8月 21

私がOPDSを推す理由 – 電子出版業界にも「混沌」とした世界を

 昨日、こんなニュースが流れました。

 ウェブ上では、予想通りNTT出版に対して厳しい意見が多いですが、NTT出版の姿勢はともかく、別の出版社から出版できたという結果はもっと評価されてよいのではないかと思うのです。

 出版社の多くが私企業ですので、個々の出版社レベルではその時々における個々のいろいろな事情で、出版できるものもあれば、出版できないものが出てくるのはある程度はやむを得ないところがあろうかと思います(それが望ましいかどうかは別にして)。しかし、出版界の健全性を問うならば、その場合に、別の出版社で出すという選択肢が用意されているか否かが重要です。A出版社でだめなら、B出版社、B出版社がだめならC出版社で出版できるという選択肢が著者に用意されていることが出版界の健全さを示すものではないかと思うのです。

 経済産業省が公開している特定サービス産業実態調査報告書(平成22年度)によれば、日本の出版社は2,883社はあるらしいです。

 出版社数は統計によってかなり開きがあったように記憶していますが、それにしても3,000社弱。多いです。あえて単純化して申せば、著者にはこれだけの選択肢がある。出版社が構成する業界団体もいろいろとありますが、全出版社が参加するような業界団体は日本には未だ存在しません。出版界全体が1つとして動くことができないことは、出版業界の業界としての「統制」のなさを示すものであるかもしれませんが、その「まとまり」のなさ、「混沌」とした状態は、出版界の多様性を担保し、著者に多くの選択肢を提供するものでもあり、必ずしも否定するべきものではないように思います。

 一方で、「電子書籍」業界では、著者に対して複数の選択肢が用意されているのかというと、いささか心もとない気がします。コンテンツプロバイダである出版社の多さはある程度維持されるかもしれませんが、発行から読者への販売/配信(リーチ)に至る部分がAmazon、Google、Appleのような大きなプラットフォームに集約されていく可能性が大きくなっています。巨大プラットフォームとはいえ、一私企業であり、企業の利益や方針、その時々の箇々のの事情によってあっさりと販売・配信を拒否することもありえます。紙の世界と異なり、「電子書籍」業界では、他のところで発行できるという選択肢が極端に狭められていく危険があるように思えます。物議を醸した『完全自殺マニュアル』のような書籍を「電子書籍」として刊行することができるか否かです(『完全自殺マニュアル』そのものの是非はここでは置いとくとして)。

 「電子書籍」、後で述べるOPDSの対象となる範囲も考慮し、もう少し広く捉えて「電子出版」業界としますが、電子出版業界においても出版物の多様性を担保するためには、紙の世界と同じように、著書が読者に届くまえのルートに多くの選択肢が著者に用意される必要があります。言い換えると電子出版業界にも「まとまりのなさ」、ある種の「混沌とした世界」があってほしいと。

 私がOPDSを推すはまさにそのためです。

 先日、Open Annotationを紹介しましたが、個人的には、OPDSに対する興味と根は同じところかもしれません。大きな1つのものが世界を覆うよりは、統制されることのない個々の活動が結果として1つの世界を構成する、そういうものに興味があるようです。

10月 30

独立系の出版社や個人作家を支援するソーシャルリーディングサービスReadmillとは

 今回はドイツのベンチャー企業が2011年12月に立ちあげたばかりのReadmillを紹介します。クラウドなマイライブラリサービス兼ソーシャルリーディングサービスです。


http://readmill.com/

1. Readmillとは?

  
 まずは以下の動画をご覧ください。提供されているサービスのおおまかな雰囲気がつかめると思います。

This is Readmill from Readmill 紹介動画 on Vimeo.

  上の動画で紹介されているReadmillの主な特徴をあげていけば、以下のような感じでしょうか。

  1. 電子書籍のコンテンツをクラウドなマイライブラリに登録できる。
  2. 電子書籍の本文に付与したハイライトやコメントをフォロワー同士でタイムライン形式や本文上に直接表示させる形で共有することができる。また、もちろんTwitterやfacebook、tumblrに流すことも可能。
  3. 電子書籍ビューワとして、現在、iPad専用のリーダーアプリReadmill for iPad が用意されている。2にあげたハイライトやコメントの付与はこのアプリ上で行う。

 最近のソーシャルリーディングサービスとしては、ごくごく標準的なサービスを提供していると言えます。
 

2. ライブラリサービスとビューワアプリ

 登録できるファイルフォーマットはPDF、EPUBです。2012年10月にはAdobe DRMで保護されたコンテンツの対応もできるようになりましたので、Barnes & Noble、Kobo、Googleなどが採用している有料コンテンツも登録できるようになったようです※1

 
 ライブラリに登録した電子書籍はReadmillが提供しているビューワアプリReadmill for iPad で読むことができます。

Readmill for iPad

 
このアプリについては、こもりまさあきさんが以下のブログで詳しく紹介してくださっていますので、こちらをご参照ください。
ソーシャルなePubリーダー、Readmill | gaspanik weblog

 このReadmill for iPad の紹介動画も公開されています。

Readmill for iPad 紹介動画 from Readmill on Vimeo.

