、事業者(民間)は努力義務)との区別しづらい状況もあるかも(区別する必要があるかどうか微妙ですが)。
 会場からは学生の評価の方法と合理的配慮の不提供の兼ね合い、つまり、ノートテイクなどの十分な合理的な配慮を提供できなかった場合は、その学生の評価をするべきか、とかLGBTは障害者差別解消法でいうところの障害者に含まれるのか(例えば、ユニセックストイレの設置等の問題)などの質問がでました。

法人分科会「学内体制整備における問題点の共有」

 国公立大学等分科会と私立大学等分科会のうち、私は国公立大学等分科会に参加。 
 午後に引き続き、対応要領案をベースに話が進められました。ここでは、筑波技術大学、群馬大学、宮城教育大学、富山大学、筑波大学など障害学生支援に積極的な大学が具体的な事例を中心に積極に発言して分科会をひっぱっていたので、全体としてかなり前向きに議論が進められたのではないかと思う。
 例えば、以下について議論がなされていました。

  • 合理的配慮の提供の前提となる意思の表明は本人からのみか
  • 教員の教育方針から
  • 障害学生支援のための予算の獲得について
  • 専門性のある組織体制の構築
  • 合理的配慮の提供と学生の評価の関係(例えば、ノートテイクなどの十分に合理的配慮が提供できない場合のその学生の評価はどうあるべきか)
  • 対応要領の作成で障害者当事者団体に意見を聞くということになっているが、どの段階で行うべきなのか
  • 対応要領に従わない教職員への対応はどうあるべきか

2日目(メインカンファレンス) 



基調講演(ピーター・ブランク教授)

 シラキュース大学のピーター・ブランク教授による基調講演。テーマは「米国の障害学生支援の制度と課題」のはずですが・・・・、どちらかというと、6月22日にブランク教授が立命館大学で行ったシンポジウムの基調講演のテーマに近い気がしないでもない。しかし、話としては、とても面白かった。ブランク教授はWebの柔軟性を信じていて「だれもが使いやすい」と「特定の個人に特化して使いやすい」はWebでは両立しうると考えている。
 
 講演はブランク教授が2014年に出した以下の著書の前半部分を中心になっているとのこと。

eQuality: The Struggle for Web Accessibility by Persons with Cognitive Disabilities (Cambridge Disability Law and Policy Series)

 ところで、ブランク教授が話の中で言及していたRaising the Floor (RtF)が進める”GPII”というプロジェクト、どこかで聞いたことがあるとかと思ったら、自分でブログに書いていた(すっかり忘れてた・・)。

 これまた話がまた少し外れますが、ビル・ゲイツが、最近、グラフや写真などを文字や音に翻訳する技術の特許を申請したという話をブランク教授がしていた。ピカソの絵画があったとすると、コンピューターがそれを文字や音に翻訳してつたえる技術のようです。気になって探してみたけど、よくわからず。

情報共有セッション「差別解消法,合理的配慮の現状と今後」

 内閣府の方が障害者差別解消法とその基本方針、文部科学省の方がそれに対応する高等教育関係の政府内の動き、厚生労働省が改正障害者雇用促進法を紹介。
 会場から、雇用促進法は改正されたが、国家公務員法は改正されなかった(国立大学法人は国家公務員法に準じる運用をする?)。自立通勤通勤ができること、介助なしに業務が遂行できることが応募条件にすることを今だにある。介助者が必要な障害者は応募すらできないということにになる。これは不当な差別的取り扱いになるのか、なるなら国家公務員法はどうなるのかという趣旨の質問がでていました。
  
 

AHEAD JAPAN 大会に行きそびれた方、関西の方

 AHEAD JAPAN 大会に行きそびれた方、関西の方であれば、7月に以下のイベントが京都大学で行われます。プログラムと登壇者をみると、内容的には、AHEAD JAPAN 大会1日目の内容に近い話がされる気がします。

