8月 31

「アクセシブルなデジタル教科書(マルチメディア版DAISY)製作と普及活動の報告」(井上芳郎さんの日本デジタル教科書学会報告)

 大阪大学で8/17、8/18に行われた日本デジタル教科書学会での井上芳郎さんによる以下の報告がSlideshareで公開されています。

 特別支援教育におけるデジタル教科書の法的、政策的動向や特別支援教育におけるDAISY教科書の活用事例、DAISY教科書の活用の効果などがまとめられています。

8月 27

Unicode点字と点字フォーマットPEF(Portable Embosser Format)

いきなりですが、貴方の端末では、以下のフォントはどのように表示されているでしょうか。

——-ここから
 ⠘⠀⠙⠀⠚⠀⠛⠀⠜⠀⠝⠀⠞⠀⠟
ここまでの間———-

 以下のように表示されているならば、貴方の端末(OS)Unicode点字に「対応」しています。

上で表示したユニコード点字の画像

Unicode点字

 点字記号は、1999年に公開されたUnicode 3.0から割り振られています。U+2800からU+28FFまで割り振られ、Braille Patternsと呼ばれています。

Unicode 6.2のBraille Patterns

 文字コードレベルで点字に対応できるならば、特定のフォーマットを使用しなくても、テキストファイルやワードファイル、PDFファイル、EPUBファイルなど幅広く利用されているフォーマットでも点字を利用することができ、点字データの作成・交換・配布も行いやすくなると思われます。残念ながら対応しているのは、最新のOSに限られてしまうようです。対応を確認できたOSは以下のとおりです。※1
 
 表示できることを確認できたOSは以下のとおりです(ご協力いただいた方には感謝感謝です!)。

表示できた
  • Windows 7 Home,Pro(表示できなかった端末もあり)
  • OS X v10.8 Mountain Lion
  • iOS 6.1.4
表示できなかった
  • Windows XP
  • Windows Vista
  • Android 4.1.1(HTC J butterfly )

Unicode点字への「対応」について  ※1 2013/08/27 追記

 @momdo_さんからいただいた以下のご指摘で、私が「Unicode点字に対応」という言葉を安易に使用しているが判明しました(汗)。整理します。

 Unicode点字に対応ということを問題とする場合、以下の2つの段階があります。

  1. OSとアプリケーションがUnicode 3.0以降に対応している
  2. Unicode点字フォントを搭載している

 1については、Unicode 3.0は1999年に公開されていますので、今、動いているほとんどの端末がその条件を満たしているはずです。

 最近の晴眼者が使用する端末でUnicode点字の対応が問題となるのは、2の点字フォントの有無の問題です。点字フォントを自分で追加すれば、Unicode点字にも対応できるはずです。上で確認したように最近のOSでは点字フォントを標準で搭載されるようになっているようです。

 ここで気になるのが、点字プリンタや点字ディスプレイなど点字機器類への入出力です。例えば、Unicode 3.0対応有り、点字フォントなしのOSの端末へ繋いだとしても、点字機器そのものがUnicode 3.0に対応し、点字記号の情報を持っていれば、そのまま使えるのではないかという気がします。どうなのだろう?

※ 2013/08/28 追記の追記
 @momdo_さんに以下のエントリの追記でご指摘いただいたので、修正しました。

  • Unicode 3.0以降→Unicode
  • Unicode点字フォント→点字フォント

 
 Unicodeのこれまでのバージョンアップで、Unicodeの前方互換性がきちんと担保されているのか否かについてよくわからなかったため、「Unicode 3.0以降」という書き方をしてしまいましたが、Wikipediaを見る限り、点字についてはUnicode対応が3.0以前のものでも大丈夫そうでしたので、この項でのUnicodeのバージョン番号は削りました。「点字フォント」の修正についても@momdo_さんのご指摘の通りです。

点字プリンタや点字ディスプレイなど点字機器類への入出力の問題についてですが、私もよく分かっていませんので、自分に課した宿題かなと思っています。

 

(参考)Braille ASCII

 英数字では現在、Braille ASCIIという表示方式がよく使われているようです。Braille ASCIIは文字コードASCIIの0x20から0x5Fに割り当てられた64文字を上書きする形で点字に置き換える方式です。なお、Braille ASCIIで作成された点字文書はBRF形式で保存されることが多いようです。

  
 例えば、ASCII文字で「3」を表すコード0x33には、点字で「3」を意味する点字記号「⠒」、「B」(大文字のB)を表すコード0x42には、「b」をあらわす点字「⠃」が割り当てらています。通常のテキストエディタで開くと、0x33、0x42はそれぞれ「3」、「B」ですので、それぞれ「3」と「B」が表示されます。しかし、Braille ASCIIに対応したアプリケーションで開くと、それぞれ「⠒」、「⠃」という点字記号に置き換えられて表示されます。

