DAISY(Digital Accessible Information SYstem)開発史年表(開発前史から2012年まで)

 デジタル録音図書の国際規格であるDAISY(Digital Accessible Information SYstem)の開発の歴史について、まとめました。
 公刊されたものや公開されている情報をもとに作成しましたが、いくつもの情報を繋いでまとめたので、結果として、間違っているところがあるかもしれません。また、規格の策定や標準化は、つまるところ、意見や立場の異なる人や組織の調整を形にするという作業なので、関係する機関のその当時の事情や、関係者の一人一人のパーソナリティが結構大きく作用したり、さらに組織間や関係者同士の人間関係も影響を与えたりするのではないかと思われるので、大事なところが抜けているかもしれません。
 
 このエントリをまとめて、少しだけ私の感想を述べると、DAISY関係者は、デジタル録音図書規格の国際共同開発の開始から2年でDAISYによる国際標準化を2年という短い期間で成し遂げています。しかし、視覚障害者のための録音図書がカセットテープで製作されていた1980年代から1990年代は、録音図書テープのデジタル化とデジタル録音図書のニーズが高かったらしく、デジタル録音図書の規格が各国で乱立する可能性のあったようなので、デジタル録音図書の標準化は、時期的に1997年あたりがギリギリのところだったのかもしれません。DAISYという規格で、デジタル録音図書の仕様を統一させることに成功したことで、国際的な録音図書データ交換が可能になり、それがマラケシュ条約成立の環境整備に繋がっています。DAISYによるデジタル録音図書の国際標準化の成功は、本当に偉大と言うほかありません。

1. DAISY開発前史(1995年まで)

当時の録音図書をめぐる状況

 録音図書はアナログのカセットテープによって製作されていたが、カセットテープには、以下のような問題があった。

  • カセットテープは、収録できる時間が1巻あたり90分という時間的制約があり、原本1冊分で10時間を超えることが当たり前の録音図書では、かなりの巻数になってしまっていた。
  • ページを開くように任意の箇所に移動する機能はない。
  • 磁性の変化で劣化してしまうため、コピーを繰り返すと音質が落ちてしまう。
  • 図書館の立場で考えると、マスターテープの劣化が問題になっており、半永久的に保存できるメディアが求められた。
  • 万国郵便連合(Universal Postal Union)の合意によって、点字及び録音図書の郵便料金は無料とされていたが、録音図書に使用されるカセットのフォーマットが国や機関によって異なっていたため、その国、機関から取り寄せた録音図書を聞くには、そのフォーマットに対応したプレーヤーも必要だった(詳細は、第2章 デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制」の注22等を参照)。

1986年

■ 8月

 国際図書館連盟(IFLA)東京大会における盲人図書館分科会(Section of Libraries for the Blind, 略称は IFLA/SLB )第4回国際専門家会議において、デジタル録音図書の国際的な議論が公の場で初めてなされる。

<参考文献>

1988年

 スウェーデン国立録音点字図書館 (Swedish Library of Talking Books and Braille。略称はTPB(スウェーデン語名での略称)。現在のSwedish Agency for Accessible Media(MTM))がDAISY(Digital Audio-based Information System : デジタル音声情報システム)プロジェクトをスタート。1991年からは政府の助成を受けて3カ年プロジェクトとして技術開発が始まる。

1993年

 スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)のプロジェクトの元で、同国のLabyrinten DATA社が初期DAISY(Digital Audio-based Information System)を試作。同年、日本でも、シナノケンシが厚生省の呼びかけでデジタル録音図書プレーヤーの開発に着手。なお、両者の機能は同じだが、互換性がなかったらしい。

1994年

 DAISY(スウェーデンのもの)の再生システム(Windows環境)の最初のプロトタイプが完成。

<参考文献>

2. デジタル録音図書規格の国際共同開発の開始と DAISY Consortium の結成(1995年から1996年まで)

