Fw:長谷川貞夫さんの「書いておきたい事」

 長谷川貞夫さんが、facebook上で「書いておきたいこと」と題して、今、視覚障害者の情報に投稿され続け、それがCode for Nerimaのnoteでまとめられています。屋上屋を重ねるようなものですが、リンクをまとめてみました。長谷川貞夫さんの投稿は、まだ続いていますので、まとめが追加されたら、それをここも更新しようと思います。
長谷川貞夫さんは、6点漢点字を考案した人、ですが、それ以外にも視覚障害者のPC利用や、図書館・点字図書館の障害者サービスの歴史に様々な形で事績を残されている方です。最近も、視覚障害者と盲ろう者向けのアプリjの開発に関わっていたりとかなりアグレッシブ。すごいです。以前、私も図書館の障害者サービスの歴史を調べている時に、いろいろ資料読みましたが、いろいろなところで、「長谷川貞夫」の名前が出てくるので、最初は同姓同名の別人かと疑ったことがあったりとか。長谷川貞夫さんが1996年から1999年に書かれた六点漢字の自叙伝もあります。以下はこれと重なるところもありますが、重ならないところもありますので、興味のある方は両方どうぞ。

  • 長谷川貞夫さんの「書いておきたい事」
    • 日本におけるテープライブラリの発足について。日本初となる(日本点字図書館の「声のライブラリー」よりも1年早いんですよ)の国際キリスト教奉仕団によるテーブライブラリの発足から日本点字図書館の声のライブラリー発足など。
  • 長谷川貞夫さん「視覚障害者と電気の繋がり」
    • 点字の電算化について。国立国会図書館も関わっていたり。
  • 長谷川貞夫さん「田中章夫先生」
    • 田中章夫先生について。カナ文データから点字への変換、それの紙テープへの打ち出しの話。その前提として、田中先生の漢字交じりの日本語文を仮名文字に変換する研究成果あってこそだったのですね。なお、公共図書館における視覚障害職員第1号である元東京都立図書館職員の田中章治さんと一字違い・・。混同しそうですが、別の方です。
  • 長谷川貞夫さん「発明のヒント」
    • 自動点訳と点字ワープロのヒントについて。紙テープのところ、理解するのに時間がかかったのですが、「点字データとしての紙テープ」なのですね。なるほど。
  • 長谷川貞夫さん「岡崎式紙テープデータタイプライター装置」
    • 点字データタイプライタ(点字データを紙テープとして打つタイプライタ)の話。
  • 長谷川貞夫さん「PC−Talkerを使うようになった訳」
    • AOK日本語点字ワープロの話。
  • 長谷川貞夫さん「視読協運動の大功績」
    • 公共図書館における対面朗読のはじまり。視読協は、日本盲大学生会・関西SL等に視覚障害の学生を中心になって作られた視覚障害者読書権保障協議会のことです。ちなみに視読協が作られる前に、その関係者である視覚障害の学生が1969年に図書館の蔵書の解放(図書館の蔵書を視覚障害者にも使えるように)の要望を東京都立と国立国会図書館に出し、1970年に東京都立日比谷図書館が対面朗読サービスと録音図書の製作を開始したのが、戦後の公共図書館における障害者サービス本格実施の嚆矢とされています(国立国会図書館は1975年に録音図書の製作を開始)。その都立における対面朗読サービスのはじまりについて。
  • 長谷川貞夫さん「新六点漢字日本語体系」

オーストラリアで障害者への情報提供に係る著作権法権利制限ガイド(図書館向け)とアクセシブル出版ガイド(出版社向け)が公開

 Australian Inclusive Publishing Initiative (AIPI)が2019年5月に、図書館向けのガイドと出版社向けの2つのガイドを公開しています。それぞれ、PDF版だけではなく、EPUB版、点字データ版、DAISY版、DOCX版で公開されています。AIPIは、2016年にインクルーシブな出版の実現にむけて立ち上げられたオーストラリアの団体で、出版社、図書館、著者、障害者当事者団体、政府、アクセシブルなコンテンツを提供する団体等の幅広いステークホルダーで構成されています。

図書館向け: 障害者に対する情報提供に関係する著作権法の権利制限規定ガイド

 図書館によるDAISY等の資料製作に関係するものとして、著作権法の権利制限を説明した以下のガイドを公開しています。

出版社向け: インクルーシブ出版ガイド

出版社向けにはインクルーシブな出版方法をまとめたガイドを公開しています。

米国の著作権法と図書館の障害者サービス- 第121条(Chafee Amendment)