サンプルBRF形式ファイル

 TSBVI Libraryが公開しているBRFファイルです。

点字フォーマットPEF(Portable Embosser Format)

 
 このUnicode点字を活用したPEF(Portable Embosser Format)がスウェーデンから提案されています。

 このフォーマットの特徴は主に以下の3つです。最大の特徴はやはりUnicode点字を前提としていることです。

  • XML形式
  • Dulin Coreメタデータ
  • Unicode点字対応

 PEF(Portable Embosser Format)という名称からもわかるように、PDF(Portable Document Format)のように環境、言語環境に依存しない点字フォーマットを志向しており、正確かつ一義的に点字を表示することが可能なために電子文書の交換や長期保存に向いたフォーマットであることをウリにしています。

 利用事例はまだ多くないようですが、先のエントリで紹介したNLBのJacobsen氏にあるようにすでに北砲諸国ではすでにPEF形式が利用されているようです。また、このブログで何度も紹介しているコンバーターDAISY Pipelineのアウトプット点字ファイルとしてPEF形式が使用されています。

(参考)PEFファイルサンプル

[Example PEF document: Extending PEF]”examples/extended.pef”. Demonstrates how a PEF-file can be extended.

表示

 Mobile Safariでの表示例です。
写真

ソース

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<pef version="2008-1" xmlns="http://www.daisy.org/ns/2008/pef" xmlns:ext="http://www.example.org/my-pef-extensions" ext:version="1">
	<head>
		<meta xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:org="http://www.example.org">
			<dc:title>Extending PEF</dc:title>
			<dc:creator>Joel Håkansson</dc:creator>
			<dc:date>2009-01-20</dc:date>
			<dc:format>application/x-pef+xml</dc:format>
			<dc:identifier>org.pef-format.00004</dc:identifier>
			<dc:description>Demonstrates how a PEF-file can be extended.</dc:description>
			<org:paper-size value="A4"/>
			<org:grade value="1"/>
			<org:margin-top value="5cm"/>
			<org:margin-left value="2cm"/>
			<org:binding content="coil"/>
		</meta>
	</head>
	<body xml:lang="en">
		<annotation xmlns="http://www.example.org/my-pef-extensions" style="default.css">
			<p>This is an <b>extended</b> <dfn>PEF</dfn> 1.0 example. It demonstrates how a PEF-file can be extended.</p>
		</annotation>
		<volume cols="20" rows="29" rowgap="0" duplex="true">
			<ext:volume-label>
				<ext:row>⠀⠀⠀⠀⠁⠀⠂⠀⠃⠀⠄⠀⠅⠀⠆⠀⠇⠀</ext:row>
				<ext:row>⠀⠀⠈⠀⠉⠀⠊⠀⠋⠀⠌⠀⠍⠀⠎⠀⠏⠀</ext:row>
				<ext:row>⠀⠀⠐⠀⠑⠀⠒⠀⠓⠀⠔⠀⠕⠀⠖⠀⠗⠀</ext:row>
			</ext:volume-label>
			<section ext:section-type="toc">
				<page ext:page-number="i">
					<row>⠀⠀⠀⠀⠁⠀⠂⠀⠃⠀⠄⠀⠅⠀⠆⠀⠇⠀</row>
					<row>⠀⠀⠈⠀⠉⠀⠊⠀⠋⠀⠌⠀⠍⠀⠎⠀⠏⠀</row>
					<row>⠀⠀⠐⠀⠑⠀⠒⠀⠓⠀⠔⠀⠕⠀⠖⠀⠗⠀</row>
					<row>⠀⠀⠘⠀⠙⠀⠚⠀⠛⠀⠜⠀⠝⠀⠞⠀⠟⠀</row>
					<row>⠀⠀⠠⠀⠡⠀⠢⠀⠣⠀⠤⠀⠥⠀⠦⠀⠧⠀</row>
					<row>⠀⠀⠨⠀⠩⠀⠪⠀⠫⠀⠬⠀⠭⠀⠮⠀⠯⠀</row>
					<row>⠀⠀⠰⠀⠱⠀⠲⠀⠳⠀⠴⠀⠵⠀⠶⠀⠷⠀</row>
					<row>⠀⠀⠸⠀⠹⠀⠺⠀⠻⠀⠼⠀⠽⠀⠾⠀⠿⠀</row>
				</page>
			</section>
			<section>
				<page ext:page-number="1">
					<row ext:row-type="header">⠀⠀⠀⠀⠁⠀⠂⠀⠃⠀⠄⠀⠅⠀⠆⠀⠇⠀</row>
					<ext:new-para type="heading" text="  A 1 B ' K 2 L"/>
					<row>⠀⠀⠈⠀⠉⠀⠊⠀⠋⠀⠌⠀⠍⠀⠎⠀⠏⠀</row>
					<ext:new-para type="p" text="@ C I F / M S P &quot; E 3 H 9 O 6 R ^ D J G > N T Q , * 5 &lt; - U 8 V . % [ $ + X ! &amp; ; : 4  0 Z 7 ( _ ? W ] # Y ) ="/>
					<row>⠀⠀⠐⠀⠑⠀⠒⠀⠓⠀⠔⠀⠕⠀⠖⠀⠗⠀</row>
					<row>⠀⠀⠘⠀⠙⠀⠚⠀⠛⠀⠜⠀⠝⠀⠞⠀⠟⠀</row>
					<row>⠀⠀⠠⠀⠡⠀⠢⠀⠣⠀⠤⠀⠥⠀⠦⠀⠧⠀</row>
					<row>⠀⠀⠨⠀⠩⠀⠪⠀⠫⠀⠬⠀⠭⠀⠮⠀⠯⠀</row>
					<row>⠀⠀⠰⠀⠱⠀⠲⠀⠳⠀⠴⠀⠵⠀⠶⠀⠷⠀</row>
					<row>⠀⠀⠸⠀⠹⠀⠺⠀⠻⠀⠼⠀⠽⠀⠾⠀⠿⠀</row>
					<ext:new-para type="p"/>
					<row>⠀⠀⠀⠀⠁⠀⠂⠀⠃⠀⠄⠀⠅⠀⠆⠀⠇⠀</row>
					<row>⠀⠀⠈⠀⠉⠀⠊⠀⠋⠀⠌⠀⠍⠀⠎⠀⠏⠀</row>
					<row>⠀⠀⠐⠀⠑⠀⠒⠀⠓⠀⠔⠀⠕⠀⠖⠀⠗⠀</row>
					<row>⠀⠀⠘⠀⠙⠀⠚⠀⠛⠀⠜⠀⠝⠀⠞⠀⠟⠀</row>
					<row>⠀⠀⠠⠀⠡⠀⠢⠀⠣⠀⠤⠀⠥⠀⠦⠀⠧⠀</row>
					<row>⠀⠀⠨⠀⠩⠀⠪⠀⠫⠀⠬⠀⠭⠀⠮⠀⠯⠀</row>
					<row>⠀⠀⠰⠀⠱⠀⠲⠀⠳⠀⠴⠀⠵⠀⠶⠀⠷⠀</row>
					<row ext:row-type="footer">⠀⠀⠸⠀⠹⠀⠺⠀⠻⠀⠼⠀⠽⠀⠾⠀⠿⠀</row>
				</page>
			</section>
			<section>
				<page ext:page-number="A">
					<ext:tactile-image src="map.svg"/>
				</page>
			</section>
		</volume>
	</body>
</pef>

