2025年から欧州アクセシビリティ法により欧州で発行が義務付けられる電子書籍のアクセシビリティの要件

この記事は、アクセシビリティAdventカレンダー 21日目の記事です。
以前、 European Accessibility Act(欧州アクセシビリティ法 | EAA)の概要を紹介するエントリで、この法が規定する電子書籍のアクセシビリティ要件を紹介しましたが、欧州アクセシビリティ法の紹介が主で、電子書籍のアクセシビリティ要件は間接的な紹介に留まっていたため、今回は、電子書籍にフォーカスを当てて、改めてEuropean Accessibility Act(欧州アクセシビリティ法)が規定する電子書籍のアクセシビリティの要件を整理します。

1.EAAの対象に電子書籍もなるのか。

なります。
電子書籍については以下が対象になることが第2条に明記されています。

  • 電子書籍と電子書籍閲覧ソフトウェア (e-books and dedicated software)
  • 電子書籍閲覧端末 (e-readers)

2. EAAの効力発生時期

 以下のとおり。2025年6月28日からEU内で効力が発生します。

  • 2022年6月28日までに加盟国で国内法の法整備。
  • 2025年6月28日からすべての製品とサービスに適用(一部の措置を2027年6月28日まで延期することができる)。

3. EAAで義務の対象となる者

 以下の事業者が対象(個人、法人問わず)

  • 製造業者(manufacturer)
  • 認定担当者(authorised representative)
  • 輸入事業者(importer)
  • 販売業者(distributor)
  • サービス提供者 (service provider)

 つまり、電子書籍に関して言えば、出版社(製造業者)、出版取次(販売業者)、AmazonやGoogleなどの書店(販売業者/サービス提供者)等、電子書籍の制作、販売に関わる全ての事業者(個人、法人問わず)が対象になります。

4. EAAが規定する電子書籍関係のアクセシビリティの要件

 電子書籍、電子書籍の閲覧環境、書店等の電子書籍を提供するサービスに求められるアクセシビリティ要件は以下にまとめました。なお、EAAでは、有体物の電子書籍専用端末は「製品」としての要件、無体物である電子書籍と電子書籍閲覧ソフトウェアは「サービス」と整理されています。そのため、前者が「製品」としての要件、後者が「サービス」としての要件を読む必要があります。ここでは、複数のセクションに分散している要件を電子書籍に絞ってまとめています。正確な規定ぶりや要件を確認したい場合は、 European Accessibility Act(欧州アクセシビリティ法)概要と電子書籍のアクセシビリティ要件 <修正版>を参照してください。

4.1 電子書籍のアクセシビリティの要件

 以下の7つの要件です。上述のとおり、EAAでは、電子書籍は「サービス」と位置づけられていますが、「サービス」としての要件では不足すると考えられたためか、電子書籍に特化した6つの要件が追加で規定されています。以下の要件1から要件6にそれに該当します(つまり、要件7以外)。

  1. 電子書籍にテキストに加えて音声が含まれている場合に、テキストと音声を同期させて提供することを保証すること(=EPUBならば、Media Overlay文書として提供する)
  2. 電子書籍の電子ファイルが支援技術の正常な動作を妨げることのないことを保証すること
  3. コンテンツへのアクセス、ファイルコンテンツ及び動的レイアウトを含むレイアウトのナビゲーション、構造化、コンテンツの表示における柔軟性と選択肢を保証すること
  4. 知覚可能(perceivable)、理解可能 (understandable)、操作可能 (operable)、堅固(robust)な方法で、コンテンツの代替レンディション、様々な支援技術との相互運用性を保証すること
  5. アクセシビリティ機能に関するメタデータを通じて情報を提供することにより、電子書籍を発見可能にすること
  6. デジタル著作権管理(DRM)によってアクセシビリティ機能を妨げないことを保証すること
  7. テキスト以外のコンテンツ(画像等)には代替テキストを提供すること

 要件1以外は、EPUBのアクセシビリティの仕様であるEPUB Accessibility 1.0そのものと言えます。EPUB Accessibility 1.0も国際規格化に向けて動いており、現在は、commitee draft(ISO/IEC CD 23761)のステータス。来年にはIS化するようですので、EPUB Accessibility 1.0が基準となるのでしょうか。

4.2 電子書籍リーダー

4.2.1 電子書籍端末

 ハードウェアとしての電子書籍端末の要件です。

4.2.1.1 機能及びユーザーインターフェイス

 最後の要件14は、電子書籍端末に特化した要件として規定されています。

  1. 複数の感覚チャンネルを通じて利用可能であること(視覚、聴覚、言語及び触覚要素の代替物を提供することを含む)。
  2. 操作等のためにVoice User Interface: VUIを使用する場合、代替手段を提供すること
  3. 視覚要素を用いる場合、操作等のために拡大率、明るさ、コントラストを柔軟に変更できる機能を提供するとともに、インターフェースを操作するための支援技術との相互運用性を確保すること
  4. 情報の伝達、動作の提示、応答の要求又は要素の特定のために色を使用する場合は、それに代わるものを提供すること
  5. 情報の伝達、動作の提示、応答の要求又は要素の特定のために音声によるシグナルを使用する場合は、それに代わるものも提供すること
  6. 出力される音声はユーザーにより音量と速度の制御が可能であること。
  7. 手動操作、手動制御が必要な場合には、同時操作の必要性を排除し、逐次操作を可能とさせるか、細かい運動制御に代わる手段を提供する。触覚で識別可能なパーツを使用すること(原文は”shall use tactile discernible parts”だが、何をしているのか不明。スイッチのような機器への対応を要件としている?)。
  8. 広範囲なリーチと強い強度を必要とする動作を求めないこと
  9. 光線過敏性発作の誘発を避けること
  10. アクセシビリティー機能を使用する際にユーザーのプライバシーを保護すること
  11. 生体認証による識別と操作に代替手段を提供すること
  12. 機能の一貫性を確保し、相互作用に十分かつ柔軟な時間を提供すること
  13. 支援技術とのインターフェース用のソフトウェアおよびハードウェアを提供すること。
  14. テキスト読み上げ技術を提供すること