 米国著作権法のうち、プリントディスアビリティのためのDAISYや点字製作等に関係する権利制限規定である第121条 (Chafee Amendment)を中心にまとめました。

1. 米国著作権法第121条(Chafee Amendent) とは

 1996年に米国の著作権法が改正されて視覚障害者障害者のための権利制限規定(日本の著作権法第37条に相当するもの)が設けられました。この改正は「チェーフィー改正 (Chafee Amendment)」と呼ばれています(第121条そのものをそう呼ばれているようでもあります)。2018年にマラケシュ条約の法整備として成立したS.2559 – Marrakesh Treaty Implementation Actによって、第121A条も追加されて、第121条と第121A条で構成されています。

 1996年のこの法改正がなされる前から 米国の著作権法にはフェアユースの規定<第107条>がありますが、フェアユースで図書館が複製できるのは1部のみが認められていた、という事情があったよで、National Library Service for the Blind and Physically Handicapped (NLS) (米国議会図書館の障害者サービス部門)も著作権者から許諾を得ての製作にならざるを得なかったようです。

視覚障害者のために無料で著作物のコピーや録音図書を1部作成することはフェア・ユースとして認められていたが、一般に配布するための多数のコピーを作成するには著作権者の許諾が必要であった(21)。NLSも許諾を得て図書を作成していた
第2章 デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制 | カレントアウェアネス・ポータル

 第121条が米国国内向け、第121A条がマラケシュ条約締約国向けの規定に整理されています。対象地域が異なる以外は規定ぶりははほぼ同じものですので、以下、第121条と第121A条をセットで紹介します。
 概要を先にまとめると以下のとおり。

米国著作権法第121条及び第121A条の概要
項目 第121条(米国内) 第121A条(マラケシュ条約締約国)
受益者(複製物を利用してよいのは誰か) プリントディスアビリティのある者
複製行為を行える者 非営利団体(内国歳入法の第501条第c項団体)及び政府機関 マラケシュ条約締約国のauthorized entity
複製の目的 プリントディスアビリティのある者の利用のため マラケシュ条約締約国のauthorized entity又はマラケシュ条約締約国のプリントディスアビリティのある者に提供するため
複製物として作成してよい形式 プリントディスアビリティのある者に利用可能な形式
複製の対象(複製していいもの) 公表された視覚著作物
複製物の受益者への提供方法 複製又は譲渡? ・マラケシュ条約締約国のauthorized entityと受益者に提供してよい。
・マラケシュ条約締約国のauthorized entityから輸入してよい。

なお、最新ではないのですが、2018年に改正される前のバージョンの米国著作権法の日本語訳が公開されています。

2. 受益者(複製物を利用してよいのは誰か)

 米国とマラケシュ条約締約国にいる以下の者、つまり、プリントディスアビリティのある者を、受益者として規定しています。ちなみにこの定義はマラケシュ条約第2条で規定される受益者の定義と使用される単語に多少に違いはありますが、内容は全く同じです。

  • (3) “eligible person” means an individual who, regardless of any other disability—
    • (A) is blind;
    • (B) has a visual impairment or perceptual or reading disability that cannot be improved to give visual function substantially equivalent to that of a person who has no such impairment or disability and so is unable to read printed works to substantially the same degree as a person without an impairment or disability; or
    • (C) is otherwise unable, through physical disability, to hold or manipulate a book or to focus or move the eyes to the extent that would be normally acceptable for reading; and

17 U.S. Code § 121 (d)(3)

3. 複製行為を行える者

3.1 米国内(第121条)

米国とマラケシュ条約締約国にいる以下の機関・団体が複製の主体として定義されています。

(2) “authorized entity” means a nonprofit organization or a governmental agency that has a primary mission to provide specialized services relating to training, education, or adaptive reading or information access needs of blind or other persons with disabilities;
17 U.S. Code § 121 (d)(2)

米国では、”nonprofit organization” は、米国の内国歳入法第501条第c項団体を指しています。Bookshareは、501(c)の(3)に該当します。501(c)団体となると、対象となる団体はかなり多そうですね。”governmental agency”も対象となる機関は多そうです(これがどの範囲の政府機関を指すのかは今野段かでわかりませんでした 汗)。

3.2 マラケシュ条約締約国(第121A条)