ソースの画像(点字を表示できなかった方はこちらをご覧ください)

関連エントリ

8月 21

私がOPDSを推す理由 – 電子出版業界にも「混沌」とした世界を

 昨日、こんなニュースが流れました。

 ウェブ上では、予想通りNTT出版に対して厳しい意見が多いですが、NTT出版の姿勢はともかく、別の出版社から出版できたという結果はもっと評価されてよいのではないかと思うのです。

 出版社の多くが私企業ですので、個々の出版社レベルではその時々における個々のいろいろな事情で、出版できるものもあれば、出版できないものが出てくるのはある程度はやむを得ないところがあろうかと思います(それが望ましいかどうかは別にして)。しかし、出版界の健全性を問うならば、その場合に、別の出版社で出すという選択肢が用意されているか否かが重要です。A出版社でだめなら、B出版社、B出版社がだめならC出版社で出版できるという選択肢が著者に用意されていることが出版界の健全さを示すものではないかと思うのです。

 経済産業省が公開している特定サービス産業実態調査報告書(平成22年度)によれば、日本の出版社は2,883社はあるらしいです。

 出版社数は統計によってかなり開きがあったように記憶していますが、それにしても3,000社弱。多いです。あえて単純化して申せば、著者にはこれだけの選択肢がある。出版社が構成する業界団体もいろいろとありますが、全出版社が参加するような業界団体は日本には未だ存在しません。出版界全体が1つとして動くことができないことは、出版業界の業界としての「統制」のなさを示すものであるかもしれませんが、その「まとまり」のなさ、「混沌」とした状態は、出版界の多様性を担保し、著者に多くの選択肢を提供するものでもあり、必ずしも否定するべきものではないように思います。

