平成30年著作権法改正に対応する著作権法施行令改正案のパブリックコメントが開始

 備忘として。平成30年著作権法改正に対応する著作権法施行令改正案のパブリックコメントが開始されました。2018年11月17日土曜日に日の変わるタイミングで開始されたようです。土曜日に開始されることもあるんですね。
「著作権法施行令の一部を改正する政令(案)」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令(案)」に関する意見募集の実施について | パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
 1月1日に施行する必要があり、2009年の改正時にも11月14日に開始されていたので、今回はいつパプコメが開始されるのかと思っていたましたが、こんなギリギリになろうとは。本来は30日を確保する必要があるようですが、そんな事情で意見募集期間が短縮されています。

本政令案・省令案で規定する内容については、多くの事業者・団体の活動に影響を与え得るものであるところ、それらの関係者のニーズ・意向等の把握や、審議会での検討等に一定の期間を要した一方で、「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律第30号)の施行(平成31年1月1日)までに本政令・省令を制定をすることが不可欠であることから、意見募集期間を短縮することとした。

 著作権法施行令の改正案そのものが提示されるのかと思っていたのですが、概要のみが示された上での意見募集です。過去の事例や他の政令を見てもそうらしいので、そういうものなのか。
 今回の著作権法改正では、障害者サービスに関係するところでは以下の3点に対応することになっています(詳細は、著作権分科会法制・基本問題小委員会で中間まとめた出た段階でまとめたものがありますので、ご参照ください。)。1番目と2番目は、著作権法の改正ですでに実現しましたが、3番目の複製等を行える主体の拡大は、今回の著作権法施行令で実現されることになっています。

  1. 第37条第3項における受益者の範囲に身体障害などにより読字に支障がある者を含めることを明文化(この部分がマラケシュ条約対応)
  2. 第37条第3項により認められる著作物の利用行為に公衆送信(メールによる提供)を追加
  3. 第37条第3項により複製等を行える主体の拡大(ボランティア団体の追加及び文化庁長官の個別指定に係る事務処理の円滑化)

 障害者サービスに関係するところを以下に転載しておきます。

(2)視覚障害者等のための複製又は公衆送信が認められる者(新法第37条第3項、新令第2条第1項第2号、新規則第2条の3及び第2条の4関係)
○ 新法第37条第3項では、「視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるもの」が、視覚障害者等のための録音図書等を作成するため、著作物の複製又は公衆送信(インターネット送信のほかメール送信も含む。以下(2)において同じ。)を行うことができる旨、規定している。
○ 新令第2条では、「政令で定めるもの」として、新たに、視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法人格を有しないボランティア団体等も含む。)で次に掲げる要件を満たすものを類型的に規定する(これにより、文化庁長官による個別指定を受けずとも、視覚障害者等のための複製又は公衆送信が可能となる)。
① 視覚障害者等のための複製又は公衆送信を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力及び経理的基礎を有していること。
② 視覚障害者等のための複製又は公衆送信を適正に行うために必要な著作権法に関する知識を有する職員が置かれていること。
③ 情報を提供する視覚障害者等の名簿を作成していること(名簿を作成している第三者を通じて情報を提供する場合は、当該名簿を確認していること)。
④ 法人の名称並びに代表者の氏名及び連絡先その他文部科学省令で定める事項を文部科学省令で定めるところにより公表していること。
○ 新規則第2条の3では、上記④の「文部科学省令で定める事項」として、次に掲げるものを規定する。
i)視覚障害者等のために情報を提供する事業の内容(複製又は公衆送信を行う著作物の種類及び当該複製又は公衆送信の態様を含む。)
ii)上記①から③までに掲げる要件を満たしている旨
○ 新規則第2条の4では、上記④の「文部科学省令で定めるところ」として、文化庁長官が定めるウェブサイトへの掲載により行うことを規定する。

今回の改正に関連する(あるいはしそうな)エントリ

盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(略称:視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約)

盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(略称:視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約)の締結について、2018年3月29日に衆議院で同年4月25日に参議院で承認され、条約の批准における「国会承認」という重要な段階を通過しました。政府が訳した条文が外務省のホームページに公開されています。

※2018/11/18追記
 日本政府が10月1日に加入手続きを行いましたので、2019年1月1日からマラケシュ条約は、日本において発効することになります。
日本・欧州連合(EU)がマラケシュ条約を批准 | カレントアウェアネス・ポータル
 しかし、現在、PDF形式、しかも、縦書きのものしか公開されておらず、国会に承認を得るための文書としてはこの書式なのでしょうが、PCやスマホ上で読むには、大変読みづらい。障害者権利条約のようにいずれHTML版も公開されると思いますが、それまで、HTMLで読めるようにとりあえず以下に転載。
 
 

視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約(政府日本語訳)

盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(略称:視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約

