図書館の障害者サービスと点字図書館関係年表(1825年から2016年まで)(表形式)

 施設としての障害者への情報提供の歴史について、年表形式でまとめてみました。
※2016/8/18 追記
同じ内容のものをでテキスト版としても作成してあります。読み上げ等で利用したい場合はこちらのほうがよいかもしれません。
テキスト版

年表

 年表中のリンクは、該当する機関や団体のホームページへのリンクだったり、関連する参考資料へのリンクです。

図書館の障害者サービスと点字図書館関係年表(1825年から2016年まで)
図書館関係 点字図書館関係 著作権法 その他
1825年 ・ルイ・ブライユがアルファベットの6点式点字を開発
1854年 ・ブライユ式点字がフランスで正式に採用
1880年
(明治13年)
・キリスト教宣教師ヘンリー・フォールズ、築地病院に「盲人図書室」を設置(日本における施設としての障害者への情報提供の最初の事例?)
1890年
(明治23年)
・石川倉次が日本語の6点式点字を考案、同年に東京盲唖学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)で採用
1901年
(明治34年)
石川倉次の考案した点字が官報に「日本訓盲点字」として公示(4月)
1916年
(大正5年)
・東京盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の学生である加藤梅吉が自身が所蔵する点字図書200冊を東京市立本郷図書館に寄託。それを受けて、東京市立本郷図書館は点字文庫開設(公共図書館による障害者への情報提供の嚆矢)
1922年
(大正11年)
・ 岩橋武夫、大阪の自宅で点字出版を開始(日本ライトハウスの創業) ・大阪毎日新聞社(現・毎日新聞社)が「点字大阪毎日」(現・点字毎日)創刊
1931年
(昭和6年)
・米国でプラット・スムート法成立。これを受けて米国議会図書館は、障害者サービス部門である視覚障害者および身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped : NLS)設置し、成人の視覚障害者を対象とした全国的な貸出しサービスが開始。
・IFLAでSub-committee on Hospital Libraries(病院図書館小委員会)が設置される(後のIFLA/LSN。)
1932年
(昭和7年)
・岩橋武夫、自宅にて点字図書貸出事業を開始
1933年
(昭和8年)
・第27回全国図書館大会で「点字図書及盲人閲覧者の取扱」というテーマで障害者への情報提供が取り上げられる。
1934年
(昭和9年)
米国でLPレコードのトーキングブック(録音図書)が発明される
1936年
(昭和11年)
東京盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の卒業生が帝国図書館に点字図書144冊を寄贈(10月)
『帝国図書館報』第29冊第12号に点字図書の書誌が掲載される
・日本ライトハウス、世界で13番目のライトハウとして公認される(4月)
1937年
(昭和12年)
・ヘレン・ケラー、来日
1940年
(昭和15年)
・本間一夫、日本盲人図書館(後の日本点字図書館)を創立(11月)
1948年
(昭和23年)
・日本盲人図書館、「日本点字図書館」と名を改める(4月) ・ヘレン・ケラー、2度目の来日
日本盲人会連合(日盲連)発足(8月)
1949年
(昭和24年)
身体障害者福祉法公布。更正養護施設として点字図書館を規定。公共図書館にあった多くの点字文庫が点字図書館として切り離される契機に。
1950年
(昭和25年)
・図書館法公布
1953年
(昭和28年)
日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)発足(9月)
1955年
(昭和30年)
・日本点字図書館、厚生省委託点字図書製作・貸出事業開始(1月) ・ヘレン・ケラー、3度目の来日
1957年
(昭和32年)
・国際基督教奉仕団(現・日本キリスト教奉仕団)テープライブラリ発足(2月)
・厚生省が点字図書館設置基準暫定案を作成(3月)
1958年
(昭和33年)
・日本点字図書館が録音図書の製作を開始し、「声のライブラリー」を設置
1959年
(昭和34年)
・日本ライトハウス、「声の図書館」(テープライブラリー)を開設。
1961年
(昭和36年)
・日本点字図書館・日本ライトハウス、厚生省委託声の図書製作・貸し出し事業開始。
・日本点字図書館、「声のライブラリー」を「テープライブラリー」と改称(4月)
・郵便法改正(盲人用郵便が無料化)
1963年
(昭和38年)
・日本ライトハウス、厚生省委託点字図書製作・貸出事業開始
1967年
(昭和42年)
・京都で視覚障害学生と点訳サークル学生を中心に関西SL(Student Library)発足(4月)
1969年
(昭和44年)