 一方で、「電子書籍」業界では、著者に対して複数の選択肢が用意されているのかというと、いささか心もとない気がします。コンテンツプロバイダである出版社の多さはある程度維持されるかもしれませんが、発行から読者への販売/配信(リーチ)に至る部分がAmazon、Google、Appleのような大きなプラットフォームに集約されていく可能性が大きくなっています。巨大プラットフォームとはいえ、一私企業であり、企業の利益や方針、その時々の箇々のの事情によってあっさりと販売・配信を拒否することもありえます。紙の世界と異なり、「電子書籍」業界では、他のところで発行できるという選択肢が極端に狭められていく危険があるように思えます。物議を醸した『完全自殺マニュアル』のような書籍を「電子書籍」として刊行することができるか否かです(『完全自殺マニュアル』そのものの是非はここでは置いとくとして)。

 「電子書籍」、後で述べるOPDSの対象となる範囲も考慮し、もう少し広く捉えて「電子出版」業界としますが、電子出版業界においても出版物の多様性を担保するためには、紙の世界と同じように、著書が読者に届くまえのルートに多くの選択肢が著者に用意される必要があります。言い換えると電子出版業界にも「まとまりのなさ」、ある種の「混沌とした世界」があってほしいと。

 私がOPDSを推すはまさにそのためです。

 先日、Open Annotationを紹介しましたが、個人的には、OPDSに対する興味と根は同じところかもしれません。大きな1つのものが世界を覆うよりは、統制されることのない個々の活動が結果として1つの世界を構成する、そういうものに興味があるようです。

8月 20

日本ライトハウス展~全国ロービジョンフェア2013(at 大阪 10/15-16)

こんなイベントが10月、大阪で関西で開催されます。視覚障害者用具・機器展です。

2014年4月には以下のようなイベントも

8月 20

産総研が高齢者・障害者の感覚特性データベースを公開

産業技術総合研究所が高齢者・障害者の感覚特性データベースを公開しました。

高齢者・障害者の感覚特性データベース
http://scdb.db.aist.go.jp/

 データベースの詳細は以下のプレスリリースをご覧ください。

産総研がのべ3,000人以上を対象として測定した視覚・聴覚・触覚の感覚特性を、年齢や障害の有無などの検索条件に応じて表示する。これらの特性データは日本工業規格(JIS)「高齢者・障害者配慮設計指針」に採用されているため、このデータベースは、数式や表で記述されたJISの規定内容をグラフィカルに表示する機能も合わせ持つ。

  
 なかなかすごそうです。

8月 20

DAISYは視覚障害者だけのものじゃない – 「読書バリアフリー研究会」のマルチメディアDAISY特別支援教育活用事例報告 –

 5月に開催された伊藤忠記念財団が主催する読書バリアフリー研究会(大阪の部)に参加してきました。少し遅くなってしまいましたが、昔のメモを掘り起こしつつ、その参加報告です。

 伊藤忠記念財団は、子どもの教育環境の整備の支援に力をいれている財団です。その活動の1つとして、本を読むことに困難のある子どもへの読書活動を支援することを目的に児童書などをマルチメディアDAISY化して特別支援教育関係機関へ無償で配布する事業を行っています。

 DAISYといえば、視覚障害者のためのフォーマットという印象が強いフォーマットですが、伊藤忠記念財団が主催する研究会ということで、特別支援教育におけるマルチメディアDAISYの活用に力点が置かれています。マルチメディアDAISYが視覚に障害のある人だけではなく、その他の通常の読書に困難のある人にも有意なフォーマットであると聞いたこともあり、私も当時その関係の本をいろいろと読んでいたので、個人的に非常にタイムリーな研究会でした。

野口武悟先生によるバリアフリー資料と取り除くべき読書のバリアの話

 専修大学文学部准教授野口武悟先生による「読む喜びを伝えよう ~読書のバリアをとりのぞく! その現状と課題」というテーマのお話からです。

 野口先生は以下のようなバリアフリー資料を紹介しつつ

  • 点字資料
  • 録音資料
  • 拡大文字資料
  • さわる絵本
  • 手話付き絵本
  • LLブック
  • マルチメディアDAISY
  • その他の電子書籍

 これらのバリアフリー資料はだれにとっても使いやすい資料であり、特定の人間のみが使用する特別なものにしてならないと。

 バリアフリー資料の多くが著作権法第37条3項に基づいてボランティアベースで作られている。著作権法第37条3項に基づいて作成されたバリアフリー資料は利用できる対象に法的な制約が課されている。誰にとっても使いすいはずのバリアーフリー資料が誰もが使える資料になっていない。