前文

 締約国は、
 世界人権宣言及び国際連合の障害者の権利に関する条約において宣明された無差別、機会の均等、施設及びサービス等の利用の容易さ並びに社会への完全かつ効果的な参加及び包容の原則を想起し、
 視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者の完全な発達を害している諸課題に留意し、また、その諸課題により、これらの者が、他の者との平等を基礎としてあらゆる種類の情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む表現の自由(自ら選択するあらゆる形態の意思疎通によるものを含む。)、教育を受ける権利の享受並びに研究を実施する機会について制限されていることに留意し、
 文学的及び美術的著作物の創作を促進し、及びその創作に報酬を与えるものとして著作権の保護が重要であること並びに視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者を含む全ての者が地域社会の文化的な生活に参加し、芸術を享受し、並びに科学の進歩及びその利益を共有するための機会を増大させることが重要であることを強調し、
 社会における機会の均等を達成するに当たり視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用することに対する障壁を認識し、また、利用しやすい様式の著作物の数を増大させること及びこれらの著作物の流通を改善することの双方の必要性を認識し、
 視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者の多数が開発途上国及び後発開発途上国において生活していることを考慮し、
 各国の著作権法における相違にかかわらず、強化された国際的な法的枠組みにより、新たな情報通信技術が視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者の生活に及ぼす肯定的な影響を増大させることができることを認め、
 多くの加盟国が視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者のために自国の著作権法において制限及び例外を定めているが、これらの者にとって利用しやすい様式の複製物の形態で利用可能な著作物が引き続き不足していること、これらの者のために著作物を利用しやすいものとする当該加盟国の努力に相当の資源が必要とされること及び利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換ができないためにこれらの努力の重複が生じていることを認め、
 著作物を視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者のために利用しやすいものとするに当たり権利者が果たす役割が重要であること並びに著作物を視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者のために利用しやすいものとするための適当な制限及び例外が特に市場がそのような利用の機会を提供することができない場合には重要であることの双方を認め、
 著作者の権利の効果的な保護と一層広範な公共の利益(特に、教育、研究及び情報の利用)との間の均衡を保つ必要があること並びにそのような均衡が視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者のために著作物を利用する効果的な及び適時の機会を促進しなければならないことを認め、
 著作権の保護に関する既存の国際条約に基づく締約国の義務並びに文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第九条(2)その他の国際文書に定める制限及び例外に関するスリー・ステップ・テストの重要性及び柔軟性を再確認し、
 世界知的所有権機関の一般総会により二千七年に採択され、開発に関する考慮が同機関の活動の不可分の一部を成すことを確保することを目的とする開発のためのアジェンダの勧告の重要性を想起し、
 国際的な著作権制度の重要性を認め、また、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が著作物を利用する機会を促進し、及びこれらの者による著作物の利用を容易にするために制限及び例外について調和を図ることを希望して、
 次のとおり協定した。

第一条 他の条約との関係

この条約のいかなる規定も、締約国が他の条約に基づいて相互に負う義務を免れさせるものではなく、また、締約国が他の条約に基づいて有する権利に影響を及ぼすものではない。

第二条 定義

 この条約の適用上、
 (a) 「著作物」とは、発行されているか又は他のいかなる媒体において公に利用可能なものとされているかを問わず、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)第二条(1)に規定する文学的及び美術的著作物であって文字、記号又は関連する図解の形式によるものをいう。
 (b) 「利用しやすい様式の複製物」とは、受益者に著作物を利用する機会(視覚障害その他の印刷物を判読する上での障害のない者と同様に実行可能かつ快適な利用の機会を含む。)を与える代替的な方法又は形式による当該著作物の複製物をいう。利用しやすい様式の複製物は、専ら受益者によって利用されるものであり、また、代替的な様式で著作物を利用しやすいものとするために必要とされる変更及び利用の容易さについての受益者のニーズを十分に考慮した上で、原著作物の完全性を尊重するものでなければならない。
 (c) 「権限を与えられた機関」とは、政府により、受益者に対して教育、教育訓練、障害に適応した読字又は情報を利用する機会を非営利で提供する権限を与えられ、又は提供することを認められた機関をいう。この機関には、主要な活動又は制度上の義務の一として受益者に同様のサービスを提供する政府機関及び非営利団体を含む。
権限を与えられた機関は、次のことを行うための実務の方法を確立し、これに従う。
  (i) 当該権限を与えられた機関によるサービスの提供の対象者が受益者であることを確認すること。
  (ii) 当該権限を与えられた機関が利用しやすい様式の複製物を受益者又は権限を与えられた機関にのみ譲渡し、及び利用可能とすること。
  (iii) 許諾されていない複製物の複製、譲渡及び利用可能化を防止すること。
  (iv) 第八条の規定に従って受益者のプライバシーを尊重しつつ、当該権限を与えられた機関が継続的に著作物の複製物の取扱いについて十分な注意を払い、及び記録すること。
 

第三条 受益者

 受益者は、他の障害の有無を問わず、次のいずれかに該当する者である。
 (a) 盲人である者
 (b) 視覚障害又は知覚若しくは読字に関する障害のある者であって、そのような障害のない者の視覚的な機能と実質的に同等の視覚的な機能を与えるように当該障害を改善することができないため、印刷された著作物を障害のない者と実質的に同程度に読むことができないもの
 (c) (a)及び(b)に掲げる者のほか、身体的な障害により、書籍を持つこと若しくは取り扱うことができず、又は読むために通常受入れ可能な程度に目の焦点を合わせること若しくは目を動かすことができない者

第四条 利用しやすい様式の複製物に関する国内法令上の制限及び例外

1(a) 締約国は、受益者のために著作物を利用しやすい様式の複製物の形態で利用可能とすることを促進するため、自国の著作権法において、著作権に関する世界知的所有権機関条約に定める複製権、譲渡権及び公衆の使用が可能となるような状態に置く権利の制限又は例外について定める。国内法令に定める制限又は例外については、著作物を代替的な様式で利用しやすいものとするために必要な変更を認めるものとすべきである。
 (b) 締約国は、受益者が著作物を利用する機会を促進するため、公に上演し、及び演奏する権利の制限又は例外を定めることができる。
2 締約国は、自国の著作権法において次の(a)及び(b)に規定する制限又は例外を定めることにより、1に規定する全ての権利について1の規定を実施することができる。
 (a) 権限を与えられた機関は、次の全ての要件が満たされる場合には、著作物について、その著作権者の許諾を得ることなく、利用しやすい様式の複製物を作成すること、利用しやすい様式の複製物を他の権
限を与えられた機関から入手すること及びあらゆる手段(非商業的な貸与及び有線又は無線の方法による電子的な伝達を含む。)により受益者にこれらの複製物を提供すること並びにこれらの目的を達成す
るためにあらゆる中間的な措置をとることが認められる。
  (i) この(a)に規定する活動を行うことを希望する権限を与えられた機関が、当該著作物又はその複製物を合法的に利用する機会を有していること。
  (ii) 当該著作物が利用しやすい様式の複製物に変換されていること。その変換については、利用しやすい様式において情報を認識するために必要な手段を含めることができるが、当該著作物を受益者にとって利用しやすいものとするために必要な変更以外の変更をもたらさないものとする。
  (iii)  (ii)に規定する利用しやすい様式の複製物が専ら受益者によって利用されるよう提供されること。
  (iv) この(a)に規定する活動が非営利で行われること。
 (b) 受益者又は当該受益者のために行動する者(主たる介護者を含む。)は、当該受益者が著作物又はその複製物を合法的に利用する機会を有する場合には、当該受益者の個人的な利用のために当該著作物の利用しやすい様式の複製物を作成することができ、又はその他の方法により当該受益者が利用しやすい様式の複製物を作成し、及び利用することを支援することができる。
3 締約国は、第十条及び第十一条の規定に基づいて自国の著作権法において他の制限又は例外を定めることにより、1の規定を実施することができる。
4 締約国は、この条の規定に基づく制限又は例外を、自国の市場において受益者が特定の利用しやすい様式では妥当な条件により商業的に入手することができない著作物に限定することができる。この4の規定を用いる締約国は、この条約の批准、受諾若しくは加入の時に、又はその後いつでも、世界知的所有権機関の事務局長に寄託する通告において、その旨を宣言する。
5 この条の規定に基づく制限又は例外を報酬の対象とするか否かは、国内法令の定めるところによる。