  UIはなかなか洗練されています。

  しかし・・・・・、日本語のEPUBはバージョン関係なくうまく表示ができないようです。また、PDF上ではハイライトやコメントの付与ができないため、Readmillのウリの一つであるソーシャルな機能を使うことができません。単体のビューワアプリとしてみると、このビューワは日本で使用されるにはまだまだ機能不足のようです。Readmillで電子書籍を読む唯一の手段であるこのiPadアプリがこういう状態であることは少し残念ですね。立ち上がって間もないサービスですので、今後の対応を期待したいところです。 

 

3 iPadに自動送信できる「Send to Readmill」機能

 ビューワアプリが結構残念なReadmillですが、「Send to Readmill」機能を紹介せねばなりません。もしかするとこの機能がReadmillというサービスとその方向性を際だたせている機能かもしれません。
 

 「Send to Readmill」機能とは、電子書籍プラットフォームのコンテンツの各ページ等に設置されている上の「Send to Readmill」ボタンを押すと自分のReadmillのライブラリにコンテンツごと登録されるという機能です。
例: Alice’s Adventures in Wonderland – Lewis Carroll | Feedbooks

「Send to Readmill」紹介動画 from Readmill on Vimeo.

  ビューワアプリReadmill for iPad はReadmillのライブラリと同期する機能がありますので、コンテンツが自動的にダウンロードされることになります。アマゾンがKindleで提供している自動送信に近い使い勝手を実現しています。

 この機能、実はまだドラフト段階であるOPDS Callbackを使って実現しているんです。ええ、OPDS Callbackです。大事なことなので二度言いました※2。そうOPDS Callbackです。

 無料のコンテンツならば、上で紹介したFeedbooksのパブリックドメインのコンテンツのようにコンテンツを紹介するページに設置してしまえばいいわけです。では、有料のコンテンツはどうするの?ということですが、 A Book Apartのように、決済終了後にユーザーに見せるダウンロード画面に設置するという方法もあります※3


 

 この「Send to Readmill」機能、 OPDS Callbackが採用されていることより重要なことは、 

 誰でも「Send to Readmill」ボタンを簡単に設置することができること 

だと思います。
 
 設置方法も以下のようにコンテンツファイルのURLを記入するだけでボタンを設置するためのコードを生成できるページが用意されています。このコードを流用すれば、非プログラマーな人でも簡単に設置できます※4


Get the Send to Readmill code

 ためしに、ということで、板橋区議会が発行している広報誌『いたばし区議会だより』のEPUB版の「Send to Readmill」ボタンを作成してみました。 

いたばし区議会だより第161号 – 板橋区議会

 Readmillにログインした状態で上のボタンを押すと、Readmillのライブラリに登録され、同期したReadmill for iPad にそのままダウンロードされることになります。

 コンテンツファイルがPDFファイルでも、もちろん問題なく「Send to Readmill」ボタンを設置できます。

国立国会図書館月報 619号(2012年10月)

 独立系の出版社や個人作家が独力で提供から利用に至るフローをユーザーに用意することはとても大変ですが、Readmillのようなサービスがそのフローを肩代わりしてくれるのであれば、プラットフォームに頼る理由が1つ減ることになります。Readmillのサービスはまだ成長途上であると言わざるを得ない部分がありますが、この種のサービスは日本でも拡がって欲しいサービスだと思いました。

 

※1 Social Reading App Readmill Adds Adobe DRM and PDF, Adds New Stores | TechCrunch
  ただし、ローカルからDRMなしのEPUBファイルをアップロードしようとすると英語のファイルでもエラーが発生してしまうことも・・、あれっ・・・・・(汗)。
※2 Send to Readmill : Official Feedbooks Blog
   OPDS Callbackは大事なことなので、さらに別のエントリで紹介するかもしれません。
※3 Send to Readmill welcomes A Book Apart! | Readmill Blog
  上のA Book Apartのダウンロード画面もこのエントリより転載。
※4 より詳細は情報は 「API Documentation – Readmill」で。

