筑波大学の「LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン」改訂版

 筑波大学が「LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン」の改訂版を2018年3月に公開しています。

 
 ガイドラインが全体に渡り、各項目について、以下の4つのラベルが付与されていて、それぞれの項目が誰を対象とした項目かすぐに分かるように配慮されています。

  • 「全般的事項」(LGBT等対応にあたり、本学の構成員(教職員、学生を問わず)は全員知っておく必要がある事項)
  • 「本学の対応状況」(本学での対応状況・実施状況についての説明。当事者、非当事者、 学生、教職員を問わず情報共有しておきたいこと)
  • 「主に当事者へ」(当事者を支援する内容となる事項(主に学生の当事者向けだが教職員の当事者も対象)。もちろん、当事者でなくても、特に支援者には把握してもらいたい事項)
  • 「周囲の方へ」(支援者はじめ、LGBT等当事者に関わるすべての人にお願いしたい事項)

 大学で発行する各証書等の性別記載の有無、大学に提出する各書類における性別情報の記入の要否、宿舎や体育での更衣室の扱い、就職活動時の当事者の注意すべき事項や大学が行える支援、当事者がカミングアウトした時の周囲への配慮すべき事項など、学生生活における様々な場面について、非常に細かく書かれており、随所に大学にご相談くださいという言葉が。できることは可能なかぎり対応しますという大学側の誠意と、筑波大学における取り組みの蓄積が感じられます。

日本の視覚障害者の人口-日本眼科医会の調査より

 日本における視覚障害者の人口というと、前のエントリで紹介した厚生労働省の調査にある約31.2万人という、視覚障害の身体障害者手帳所持者数が挙げられることが多いと思いますが、日本眼科医会が、国勢調査資料や各種疫学研究資料等を原資料に分析し、2007年現在の日本国内の視覚障害者者の人口を約164万人、うち、ロービジョン者は144万9千人、失明者は18万8千人という推定値を2009年に公開をしています。

 日本における視覚障害者の数(推定値)をまとめると以下の表になります。

日本における視覚障害者の数(推定値) 2007年
男性 女性 合計
ロービジョン 752,465 696,461 1,448,926
失明 97,591 90,328 187,919
視覚障害全体 850,056 786,789 1,636,845

 この164万人を構成する年齢層ですが、視覚障害者の半数は70歳以上、60歳代は22%、60 歳以上で合計 72%を占めているという推定がなされています。厚生労働省の調査結果に出ている約31.2万人の内訳でも60歳以上が76.9%を占めていますので、母数は変われど、視覚障害者の中で高齢者が占める割合が非常に高いことは変わりないようです。
 厚生労働省調査(31万人)と日本眼科医会の推定値(164万人)に大きな数値の差が生じている理由ですが、後者が国勢調査の元に算出した日本の人口を母数に、各種疫病関係資料から推定した有病率(1.28%)から算出した推定値であるということが1つの理由でしょう(母数が大きいため、0.1%でも変わると10万人単位で変わる)が、加えて以下の①と②が主な要因だと思われます。
①前者が身体障害者手帳の所持者数の数値であり、後者がそれに限定していない
②前者(身体障害福祉法が規定する視覚障害の判定基準)と後者(日本眼科医会の今回の調査)で「視覚障害者」の定義が異なる
①前者が身体障害者手帳の所持者数の数値であり、後者がそれに限定していない
 身体障害者手帳を所持しない視覚障害者については、関西盲導犬協会のサイトで以下のようにわかりやすく説明されていますが、加齢によって徐々に視力が衰えて、これまでできていたことができなくなったとしても、その状況に慣らされてしまう、あるいは「老いとはそういうもの」とその状況を受入れてしまい、自身が「視覚障害者」に該当する状況であることを自覚することも難しいのではないかとも想像します。また、身体障害者手帳を所持するということは、「障害者」であると自覚することでもあり、それに抵抗する方もいるのではないかと思います。

全国に100万人以上と言われるロービジョン人口のほとんどは、身体障害者手帳の交付が受けられない程度の視覚障害であったり、手帳を申請することに消極的であったり、中には、手帳の存在をそのものを知らない方もまだおられるようです。「人ごと」と思われるかも知れませんが、このページを読んでいる皆さんの誰もが、加齢によってロービジョンに近づき、虫メガネのような拡大鏡を使うなど工夫をしなければ文字が読めなくなるのです。
視覚障害とは – 公益財団法人 関西盲導犬協会