 しかし、オリジナルとして商業出版されているバリアフリー資料にはそのような制約はない。だから、バリアフリー資料が商業ベースで流通するようにしなければならないのだと強く仰っていました。バリアフリー資料を商業ベースで、つまり、儲かる形で流通するようにならなければならない。
 
 野口先生のお話は、私自身常々思っていることでもあったので、強く首肯するところです。

 バリアフリー資料を出版して儲かる。さらに踏み込んで、出版社にバリアフリー云々をを意識させることなく、普通に出版した資料が当然のようにバリアフリー資料だった、そういう状況になれば本当に理想的です。そういう意味では電子書籍市場の拡大、とくにDAISY的な機能を持つEPUB3の普及は非常に大きな可能性があると私は期待しています。

特別支援教育におけるマルチメディアDAISYの活用事例報告

 午後からはマルチメディアDAISY(伊藤忠記念財団寄贈のわいわい文庫)の特別支援教育への活用事例の報告です。

 高等部の活用事例は三重大学教育学部附属特別支援学校の逵直美先生、小中学部の活用事例は京都府立南山城支援学校の藤澤和子先生による報告でした。
 
 なお、逵直美先生、藤澤和子先生の報告を含め、マルチメディアDAISYの教育への活用事例報告は以下で公開されています。

高等部

 まずは逵直美先生(三重大学教育学部附属特別支援学校)による高等部の報告です。

 詳しくは以下をご覧ください。

 マルチメディアDAISYを授業で以下のように活用されたそうです。

  • DAISYの読み上げ箇所をハイライト表示する機能や読み上げ速度を調整する機能を音読や文字の書写の練習に活用。
  • 個人で読むだけではなく、クラスでみんなで視聴する形で使う。

マルチメディアDASIYに対して以下のような要望もだされていました。

  • マルチメディアDAISYには絵を動かす仕組みがないので、絵本アプリも活用した。絵本アプリの動く絵は、生徒の意識を集めることができて非常によかったが、DAISYのような細かな再生を制御する仕組みがないのが不便。DAISYで絵を動かす仕組みが欲しい。

成功体験が重要、自分でできると思えることが自信につながると逵先生がおっしゃっていました。

 マルチメディアDAISYの読み上げ速度の調整機能、読み上げ箇所のハイライト表示が、例えば、家庭学習での読み上げ練習などに活用されています。マルチメデァアDASIYを活用することで、生徒がそれぞれ自分のペースで学習を進められるいうことが重要なのだと思います。

小中学部

 藤澤和子先生(京都府立南山城支援学校)による小中学部での報告です。

 詳しくは以下をご覧ください。

  • 大型テレビを使って、マルチメディアDASIYをグループ視聴。生徒の興味を引きやすく、集中させやすい。読み上げの間隔をあけて、ハイライトされた箇所を全員で復唱したり。
  • 個人で視聴
  • 学習支援
  • 音読指導

藤澤先生が感じられたマルチメディアDAISYの長所は以下の通りです。

  • ハイライトが分かち書きごとに区切られている。
  • 単語のまとまりが視覚的にわかる。それを聴覚で意識できる。視聴覚を使うので、短期記憶が容易。復唱もしやすい。

 一方で、こんなマルチメディアDAISYがあったら・・と以下のような要望も出されていました。

  • 登場人物によって声を使い分けられているDAISYがよかったという意見があった。声は非常に重要ではないか。DAISYは音声を使い分けることができるのが大きなメリット。
  • 文字の消えた作品があってもよいのではないか。
  • さわったら反応が返ってくるようなもっとインタラクティブなものがあったらよい。
  • マルチメディアDAISYは字の大きさは変更できるが、絵はできない。これができるとよい。
  • 2-3歳を対象とした簡単な絵本がDAISYがあるとありがたい。

まとめ

 マルチメディアDAISYに対する要望は、EPUB 3に対する要望とも言えると思いますが、EPUB 3の普及によるコンテンツの量の増加によってある程度は解決されるのでしょうか。しかし、視覚障害者のDAISYの利用方法及びそれに対する要望と、特別支援教育関係者のそれらは開きがあるように思えます。例えば、特別支援教育では、絵本を読み聞かせに近い使い方で、読み上げは感情を込めて読んで欲しいというニーズがあるように感じましたが、視覚障害者を対象とするいわゆる「音訳」は、書かれていることを音声として忠実に再現することに力が置かれ、読み手の感情を視覚障害者に押しつけないことが求められていると聞いたことがあります。
 