第五条 利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換

1 締約国は、利用しやすい様式の複製物が制限若しくは例外に基づいて又は法令の実施によって作成される場合には、権限を与えられた機関が、当該利用しやすい様式の複製物を他の締約国の受益者若しくは権限を与えられた機関に譲渡し、又は他の締約国の受益者若しくは権限を与えられた機関の利用が可能となるような状態に置くことができることを定める。
2 締約国は、自国の著作権法において次の(a)及び(b)に規定する制限又は例外を定めることにより、1の規定を実施することができる。ただし、これらの制限又は例外は、権限を与えられた機関が、次の(a)又は(b)の規定により譲渡し、又は利用可能化を行う前に、利用しやすい様式の複製物が受益者以外の者のために利用されるであろうことを知らなかった場合又は知ることができる合理的な理由を有しなかった場合に限る。
(a) 権限を与えられた機関は、権利者の許諾を得ることなく、専ら受益者による利用のために、利用しやすい様式の複製物を他の締約国の権限を与えられた機関に譲渡し、又は他の締約国の権限を与えられた機関の利用が可能となるような状態に置くことが認められる。
(b) 権限を与えられた機関は、権利者の許諾を得ることなく、かつ、第二条の規定に従い、利用しやすい様式の複製物を他の締約国の受益者に譲渡し、又は他の締約国の受益者の利用が可能となるような状態に置くことが認められる。
3 締約国は、4、第十条及び第十一条の規定に基づいて自国の著作権法において他の制限又は例外を定めることにより、1の規定を実施することができる。
4(a) 締約国の権限を与えられた機関が1の規定に基づいて利用しやすい様式の複製物を譲り受け、及び当該締約国がベルヌ条約第九条の規定に基づく義務を負っていない場合には、当該締約国は、自国の法律上の制度及び慣行に従い、当該利用しやすい様式の複製物が当該締約国の管轄内で受益者のためにのみ複製され、譲渡され、又は利用が可能となるような状態に置かれることを確保する。
 (b) 締約国が著作権に関する世界知的所有権機関条約の締約国である場合又は締約国がこの条約を実施するための譲渡権及び公衆の利用が可能となるような状態に置く権利の制限及び例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する場合を除くほか、権限を与えられた機関が1の規定に基づいて行う利用しやすい様式の複製物の譲渡及び利用可能化は、当該締約国の管轄内に限定される。
 (c) この条のいかなる規定も、何が譲渡の行為又は公衆の利用が可能となるような状態に置く行為に該当するかについての決定に影響を及ぼすものではない。
5 この条約のいかなる規定も、権利の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならない。

第六条 利用しやすい様式の複製物の輸入

締約国の国内法令は、受益者、受益者のために行動する者又は権限を与えられた機関が著作物の利用しやすい様式の複製物を作成することを認める範囲において、これらの者が権利者の許諾を得ることなく受益者のために利用しやすい様式の複製物を輸入することを認めるものとする。

第七条 技術的手段に関する義務

 締約国は、効果的な技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める場合には、受益者が当該法的保護によりこの条約に定める制限及び例外を享受することを妨げられないことを確保するため、必要に応じて適当な措置をとる。

第八条 プライバシーの尊重

 締約国は、この条約に定める制限及び例外の実施に当たり、他の者との平等を基礎として受益者のプライバシーを保護するよう努める。

第九条 国境を越える交換を促進するための協力

1 締約国は、権限を与えられた機関が相互に特定することを支援するための情報の自発的な共有を奨励することにより、利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換を促進するよう努める。世界知的所有権機関国際事務局は、このため、情報の入手先を設ける。
2 締約国は、第五条の規定に基づく活動を行う自国の権限を与えられた機関が、各国の権限を与えられた機関の間で情報を共有すること並びに適当な場合には当該締約国の権限を与えられた機関の方針及び実務の方法に関する情報(利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換に関するものを含む。)を利害関係者及び公衆にとって利用可能なものとすることの双方により、第二条(c)に規定する実務の方法に関する情報を利用可能なものとすることについて、支援することを約束する。
3 世界知的所有権機関国際事務局は、利用可能な場合には、この条約の実施に関する情報を共有するよう要請される。
4 締約国は、この条約の目的及び趣旨を実現するための各国の努力を支援するために国際協力及びその促進が重要であることを認める。

第十条 実施に関する一般原則

1 締約国は、この条約の適用を確保するために必要な措置をとることを約束する。
2 この条約のいかなる規定も、締約国が自国の法律上の制度及び慣行の範囲内でこの条約を実施するための適当な方法を決定することを妨げるものではない。
3 締約国は、受益者のための制限若しくは例外、他の制限若しくは例外又はこれらの組合せにより、自国の法律上の制度及び慣行の範囲内で、この条約に基づく権利を行使し、及びこの条約に基づく義務を履行することができる。これらの制度及び慣行には、受益者のニーズを満たす公正な慣行、取引又は利用についての当該受益者の利益となる司法上、行政上又は規制上の決定であって、ベルヌ条約、他の国際条約及び次条の規定に基づく締約国の権利及び義務に適合するものを含めることができる。