前のエントリでも触れていますが、厚生労働省調査にある31.2万人のうち、障害等級の高い1級と2級の視覚障害の手帳所持者が22.7万人(72.8%)を占めています。身体障害者手帳も福祉サービスを利用するために取得するものであり、障害等級が低いと受けられる福祉サービスも減りますので、障害等級が低い場合は、手帳を取得するインセンティブが働かないということもあるかもしれません。
②前者(身体障害福祉法が規定する視覚障害の判定基準)と後者(日本眼科医会の今回の調査)で「視覚障害者」の定義が異なる
日本眼科医会では、上の推定値を出す際に米国の基準にあわせて視覚障害を以下のように定義しています。「よく見える方の眼」と、片方の眼の視力を基準としています。

ロービジョン
よく見える方の眼で矯正視力が0.1以上0.5未満
失明
よく見える方の眼で矯正視力が0.1あるいはそれ以下
視覚障害
ロービジョンと失明

身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準は以下のとおりです。

1級
両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者については、きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ。)の和が0.01以下のもの
2級
(1)両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95パーセント以上のもの
3級
(1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90パーセント以上のもの
4級
(1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
5級
(1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの
(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
6級
一眼の視力が0.02以下, 他眼の視力が0.6以下のもので,両眼の視力の和が 0.2を超えるもの

[PDF]身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)より

 こちらは「両眼の視力の和」を判定基準にしている点が異なるということと、日本眼科医会の定義では、よく見える方の眼で矯正視力が0.5未満であれば、視覚障害に該当し、もう一方の眼の視力は0.5未満であれば特に問われませんが、身体障害者福祉法における判定基準では、6級でも「一眼の視力が0.02以下, 他眼の視力が0.6以下のもので,両眼の視力の和が 0.2を超えるもの」で、片方の視力は0.02以下であることが基準になっていますので、この差は結構大きいかもしれません。
 左右それぞれの視力が0.5ずつあっても、実際の両目の視力が1.0になるわけではありませんので、両目の視力の和を基準とする身体障害者福祉法のこの判定基準については、関係者の批判もあるようです。
 それをうけて、厚生労働省で視覚障害の認定基準に関する検討会を立ち上げて検討を進め、両眼の和ではなく良い方の目の視力で判定する方針を固めたようです。判定基準が変わることで、これまで身体障害者手帳を所持できなかった視覚障害者が発行を受けられる可能性も出てきました。
 

※2018/5/4追記
 身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準について追記しました(判定基準を転載)。また、日本眼科医会の定義と身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準の違いを、前者がよく見える方の眼の視力、後者が両眼の視力の和としていることを主にして紹介していましたが、判定基準となる視力にも違いがありました(身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準では、片方の視力は0.02以下であることが判定基準になっている点)ので、その点を書き加えてました。

『保健医療科学』 第66巻 第5号 (2017年10月)特集「地域の情報アクセシビリティ向上を目指して―『意思疎通が困難な人々』への支援―」

 国立保健医療科学院の刊行物『保健医療科学』 第66巻 第5号 (2017年10月)の特集が「地域の情報アクセシビリティ向上を目指して―『意思疎通が困難な人々』への支援―」です。

  • 巻頭言 地域の情報アクセシビリティ向上を目指して―「意思疎通が困難な人々」への支援― / 橘とも子
  • 共生社会における情報アクセシビリティ向上を目指して〈論壇〉 / 橘とも子
  • 意思疎通が困難な者に対する国の福祉的支援施策について〈解説〉 / 村山太郎
  • 難治性神経・筋疾患に対するコミュニケーション支援技術: 透明文字盤,口文字法から最新のサイバニックインタフェースまで〈総説〉 / 中島孝
  • ICT による障碍者に対する意思疎通支援の現状と課題〈総説〉 / 水島洋
  • 意思疎通が困難な者への障害種別ごとに求められる支援手法に関する文献レビュー〈総説〉 / 佐藤洋子
  • 失語症のある人のための意思疎通支援〈総説〉 / 立石雅子
  • 視覚障害者の意思疎通支援サービス,及びICT機器利用状況の地域間差の分析〈総説〉 / 渡辺哲也
  • 自閉スペクトラム症の社会モデル的な支援に向けた情報保障のデザイン:当事者研究の視点から〈総説〉 / 熊谷晋一郎