文部科学省・障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会報告

 文部科学省で障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会が設置され、平成25年6月より6回にわたり検討を行い、障害のある児童生徒の教材の現状と課題、その推進方策についてまとめた報告書が8月に公開されています。

 マルチメディアDAISY(もしくはMedia OverlaysなEPUB)教材の充実について言及されているほか、円滑かつ効率的に教材提供を行うための仕組みを構築が必要であることが述べられています。
 また、「米国では、視覚障害や肢体不自由、学習障害等のため文字が読めない、読みにくい等の「印刷物障害(Print Disabilities)」のある児童生徒のためのアクセシブルな教材等の標準規格が整備されており、それらの教材等を教育現場の実情に沿った簡便な方法で提供できる体制が構築されており、我が国においても、参考とすべきと考える。」とあり、米国のNIMAS(National Instructional Materials Accessibility Standard)についても言及されています。NIMASのような標準規格は日本においても必要です。今後に期待したいところです。
 参考資料として特別支援教育に関係する法規、事業に関する文書や関連文書がまとめられています。
 過去の検討会では、地方や米国の障害児教育教材事情、特別支援教育に係る支援技術をまとめたものが配布資料として配布されており、読みごたえがありそうです。

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教科書バリアフリー法によって提供が教科書発行者に義務づけられた教科書デジタルデータ

 拡大教科書、点字教科書、DAISY教科書を作成しているボランティア団体等の負担を軽減する目的で、2008年9月に施行した教科書バリアフリー法(障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律)では、教科書発行者に教科書のデジタルデータの提供が義務づけられています(第5条)。

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blockquote>(教科用図書発行者による電磁的記録の提供等)
第五条  教科用図書発行者は、文部科学省令で定めるところにより、その発行をする検定教科用図書等に係る電磁的記録を文部科学大臣又は当該電磁的記録を教科用特定図書等の発行をする者に適切に提供することができる者として文部科学大臣が指定する者(次項において「文部科学大臣等」という。)に提供しなければならない。
2  教科用図書発行者から前項の規定による電磁的記録の提供を受けた文部科学大臣等は、文部科学省令で定めるところにより、教科用特定図書等の発行をする者に対して、その発行に必要な電磁的記録の提供を行うことができる。
3  国は、教科用図書発行者による検定教科用図書等に係る電磁的記録の提供の方法及び当該電磁的記録の教科用特定図書等の作成への活用に関して、助言その他の必要な援助を行うものとする。
from <a href=”http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kakudai/houritsu/08092210.htm””>障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律

 
 この第5条に係り、具体的に提出義務のある教科書データの範囲、提出先、提出フォーマットは以下の実施要領などにまとめられています。

 まとめると以下通りです。

提出義務のある教科書データ
小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校において教科書を使用している全ての科目の教科書に掲載されているすべてのデータ(本文、図・写真、脚注、表紙など)が対象です。
データ提出先であるデータ管理機関
法第5条で「文部科学大臣等」とされている提出先たるデータ管理機関ですが、当面の間は、文部科学大臣とし、必要な業務は文部科学省初等中等教育局教科書課において行うことになっています。データ管理機関における業務を、第三者に委託して実施することができるということで、平成25年度は.富士ゼロックスに業務が委託されているようです。
提出するデジタルデータの形式
 教科書発行者が提出が義務付けられている形式はPDF形式のファイルです。テキスト形式のデータの提供も可能な限り求められています。また、正しく表現されず、適切な活用ができない図や写真等の画像データについては、必要に応じ、JPEG形式のファイルを併せて提供することになっています。
デジタルデータを受け取れる者

 以下のいずれかの教科用特定図書等の発行をする者

  1. 教科用拡大図書を製作する者
  2. 教科用点字図書を製作する者
  3. 音声読み上げのコンピュータソフトを利用した教材(教科用図書に準ずるものと認められるものに限る。)を、障害のある児童生徒に向けて製作する者
  4. 教科用拡大図書を製作する高等学校及び特別支援学校(視覚障害等)高等部(以下「高等学校等」という。)

 教科書デジタルデータの受け取り手続きと渡されるデータの概要については、データ管理業務を受託している富士ゼロックスが教科書デジタルデータ運用マニュアルとしてまとめられています。

参考

提出が義務づけられる教科書データがPDF形式になった理由

 提出が義務づけられる教科書データがPDF形式になった理由は以下のようです(拡大教科書普及推進会議 第一次報告より)。

  • DTPからの変換が比較的容易で、教科書発行者の負担が少ない
  • ボランティア団体等が、教科書の紙面と同じレイアウトを見ながら作業できる
  • PDF形式のデータを読み込むソフトは、無料で入手できる
  • テキスト形式のデータを抽出することができる
  • 文章のデータとともに、図や写真等の画像データも提供することができる