障害者差別解消法と大学に求められる取り組みについて

 障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)は障害者の権利の保障と実質的平等を確保することを目的として具体的な措置や義務を定めた法律で、2015年4月に施行されます。詳しくは法の条文今年2月に閣議決定された基本方針を読んでいただければよいのですが、各機関、各法人、事業者(民間)に対して様々な措置が義務化あるいは努力義務化されています。大学に関して言えば、大さっばに主に以下の4つです。

国立大学法人 公立大学法人 学校法人(私立大学)
1 障害を理由とする差別の禁止 義務(第七条第一項) 義務(第七条第一項) 義務(第八条第一項)
2 環境の整備(事前的改善措置) 努力義務(第五条) 努力義務(第五条) 努力義務(第五条)
3 合理的配慮の提供 義務(第七条第二項) 義務(第七条第二項) 努力義務(第八条第二項)
4 職員に対する対応要領の作成及びそれの公開 義務(第九条) 努力義務(第十条)  -

 このほかにも相談窓口の設置や職員に対する啓発活動等なども求められますが、これは4の対応要領を作成する過程で整備されるはず。
 1、2,3については、以下をご参照ください。

4の職員向けの対応要領とは、上の1、2、3について職員が適切に対応することができるように法人が職員を対象して作成する要領で、基本方針に即して言えば、

  • 事務・事業を行うに当たり、職員が遵守すべき服務規律の一環として定められる必要がある。
  • 対応要領の作成に当たり、障害者その他の関係者を構成員に含む会議の開催、障害者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成後は、対応要領を公表しなければならない。
  • 想定される記載事項: 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方及び具体例、相談体制の整備、職員への研修・啓発

となります。
 私立大学に対しては、対応要領作成・公開の義務が課されていませんが、文部科学省が事業者(民間)向けに対応指針を告示する予定であるため、それに対応することが求められます。文部科学省は今まさにそのためのヒアリングを進めているところのようです。

参考 大学において求められる「教育上の合理的配慮等」-文科省の障がいのある学生の修学支援に関する検討会-

 文部科学省内に設置された「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」において2012年6月から2012年12月の間に9回にわたり、大学等における教育上の合理的配慮の対象範囲について検討が行われ、その検討結果が「報告(第一次まとめ)」としてまとめられ、2012年12月に公開されています。

参考

合理的配慮のあり方も検討した文科省の特別支援教育の在り方に関する特別委員会(H22年度〜H24年度)

 2010(平成22)年7月から2012(平成24)年6月にかけて、文部科学省が中央教育審議会の下に特別支援教育の在り方に関する特別委員会を設置し、インクルーシブ教育のあり方について検討を行っています。ここで、障害児教育で提供するべき合理的配慮及びその基礎となる環境整備のあり方についても検討されています。

 設置は、2010(平成22)年6月29日の閣議決定(「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」)を受けてのようです。この特別委員会は最終的に以下の報告書をまとめました。

 この3章が「障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備」であり、合理的配慮とその前提となる基礎的環境整備の考え方についてまとめられています。ここでは、内容については詳しく触れませんが、合理的配慮の提供は、あくまで個別の事例に対応するためのものであり、その前提として基礎的な環境の整備が重要であることが繰り返し述べられています。課題の整理もどちらかと言えば、基礎的環境整備を中心にまとめられています。
合理的配慮と基礎的環境整備については、以下のエントリでまとめましたことがあります。上の委員会時にはまだ存在しない障害者差別解消法における考え方ではありますが、同じであるはずですので、ご参照ください。

  合理的配慮の検討については、この特別委員会のさらに下にワーキンググループが2011(平成23)年7月に設置され、そこで主な検討がなされています。

ちなみに時期的には、日本の法律で初めて合理的配慮の概念を採用する改正障害者基本法が参議院で可決されるのが2011(平成23)年7月29日で、上のワーキンググループの設置が特別委員会で決まったのが同年5月というのですから、政府内の合理的配慮に関する検討ではおそらくかなり早い方ではないでしょうか。
 この特別委員会が終わる時期とほぼかぶるタイミングで、同じ文部科学省内で「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が2012(平成24)年6月に立ち上がり、今度は大学などの高等教育における「教育上の合理的配慮等」の検討が開始されています。