9月 23

OPDSカタログアグリゲータにカタログの更新を知らせるPing送信

 別のブログで台湾のOPDS状況について紹介したのですが、そのエントリをマガジン航[kɔː]に転載していただきました。ありがとうございました。

.台湾がOPDSでやろうとしていること « マガジン航[kɔː]

 上の記事の中で台湾がOPDSカタログ用のPing Server(公開や更新を通知するPing送信を受けつけるサーバー)の設置を検討していることに触れました。あのエントリでは、このPing送信についてあまり踏み込んだ解説はしませんでしたが、OPDSアグリゲータに更新をしらせる仕組みとしてのPing送信は、OPDSにおいてかなり重要な要素だと思われますので、若干妄想を交えながら少し詳しく紹介したいと思います。

1. Ping送信・Ping Serverとは

 
 RSSではすでに枯れた技術でもあり、ブログを運営したことのある人ならご存じかと思いますが、Ping送信とはウェブサイトなどが更新されたことをサーバー(Ping Server)に知らせる技術です。通常のウェブサイトでは、検索エンジンのクローラが自分のサイトの更新を拾ってくれるのを基本的に待つしかませんが、ウェブサイトの運営者が更新したタイミングで更新を知らせるのでほぼリアルタイムに検索エンジンの検索結果に反映させることができます。

 少々ざっくりとしたイメージですが、以下のような流れでRSSを取得させることでサーバーに更新情報を伝えることになります。

 詳しくは以下をご参照ください。

Ping (ブログ) – Wikipedia
PING送信の仕様 – XMLの書式、RSS配信、PINGサーバとは、ブログ・ホームページ 

2. OPDSでPing送信を活用するとこうなる

 出版社が自社サイトで電子書籍の提供するとします。

 プラットフォームに依存せずにすむという利点はあるものの、コンテンツを掲載してから検索エンジンのクローラーがウェブサイトを走行するまでに時間的間隔が開いてしまいますし、Web検索エンジン上での検索は全くジャンルの異なる他のウェブサイトと検索結果が混ざってしまいます。それは電子書籍を提供する出版社にとっても、それを探す読者にとっても望ましいものではありません。プラットフォームにコンテンツが集約されてしまう理由の1つです。

 そこで、少しでも状況を改善するためにOPDSカタログの公開し、それをOPDSアグリゲータにカタログを集約させることができればと思うのです。

 OPDSカタログの公開といっても、やることはWeb上に静的なAtom形式のファイルを置くだけですので、このままではWeb上にAtom形式のカタログがぽつんと孤立した状態で存在するだけになってしまいます。OPDSカタログアグリゲータに「あー!あー!おれはここにおるで!」「更新したから、はよ来てや!」と知らせる仕組みがあわせて必要になってくるのです。それがPing送信です。

 1で紹介したRSSのPing送信の仕組みをOPDSカタログで採用すると以下のような流れになるかと思います。
 

 新たな電子書籍をWeb上で提供した、または内容を更新したときにOPDSカタログを更新し、OPDSアグリゲータが設置したPing Serverにその更新情報をPing送信によって伝えるのです。OPDSカタログアグリゲータはすぐに更新されたOPDSカタログを取得し、読者の検索結果に反映させていく。

 この仕組みの大きな利点は

電子書籍プラットフォームが対象としないコンテンツ、商用出版流通に載らないコンテンツを対象にできること

 です。これは何度強調しても足ることはありません。
 
 官公庁や研究機関などのウェブサイト上では広報誌、調査報告書、学術雑誌等々の大量のコンテンツがPDF形式で無料で公開されています。これまではWeb検索エンジンでしか見つけることができなかったこれらのコンテンツも各機関がOPDSカタログを公開し、それらアグリゲータに集約させることで他の電子書籍と一緒に検索させることができます。Webの大海に埋もれて孤立しがち、そのため容易に発見されづらいコンテンツに対して光をあてることができます。

 

 読者はOPDSカタログアグリゲータが提供する検索サービスを通じて、集約されたOPDSカタログを検索することになります。コンテンツは直接、コンテンツプロバイダのウェブサイトから取得します。RSSと同様にキーワード登録することで新刊情報をキーワードで取得するなんてことも容易に実現できるでしょう。

 有料コンテンツだと、認証の問題や課金の問題等が発生しますが、そのあたりは以下のエントリで書きましたので、ここでは省略します。OPDSはとりあえずコンテンツへのリーチを担保するための仕組みです。1つ1つ問題を解消していきましょう。

プラットフォームの束縛から電子書籍を解放する仕組みとしてのOPDSと課金(マイクロペイメント)レイヤー (2012年2月26日)