第十一条 制限及び例外に関する一般的義務

 締約国は、この条約の適用を確保するために必要な措置をとるに当たり、次の(a)から(d)までの規定に従い、当該締約国が、ベルヌ条約、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び著作権に関する世界知的所有権機関条約(これらの条約の解釈に関する合意を含む。)に基づいて有する権利を行使することができ、並びにこれらの条約に基づいて負う義務を履行する。
 (a) 締約国は、ベルヌ条約第九条(2)の規定に従い、複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件として、特別な場合について当該著作物の複製を認めることができる。
 (b) 締約国は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定第十三条の規定に従い、排他的権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。
 (c) 締約国は、著作権に関する世界知的所有権機関条約第十条(1)の規定に従い、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合には、同条約に基づいて著作者に与えられる権利の制限又は例外を定めることができる。
 (d)締約国は、著作権に関する世界知的所有権機関条約第十条(2)の規定に従い、ベルヌ条約を適用するに当たり、権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。

第十二条 他の制限及び例外

1 締約国は、各締約国が、その経済状況並びに社会的及び文化的なニーズを考慮し、その国際的な権利及び義務に従い、並びに後発開発途上国の場合にはその特別のニーズ並びにその特有の国際的な権利及び義務並びにこれらの柔軟性を考慮して、受益者のための著作権の制限及び例外であってこの条約に定めるもの以外のものを各締約国の国内法令において実施することができることを認める。
2 この条約は、国内法令に定める障害者のための他の制限及び例外に影響を及ぼすものではない。

第十三条 総会

1(a) 締約国は、総会を設置する。
 (b)各締約国は、総会において、一人の代表によって代表されるものとし、代表は、代表代理、顧問及び専門家の補佐を受けることができる。
 (c)各代表団の費用は、その代表団を任命した締約国が負担する。総会は、世界知的所有権機関に対し、国際連合総会の確立された慣行に従って開発途上国とされている締約国及び市場経済への移行過程にある締約国の代表団の参加を容易にするために財政的援助を与えることを要請することができる。
2(a) 総会は、この条約の存続及び発展並びにこの条約の適用及び運用に関する問題を取り扱う。
 (b)総会は、政府間機関が締約国となることの承認に関し、第十五条の規定により与えられる任務を遂行する。
 (c)総会は、この条約の改正のための外交会議の招集を決定し、当該外交会議の準備のために世界知的所有権機関事務局長に対して必要な指示を与える。
3(a) 国である締約国は、それぞれ一の票を有し、自国の名においてのみ投票する。
 (b) 政府間機関である締約国は、当該政府間機関の構成国でこの条約の締約国であるものの総数に等しい数の票により、当該構成国に代わって投票に参加することができる。当該政府間機関は、当該構成国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票に参加してはならない。また、当該政府間機関が自らの投票権を行使する場合には、当該構成国のいずれも投票に参加してはならない。
4 総会は、世界知的所有権機関事務局長の招集により会合するものとし、例外的な場合を除くほか、世界知的所有権機関の一般総会と同一期間中に同一の場所において会合する。
5 総会は、コンセンサス方式により決定を行うよう努めるものとし、臨時会期の招集、定足数、種々の決定を行う際に必要とされる多数(この条約の規定に従うことを条件とする。)その他の事項について手続規則を定める。

第十四条 国際事務局

世界知的所有権機関国際事務局は、この条約の管理業務を行う。

第十五条 この条約の締約国となる資格

1 世界知的所有権機関の加盟国は、この条約の締約国となることができる。
2 総会は、この条約が対象とする事項に関して権限を有し、及び当該事項に関してその全ての構成国を拘束する自らの法制を有する旨並びにこの条約の締約国となることにつきその内部手続に従って正当に委任を受けている旨を宣言する政府間機関が、この条約の締約国となることを認める決定を行うことができる。
3 欧州連合は、この条約を採択した外交会議において2に規定する宣言を行っており、この条約の締約国となることができる。

第十六条 この条約に基づく権利及び義務

 各締約国は、この条約に別段の定めがある場合を除くほか、この条約に基づく全ての権利を享有し、全ての義務を負う。

第十七条 この条約の署名

 この条約は、マラケシュにおける外交会議において、その後はこの条約の採択の後一年間、世界知的所有権機関の本部において、この条約の締約国となる資格を有する国又は政府間機関による署名のために開放しておく。

第十八条 この条約の効力発生

 この条約は、第十五条に規定するこの条約の締約国となる資格を有する国又は政府間機関のうち二十の国又は政府間機関が批准書又は加入書を寄託した後三箇月で効力を生ずる。

第十九条 締約国についてこの条約の効力が生ずる日

 この条約は、次に掲げる日からこの条約の締約国となる資格を有する国及び政府間機関を拘束する。
 (a)前条に規定するこの条約の締約国となる資格を有する二十の国又は政府間機関については、この条約
が効力を生じた日
 (b)(a)の国又は政府間機関以外の第十五条に規定するこの条約の締約国となる資格を有する国又は政府間機関については、当該国又は政府間機関が世界知的所有権機関事務局長に批准書又は加入書を寄託した日から三箇月の期間が満了した日

第二十条 この条約の廃棄

 いずれの締約国も、世界知的所有権機関事務局長に宛てた通告により、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務局長がその通告を受領した日から一年で効力を生ずる。

第二十一条 この条約の言語

1 この条約は、ひとしく正文である英語、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語及びスペイン語による原本一通について署名する。
2 世界知的所有権機関事務局長は、いずれかの関係国の要請により、全ての関係国と協議の上、1に規定する言語以外の言語による公定訳文を作成する。この2の規定の適用上、「関係国」とは、世界知的所有権機関の加盟国であって当該公定訳文の言語をその公用語又は公用語の一とするもの並びに欧州連合及びこの条約の締約国となることができる他の政府間機関であって当該公定訳文の言語をその公用語の一とするものをいう。