米国の内国歳入法が適用されない米国国外については、非営利団体又は政府機関という規定の他に第121条に以下のように規定しています。これは、マラケシュ条約第2条で定義されるところの「権限を与えられた機関」(authorized entity)の要件をほぼそのまま定義していますので、これでマラケシュ条約締約国で規定されるところの「権限を与えられた機関」(authorized entity)も複製の主体と規定されていることになります。

  • (a)(中略)
    • (1) an authorized entity located in a country that is a Party to the Marrakesh Treaty; or
  • (b) (中略)
  • (c) In conducting activities under subsection (a) or (b), an authorized entity shall establish and follow its own practices, in keeping with its particular circumstances, to—
    • (1) establish that the persons the authorized entity serves are eligible persons;
    • (2) limit to eligible persons and authorized entities the distribution of accessible format copies by the authorized entity;
    • (3) discourage the reproduction and distribution of unauthorized copies;
    • (4) maintain due care in, and records of, the handling of copies of works by the authorized entity, while respecting the privacy of eligible persons on an equal basis with others; and
    • (5) facilitate effective cross-border exchange of accessible format copies by making publicly available—
      • (A) the titles of works for which the authorized entity has accessible format copies or phonorecords and the specific accessible formats in which they are available; and
      • (B) information on the policies, practices, and authorized entity partners of the authorized entity for the cross-border exchange of accessible format copies.

17 U.S. Code § 121A (c)

4. 複製の目的

 
 複製の目的は、米国内を対象とする第121条と、マラケシュ条約締約国を対象とする第121A条でかき分けられていますので、項目を分けます。ただし、どちらも、「プリントディスアビリティのある者の利用のため」という趣旨は変わりません。

4.1 米国内(第121条)

  以下のとおり、「専ら受益者の利用のため」、つまり、プリントディスアビリティのある者の利用のためと複製の目的が規定されています。

exclusively for use by eligible persons.
17 U.S. Code § 121 (a)

4.2 マラケシュ条約締約国(第121A条)

米国外については、第121A条a項で以下のとおり規定されています。つまり、マラケシュ条約締約国の「権限を与えられた機関」(authorized entity)か受益者(つまり、プリントディスアビリティのある者)に提供する目的で国外に輸出する場合、ということですね。

  • (a) (中略) to export (中略) to another country when the exportation is made either to—
    • (1) an authorized entity located in a country that is a Party to the Marrakesh Treaty; or
    • (2) an eligible person in a country that is a Party to the Marrakesh Treaty,

if prior to the exportation of such copies or phonorecords, the authorized entity engaged in the exportation did not know or have reasonable grounds to know that the copies or phonorecords would be used other than by eligible persons.
17 U.S. Code § 121A (a)

5. 複製物として作成してよい形式

  以下のように規定されています。つまり、プリントディスアビリティのある者に利用可能な形式ということで、録音図書であるとか、点字とか、テキストデータという具体的な形式が規定されているわけでありません。”exclusively by the eligible person(専ら適格者が)”をどこまで厳格に読むかですね。

(1) “accessible format” means an alternative manner or form that gives an eligible person access to the work when the copy or phonorecord in the accessible format is used exclusively by the eligible person to permit him or her to have access as feasibly and comfortably as a person without such disability as described in paragraph (3);
(上の翻訳)
アクセシブルな形式とは、(3)に規定される障害がない者として容易にアクセスすることを可能とするため(補足 「プリントディスアビリティのある者が、そのような障害がないものと同等にアクセスできるようにするため」という趣旨)、専ら適格者がアクセシブルな形式の複製物又は音声を固定した録音物を利用する時に、適格者が著作物へのアクセスを可能とする代替的な方法又は様式をいう。
17 U.S. Code § 121 (d)(1)

ただし、b項(1)(A)で以下のような規定がなされています。

  • (1)Copies or phonorecords to which this section applies shall—
    • (A) not be reproduced or distributed in the United States in a format other than an accessible format exclusively for use by eligible persons;

(上の翻訳)

  • (1)本条が適用される複製物又は音声を固定した録音物は,次のとおりとする。
    • (A)専ら適格者によってのみ使用されるためのアクセシブルなフォーマット以外のフォーマットで米国で複製または譲渡してはならない;

これは厳格によめば、健常者も利用できるけど、受益者(プリントディスアビリティのある者)も利用できるという形式は排除されることになります。どういう解釈になるのでしょうか。受益者に限定して利用できるようなDRMを書けることを求めているのでしょうか。このあたりはよく分かりません。

