独立系の出版社や個人作家を支援するソーシャルリーディングサービスReadmillとは

 今回はドイツのベンチャー企業が2011年12月に立ちあげたばかりのReadmillを紹介します。クラウドなマイライブラリサービス兼ソーシャルリーディングサービスです。

http://readmill.com/

1. Readmillとは?

  
 まずは以下の動画をご覧ください。提供されているサービスのおおまかな雰囲気がつかめると思います。

This is Readmill from Readmill 紹介動画 on Vimeo.
  上の動画で紹介されているReadmillの主な特徴をあげていけば、以下のような感じでしょうか。

  1. 電子書籍のコンテンツをクラウドなマイライブラリに登録できる。
  2. 電子書籍の本文に付与したハイライトやコメントをフォロワー同士でタイムライン形式や本文上に直接表示させる形で共有することができる。また、もちろんTwitterやfacebook、tumblrに流すことも可能。
  3. 電子書籍ビューワとして、現在、iPad専用のリーダーアプリReadmill for iPad が用意されている。2にあげたハイライトやコメントの付与はこのアプリ上で行う。

 最近のソーシャルリーディングサービスとしては、ごくごく標準的なサービスを提供していると言えます。
 

2. ライブラリサービスとビューワアプリ

 登録できるファイルフォーマットはPDF、EPUBです。2012年10月にはAdobe DRMで保護されたコンテンツの対応もできるようになりましたので、Barnes & Noble、Kobo、Googleなどが採用している有料コンテンツも登録できるようになったようです※1

 
 ライブラリに登録した電子書籍はReadmillが提供しているビューワアプリReadmill for iPad で読むことができます。

Readmill for iPad

 
このアプリについては、こもりまさあきさんが以下のブログで詳しく紹介してくださっていますので、こちらをご参照ください。
ソーシャルなePubリーダー、Readmill | gaspanik weblog
 このReadmill for iPad の紹介動画も公開されています。

Readmill for iPad 紹介動画 from Readmill on Vimeo.
  UIはなかなか洗練されています。
  しかし・・・・・、日本語のEPUBはバージョン関係なくうまく表示ができないようです。また、PDF上ではハイライトやコメントの付与ができないため、Readmillのウリの一つであるソーシャルな機能を使うことができません。単体のビューワアプリとしてみると、このビューワは日本で使用されるにはまだまだ機能不足のようです。Readmillで電子書籍を読む唯一の手段であるこのiPadアプリがこういう状態であることは少し残念ですね。立ち上がって間もないサービスですので、今後の対応を期待したいところです。 
 

3 iPadに自動送信できる「Send to Readmill」機能

 ビューワアプリが結構残念なReadmillですが、「Send to Readmill」機能を紹介せねばなりません。もしかするとこの機能がReadmillというサービスとその方向性を際だたせている機能かもしれません。
 

 「Send to Readmill」機能とは、電子書籍プラットフォームのコンテンツの各ページ等に設置されている上の「Send to Readmill」ボタンを押すと自分のReadmillのライブラリにコンテンツごと登録されるという機能です。
例: Alice’s Adventures in Wonderland – Lewis Carroll | Feedbooks

「Send to Readmill」紹介動画 from Readmill on Vimeo.
  ビューワアプリReadmill for iPad はReadmillのライブラリと同期する機能がありますので、コンテンツが自動的にダウンロードされることになります。アマゾンがKindleで提供している自動送信に近い使い勝手を実現しています。
 この機能、実はまだドラフト段階であるOPDS Callbackを使って実現しているんです。ええ、OPDS Callbackです。大事なことなので二度言いました※2。そうOPDS Callbackです。
 無料のコンテンツならば、上で紹介したFeedbooksのパブリックドメインのコンテンツのようにコンテンツを紹介するページに設置してしまえばいいわけです。では、有料のコンテンツはどうするの?ということですが、 A Book Apartのように、決済終了後にユーザーに見せるダウンロード画面に設置するという方法もあります※3

 
 この「Send to Readmill」機能、 OPDS Callbackが採用されていることより重要なことは、 
 誰でも「Send to Readmill」ボタンを簡単に設置することができること 
だと思います。
 