1995年

■ 4月

 カナダのトロントでIFLAのデジタル録音図書の標準化をめぐる国際会議( 3rd International Meeting to Discuss Audio Technology as Applied to Library Service for Blind Individuals )が開催される。当時、IFLA/SLBの議長を務めていた河村宏氏が、シナノケンシが試作したデジタル録音図書プレーヤーを会議に持参して委員に披露する。それに対して、米国議会図書館(LC)の障害者サービス部門である視覚障害者及び身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped。略称は NLS。)のトップから試作品の紹介について米国議会図書館がこれを推奨していると思われると困るというクレームがつく。
<メモ>
 会議のその後の議論が先鋭化したのちの発言ということではあるが、NLCのトップは以下のような趣旨の発言をしたらしい。

  • 米国の利用者は現在の録音図書に満足しており、今後10年は利用者に提供するシステムの変更は行わない。
  • マスターテープのデジタル化の研究は勧めるが、国際標準化のためにそれを行うわけではない。
  • デジタル録音図書の国際標準化はIFLAで進めるべきだ。

 そこで、河村宏氏は、IFLAの役員全員(理事?)に集まってもらい、
(1) 2年以内に次世代録音図書の標準化をはかることをIFLAの名前で宣言する。
(2) その目標達成のために国際共同開発組織を発足させる
という二点を確認し、デジタル録音図書の標準化の検討が開始される。

<参考文献>

その後、7月、8月、12月の3回にわたり、スウェーデン、イギリス、日本で協議を行い、以下で合意する。

  • スウェーデンが開発していた録音図書の規格(当時のDAISY)を元に次世代録音図書の国際標準規格を開発
  • どのメーカーも参入できるように技術仕様は公開する。

■ 8月

 IFLAイスタンブール大会において、IFLA/SLBは、次世代録音図書の国際標準化の期限を2年後のコペンハーゲン大会までと決定する。

<参考文献>

1996年

■ 5月

 日本、スペイン、英国、スイス、オランダ、スウェーデンの6カ国により国際共同開発機構として DAISY Consortium がストックホルムで結成される(米国は参加を拒否)。TPBの Ingar Beckam 氏が最初の 会長 (Chair) となる。設立当時の会員施設は、以下の6機関・団体。

  • (日本)全国点字図書館協議会(現在の全国視覚障害者情報提供施設協会
  • (スペイン)スペイン盲人協会 (The Spanish National Organization of the Blind, O.N.C.E.)
  • (英国)英国王立盲人援護協会 (Royal National Institution for the Blind, RNIB)
  • (スイス)スイス視覚障害者図書館 (Swiss Library for the Blind and Visually Impaired, SBS)
  • (オランダ)オランダ視覚障害学生図書館 (The Dutch Library for Visually and Print Handicapped Students and Professionals, SVB)
  • (スウェーデン)スウェーデン国立点字録音図書館(The Swedish Library of Talking Books and Braille, TPB)と、スウェーデン視覚障害者協会(The Swedish Association of the Visually Impaired, SRF)
<参考文献>

■ 7月

 日本で、デジタル音声情報システムの標準化・実用化・促進にむけて、日本盲人社会福祉施策協議会とシナノケンシを軸とした「デジタル音声情報システム促進委員会」が結成される。

<参考文献>

■ 12月

 米国のNLSが米国情報標準化機構(NISO)を通じてデジタル録音図書の規格を策定することを発表。これがDAISY3の開発につながる。NISOがデジタル録音図書の標準化について定期的に討議するようになったのは1997年5月からになる。NLSのMichael M. Moodie氏がNISOのワーキンググループの議長を務めた。詳細は後述の「6. DAISY3の開発(1996年から2004年)」を参照)。

3. DAISYの国際評価試験と事実上の「国際標準化」(1997年)

国際評価試験の概要

 DAISYの開発のために、視覚障害者に実際に使用してもらい、コメントをもらう国際的な評価試験が行われる。この国際評価試験のために、評価試験実施委員会が日本国内と海外に分かれて組織され、河村宏氏が両方を統括する責任者を務めた。国際評価試験を経て、発展途上国を含む利用者の要求を反映した次世代録音図書国際標準規格案としてまとめられる。
 日本国内では、上述の「デジタル音声情報システム促進委員会」が DAISY Consortium と協力して100以上の国内施設・団体と実施した。点字図書館、盲学校関係者、ロバの会などのボランティアグループが手探りで評価用のDAISY図書を製作し、シナノケンシが試作したプレクストークを数百人の視覚障害者に実際に使用してもらい、感想とコメントを求めた。
 海外では、32カ国、千数百員以上の視覚障害者の参加を得て実施した。
○国際評価試験参加国
 アイスランド、アメリカ、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、インド、ウルグアイ、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、タイ、チェコ、チリ、デンマーク、ドイツ、日本、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、マケドニア、マレーシア、南アフリカ、ロシア。