第二十二条 寄託者

 この条約の寄託者は、世界知的所有権機関事務局長とする。
 
 二千十三年六月二十七日にマラケシュで作成した。

著作権法第37条第3項及びその運用ガイドラインにかかる図書館団体と権利者団体の協議の経緯

 著作権法第37条(以下)は、図書館や点字図書館が、代替資料の製作などプリントディスアビリティのある人(著作権法の条文上は「視覚障害者等」)に情報提供を行うための重要な権利制限規定です。

(視覚障害者等のための複製等)
第三十七条 公表された著作物は、点字により複製することができる。
2 公表された著作物については、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。
3 視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

 特に第37条第3項については、図書館団体と権利者団体が協議を重ねて策定した運用ガイドラインがあり、例えば、受益者である「視覚障害者等」をだれがどのように判断するのかということや、但し書きに該当する(つまり、図書館がだいたい資料を作ってはいけないもの)など、著作権法の条文だけでは判断できないことを具体的に定めています。図書館の間では著作権法第37条第3項に係るサービスを行う場合は、このガイドラインに基づいて行われています。

 著作権法第37条第3項及びガイドライン策定に至る2000年以降の経緯について、まとめてみました。なお、著作権法第37条に関係する事項を中心にまとめていますが、図書館と権利者との協議は、著作権法第37条に特化したものではなく、第31条も含む図書館業務全体を対象にしていたため、以下にまとめた経緯には、37条以外の事項も含まれています。
 
 なお、ここに掲載したものは、公開もしくは公刊された情報に基いており、本エントリに参考情報として掲載しているか、リンクが貼られています。その範囲で調べた範囲で判明しなかったもの(例えば、ガイドラインにも言及のある障害者ワーキングチームの設置された時期、経緯など)は、このエントリでは掲載しておりません。

経緯

2000(平成12)年

2月

文部省生涯学習局長の下に「コンピュータ,インターネット等を活用した著作物等の教育利用に関する調査研究協力者会議」が設置され、図書館活動に係る著作権制度の改善の在り方について検討される。9月に報告書の形で会議の提言が[PDF]「コンピュータ,インターネット等を活用した著作物等の教育利用について(報告)」(Internet Archiveに保存されていたもの)に文化庁長官に提出され、図書館に関する著作権制度改善の検討の契機となる。障害者サービスに関係するところでは以下のようにまとめられている。

(2)視覚障害者用に著作物の録音を行える主体の範囲
著作権法第37条第1項の例外規定により,公表された著作物は,視覚障害者用の「点字」により複製することができることとされており,この行為を無許諾で行える主体については,何ら制限が設けられていない。これに対して,公表された著作物等を視覚障害者向けの貸出しのために「録音」する行為については,この行為を無許諾で行える主体が,点字図書館等の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設(政令で定めるもの)に限定されている。この施設は,具体的には著作権法施行令によって定められているが,一般の公共図書館などはこれに含まれていない。
これについては,公共図書館の関係者やボランティア・グループの関係者などの間に,視覚障害者向けの貸出しのために上記の録音行為を無許諾で行える主体を拡大すべきであるとの意見がある。
しかし,このことについては,点字の場合と異なり録音物の場合は,視覚障害者のみによる使用を担保することが現時点では困難であり,上記のような主体の拡大を主張する人々が,まずこれを担保する方法等を検討して提案する必要があると思われる。

10月11日

文化庁文化審議会著作権審議会マルチメディア小委員会に図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループが設置される。

2001(平成13)年

4月27日

文化審議会著作権分科会情報小委員会図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループが設置される(第5回 <2001年9月28日> まで開催)。図書館側・権利者側から各4名の委員が選任されて、共通のテーブルで行った検討が始まる。

12月10日

文化審議会著作権分科会において、上記ワーキンググループの検討・整理等の結果が以下のように報告される。

 現行の著作権法第37条第3項では、専ら視覚障害者向けの貸出の用に供するために、公表された著作物を許諾を得ずに録音することができる者は、点字図書館等の施設に限定されているが、公共図書館等においても許諾を得ずに録音できるようにしてほしいとの要望がある。
要望の理由としては、公共図書館においても現在録音図書の作成を行っており、許諾なく録音できる主体を公共図書館に拡大することは、視覚障害者の福祉の増進という規定の趣旨にも適うことであることがあげられている。
この事項について、権利者側からは、健常者の使用にも供されるのではないかという危惧、録音図書を業として出版する者への影響に対する懸念、音読や入力が不正確に行われかねないとの懸念等が表明された。
文化審議会著作権分科会審議経過の概要(平成13年12月10日)

 同日、図書館等における著作物等の利用に係る権利制限の見直しに関し、同ワーキング・グループにおいて整理された事項について、関係者による具体的な協議・検討を行うため、「図書館等における著作物の利用に関する検討」が設置される(設置期間は2003年3月31日まで。会議は、第1回 <2002年2月1日> から第7回 <同年9月24日> まで開催された)。

    【検討メンバー】

  • 金原優 (社)日本書籍出版協会副理事長
  • 小阪守  全国公共図書館協議会:東京都立中央図書館サービス部長
  • 児玉昭義 (社)日本映像ソフト協会専務理事・事務局長
  • 酒川玲子 (社)日本図書館協会参与(著作権担当)
  • 土屋俊 国公私立大学図書館協力委員会:千葉大学教授
  • 中西敦男 学術著作権協会常務理事
  • 前園主計 専門図書館協議会著作権委員会委員長
  • 三田誠広 (社)日本文芸家協会常務理事・知的所有権委員会委員長
<「図書館等における著作物の利用に関する検討」に関する参考>

2002(平成14)年

9月27日

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)において、「図書館等における著作物の利用に関する検討」の検討結果として、図書館における視覚障害者のための複製について以下のように報告される。

 当面、図書館団体と権利者団体が協力して、「簡便な許諾契約システム」「事前の意思表示システム」等の構築を行うことで、両者の意見が一致した。(法改正については、これらのシステムの効果を評価したうえで検討する。)
「教育」「図書館」関係の権利制限見直しの概要(文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 <第4回> 資料3 )

