日本における視覚障害者の人口というと、前のエントリで紹介した厚生労働省の調査にある約31.2万人という、視覚障害の身体障害者手帳所持者数が挙げられることが多いと思いますが、日本眼科医会が、国勢調査資料や各種疫学研究資料等を原資料に分析し、2007年現在の日本国内の視覚障害者者の人口を約164万人、うち、ロービジョン者は144万9千人、失明者は18万8千人という推定値を2009年に公開をしています。
- [PDF](報道用資料)視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!!~視覚障害から生じる生産性やQOLの低下を、初めて試算~(平成21年9月17日)
- [PDF]「日本における視覚障害の社会的コスト(日本眼科医会研究班報告 2006~ 2008)」『日本の眼科」 第80巻 第6号(通巻578号) 付録(平成21年 6 月20日発行)
日本における視覚障害者の数(推定値)をまとめると以下の表になります。
男性 | 女性 | 合計 | |
---|---|---|---|
ロービジョン | 752,465 | 696,461 | 1,448,926 |
失明 | 97,591 | 90,328 | 187,919 |
視覚障害全体 | 850,056 | 786,789 | 1,636,845 |
この164万人を構成する年齢層ですが、視覚障害者の半数は70歳以上、60歳代は22%、60 歳以上で合計 72%を占めているという推定がなされています。厚生労働省の調査結果に出ている約31.2万人の内訳でも60歳以上が76.9%を占めていますので、母数は変われど、視覚障害者の中で高齢者が占める割合が非常に高いことは変わりないようです。
厚生労働省調査(31万人)と日本眼科医会の推定値(164万人)に大きな数値の差が生じている理由ですが、後者が国勢調査の元に算出した日本の人口を母数に、各種疫病関係資料から推定した有病率(1.28%)から算出した推定値であるということが1つの理由でしょう(母数が大きいため、0.1%でも変わると10万人単位で変わる)が、加えて以下の①と②が主な要因だと思われます。
①前者が身体障害者手帳の所持者数の数値であり、後者がそれに限定していない
②前者(身体障害福祉法が規定する視覚障害の判定基準)と後者(日本眼科医会の今回の調査)で「視覚障害者」の定義が異なる
①前者が身体障害者手帳の所持者数の数値であり、後者がそれに限定していない
身体障害者手帳を所持しない視覚障害者については、関西盲導犬協会のサイトで以下のようにわかりやすく説明されていますが、加齢によって徐々に視力が衰えて、これまでできていたことができなくなったとしても、その状況に慣らされてしまう、あるいは「老いとはそういうもの」とその状況を受入れてしまい、自身が「視覚障害者」に該当する状況であることを自覚することも難しいのではないかとも想像します。また、身体障害者手帳を所持するということは、「障害者」であると自覚することでもあり、それに抵抗する方もいるのではないかと思います。
全国に100万人以上と言われるロービジョン人口のほとんどは、身体障害者手帳の交付が受けられない程度の視覚障害であったり、手帳を申請することに消極的であったり、中には、手帳の存在をそのものを知らない方もまだおられるようです。「人ごと」と思われるかも知れませんが、このページを読んでいる皆さんの誰もが、加齢によってロービジョンに近づき、虫メガネのような拡大鏡を使うなど工夫をしなければ文字が読めなくなるのです。
視覚障害とは – 公益財団法人 関西盲導犬協会
前のエントリでも触れていますが、厚生労働省調査にある31.2万人のうち、障害等級の高い1級と2級の視覚障害の手帳所持者が22.7万人(72.8%)を占めています。身体障害者手帳も福祉サービスを利用するために取得するものであり、障害等級が低いと受けられる福祉サービスも減りますので、障害等級が低い場合は、手帳を取得するインセンティブが働かないということもあるかもしれません。
②前者(身体障害福祉法が規定する視覚障害の判定基準)と後者(日本眼科医会の今回の調査)で「視覚障害者」の定義が異なる
日本眼科医会では、上の推定値を出す際に米国の基準にあわせて視覚障害を以下のように定義しています。「よく見える方の眼」と、片方の眼の視力を基準としています。
身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準は以下のとおりです。
1級 両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者については、きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ。)の和が0.01以下のもの 2級 (1)両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95パーセント以上のもの3級 (1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90パーセント以上のもの4級 (1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの
(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの5級 (1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの
(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの6級 一眼の視力が0.02以下, 他眼の視力が0.6以下のもので,両眼の視力の和が 0.2を超えるもの
こちらは「両眼の視力の和」を判定基準にしている点が異なるということと、日本眼科医会の定義では、よく見える方の眼で矯正視力が0.5未満であれば、視覚障害に該当し、もう一方の眼の視力は0.5未満であれば特に問われませんが、身体障害者福祉法における判定基準では、6級でも「一眼の視力が0.02以下, 他眼の視力が0.6以下のもので,両眼の視力の和が 0.2を超えるもの」で、片方の視力は0.02以下であることが基準になっていますので、この差は結構大きいかもしれません。
左右それぞれの視力が0.5ずつあっても、実際の両目の視力が1.0になるわけではありませんので、両目の視力の和を基準とする身体障害者福祉法のこの判定基準については、関係者の批判もあるようです。
それをうけて、厚生労働省で視覚障害の認定基準に関する検討会を立ち上げて検討を進め、両眼の和ではなく良い方の目の視力で判定する方針を固めたようです。判定基準が変わることで、これまで身体障害者手帳を所持できなかった視覚障害者が発行を受けられる可能性も出てきました。
※2018/5/4追記
身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準について追記しました(判定基準を転載)。また、日本眼科医会の定義と身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準の違いを、前者がよく見える方の眼の視力、後者が両眼の視力の和としていることを主にして紹介していましたが、判定基準となる視力にも違いがありました(身体障害者福祉法における視覚障害の判定基準では、片方の視力は0.02以下であることが判定基準になっている点)ので、その点を書き加えてました。