1997年

■ 3月

・国際評価試験の中間評価会議が京都ハートンホテルで開催される。
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)が3月に毎年開催する「技術と障害会議」(Technology and Persons with Disabilities Conference : CSUN Conference)において米国でDAISYが初めて紹介される。RFB&D( Recording for the Blind & Dyslexic 。現在のLearning Ally )の技術チームの3人(うち1人はGeorge Kerscher 氏?)は、「これを境に人生が変わった」と当時を述懐。

■ 4月

河村宏氏が DAISY Consortium の暫定マネージャーに就任。

■ 5月

 DAISY Consortium は 「次世代録音図書のフォーマットに関する国際会議」(国際デジタル録音図書仕様会議)をスウェーデンのシグツナ(Sigtuna)で開催。DAISYをHTMLベースに変更し、マルチメディアに対応した第二世代(詳細は後述の「4. DAISYのマルチメディア対応(DAISY2の開発)」を参照)に進化させることを決定(その決定をうけて、米国RFB&DがDAISY Consortium への加入を決定する。)。30名の専門家がそれぞれの所属する団体に持ち帰って検討した後に正式な決定がなされるという留保つきではあったが、はじめて具体的に仕様を統一する方向が一致して確認された。

■ 7月18日から20日

国際評価試験の最終評価の国際会議が、東京の戸山サンライズで開催される。

■ 8月24日から8月25日

 IFLAコペンハーゲン大会の直前に同じコペンハーゲンで開催された DAISY Consortium 会議の最終日に米国のRFB&Dが DAISY Consortium に正式に加入する。なお、米国のNLSが加入するのは、2006年5月9日になる。

■ 8月27日から8月29日

 IFLAコペンハーゲン大会におけるIFLA/SLB 専門会議においてデジタル録音図書の「事実上の国際標準」(業界関係者の共通の認識となった)になる。
※テープのデジタル化を予定している各国の機関もIFLA大会の結果を見てから最終決断をするという暗黙の合意があったらしい。スペインなどは独自に開発し完成させたデジタル化設備の稼働を一時止めてまで国際動向に合わせようとした。

<参考文献>

■ 10月

米国RFB&D の George Kerscher 氏が DAISY Consortium のマネージャーになる。

4. DAISYのマルチメディア対応(DAISY2の開発)(1997年から2001年)

1997年

■ 5月

 DAISY Consortium は 「次世代録音図書のフォーマットに関する国際会議」(国際ディジタル録音図書仕様会議)をスウェーデンのシグツナ(Sigtuna)で開催。DAISYをHTMLベースに変更することで、ネットサーバーでの提供を可能にし、マルチメディアに対応した第二世代に進化させることに決定する。第二世代開発プロジェクトは、最初に打ち合わせた場所にちなんでシグツナ・プロジェクトと呼ばれる。

1998年

■ 4月

 プレクスター(現在のシナノケンシ)が世界初の視覚障がい者用デジタル録音図書読書機 TK-300の発売を開始する(この時点ではDAISY1.0のみに対応していたものと思われるが、10月にはすでにDAISY2.0に対応していた。 参考 プレクストークユーザーズマニュアル1998年10月 TK-300,TK-300B共通)。

■ 6月

 W3CがSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language) 1.0の仕様を勧告。
※SMIL1.0の草案を確認すると、1998年2月から4月の間の時期からDAISY Consortium の George Kerscher 氏は、SMIL 1.0仕様の開発に加わったと思われる。

■ 9月

 DAISY Consortium が、HTML4.0とSMIL1.0をベースにしたDAISY2.0の仕様を勧告。

2001年

■ 2月

 DAISY Consortium が、XHTML1.0とSMIL1.0をベースにしたDAISY2.02の仕様を勧告。XMLをベースとしたDAISY3が安定するまでの経過期間中のDAISY図書の基礎となるように意図された。