2003(平成15)年

1月

「図書館等における著作物の利用に関する検討」に参加していた個人の資格で覚書を取り交わし、「図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議」が開始される。

2004年(平成16年)

3月

国公私立大学図書館協力委員会と日本著作出版権管理システム、学術著作権協会の間で図書館間相互貸借(ILL)のためのファクシミリ、インターネット送信のための無償許諾を 権利者側団体から得る

4月30日

日本図書館協会と日本文芸家協会の間で「視覚障害者のための録音図書作成についての公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」を締結される。

8月1日

「公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」に基づく障害者用音訳資料作成の一括許諾の申し込み受付の開始。

5月25日

「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」設置。権利者側と図書館側との各団体が委員を派遣して構成。以下の図書館側5団体、権利者側 6団体、計11 団体が、2,3 ヶ月に1回のペースで図書館における著作権問題の解決に向けて協議。

    ■ 図書館団体

  • 国公私立大学図書館協力委員会
  • 社団法人全国学校図書館協議会
  • 社団法人日本図書館協会
  • 全国公共図書館協議会
  • 専門図書館協議会
  • その他オブザーバとして国立国会図書館(2006<平成18>年から)など

 

    ■ 権利者団体(団体の五十音順)

  • 有限責任中間法人 学術著作権協会
  • 社団法人 日本映像ソフト協会
  • 社団法人 日本書籍出版協会
  • 株式会社 日本著作出版権管理システム
  • 社団法人 日本複写権センター
  • 社団法人 日本文藝家協会

当事者協議会設置と同じタイミング?

「著作権に関する図書館団体懇談会」設置。座長は土屋俊先生。2,3ヶ月に1回のペースで会合が開催されていたようである。

    ■ 参加した図書館団体

  • 公立大学図書館協議会
  • 国立国会図書館
  • 国立大学図書館協議会
  • 社団法人全国学校図書館協議会
  • 社団法人日本図書館協会
  • 私立大学図書館協会
  • 全国公共図書館協議会
  • 専門図書館協議会
  • 日本看護図書館協議会

2005(平成17)年

3月30日

文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成17年第2回(2005年3月30日)において、常世田良氏より図書館関係の権利制限について要望事項が提出される。障害者サービス関係は以下。

(E)著作権法第37条第3項について、複製の方法を録音に限定しないこと、利用者を視覚障害者に限定しないこと、対象施設を視覚障害者福祉施設に限定しないこと、視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて
1 現行制度
 現行の著作権法第37条第3項においては、録音図書の作成者を視覚障害者福祉施設に限定するとともに、録音図書の貸出対象者を視覚障害者のみに限定している。また、録音データの公衆送信を権利制限の範囲に含めていない。
2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 図書館は「国民の教育と文化の発展に寄与する」ことを目的に、「資料を収集し、一般公衆の利用に供する」ために設置されている(図書館法第1条及び第3条)。ここにいう「一般公衆」には、障害のある人も当然含まれている。そして、障害のある人には、その人が利用できる形態の資料を収集し、あるいは利用できる形態に換えて資料を提供することによって、図書館法に掲げる当該目的を実現することになる。
 現行の著作権法第37条は、昭和45年の現行法制定に伴い追加されたものであるが、当時は公共図書館等における障害者サービスの実施館はほとんどなく、法制定以降に発展したものである。現在では公共図書館等における障害者サービス抜きに、障害者への情報保障は考えられないまでになっている。
 ところが、現行制度では、視覚障害者福祉施設とは言えない公共図書館、大学図書館、国立国会図書館等においては、視覚障害者向けの録音であっても無許諾ではできず、また、視覚障害者福祉施設であっても、視覚障害以外の利用者に対して録音資料を無許諾で提供できない。また、障害者への情報提供の迅速化と安定的な供給の確保のために不可欠な録音のマスターの保存についても問題を抱えている。
 また、現行著作権法では、録音資料の利用者を視覚障害者に限定しているが、録音資料は上肢障害でページをめくれない人や高齢で活字図書が読めない人、ディスレクシア(難読・不読症)、知的障害者等に対しても有効な読書手段であり、図書館に対しても提供を求める声が少なくない。
 さらに最近では、テキストデータを活用したデジタル媒体による読書をする障害者も増えている。また通常の文字の大きさでは読めない弱視者等のための拡大文字資料、触る絵本や読みやすくリライトされた図書、多様な読書障害者が利用できる国際標準規格のDAISY資料など様々な資料が求められているが、いずれも現行著作権法の規定により自由に製作、複製、提供ができないこととされている。
 さらに、一部の公共図書館、点字図書館では、視覚障害者等に対して、著作権者の許諾を得た音訳データのインターネット配信を実施している。ブロードバンド時代を迎え、各種障害者にとってインターネットを活用してのデータ作成や、情報提供は大きな役割を果たすものと考えられるが、著作権許諾が壁となって大きく進展できないでいる。時代の趨勢にあわせて公衆送信の送信データ内容、送信対象、そして公衆送信できる施設等の範囲を拡大し、多様な障害者の情報環境の改善を図ることが必要ではないかと考える。このような、時代の進展に応じた情報提供手段(情報障害者が利用できる形への変換)を法的に認めていかなければ、情報化社会における障害者の情報環境はこれまで以上に厳しいものとなるのではないかと考える。
3 著作権法の改正以外による当該問題の解決策
 許諾契約による解決策が考えられるが、これによる場合、項目(A)の中で記した煩瑣な手続が必要となる。その結果、健常者よりも不利な状況に立たされている障害者が、情報アクセスにおいても、この手続に要する時間だけ更に不利な状況に立たされることになり、更にいえば、著作権者の特定や所在が確認できなかった場合、事実上障害者の情報アクセスの機会を剥奪することになる。
 したがって、著作権法の改正以外には当該問題の解決策は存在しないものと考える。
4 その他
 現在、日本図書館協会と日本文藝家協会との間で協定を結び、文藝家協会所属の作家の作品については、事前登録した図書館においては個々の許諾事務が不要となるシステムが立ち上がっている。しかし、図書館における録音は文学作品だけではなく、あらゆる分野に及んでおり、さらに翻訳書も考えると、このシステムだけでは到底対応できないものと考える。
 なお、アメリカ合衆国、スウェーデン、韓国等においては、要望事項に掲げた内容の法整備がなされているものと聞いている。
法制問題小委員会平成17年第2回(2005年3月30日) 資料3 図書館関係の権利制限について(常世田委員作成資料)