 設置方法も以下のようにコンテンツファイルのURLを記入するだけでボタンを設置するためのコードを生成できるページが用意されています。このコードを流用すれば、非プログラマーな人でも簡単に設置できます※4

Get the Send to Readmill code

 ためしに、ということで、板橋区議会が発行している広報誌『いたばし区議会だより』のEPUB版の「Send to Readmill」ボタンを作成してみました。 
いたばし区議会だより第161号 – 板橋区議会

 Readmillにログインした状態で上のボタンを押すと、Readmillのライブラリに登録され、同期したReadmill for iPad にそのままダウンロードされることになります。
 コンテンツファイルがPDFファイルでも、もちろん問題なく「Send to Readmill」ボタンを設置できます。
国立国会図書館月報 619号(2012年10月)

 独立系の出版社や個人作家が独力で提供から利用に至るフローをユーザーに用意することはとても大変ですが、Readmillのようなサービスがそのフローを肩代わりしてくれるのであれば、プラットフォームに頼る理由が1つ減ることになります。Readmillのサービスはまだ成長途上であると言わざるを得ない部分がありますが、この種のサービスは日本でも拡がって欲しいサービスだと思いました。
 
※1 Social Reading App Readmill Adds Adobe DRM and PDF, Adds New Stores | TechCrunch
  ただし、ローカルからDRMなしのEPUBファイルをアップロードしようとすると英語のファイルでもエラーが発生してしまうことも・・、あれっ・・・・・(汗)。
※2 Send to Readmill : Official Feedbooks Blog
   OPDS Callbackは大事なことなので、さらに別のエントリで紹介するかもしれません。
※3 Send to Readmill welcomes A Book Apart! | Readmill Blog
  上のA Book Apartのダウンロード画面もこのエントリより転載。
※4 より詳細は情報は 「API Documentation – Readmill」で。

OPDSカタログアグリゲータにカタログの更新を知らせるPing送信

 別のブログで台湾のOPDS状況について紹介したのですが、そのエントリをマガジン航[kɔː]に転載していただきました。ありがとうございました。
.台湾がOPDSでやろうとしていること « マガジン航[kɔː]
 上の記事の中で台湾がOPDSカタログ用のPing Server(公開や更新を通知するPing送信を受けつけるサーバー)の設置を検討していることに触れました。あのエントリでは、このPing送信についてあまり踏み込んだ解説はしませんでしたが、OPDSアグリゲータに更新をしらせる仕組みとしてのPing送信は、OPDSにおいてかなり重要な要素だと思われますので、若干妄想を交えながら少し詳しく紹介したいと思います。

1. Ping送信・Ping Serverとは

 
 RSSではすでに枯れた技術でもあり、ブログを運営したことのある人ならご存じかと思いますが、Ping送信とはウェブサイトなどが更新されたことをサーバー(Ping Server)に知らせる技術です。通常のウェブサイトでは、検索エンジンのクローラが自分のサイトの更新を拾ってくれるのを基本的に待つしかませんが、ウェブサイトの運営者が更新したタイミングで更新を知らせるのでほぼリアルタイムに検索エンジンの検索結果に反映させることができます。
 少々ざっくりとしたイメージですが、以下のような流れでRSSを取得させることでサーバーに更新情報を伝えることになります。

<

figcaption>RSSアグリゲータがRSSで更新情報を取得する流れ

 詳しくは以下をご参照ください。
Ping (ブログ) – Wikipedia
PING送信の仕様 – XMLの書式、RSS配信、PINGサーバとは、ブログ・ホームページ 

2. OPDSでPing送信を活用するとこうなる

 出版社が自社サイトで電子書籍の提供するとします。

 プラットフォームに依存せずにすむという利点はあるものの、コンテンツを掲載してから検索エンジンのクローラーがウェブサイトを走行するまでに時間的間隔が開いてしまいますし、Web検索エンジン上での検索は全くジャンルの異なる他のウェブサイトと検索結果が混ざってしまいます。それは電子書籍を提供する出版社にとっても、それを探す読者にとっても望ましいものではありません。プラットフォームにコンテンツが集約されてしまう理由の1つです。
 そこで、少しでも状況を改善するためにOPDSカタログの公開し、それをOPDSアグリゲータにカタログを集約させることができればと思うのです。