■ 12月

 DAISYの正式名称が “Digital Audio-based Information SYstem”から “Digital Accessible Information SYstem” となる。

5. DAISYの日本における普及(1998年から2004年)

厚生省(現在の厚生労働省)補正予算事業(平成10年度から平成12年度)

 平成10年度から平成12年度の厚生省の補正予算事業によって、全国の点字図書館等にDAISYの全国的な一斉導入される。500ユニット以上の製作システムと8800台のDAISY再生機器が日本障害者リハビリテーション協会から貸与される。2580タイトルのDAISY録音図書と601タイトルのデジタル法令集も製作され、全国の点字図書館等に日本障害者リハビリテーション協会から提供される。
2001年2月末までに13万タイトル以上のDAISY図書の貸し出しがあり、あらたに5500タイトルのDAISY録音図書が製作された。

<参考文献>

1998年

■ 4月

・名古屋ライトハウスがDAISY録音図書の貸し出しを開始。

2004年

 日本点字図書館がネットワーク配信サービス「びぶりおネット」がサービスを開始。

2006年

 著作権法が改正され、点字図書館等が視覚障害者に著作権者の許諾を得る必要なく、録音図書データの自動公衆送信を行うことが可能になる。

6. DAISY3の開発(1996年から2004年)

 DAISY3の仕様の開発が、DAISY2の開発と並行する形で、米国の規格としてNLSの主導?で始まる。上で述べたようなNLSのデジタル録音図書に対する対応を鑑みると、このタイミングでDAISY3の規格に結実するデジタル録音図書の標準化の議論が米国のNLS主導で始まる経緯はよくわからない。ここは、NLSという組織ではなく、人をみるべきところかもしれない(公刊あるいは公開された情報ではそこまでは読み取れなかったが)。NISOでWGの議長を務めたNLSのMichael M. Moodie 氏のリーダーシップによるところが大きかったのではないかと個人的には考えている(詳細は知らない)。

1996年

■ 12月

 米国のNLSがデジタル録音図書の規格を米国情報標準化機構(NISO)を通じて策定することを発表する。

1997年

■ 5月

 米国情報標準化機構(NISO)のデジタル録音図書のあり方を議論する標準化委員会の最初の会議が開催される。NLSのMichael M. Moodie 氏がNISOのワーキンググループの議長を務めた。ここでの検討に DAISY Consortium も参加する。

1998年

■ 7月

 NLSが将来計画 “Digital Talking Books: Planning for the Future“で、デジタル録音図書のNISO内での標準化(つまり、DAISY3の開発)を含め、次世代のデジタル規格の録音図書に移行する計画を発表する。

2002年

■ 3月

 DAISY3仕様がANSI/NISP Z39.86-2002として米国の標準規格の1つに認定。

2004年

 米国で障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act : IDEA)が改正され、DAISY-XML方式の全国指導教材アクセシビリティ標準規格(National Instructional Materials Accessibility Standard : NIMAS)が制定される。就学前から高校までの全ての教科書をNIMASファイルに変換して、全国指導教材アクセシビリティセンター(NIMAC)を通じて配信されることになる。

2005年

■ 4月

 ANSI/NISO Z39.86-2002ANSI/NISO Z39.86-2005として改訂される。

<参考文献>

7. EPUBとDAISY(1998年から2012年)

1998年

■ 10月

 Open eBook initiative が発足。

<参考文献>

1999年

■ 9月

 Open eBook Publication Structure 1.0 が公開される(エディタの一人がDAISY Consortium の George Kerscher氏)。

2000年

■ 1月

 Open eBook Forum(OEBF) が発足。

■ 3月

 Open eBook Forum(OEBF) がニューヨークで最初の総会を開催。DAISY Consortium の George Kercher 氏がOEBFの理事会の議長に選出される。

<参考文献>

2007年

■ 9月

 IDPFが、EPUB2を構成する仕様であるOpen Packing Format (OPF) 2.0 と Open Publication Structure (OPS) 2.0の仕様を承認。EPUB2でDAISY XMLの語彙とDAISYのナビゲーションモデルをEPUBに採用される。