 両者のベクトルがそもそも異なるので要件に開きがあるのは当然といえば当然。無理に要件を集約するべき問題ではなく、コンテンツの量の増加によって担保される多様性によって自然と解消されていくべき問題であろうと思います。危ないのは、一方の要件のみが強くなりすぎてもう一方の要件が打ち消されてしまうことでしょうか。

 「DAISYは視覚障害者のものだけではない」ということはもっと知られる必要があるのだろうと思います。

8月 14

EPUB 3からDAISYへの変換機能も必要じゃないの?というDAISY Pipelineのメーリングリスト上でのやりとり

 DAISYコンソーシアムが公開しているオープンソースのコンバーターDAISY Pipeline 2(開発中)は以下のようなDAISYの各バージョンからEPUB 3に変換する機能を持っています。

  • DAISY2.02 → EPUB3
  • DTBook(DAISY3のXMLドキュメント) → EPUB3
  • DAISY3 → EPUB3
  • DAISY -AI(DAISY4) XML → EPUB3
  • ※その他、HTMLファイル、点字ファイルへの変換も可能です。

 しかし、逆方向のEPUB 3からDAISYに変換する機能がありません(そして、現在公開されているロードマップにも開発の予定はありません)。

 EPUB3で作成されるコンテンツは日々増えているものの、現時点では、以下のエントリで紹介したようにDAISY再生ソフトウェア/機器のEPUB 3対応は不十分であり、EPUB 3ビューワーもDAISYユーザーが満足するほどアクセシブルではないという状況で、DAISYユーザーは増えていくEPUB 3コンテンツの恩恵を十分にうけることができません。

 
 EPUB 3をDAISY2.02やDAISY 3に変換し、DAISYユーザーが使い慣れている機器/アプリケーションで利用できるようにすることは、取り得る有効な選択肢の1つだと思われますが、同じように考える人がDAISY Pipeline開発陣の中にもいたようで、2013年1月にDAISY Pipelineの開発用メーリングリストでEPUB3_to_DAISYのコンバーターの開発の提案とそれに関する議論がされていました。

 個人的に関心があるところですので、少し詳しく紹介します。

メーリングリスト上のやりとり

 主に以下のお二人のやりとりです。お二人ともDAISY Pipleline 2開発に関わっている方のようです(Deltour氏は開発の中心メンバー?)。

 長いので先に結論を申し上げておきますと、一応EPUB 3からDAISYへの変換機能の開発をする方向ですすめていく・・・・ような感じではありますが、結論は出ていません。 

Jacobsen氏とDeltour氏のやりとり

Jacobsen氏の提案

 Jacobsen氏よりEPUB3から以下のようにDAISYに変換できる機能が必要じゃないかという提案です。

  • EPUB3 → DAISY2.02
  • EPUB3 → DTBook(もしくはDAISY3)
  • EPUB3 → ZedAI (いわゆるDAISY4)

https://groups.google.com/d/msg/daisy-pipeline-dev/yJIJqV7d1vQ/VYLT5qeHbMkJ
 

Deltour氏の回答

 Deltour氏はこのJacobsen氏の提案を妥当な提案であると認めつつ、

  • DTBookへ変換について: 文法的に寛容なHTML(そして、それを用いるEPUB 3)から文法的に厳格なDTBookへ変換は確実性を担保できないから難しい
  • しかし、EPUB3からDAISY 2.02への変換はDTBookと比べるとまだ容易かもしれない。

 ということで、EPUB 3からDTBook(及びDAISY3)への変換機能の開発には否定的なものの、DAISY 2.02への変換については比較的前向きな回答をしています。ただし、すでにDAISY Pipeline 2 プロジェクト計画書に掲載されたもっと優先順位が高いものに開発資源を割かねばならないため、DAISY 2.02への変換機能の開発にすぐにはリソースを割くことができない、との留保つきです。 

https://groups.google.com/d/msg/daisy-pipeline-dev/yJIJqV7d1vQ/QA6V20s6lwkJ

 

Jacobsen氏のNLBの状況説明

 Jacobsen氏、リソースをすぐに割けないことに同意しつつ、今回の提案の背景となったにNLBの状況説明(ちょっと蛇足になりますが、かなり興味深いので詳しく紹介します)。