2006(平成18)年

1月1日

「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」を構成する図書館関係団体と権利者団体の協議の結果、著作権法第31条に関する2つのガイドラインが策定される。

1月

文化審議会著作権分科会報告書(平成18年1月)[PDF]が発表。報告書に掲載された著作権法37条に関係する主な検討結果は以下のとおり(詳細は報告書の28ページから33ページを参照のこと)。
○著作権法第37条第3項について,複製の方法を録音に限定しないこと,利用者を視覚障害者に限定しないこと,対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと, 視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて

イ 検討結果
障害者による著作物の利用を促進するという趣旨に対しては支持する意見が多数であった。
ただし一方で,一般に読書に障害を持つ人々の用に供するために図書館が複製や公衆送信を自由に行い得るとすることは問題がある,要望の範囲が広範に過ぎる,目的外利用されないようにどのように担保されるかが明らかにされていない,趣旨の明確化が必要であるなどの指摘があり,現行法の基本的な枠組みを変更することなく,障害者への一層の配慮をどのように具体化し得るのか,整理が必要である。 また現在,権利者団体と図書館団体との間で,録音図書の作成に関してガイドラインが締結され,一定の条件の下で公共図書館での複製が可能となっており,あえて権利制限規定を見直す必要性は小さいという意見があった。
したがって,本件については,図書館関係者から障害者にとっての権利制限の必要性を十分踏まえた,より具体的で特定された提案を待って,権利者団体及び図書館関係者間で行っている協議の状況や,国民全体が均等に,より高いレベルでの文化の享受し得るという観点も踏まえつつ検討することが適当である。

○視覚障害者情報提供施設等において,専ら視覚障害者に対し,公表された録音図書の公衆送信をできるようにすることについて

イ 検討結果
視覚障害者による録音図書の利用をインターネットにより促進することが情報通信技術のもたらす利益を社会的弱者に広く及ぼすという意味で,極めて大きな公益的価値を有すると認められるため,本件要望の趣旨に沿って権利制限を行うことが適当であると考える。
ただし,権利制限を認める場合には,対象者が専ら視覚障害者に限定されることや目的外利用を防ぐこと等を条件にすることとし,権利者の利益を害しないような配慮が必要である。

2009(平成21)年

1月

文化審議会著作権分科会報告書(平成21年1月)[PDF]が発表。「第1編 法制問題小委員会 第3章 権利制限の見直しについて 第2節 障害者の著作物利用に係る権利制限の見直しについて 」において、検討結果が以下のとおりまとめられた(長文ですが、重要なので、以下に転載します)。

