EPUB 3.1の仕様とそれに含まれるEPUBのアクセシビリティに関する仕様

 1月5日にEPUB 3.1の仕様がIDPFで承認されました。

 EPUB 3.1の仕様は、EPUB Packages 3.1、EPUB Content Documents 3.1、EPUB Open Container Format (OCF) 3.1などの複数の仕様で構成されています。2016年に公開されていたEPUB 3.1のドラフト版はありがたいことにIMAGEDRIVEさんが日本語訳を公開してくれています。EPUB3.01からの変更点を解説した”EPUB 3.1 Changes from EPUB 3.0.1″も含めて翻訳してくださっていますので、ご参照ください。

 EPUB 3.1の仕様では、アクセシビリティに関する仕様が規定され、その関連文書としての実装方法をまとめた文書が公開されました。

 よりアクセシブルなEPUBコンテンツを制作する要件についてまとめられているほか、必要な人が自分にあったアクセシブルなコンテンツをきちんとを発見できるようにするため、EPUBコンテンツに包含すべきアクセシビリティメタデータの要件についても整理されています。
EPUB Accessibility 1.0と関連文書であるEPUB Accessibility Techniques 1.0(実装方法集)の関係は、W3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0/a>とそのTechniques for WCAG 2.0(実装方法集)の関係に倣ったものだと思われます。技術的なテクニックは随時変更できるように仕様本体から切り離したのでしょう。WCAGと実装方法集の関係の詳細については、以下をご参照ください。

IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様とその実装方法集のドラフトを公開

IDPFがEPUBのアクセシビリティの要件をまとめた仕様のエディターズドラフトとその実装方法を解説したTechniquesのエディターズドラフトを2016年4月に公開しています。そして、この7月にはその第2版が公開されています。

 文書のタイトルに”Discovery”という文言があるように、アクセシブルなコンテンツを発見するためのメタデータの要件にも力点が置かれています。
 この両文書はW3Cの”Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0″とその関連文書である”Techniques for WCAG 2.0″の関係に相当するものを想定しているのでしょうね。

 IDPFはEPUB3のアクセシビティガイドラインを以下のように数年前から公開しています。

 これとの関係はよく分かりませんが、W3Cドキュメントの体裁に則った2016年に公開された仕様書に移行されることになるのでしょうか。たぶん。
 実際、要件とその実装方法を切り離した上のドキュメントのほうが全体的にすっきりしている気がする。

マルチメディアDAISYを普及させるための方法としていくつか

 音声とテキストを保持し、音声が読み上げる箇所のテキストをハイライトするマルチメディアDAISYが視覚障害やディスレクシアなどの様々な理由で読書に困難のある人にたいして幅広く有効であることは形式であることは疑いないところですが、テキストと音声それぞれをつくり、さらにそれを掛け合わせる必要があり、製作コストがそれなりにかかるため、普及しているとは言えない状況です。しかし、少しでも(可能であれば、商業ベースで)普及させるために、図書館としてこういう手立ては取り得るんじゃないかと思うところを思いつきで何点か。書いていて、マルチメディアDAISYに限定されるものではないかなと思いましたが。
 

1 アクセシブルな電子書籍の要件をまとめたガイドラインを作成する

  • 最終的にはマルチメデァアDAISYにたどり着くようなアクセシブルな電子書籍製作のためのガイドラインを作成する。
  • そもそも「アクセシブルな電子書籍」に対する関係者の認識に相違がかなりある。その相違を解消し、「アクセシブルな電子書籍」の要件を様々な領域がわかるようにするために要件をまとめたガイドライン。いろいろな業界の関係者を巻き込んで作成すれば、このガイドラインを作成するプロセスそのものがアクセシブルな電子書籍と何かというコンセサンスを形成するはず。
  • ガイドラインは、全ての要件を平たく挙げるのではなく、要件の優先順位を示す。たとえば、等級Aの要件を満たせば、スクリーンリーダーで読み上げさせれば誤読がありうるが、それでも読み上げさせることができるもの、等級AAAであれば、肉声の音声と同期したマルチメディアDAISYか、誤読がないようにSSMLを埋め込んだ電子書籍などになるなど。
  • アクセシブルなテキストDAISYライクな電子書籍も十分に出ていない状態で、出版社にいきなりマルチメディアDAISY作ってほしいと要望を出しても難しいと思う。そこで、まずはアクセシブルなテキストDAISYから目指す(ボランティアベースでマルチメディアDAISYを製作するにしても、紙の書籍からマルチメディアDAISYを作るよりは、テキストDAISYからマルチメディアDAISYを作る方がコストは安く押さえられるはず)。

ガイドラインの作成については、以下でまとめたことがあります。

2 マルチメディアDAISY普及のための団体を図書館の外に立ち上げる

  • 理解のある出版社あるいは出版関係者を巻き込んでマルチメディアDAISY普及のための団体を立ち上げる。
  • 様々な業界におけるマルチメディアDAISYの橋頭堡となるべき団体があるべきだと思う。
  • その団体で商業ベースでマルチメディアDAISYを出版するにはどうすればよいか研究したり、定期的に啓発イベントを行ったりする。
  • 出版社という組織ではなく、まずはその中にいる編集者に興味を持ってもらい、働きかける。そのためには、こういう団体が存在するほうがよいのではないか。
  • 岩田美津子さんがたちあげた「点字つき絵本の出版と普及を考える会」という団体はロールモデルになるのではないか。

3 技術者をもっと巻き込む

  • アクセシビリティに関心のある技術者や研究者は多い。また、技術的にやれる余地はかなり残されているのではないかと思う。著作権法第37条クラスタが抱えている問題をもっとオープンにして様々な技術者や研究者が参加しやすい体制を。
  • 例えば、青空文庫は、こんなに困っているんですということをアピールでアイデアソンを開いて、幅広い技術者の関心を集めた。こういう手法はもっと採用されるべき。
    青空文庫を救え!「Code for 青空文庫」アイデアソン #1 レポート #‎aozorahack

4 オーディオブック関係者/団体との連携を図る

  • 商業ベースでマルチメディアDAISYを出版させるビジネスモデルとしては、米国のアマゾンのImmersion Readingがやっているような、オーディオブックとKindle図書を別々に販売し、両方を購入した人にはその両方を掛け合わせて、マルチメディアDAISY機能として利用できる方法はかなり有効ではないか。
    Kindleで洋書を読むならImmersion Readingを使ってみよう
  • オーディオブック業界とはもっと連携を図って、図書館側の要望を伝えてもよいのではないか。ユーザー側の意見として