  • NLBは紙の書籍を裁断し、OCRをかけた上でDTBookを制作している。DTBook制作は他の北欧諸国の機関と共同でインドのパートナー企業に外注している。
  • インドのパートナー企業との契約が2013年できれるので、そろそろ2014年以降の調達の計画とマークアップガイドラインの作成を始めなければならない。
  • 次の契約では、DTBookではなく、DAISY-AI(ZedAI/DAISY4)かEPUB 3を考えている。
  • 点字ファイルの作成について。現在は、DTBookからNorBrailleというツールを用いてPEF形式の点字ファイルに変換している(詳細: Braille production workflow at NLB)。
  • PEF形式への変換を、DTBookかDAISY-AI(ZedAI/DAISY4)をインプットファイルとするDAISY Pipelineを用いたフローに変更することを内部で検討している。
  • 音声DAISYの作成について。現在はDolphin Publisherを使用して、DAISY 2.02版のDAISYを作成している。Dolphin PublisherからHindenburg Audio Book Creatorに変更することを計画中。これならEPUB 3図書が作成できる。
  • もしEPUB 3形式のオーディオブックからDASIY2.02への変換が可能ならEPUB 3がオーディオブックのマスターフォーマットになるとJacobsen氏自身は考えている。
  • 教科書について。 XHTML 1.0形式の教科書データと、そして、おそらくDAISY3形式の教科書データを学生に配布している。しかし、代わりにEPUB 3形式の教科書データを配布すればよいので、EPUB 3からHTML形式やDAISY 3形式に変換することは私たちにはあまり必要ない。
  • 出版社からEPUB 3ファイルを受け入れるようになれば、そのEPUB3をインプットファイルとしてマルチメディアDAISYや点字ファイルが作成できるのだが・・・。

https://groups.google.com/d/msg/daisy-pipeline-dev/yJIJqV7d1vQ/bhz0flgqVvMJ

Deltour氏の回答
  • 技術的にJacobsen氏の要件は実現可能であるが、HTML(EPUB 3)からDTBookへの変換はやりにくいし、最優先の要件ではない。外注して作成するEPUB 3のHTMLファイルのマークアップをきっちり管理できるならやりやすくなるだろう。
  • EPUB3形式のオーディオブックからDAISY2.02形式のオーディオブックへの変換は未知の領域(しかし、Hindenburg Audio Book Creatorを使う方法は興味をそそられる)。
  • DAISY Pipelineの現行のプロジェクト計画書は2013年10月まで。その間はこの計画書に掲載されていることを優先してやらねばならないので、どうしてもこれらの要件を盛り込みたいのであれば、DAISYコンソーシアムの上を説得するか、理事会にうんと言わせて、この計画書を変更させなければならない。以下の3つの選択肢がある。
    1. 理事会の同意を得て、優先順位を上げてもらい現行のプロジェクト計画書期間内に行う
    2. 2013年10月以降のプロジェクト計画書に盛り込む
    3. 急ぐならDAISY Pipelineの開発メンバーを頼らずに自分たちでやる

https://groups.google.com/d/msg/daisy-pipeline-dev/yJIJqV7d1vQ/IVf-Glf0ifIJ

Jacobsen氏の回答

(意訳)
 自分でコーディングしてみたいなぁ・・・。とにかく他の機関で同じような要望がどれくらいあるかを聞いて、それから決めましょう。

https://groups.google.com/d/msg/daisy-pipeline-dev/yJIJqV7d1vQ/at-PhUU1QrUJ

その後 ※追記

 5月にDeltour氏がDAISY Pipelineの次の開発フェーズ(2014年1月から2015年12月)のOverview案を公開しました。

 この案では、DAISY Pipeline 1の機能を統合し、DAISY 2.02とDAISY 3を作成する機能を開発することが提案されていますが、EPUB 3から DAISYに変換する機能には触れられていません。

 当然、Jacobsen氏から「入ってねーじゃねか!」というツッコミがありました。さらに次のコペンハーゲンの会合で他の北欧諸国からもEPUB 3からDTBookへの変換機能の要望がでるかもよと(以上、意訳)。

 Deltour氏もDAISY2.02、DASIY3、DTBookからEPUB3、DAISY -AI(DAISY4)への移行が短期間で進むとは考えておらず、故にDAISY 2.02とDAISY 3を作成する機能の開発も次もフェースでと候補に挙げたとのことです。次のフェースの計画の詳細についてに話し合うときに、EPUB 3からDAISYへの変換機能も検討の候補に含めようと回答しています。

 ということで、2014年から始まる次のフェースでにEPUB 3からDAISYへの変換機能の開発が行われるかもしれません。

関連エントリ

EPUB 3とDAISY 4の関係
DAISYからEPUB 3に変換する
DAISY再生ソフト・機器のEPUB対応
8月 13

アクセシブルなフォーマットにコンバートするスタンフォード大学のSCRIBE Project

 スタンフォード大学アクセシブル教育オフィス(Accessible Education. Office)がWordファイル、テキストファイル、htmlファイルなどから各種電子書籍フォーマット、DAISY、点字フォーマットに変換するコンバートサービスを公開しています。