2 検討結果
(1)全体の方向性
 障害者の著作物利用についての権利制限は、これまで障害者の福祉の増進、社会参加の促進等の観点から規定が設けられてきている。一方、今回の検討においては、いわゆる情報アクセスの保障、情報格差是正の観点から対応が求められており、障害者にとって、録音物等のその障害に対応した形態の著作物がなければ健常者と同様に著作物を享受できないという状況を解消することが必要とされている。このような観点からは、従来の権利制限規定の対象となっていた障害種の障害者に限らず、多様な障害に対応して各障害者に必要な形態の著作物を制作することについても、基本的に高い公益性が認められると考えられる。
 このような観点から、本小委員会における検討では、障害者が著作物を利用できる可能性を確保する方向で著作権法上可能な措置について検討すべきであるとの意見や、障害者福祉の問題は、諸外国と比べて日本固有の事情があるとは考えられないことから、諸外国の例等を参考にそれと同程度の立法措置を講ずべきとの意見があった。また、検討に当たっては、健常者向けのマーケットや障害者向けのマーケットへの影響について考慮すべきであるとの意見があった。
 以上を基本的な方向性としつつ、各検討課題における対応方策について、次のとおり検討を行った。
(2)視覚障害者関係についての対応方策(1(1)ア・イ関係)
① 障害者の私的複製を代わって行うための措置について
 現行の著作権法第 30 条では、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的として、その使用する者が著作物を複製することができることとされている。この「使用する者」については、使用者自身であることが原則であるものの、その支配下において補助的な立場にある者が使用者自身に代わって複製することも許されると解されている。このため、このような考え方を前提とすれば、ボランティア等が障害者の自宅において録音物を作成するような場合や障害者自身と個人的関係のある者が録音物を作成するような場合など、第 30 条の私的使用目的の複製に該当するものもあると考える。
 一方、現在、点字図書館で行われているプライベートサービスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの個人的な複製の要望に応じて録音物を作成するとの形態については、第 30 条の範囲の複製とは考えにくい。また、点字図書館が対象施設となっている第 37 条第 3 項では、視覚障害者の用に供するために、公表された著作物を録音することができることとされているが、その目的は、貸出しの用に供するため又は自動公衆送信の用に供するためとの限定がある。
 平成 18 年 1 月の著作権分科会報告書では、「私的使用のための複製」による対応を考えるのか、一定の障害者向けのサービスについて特別の権利制限を考えるのかについて、実態を踏まえた上で検討すべきとされていたところである。
 この点、第 30 条の私的使用目的の複製は、家庭内の行為について規制することが実際上困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に害するとは考えられないという趣旨に基づいた規定であり、前述のプライベートサービスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの要望に応じて録音物を作成するとの形態について、第 30 条の範囲を拡大して対応することは、本来の規定の趣旨から外れるものと考えられる。
したがって、点字図書館がプライベートサービスとして視覚障害者等の私的使用目的の複製を第三者が代わって行うための措置としては、別途、第 37 条第 3 項に基づき録音図書の作成を行う目的について、貸出しの用に供するため又は自動公衆送信の用に供するために限らないこととし、視覚障害者等が所有等をする著作物から録音図書を作成・譲渡することが可能となる措置を講ずることが適当と考えられる。
② 第 37 条第 3 項の複製を行う主体の拡大について
現行の第 37 条第 3 項では、「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的とする施設」において録音が可能としており、具体的には、視覚障害者を対象とした施設が指定されているが、これらのほか、公共図書館等においても録音を可能とするよう要望がなされている。
現在、国立国会図書館や一般図書館において、日本図書館協会と日本文藝家協会が実施する「障害者用音訳資料ガイドライン」に従い、権利処理を行った上で録音図書(デイジー図書を含む)の作成を実施してきている これらの施設は、同ガイドラインの下で、登録制などにより利用者が視覚障害者等であることの確認が行える体制が整えられているものとして事業を実施しているものである。このように利用者の確認等が整えられ、視覚障害者の福祉等に携わる施設と同等の取組が可能と認められる公共施設については、第 37 条第 3 項の規定に基づく複製主体として含めていくことが適当と考えられる。
③ 第37条第3項の対象者の範囲の拡大について今回の権利制限は、録音物がなければ、健常者と同様に著作物を享受できない者への対応という観点から検討が必要とされているものであり、その必要性は、理念的には視覚障害者に限られるものではないと考えられることから、障害等により著作物の利用が困難な者について、可能な限り権利制限の対象に加えることが適切である。
もっとも、権利制限規定は、権利の範囲を定める規定との性格上から、また法に関する予測可能性を確保する観点から、規定の適用範囲を明確にしておく必要がある。範囲の明確化の方法としては、例えば、障害者手帳や医師の診断書の有無等の基準により限定する方法があるが、そのほか施設の利用登録等により確認がなされた者等を対象とするといった方法で認めていくべきとの要望もある。このため、このような意見等を踏まえ、規定の明確性を担保しつつ可能な限り範囲を広げていくよう努めることが適当と考えられる。
④ 第37条第3項の複製方式の拡大について
 本事項については、対象とする障害種の範囲の検討と密接な関係を有するため、知的障害者、発達障害者等関係の課題と併せて検討を行った。(2(5)で詳述)
⑤ 第 37 条第 3 項の範囲の拡大に関するその他の条件について
 今後、障害者向けの録音物等の市場が大きくなってくることも考えられ、営利事業としてこれらの複製を行う場合は権利制限の取扱いを慎重に検討すべきではないかとの意見があった。
 また、コンテンツの提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方 45からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられることから、録音物等の形態の著作物が市販されている場合については、権利制限を適用しないこととすることが適当と考えられる。
(中略)
(4)知的障害者、発達障害者等関係についての対応方策(1(1)オ・カ関係)
① 現行規定での対応可能性
 ヒアリングの中では、学校教育に関係した事例が多く見られたが、著作権法第35条第1項では、学校その他の教育機関において、教育を担任する者及び授業を受ける者が、授業の過程において使用する場合には、公表された著作物を複製することができ、また翻案して利用することもできる(第 43 条第 1 号)とされている。
 この「教育を担任する者」については、その支配下において補助的な立場にある者が代わって複製することも許されると考えられており、学校教育、社会教育、職業訓練等の教育機関での活用であれば、要約等やデイジー図書の製作の態様によっては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があると考えられる。ただし、複製の分量や態様、その後の保存等の面においては、必要と認められる限度に限られる。
一方、ヒアリングの中では、これらの取組の中核的な施設のようなものがデイジー図書の蓄積や提供を行う構想等も提示されているが、そのような形態であれば、第35条第1項の範囲の複製とは考えにくい。
② 対応方策について
 知的障害者、発達障害者等にとって、著作物を享受するためには、一般に流通している著作物の形態では困難な場合も多く、デイジー図書が有効である旨が主張されており、著作物の利用可能性の格差の解消の観点から、視覚障害者や聴覚障害者の場合と同様に、本課題についても、何らかの対応を行う必要性は高いと考えられる。
 このような観点から、視覚障害者関係(上記(2))、聴覚障害者関係(上記(3))の権利制限の対象者の拡大を検討していく中で、権利制限規定の範囲の明確性を確保する必要性はあるものの、可能な限り、知的障害、発達障害等により著作物の利用が困難な者についてもこの対象に含めていくよう努めることが適切である。その際、複製の方式については、録音等の方式に限定せず、それぞれの障害に対応した複製の方法が可能となるよう配慮されることが望ましいと考えられる。
(5)まとめ
 以上のように、障害者の著作物利用についての権利制限については、障害者の情報アクセスを保障し、情報格差を是正する観点から、対象とする障害種を視覚障害や聴覚障害に限定することなく、障害等により著作物の利用が困難な者であれば、可能な限り権利制限規定の対象に含め、また、複製等の主体、方式についてもそれに応じて拡大を行う方向で、速やかに所要の措置を講ずることが適当である。
 また、権利者への影響の観点から、権利制限を行うには一定条件の確保を前提とするために速やかな措置が難しい事項があった場合についても、その条件が整い次第、所要の措置を実施に移すことが適当と考える。
文化審議会著作権分科会報告書(平成21年1月)[PDF]

6月19日

著作権法の一部を改正する法律(平成21年法律第54号)公布(改正内容については、「2009年著作権法改正によって図書館にできるようになったこと:障害者サービスに関して」を参照)。

12月

上記の改正著作権法の施行(2010年1月1日)に伴い、障害者用音訳資料作成の一括許諾システムが終了する。

2010(平成22)年

1月1日

著作権法の一部を改正する法律(平成21年法律第54号)施行。

2月18日

「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」を構成する図書館関係団体と権利者団体の協議の結果、「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」が策定される。

2013(平成25)年

9月2日

図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」の別表を一部修正。同日、メンバーの交代等のため、当事者協議会の下に設置されていた図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作権の複製等に関するガイドライン検討のためのワーキングチームが解散。

<参考>

12月25日

当時者協議会第38回会合が開催。この会合以降、当事者協議会の会合は開かれてはいない。

<参考>

全体に係る参考文献

関連エントリ