 なお、同報告書では、「教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータについては、より正確で使い勝手のよいデジタルデータの提供促進や、一つのデータを多様な用途に使用できる「ワンソース・マルチユース」の実現に向け、文字の大きさ・レイアウト変更やテキスト形式のデータ抽出などが容易にできるXMLやアクセシブルPDFなどの導入の可能性についても、今後、必要な検討を進めていくことが望まれる。 」ともあります。
 その延長かどうかわかりませんが、平成25年度にはEPUB形式によるデジタルデータの提供についても検討が今年度から始まったようです。

EPUB形式による教科書デジタルデータ作成・提供のための調査研究

 拡大教科書等の作成にあたって効果的に教科書デジタルデータを活用できるよう、ボランティア団体及び高等学校等への支援の在り方を検証するためとして、EPUB形式による教科書デジタルデータ作成・提供のための調査研究に平成25年度から予算がついています。

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RDAのバーバラ・ティレット氏講演会「Linked Open Dataによる書誌コントロール:Bibliographic Framework Initiativeのめざすもの」に参加してきました

 RDA、Linked Open Data、そして、BIBFRAME。「おらたち、熱いよね!」と迫ってくるかのようにこの3つの言葉が目によく飛び込んでくる今日この頃です。私も関心はありつつも、「今スイッチ切っているだけだからね」と言い訳しつつ、いつかやる気を出すであろう未来の自分をあてにしていたら、スイッチが入らないまま今日に至ってしまいました。「わかるやつだけわかればいい」といつまでも言っていられるのかわかりませんし、自分の興味を喚起するためにもRDA開発合同運営委員会議長のバーバラ・ティレット(Barbara Tillett)氏の10月6日の講演会(以下)に育児の合間をぬってヒットアンドアウェイ的に参加してきました。

 ティレット氏の講演内容をまとめるほどメモをとっていないので、今回は浅薄な感想を述べる程度にとどめておきます。講演の記録は同志社大学の紀要に掲載されるそうですので、そちらをご覧ください。
 ティレット氏の講演を聴いていて、つまるところ、RDAやBibliographic Framework Initiative (BIBFRAME) が目指すところは
 メタデータの各エレメントの独立性を高めて、エレメントレベルでユーザーが任意の形で再利用可能にする
ということなのかなと思いました。
  図書館がこれまでMARCにのせて作成してきたメタデータは紙のカード目録をそのまま電子に置き換えたものであり、それで完結してしまっている静的なものである。機械がメタデータ間の関係を理解できない。RDAやBIBFRAMEはその逆をしたいとであろうと。
  
 メタ情報をRDFで表現し、各エレメントにすべてURIなどの識別子を持たせて、メタデータ単位だけではなく、エレメント単位をリンクでつなげて関係を持たせる。もちろんその関係を機械が理解できるもので、ユーザーが望む形にメタデータを再利用可能にできる、という感じの。
 各エレメントに個別のURIなどの識別子を持たせてというところがポイントなのでしょうか。そういうのなしにメタデータをエレメントレベルに細分化してしまったら、「ぼっちゃん」というタイトルや「夏目漱石」という著者名もただの文字列の情報になってしまい、元に戻せませんし、他に流用してもそれはただのコピーカタロギングになってしまいます。一度ばらしたら再構築できない。
 BIBFRAMEというものに「フォーマット」ではなく、「フレームワーク」という言葉が使用されている理由が、これまでよく分かりませんでしたが、今回の講演で「メタデータフォーマット」が、エレメントを所定の形で固めたメタ情報のパッケージフォーマットであることを改めて認識しました。メタ情報を細分化可能にし、個々のエレメントレベルで再利用できるようにするというのが、BIBFRAMEの目指すところならば、たしかにそれはパッケージフォーマットではなく、枠組み、仕組みというもので、フレームワークという言葉が使用される理由もなんとなくそういうことで理解しました。ただし、この理解でよいならばフォーマットとフレームワークの境界線はかなり曖昧です。
 上のような理解でよいならば、シンプルな話であるように思えるのですが、RDAがFRAD(参考: 典拠データの機能要件(日本語訳)[PDF])とともにベースにしているという概念モデルのFRBR(参考: 書誌レコードの機能要件(日本語訳)[PDF])が分かりづらくしているような気がするなぁと思ったりもしまして(もっとも私はRDAもFRBRのドキュメントも読んでないので、言うなという話ではあります)。これまで作成してきたMARCデータの資産を生かすという要件がなければ、本質的に必要な概念モデルなのだろうかと思ったりもしまして。
  
 WebにはRDFa、Microdata、Microformatsというコンテンツに埋め込むメタデータフォーマットがあります(そして、RDFaやMicrodataを活用するschema.org)。W3Cの人などのこういうのを作った人たちは、メタデータが細分化され、コンテンツ内に偏在していく状況を目指しているのだと思いますが、仮にそういうことが状況になったったとして、RDAやBIBFRAMEのメタ情報もエレメントレベルに分解されてコンテンツ内に偏在されていくのでしょうか。