4.2.1.2 端末に関する情報提供及びサポートサービス

  1. 製品の情報のアクセシビリティ特性に関する情報が記載されている場合には、その情報にアクセスできること
  2. 端末のパッケージに端末の情報(例えば、開封、利用、廃棄等)、端末の持つアクセシビリティ機能に関する情報が記載されている場合には、その情報がアクセシブルでなければならない。
  3. 端末の利用に関する情報(表示、指示、警告、利用方法、パッケージの開封、廃棄等)の提供(ウェブサイトを通じた提供も含む)は以下の要件を満たし、アクセスを保証すること
    • 複数の感覚チャンネルを介して情報を利用可能にする
    • 知覚可能(perceivable)、理解可能 (understandable)な方法で情報を提示する
    • ユーザーが複数の感覚チャンネルを介して異なる方法で利用するための代替支援形式を生成できるように情報コンテンツをテキスト形式で利用する
    • 予見可能な使用条件を考慮し、十分なコントラストを使用し、また文字、行及び段落の間の間隔を調節することを考慮して、適切なサイズ及び適切な形状のフォントで表示する
    • テキスト以外のコンテンツはその内容の代替表現で補足すること
  4. 利用可能な場合には、サポートサービス(ヘルプデスク、コールセンター、テクニカルサポート、リレーサービス、およびトレーニングサービス)が、アクセシブルなコミュニケーション手段で端末のアクセシビリティに関する情報と支援技術への対応に関する情報を提供すること

4.2.2 電子書籍閲覧アプリ

 電子書籍閲覧アプリは、EAAの中では、電子書籍とともに、書店等の電子書籍販売する「サービス」に組み込まれています。電子書籍は追加の要件が規定され、それが前述の4.1 電子書籍のアクセシビリティ要件になっています。アプリの場合は追加の要件は特にありませんが、サービスとして電子書籍と電子書籍アプリをセットで見ているようですので、前述の電子書籍のアクセシビリティの要件と後述の4.3 電子書籍を販売する書店に求められるアクセシビリティの要件から、アプリの要件を読む必要があるのでしょうか。まとめると以下になると思われます。

  1. 電子書籍のアクセシビリティ要件を満たした 電子書籍のアクセシビリティ機能を利用できること。
  2. 知覚可能(perceivable)、理解可能 (understandable)、操作可能 (operable)、操作可能(operable,)にすることで、一貫した適切な方法でアクセシブルにすること
  3. 利用可能な場合には、サポートサービス(ヘルプデスク、コールセンター、テクニカルサポート、リレーサービス、およびトレーニングサービス)が、アクセシブルなコミュニケーション手段でサービスのアクセシビリティに関する情報と支援技術への対応に関する情報を提供すること。

4.3 電子書籍を販売する書店に求められるアクセシビリティの要件

 Amazonなどの電子書籍を販売する書店には、障害者による予見可能な利用を最大化するために以下の要件を満たすことが求められています。

  1. サービスが提供する電子書籍、電子書籍閲覧ソフト、電子書籍閲覧端末のアクセシビリティの要件を満たすこと。
  2. サービスの機能に関する情報、サービスが提供する電子書籍へのリンク、サービスのアクセシビリティ特性、および支援技術への対応に係る情報の提供について以下とする。
    • 複数の感覚チャンネルを介して情報を利用可能にする
    • 知覚可能(perceivable)、理解可能 (understandable)な方法で情報を提示する
    • ユーザーが複数の感覚チャンネルを介して異なる方法で利用するための代替支援形式を生成できるように情報コンテンツをテキスト形式で利用する
    • 予見可能な使用条件を考慮し、十分なコントラストを使用し、また文字、行及び段落の間の間隔を調節することを考慮して、適切なサイズ及び適切な形状のフォントで表示する
    • 文字、行及び段落の間の間隔を調節することを考慮して、適切なサイズ及び適切な形状のフォントで表示すること
    • テキスト以外のコンテンツはその内容の代替表現で補足すること
    • サービスが提供する電子書籍を、知覚可能、操作可能、理解可能かつ堅牢にすることにより、一貫した適切な方法で提供すること
  3. ウェブサイト (ウェブアプリケーションを含む) やモバイルアプリケーションを含むモバイルデバイスベースのサービスを、知覚可能(perceivable)、理解可能 (understandable)、操作可能 (operable)、操作可能(operable,)にすることで、一貫した適切な方法でアクセシブルにすること
  4. 利用可能な場合には、サポートサービス(ヘルプデスク、コールセンター、テクニカルサポート、リレーサービス、およびトレーニングサービス)が、アクセシブルなコミュニケーション手段でサービスのアクセシビリティに関する情報と支援技術への対応に関する情報を提供すること。

5. 関連エントリ

2025年から欧州アクセシビリティ法により欧州で発行が義務付けられる電子書籍のアクセシビリティの要件」への1件のフィードバック

  1. おお、これは分かりやすい。来年のAPLのセミナーでも参照させて下さい。

コメントは受け付けていません。