 OPDSカタログの公開といっても、やることはWeb上に静的なAtom形式のファイルを置くだけですので、このままではWeb上にAtom形式のカタログがぽつんと孤立した状態で存在するだけになってしまいます。OPDSカタログアグリゲータに「あー!あー!おれはここにおるで!」「更新したから、はよ来てや!」と知らせる仕組みがあわせて必要になってくるのです。それがPing送信です。
 1で紹介したRSSのPing送信の仕組みをOPDSカタログで採用すると以下のような流れになるかと思います。

<

figcaption>OPDSアグリゲータがOPDSカタログを取得する流れ

 新たな電子書籍をWeb上で提供した、または内容を更新したときにOPDSカタログを更新し、OPDSアグリゲータが設置したPing Serverにその更新情報をPing送信によって伝えるのです。OPDSカタログアグリゲータはすぐに更新されたOPDSカタログを取得し、読者の検索結果に反映させていく。
 この仕組みの大きな利点は
電子書籍プラットフォームが対象としないコンテンツ、商用出版流通に載らないコンテンツを対象にできること
 です。これは何度強調しても足ることはありません。
 
 官公庁や研究機関などのウェブサイト上では広報誌、調査報告書、学術雑誌等々の大量のコンテンツがPDF形式で無料で公開されています。これまではWeb検索エンジンでしか見つけることができなかったこれらのコンテンツも各機関がOPDSカタログを公開し、それらアグリゲータに集約させることで他の電子書籍と一緒に検索させることができます。Webの大海に埋もれて孤立しがち、そのため容易に発見されづらいコンテンツに対して光をあてることができます。

 
 読者はOPDSカタログアグリゲータが提供する検索サービスを通じて、集約されたOPDSカタログを検索することになります。コンテンツは直接、コンテンツプロバイダのウェブサイトから取得します。RSSと同様にキーワード登録することで新刊情報をキーワードで取得するなんてことも容易に実現できるでしょう。

 有料コンテンツだと、認証の問題や課金の問題等が発生しますが、そのあたりは以下のエントリで書きましたので、ここでは省略します。OPDSはとりあえずコンテンツへのリーチを担保するための仕組みです。1つ1つ問題を解消していきましょう。
プラットフォームの束縛から電子書籍を解放する仕組みとしてのOPDSと課金(マイクロペイメント)レイヤー (2012年2月26日)

OPDS Catalog 1.1 (Open Publication Distribution System)日本語訳を公開します。

 OPDS(Open Publication Distribution System)カタログフォーマットの現行の仕様である ver.1.1を日本語に訳しましたので公開します。
OPDS Catalog 1.1 日本語訳[Open Publication Distribution System (OPDS)カタログフォーマット ver.1.1]
http://www.kzakza.com/opds/opds1_1_jpn.html
  OPDS(Open Publication Distribution System)は 電子出版物のメタデータをRSSフィードに似た手法で提供・配信・交換するオープンな仕組みです。Internet ArchiveがBookServerプロジェクトに使用することを想定して仕様の策定をすすめていたフォーマットですが、その利用範囲はBookServerにとどまらず、プラットフォームに依存しない形で様々な場所で電子出版物へのリーチを担保することができるフォーマットです。
 OPDSの概要については、ドキュメント類は高瀬拓史さんが以下で翻訳して公開してくださっておりますのでこちらをご覧ください。
opds-ja
http://lostandfound.github.com/opds-ja/
 なお、1.1の仕様の翻訳にあわせて、OPDS 1.0の仕様の翻訳も若干修正しました。
OPDS Catalog 1.0 日本語訳[Open Publication Distribution System (OPDS) カタログフォーマット ver.1.0]
http://www.kzakza.com/opds/opds1_0_jpn.html
OPDS1.0とOPDS1.1の違いはまた別のエントリで紹介したいと思います。

関連エントリ