6. 複製の対象(複製していいもの)

  以下の通り規定されています。端的にいえば、日本の著作権法第37条第3項と同じ「公表された視覚著作物」でしょうか。

a previously published literary work or of a previously published musical work that has been fixed in the form of text or notation
(上の翻訳)
すでに公表された言語著作物又はテキスト若しくは(特殊の文字・符号などによる)表記の形式で固定されることですでに公表された音楽作品
17 U.S. Code § 121 (a)

 音楽作品のあたりの記述が分かりづらいのですが、音楽作品そのものではなく、それを視覚的に落とし込んだもの、つまり、楽譜のようなものを指しているのだと思います(そう理解した)。

7. 複製物の受益者への提供方法

7.1 米国内(第121条)

 以下と規定されています。”distribute”(譲渡)にどのような提供手段が含まれるのか(例えば、公衆送信が含まれるのか)は第121条を見るだけでは分からないと思います。現時点では、詳細はよく分かりません(すいません)。NLSや、BookshareなどはDAISYなどのオンラインサービスを提供していますので、公衆送信も認められているはずですが。

reproduce or to distribute
(上の翻訳)
複製又は譲渡
17 U.S. Code § 121 (a)

なお、譲渡の際には以下の対応が求められています。著作権情報や原本を明記せよと言うことですね。

  • (1)Copies or phonorecords to which this section applies shall
    • (A) (中略)
    • (B) bear a notice that any further reproduction or distribution in a format other than an accessible format is an infringement; and
    • (C) include a copyright notice identifying the copyright owner and the date of the original publication.

(上の翻訳)

  • (1)本条が適用される複製物又は音声を固定した録音物は,次のとおりとする。
    • (A) (中略)
    • (B) 利用可能な形式以外の形式でのそれ以上の複製または譲渡は侵害であるという通知を出す;および
    • (C) 著作権所有者と元の出版物の日付を明記した著作権通知を含める。

7.2 マラケシュ条約締約国との輸出入(第121A条)

マラケシュ条約に係る国外の図書館からの輸出入については第121A条で以下のように規定しています。長いですが、先に端的に申せば以下になります。

  • マラケシュ条約締約国のauthorized entityや受益者に複製物を提供してもよい
  • マラケシュ条約締約国のauthorized entityから複製物を輸入してもよい
  • (a) Notwithstanding the provisions of sections 106 and 602, it is not an infringement of copyright for an authorized entity, acting pursuant to this section, to export copies or phonorecords of a previously published literary work or of a previously published musical work that has been fixed in the form of text or notation in accessible formats to another country when the exportation is made either to— (中略)
  • (b) Notwithstanding the provisions of sections 106 and 602, it is not an infringement of copyright for an authorized entity or an eligible person, or someone acting on behalf of an eligible person, acting pursuant to this section, to import copies or phonorecords of a previously published literary work or of a previously published musical work that has been fixed in the form of text or notation in accessible formats.

17 U.S. Code § 121A (a)と(b)

8. おまけ (障害者サービス関係の連邦規則集<CFR>)

詳細な説明は省略しますが、図書館の障害者サービスに関係するCode of Federal Regulations(CFR)。他にもあると思いますが、見つかった分だけ。

8.1 NLSの図書館間貸出

最初の法で触れたNational Library Service for the Blind and Physically Handicapped (NLS) (米国議会図書館の障害者サービス部門)が米国全土を対象に実施している障害者向け資料の貸出サービスを著作権法的に可能にしている連邦規則。

NLSのサービスについては以下を参照。

8.2 DRM解除

 以下は アクセスコントロール、つまり、DRMを回避する手段を禁止する規則です。

アクセスコントロール回避の禁止事項の除外対象としてプリントディスアビリティのある者がスクリーンリーダーやその他の支援技術を用いる場合と、本エントリで紹介した第121条の複製の主体が合法的に入手し、利用する場合が規定されています。

  • (3) Literary works, distributed electronically, that are protected by technological measures that either prevent the enabling of read-aloud functionality or interfere with screen readers or other applications or assistive technologies:
    • (i) When a copy of such a work is lawfully obtained by a blind or other person with a disability, as such a person is defined in 17 U.S.C. 121; provided, however, that the rights owner is remunerated, as appropriate, for the price of the mainstream copy of the work as made available to the general public through customary channels; or
    • (ii) When such work is a nondramatic literary work, lawfully obtained and used by an authorized entity pursuant to 17 U.S.C. 121.