 Inputファイル形式とOutputファイル形式は以下の通りです。
07
from Conversion Options

 EPUBからDAISYに変換することはさほど難しいとは思えないので、EPUBからDAISYへの変換は対応してほしいところです※。

※2013/08/15 追記
思ってたほど簡単ではないようでした。

  音声(MP3)への変換を選択するとテキストをTTSで読み上げたものをMP3でダウンロードできるようです。
eeeedfr06
 音声ファイル(MP3)への変換画面

 変換できる点字フォーマットも非常に多く、PEF(Portable Embosser Format)の他に様々な点字フォーマットの変換に対応しているようです(知らないものばかり・・・)。
eeeee18
 点字ファイルへの変換画面

8月 13

DAISYも提供する米国O'Reillyの電子書籍のマルチフォーマット対応

 今回は今更ながら、米国O’Reilly Mediaの電子書籍のマルチフォーマット対応がすばらしいという話。

 PDF、EPUB、mobi(Kindle形式)の他、全てではありませんが、ほとんどのタイトルでDAISY版が提供されています。AかBかではなく、AもBもだという姿勢がすごくいい。

スクリーンショット 2013-08-12 23.42.30
O’Reilly Mediaの電子書籍ダウンロード画面

 米国O’Reillyのマルチフォーマット展開については、『マニフェスト 本の未来』(ボイジャー)に「あらゆる場所への流通」という題で寄稿しているO’Reilly Mediaのアンドリュー・サヴィカス氏の文章が詳しいですが、このサヴィカス氏の文章によるとソースファイルはDocBook XMLが採用されているようです※。

※2013/08/13 追記
O’Reilly Mediaは執筆用フォーマットとしては、DocBookからAsciidocに移行しようとし、さらにHTMLBookに移行しようとしているとの情報をいただきました。ありがとうございました!

 ちなみに提供されているDAISYはDAISY3版のテキストDAISYです。
スクリーンショット 2013-08-12 23.45.55
例:”EPUB 3 Best Practices”のDAISY版

 ひさしぶりに米国O’Reillyをのぞいてみたら、Dropbox、Google Drive、Kinleへの送信機能まで実装されていた。ますます素晴らしい。

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8月 03

Open Annotationとウェブアーカイブのちょっとした関係

 先のエントリでOpen Annotationの紹介をしましたが、余談としてOpen Annotationとウェブアーカイブのちょっとした関係を1つ。

 Open Annotation Data Modelのエディタの1人にロスアラモス国立研究所のHerbert Van de Sompel氏が名を連ねています。Sompel氏はOpen Annotation Collaboration(OAC)でプロジェクトのフェーズ1から主任研究員(principal investigator)の1人としてOpen Annotationに中心人物として参加され続けているようです。このSompel氏、このブログで時々紹介しているウェブアーカイブプロジェクトMementoの方でもありまして(その他、いろいろな顔をお持ちですが)、忙しいにも関わらず毎日、Mementoの“SiteStory Web Archiveのデモ用に自分の写真をBBCのトップページとともにを毎日公開している方でもあります。

 

 Open Annotatationとウェブアーカイブに関係する部分ですが、Open Annotation Data Modelの「3.3.1. Time State」あたりにでています。ウェブアーカイブされたウェブサイトなどデジタルリソースの過去のバージョンを参照するモデルを規定するところです。例示としてMementoプロトコルが言及されていますね

Time Stateのモデル
Time Stateのモデル

 
 Open Annotation Core Data Model Example Listには上のモデルの例示が掲載されています(ウェブアーカイブされたコンテンツがターゲットではありませんが)。

  <x:MyAnno> a oa:Annotation ;
    oa:hasBody <http://www.youtube.com/watch?v=uPh81LIe7B8> ;
    oa:hasTarget <urn:uuid:5D9AD68D-2043-4C77-A40C-ECB00F6248F9> .

  <urn:uuid:5D9AD68D-2043-4C77-A40C-ECB00F6248F9> a oa:SpecificResource ;
    oa:hasSource <http://en.wikipedia.org/> ;
    oa:hasState <urn:uuid:681821DE-E7C3-4486-9E30-F8B9A75AD16B> .

  <urn:uuid:681821DE-E7C3-4486-9E30-F8B9A75AD16B> a oa:State ;
    oa:when "2012-01-18 12:00:00Z" .

Example ListからリンクされているStateより

関連エントリ