2008年

 ANSI/NISO Z39.86(DAISY3)の後継規格を、交換フォーマット(Part A : Authoring and Interchange Framework)と配布フォーマット(Part B : Distribution)を分けて開発する方向で DAISY Consortium が開始。

<参考文献>

2010年

■ 5月

 IDPF内においてWorking Groupが立ち上がり、EPUB3(当時は、EPUB 2.1とナンバリングされていた)の開発が正式に開始される。

■ 10月

 IDPFが開発中しているEPUB3において、DAISY4世代の配布フォーマットとして求められる主要な要件が全て採用されることになったため、 DAISY Consortium の理事会はインドにおける会議において、DAISY4の配布フォーマットとEPUB3の”merger(統合)”を決定する。以後、DAISY4世代の仕様の開発は、DAISY AIの開発に注力することになる。

<参考文献>

2011年

■ 11月

 IDPFがEPUB 3.0の仕様を勧告。

2012年

■ 7月

 DAISY Consortium のDAISY AI (ANSI/NISO Z39.98-2012(Authoring and Interchange Framework for Adaptive XML Publishing Specification)) が米国の標準規格として承認される。

全体の主な参考文献

  全体を通してDAISYの開発の歴史を理解する上で、参考にした主な文献です。上で掲載した参考文献も一部再掲しています。

関連エントリ

IFLAの障害者サービスに関する2つの分科会

IFLA(国際図書館連盟)には、障害者サービスに関係する以下の2つの分科会(Section)があります。

特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(IFLA/LSN)

概要

 生活状況や身体障害、精神障害などで、通常の図書館サービスや図書館資料を利用をすることができない人に焦点を当てています。日本でいうところの「障害者サービス(図書館利用に困難がある人々に対するサービス)」と、ほぼ同じ範囲を対象としています。具体的には、聴覚障害者などの身体障害者だけではなく、ディスレクシアのある人、認知症のある人、入院患者、受刑施設に入所している者、ホームレスの人、看護施設に入所している人などが対象です。
この分科会は、聴覚障害者、ディスレクシアのある人、認知症のある人、入院患者、受刑施設に対する図書館サービスガイドラインや「読みやすい図書のためのIFLAガイドライン」など様々なガイドラインを作成しています(→ “Publication“)。
概念的には視覚障害者なども対象に含まれるはずですが、プリントディスアビリティのある人は後半で紹介する「印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(IFLA/LPD)」とある程度の棲み分けがなされていると思います。とはいえ、完全に棲み分けられるわけではないので、対象が重複しているところは当然あります。また、IFLA/LPDとの連携もよくなされているらしい。
 この分科会は、IFLAが創設されて4年後の1931年に病院図書館(患者図書館)小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)として創設されています(IFLAの7番目の小委員会。特定のユーザーに対する図書館サービスに焦点を当てた最初の小委員会)。入院患者には障害のある人々もいるということにから、対象が徐々に拡大されていったようです。経緯はDINFが日本語訳を掲載していますが、「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会の歴史的概観」がわかりやすい。

分科会は同年、病院図書館(患者図書館)小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)として創設され、その使命は、入院中の人々、つまり病院に閉じ込められているがために、通常の図書館資料を利用できない人々に対する、専門的な図書館サービスの促進であった。本と読書を治療を助ける手段として利用する読書療法は二の次だった。しかし小委員会はすぐに、入院の直接的な原因ではないことが多いさまざまな障害のために、感覚補助具・運動補助具などが使用できる特別な資料や特別なサービスを必要としている患者がいることに気づいた。このようなニーズはまた、さまざまな理由により外出ができない、地域の人々にも認められることが明らかになった。このニーズを憂慮し、多種多様な委員を抱えているがために問題解決に取り組みやすい立場にあった小委員会では、理由は何であれ従来の図書館や資料、サービスを利用できない人々を対象として含めるべく、長い時間をかけて焦点を拡大していった。
from 「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会の歴史的概観」 序論

関連

変遷

1931年8月29日 病院図書館小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)

1952年 病院図書館委員会(Committee on Hospital libraries)

1964年(1962年?) 病院図書館小分科会(Hospital Libraries Sub-section)

