『アクセシビリティハンドブック』(O'Reilly Japan)

 以下の本を一読したので、感想などをメモ程度に。

『アクセシビリティハンドブック』(O’Reilly Japan)

 ウェブアクセシビリティについていろいろと調べていくと、これはこうだからダメ、あれはああなのでそうしたほうがいいということがある程度わかってきますが、調べれば調べるほど表層的な部分に触れる程度の理解でしかないことを痛感します。
 それでこの書籍です。目次をみて、障害者がどのような困難に遭遇しているかを障害別に詳しく書いてあるのかと期待してすぐに読んでみました。しかし、内容は障害別にウェブアクセシビリティを配慮したコンテンツの作成の方法をまとめたもので、そう言う意味では少し期待を裏切られました。
 とはいえです。他の本のようにJavaScript、フォーム、テーブルといった開発者視点の分類でのウェブアクセシビリティ解説より、なぜ対応しなければならないかという理由とその対応方法がセットになっているこの本のほうが初めてウェブアクセシビリティについて触れる人には理解しやすいかもしれません。ページ数も10.5インチのiPadで読めば、だいたい100頁強ですので、数時間で通読できるものだと思います。巻末に障害別にツール類を紹介したまとめが掲載している点もポイントが高い。
 なお、ですが、この本を手にとったそもそもの動機を満足させるためには、個々に書籍にあたっていくしかないようです(し、実際にいろいろと読んでもいる)。しかし、障害者の抱える困難については、国立国会図書館が公開する以下の研修資料がよくまとまっています。

アクセシブルに「強調」-strong要素、em要素、b要素、mark要素 –

 なんとなく強調するために使われているっぽいstrong要素、em要素、b要素、mark要素の使い分けについて整理し、アクセシビリティ的にどうなのかというところを簡単にまとめてみました。なお、HTML5になってこれらの要素の定義が変更されたようですので、今回はHTML5の仕様に基づいてまとめます。

テキストに対する意味付けをする要素

 HTML5タグリファレンスを参照して整理しますと以下の通りになります。 

strong要素

 重要性を表します。

em要素

 強調を表します。重要性を伝える意味はありません。

b要素

 他のテキストと視覚的に区別させたいときに使用します。重要性や強調は意味しません。太字で表示されることが多いですが、太字で表示されるとは限りません。

mark要素(HTML5の新要素)

 特定の範囲をハイライトします。他の箇所である箇所を言及した場合にそのある箇所を目立たせる場合に使用されます。重要性や強調は意味しません

strong要素とem要素の違い

 strong要素が意味するところの重要性とem要素が意味するところの強調の違いが分かりづらいですね。以下のHTML5.JPで公開されているhtml5doctorの翻訳でその違いが詳しく紹介されていますが、アクセントを置くのはそこが重要だからではないかという気もしまして、個人的にはその使い分けが完全にはよくわかっていません。重要だからアクセントを置くならばstrong要素を、重要ではないがアクセントを置くならem要素をとなるのでしょうか。ケースバイケースで判断するところもあるのだと思います。

参考

支援技術でのサポート

 strong要素とem要素はテキストにそれぞれ重要性と強調の意味を持たせることができますので、支援技術が対応していれば、プログラムがその意味を理解し、ユーザーに伝えることができます。
 
 残念ながら現時点でこの両要素に対応するものはほとんど存在しないようですが、重要性や強調を表現する場合は、将来の支援技術の対応に備えるために、また、テキストにセマンティクスを与えるためにもstrong要素やem要素を使用するべきです。

参考

WCAG2.0(JIS X8341-3:2010)上では?

 W3CのウェブアクセシビリティガイドラインであるWCAG2.0では、「1.3.1 情報及び関係性」が今回のエントリに係る要件になります(JIS X8341-3:2010では、7.1.3.1)。

1.3.1 情報及び関係性

表現を通じて伝達されている情報、 構造、及び関係性は、プログラムが解釈可能である。プログラムが解釈可能にすることができないウェブコンテンツ技術を用いる場合は、それらがテキストで提供されている。 (レベルA)

参考:達成基準 1.3.1 を理解する | WCAG 2.0解説書
 

関連エントリ

ウェブアクセシビリティガイドラインについて
代替テキスト
リンクのはり方

国際電子出版EXPO2011におけるBRC松井 進氏の講演「視覚障がい者とインターネット」の講演動画

  一昨年の国際電子出版EXPO2011で行われたバリアフリー資料リソースセンター松井 進氏の「視覚障がい者とインターネット」の動画が公開されていました。UStreamでまだアーカイブもされているのですが、こちらのほうが画質もよさそうなので、こちらを紹介。1/4〜4/4あわせて45分です。

視覚障がい者とインターネット【国際電子出版EXPO2011】
※上の埋め込み動画は1/4から4/4が連続再生されますので、個々に視聴したい場合は上のリンクにあるYoutubeからどうぞ。
バリアフリー資料リソースセンター(BRC)副理事長 松井 進氏
2011年7月9日(土) 11:30~12:20
国際電子出版EXPO2011 ボイジャー・セルシス合同ブース内 Voyager Speaking Sessions
発表資料も公開されています。
[PDF]発表資料
 「視覚障がい者とインターネット」とありますが、内容的には視覚障害者がどのように「読書」を行うのか、支援機器のデモを交えての紹介と視覚障害者にとってのアクセシブルな電子書籍とは何かというお話でした。プレクストークリンクポケットを使った音声のみによるサピエ図書館の利用デモを観ることができたのが、個人的に非常に良かったです。
 
 プレクストークがサピエ図書のウェブサイトを音声で読み上げて利用させているのかは分かりませんが、他のウェブサイトも同様のことが本当はできなくてはいけない。GUIで利用できるだけではなく。プレクストークのような機器で音声だけでも利用することができるアクセシブルなデザインが求められているのだろうと感じました。もしかすると、これがマルチモーダルというのでしょうか。
 松井氏は講演の中で、後付けのアクセシビリティではなく、アクセシビリティを最初から盛り込んだ電子書籍をとおっしゃっていましたが、これは電子書籍に限らずの話だと思います。ウェブデザインもアクセシビリティをあらかじめ盛り込んだ「アクセシビリティファースト」な考えが普及して欲しいと願うところです。
 

紹介されたソフトウェア、支援機器など