視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約に関するメモ

「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(以降、「マラケシュ条約」)は、世界知的所有権機関(WIPO)が管理する視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するための国際著作権条約で、正式な名称は”Marrakesh treaty to facilitate access to published works for persons who are blind, visually impaired, or otherwise print disabled)”(文化庁による日本語仮訳「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」)です。モロッコのマラケシュで行われた外交会議において2013年6月28日に採択されました。
 マラケシュ条約の正式な条文はWIPOのサイトの以下でみることができます。

 同条約の文化庁による参考訳が文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)の配布資料として公開されています。

 マラケシュ条約についての解説は、上の国際小委員会の配付資料の中にもまとまったものがありますが、『文化庁月報』平成25年9月号(No.540)に掲載されたものがわかりやすいです。

 マラケシュ条約は、第18条に規定されているように、20の国が締結(批准書又は加入書を寄託)した後に発効することになっています。マラケシュ条約に署名した国は以下のリストに掲載され、その後の各国の進捗を以下で確認することができます。なお、日本は外交会議の最終文書に署名しましたが、現時点では、マラケシュ条約には署名していないために以下の一覧には掲載されていません。

関連エントリ

Accessible Books Consortium(ABC )が6月30日に発足

マラケシュ条約が目標とするところを実用レベルで実現することを目的とするコンソーシアムAccessible Books Consortium(ABC )が6月30日に発足するようです。後述のステークホルダー・プラットフォームの後継機関として設置されるようです。

 発足の経緯は、WIPOの27回目のStanding Committee on Copyright and Related Rights(SCRR/27)で提示された、ステークホルダー・プラットフォームの第9回会合(2014年2月14日)の結果をまとめた第8次中間報告(”Eighth Interim Report of the Stakeholders’ Platform(SCCR/27/4)”)が詳しいです。

 ステークホルダー・プラットフォームはWIPOに設置されたステークホルダーのあつまりで、プリントディサビリティへの著作物の提供と著作権の保護の両立についてステークホルダーの間で話し合う場のようです。Accessible Books Consortiumはこのステークホルダー・プラットフォームの後継機関として設置されることになります。
 コンソーシアムは、プリントディサビリティ、権利者、出版社、著者などのステークホルダーを代表する団体、機関によって構成されます。主な機関は以下の通り。

  • World Blind Union
  • DAISY Consortium
  • International Association of Scientific, Technical & Medical Publishers
  • International Authors’ Forum
  • International Federation of Library Associations and Institutions
  • International Federation of Reproduction Rights Organizations
  • International Publishers Association

 これまでステークホルダー・プラットフォームが進めてきた以下の3つのプロジェクトを恒常的な組織として引き続き遂行することが主な活動内容になります。

 また、この1年間の活動内容として、Authorized Entittyを増やすこと、Accessible Publishing憲章の策定に向けた検討が挙げられているようです。

平成26年の「著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」の第37第3項に係る箇所

電子書籍に対応した出版権を認める(あと視聴覚的実演に関する北京条約にも対応した)改正著作権法が平成26年4月25日、参議院本会議で可決・成立しました。一部を除き平成27年1月1日より施行されます。

 衆議院、参議院ともこの法案に対して付帯決議がなされています。ほぼ同文ではありますが、それぞれの第37条第3項に係る部分を転載しておきます。

衆議院(平成26年4月4日)

九 教科用拡大図書や副教材の拡大写本を始め、弱視者のための録音図書等の作成においてボランティアが果たしてきた役割の重要性に鑑み、障害者のための著作物利用の促進と円滑化に向け、著作権法の適切な見直しを検討すること。特に、障害者の情報アクセス権を保障し、情報格差を是正していく観点から、障害者権利条約をはじめとする国際条約や関係団体等の意見を十分に考慮しつつ、障害の種類にかかわらず全ての障害者がそれぞれの障害に応じた形態の出版物を容易に入手できるよう、第三十七条第三項の改正に向け、速やかに結論を得ること。
著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (衆議院文部科学委員会 平成26年4月4日)

参議院(平成26年4月24日)

十、教科用拡大図書や副教材の拡大写本を始め、弱視者のための録音図書等の作成においてボランティアが果たしてきた役割の重要性に鑑み、障害者のための著作物利用の促進と円滑化に向け、著作権法の適切な見直しを検討すること。特に、障害者の情報アクセス権を保障し、情報格差を是正していく観点から、障害者権利条約を始めとする国際条約や関係団体等の意見を十分に考慮しつつ、障害の種類にかかわらず全ての障害者がそれぞれの障害に応じた形態の出版物を容易に入手できるよう、第三十七条第三項の改正に向け、速やかに結論を得ること。
[PDF]著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (参議院文教科学委員会 平成26年4月24日)

参考

平成24年の著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 

平成21年の著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議