1964年にIFLAは新規約 55 を採択。その際に分科会(Section)と小分科会(Sub-section)が設けられ、病院図書館委員会は、公共図書館分科会(Public LibrariesSection)の中の小分科会となる。なお、別の資料(PDF)で1962年という記載もあり。

1966年 病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)

1977年 入院患者および障害のある読者に対する図書館サービス分科会(Section on Library Services to Hospital Patients and Handicapped Readers)

「一般市民にサービスを提供する図書館部会(Division of Libraries Serving the General Public)」に所属する分科会。

1984年 図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(Section of Libraries Serving Disadvantaged Persons : LSDP)

2008年 特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(Library Services to People with Special Needs Section : LSN)

参考

印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(IFLA/LPD)

概要

視覚障害やディスレクシアなどの印刷物を読むことに障害がある人々、つまり、プリントディスアビリティのある人々に焦点を当てた分科会です。以下の経緯にもあるように、上で紹介したIFLA/LSNの前身となる分科会から分離独立した分科会で、当初は視覚障害者を対象としていましたが、2008年に対象をプリントディスアビリティに拡大しています。
 IFLAは、「盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)のある人々の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約」の成立に向けて動いた強力な推進機関の1つですが、その中心になっているのがこの分科会です。
また、DAISYの歴史とも、かなり深い関係を持っています

関連

変遷

1977年 盲人、身体障害者に対する図書館サービスのための国際連携のためのワーキンググループ(Working Group for the international coordination of library services for blind and physically disabled individuals)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1978年 盲人図書館ワーキンググループ(Working Group of Libraries for the Blind)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1979年 盲人図書館ラウンドテーブル(Round Table of Libraries for the Blind)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)の下に設置。

1983年 盲人図書館分科会(Section of Libraries for the Blind : SLB)

病院内の図書館小分科会(Libraries in Hospitals Sub-section)から独立。

2003年 盲人図書館分科会(Libraries for the Blind Section : LBS)

日本に訳してしまうと同じ「盲人図書館分科会」になってしまいますが、IFLAの分科会名のフォーマットにあわせるための名称変更のようです。

2008年 印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(Libraries Serving Persons with Print Disabilities Section : LPD)

参考

視覚障害者等にデータ配信サービスを提供する日本の電子図書館サービスの歴史

 著作権法第37条第3項でいうところの「視覚障害者等」、つまり、視覚障害その他の理由で印刷物を読むことに困難のある人(プリントディスアビリティのある人)を対象に、点字データやDAISYデータなどのデータをダウンロードできるサービスを提供している電子図書館サービスが、大きなところで日本では現在、以下の2つ存在します(データ数でいえば、サピエ図書館が圧倒的に大きいのですが)。

 この障害者向けのデータをダウンロードできる電子図書館サービス、日本ではIBMが点訳用ソフトの開発とともに、点字データを共有するサービス「IBM てんやく広場」を1988年に始めたところまで遡ります。
 
 そのてんやく広場から現在に至るまで、システムの名前が変わったり、新たに現れたり、統合したりといろいろと経緯を経て現在に至っているわけですが、その経緯をまとめた図を作成しました。総合目録データベースを提供する電子図書館サービスも含めると、NDLの点字図書・録音図書全国総合目録を入れたり、日本点字図書館のNITを入れたりと図がかなり複雑になるので、今回は省略しました。ですので、以下の図では、NDLの視覚障害者等用データ送信サービスが唐突に2014年に出てきた感じになってしまいました。
電子図書館サービスの経緯をまとめた図です。時系列に1988年 IBMてんやく広場、1993年てんやく広場(運営がIBMから日本盲人社会福祉施設協議会に移ったことによる改名)、1998年 ないーぶネット(てんやく広場から名称を変更)、2004年 びぶりおネット(日本点字図書館と日本ライトハウスによるDAISY配信サービス)、2010年 サピエ図書館(ないーぶネットとびぶりおネットの統合、2014年 NDLの視覚障害者等用データ送信サービス
最後のNDLからサピエ図書館への「システム連携」の矢印は、NDLとサピエ図書館のシステム連携によって、NDLが提供するデータもサピエ図書館を通じて利用することができることを意味しています。

参考リンク

関連エントリ