国立国会図書館と東京都立日比谷図書館に対して、日本盲大学生会・関西SL等が図書館蔵書の開放運動を行う。
1970年
(昭和45年)
・東京都立日比谷図書館、視覚障害者サービスを開始(4月) ・旧著作権法を全部改正した著作権法(①)公布。37条(点字による複製等)等を新たに規定(5月) ・日本盲大学生会・関西SL等が視覚障害者読書権保障協議会(視読協)結成(6月)
1971年
(昭和46)
・視読協、全国図書館大会で「図書館協会会員に訴える-視覚障害者の読書環境整備を」と訴える。大会で初めて「障害者サービスの推進」が決議される(10月) ・著作権法(①)施行(4月)
1972年
(昭和47年)
・京阪神点字図書館連絡協議会発足(参加4館) (6月)
1973年
(昭和48年)
ふきのとう文庫開設(11月)
1974年
(昭和49年)
・京阪神点字図書館連絡協議会から近畿点字図書館研究協議会が発足(近点協)に(参加12館、うち公共図書館2館)(11月)
・大阪府立夕陽丘図書館開館、対面朗読サービスや郵送貸出を開始(5月)
・全国図書館大会で初めて障害者サービスの分科会「身体障害者への図書館サービス」が設置される(11月)
1975年
(昭和50年)
・公共図書館の録音サービスが日本文芸著作権保護同盟から、著作権侵害と指摘する新聞記事報道(『愛のテープは違法の波紋』報道)(公共図書館における録音図書の製作が著作権者の許諾を取らなければ行えないということが明確に)(1月)
・国立国会図書館、学術文献録音サービス開始(10月)
1977年
(昭和52年)
・第1回点字図書館館長会議(東京)開催
1978年
(昭和53年)
・日本図書館協会(JLA)、障害者サービス委員会設置(最初から関東小委員会と関西小委員会があった)(4月)
1979年
(昭和54年)
・IFLA/RTLB(盲人図書館会議)発足
1981年
(昭和56年)
・国立国会図書館、「点字図書・録音図書全国総合目録」の編纂開始 ・全国点字図書館協議会、発足(4月)
・全国点字図書館長会議、「点字・録音・拡大資料の相互貸借に関する申し合せ」決議(11月)
・国際障害者年
視覚障害児のためのわんぱく文庫開設
1982年
(昭和57年)
国立国会図書館、「点字図書・録音図書全国総合目録」(冊子体)を刊行開始(3月)
1984年
(昭和59年)
・岩田文庫(てんやく絵本ふれあい文庫の前身)開設
1986年
(昭和61年)
・国立国会図書館、「点字図書・録音図書全国総合目録データベース(AB01)」提供開始。国会、行政・司法の各支部図書館、都道府県立・政令指定都市立図書館のほか、一部の点字図書館にオンラインで提供を開始。
・IFLA、東京で世界大会開催(8月)
・近点協、「製作資料の着手情報システム(NLB)」を開始(3月) 東京で開かれたIFLA(国際図書館連盟)の大会での専門家会議で視覚障害者のためのデジタル録音図書の標準化が国際的に議論
1987年
(昭和62年)
・点訳絵本/点訳入りFDの郵送料が無料になる(8月)
1988年
(昭和63年)
・日本IBMが点訳オンラインサービス「 IBMてんやく広場」開始 ・スウェーデン国立点字録音図書館(TPB)がデジタル図書開発を計画
1989年
(平成元年)
公共図書館で働く視覚障害職員の回(なごや会)、発足(9月)
1990年
(平成2年)
身体障害者福祉法改正。第34条で規定される「点字図書館」が「視聴覚障害者情報提供施設」に変更(6月) ・スウェーデンのラビリテンテン社、DAISYの開発に着手
・米国でADA法案可決(5月)
1991年
(平成3年)
・IFLA視覚障害者セミナーを東京(東京大学安田講堂、国立国会図書館東京本館新館講堂など)で開催(1月)
1993年(平成5年) ・運営を日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)点字図書館部会 特別委員会が引き継ぎ、「IBMてんやく広場」から「てんやく広場」に改名 ・障害者基本法公布
1994年(平成6年) ・日本点字図書館、厚生省委託事業として、「点字図書情報サービス事業」(点字図書・録音図書目録の一括化)を開始(1月)。
・てんやく広場、国立国会図書館点字図書・録音図書総合目録(AB01)のデータを借り受けてテスト稼働(11月)
・第19回全国点字図書館大会(この年から「全国点字図書館長会議」が「全国点字図書館大会」に)
・『障害者白書』が刊行される(12月)
1995年
(平成7年)
・国立国会図書館、「NDL CD-ROM Line点字図書・録音図書全国総合目録」頒布開始 ・てんやく広場、1994年の点字図書・録音図書全国総合目録データのテスト稼働をもとにオンラインリクエストの試行を開始(2月)
・日本点字図書館と東京都公共図書館の蔵書目録を搭載した「NIT(ニット)」に国立国会図書館の点字図書・録音図書全国総合目録のデータを搭載し、ニットプラスと改称(6月)
・シナノケンシがデジタル録音図書の試作一号機を開発
1996年
(平成8年)
・新しくオープンした大阪府立中央図書館が児童室の場所を「視覚障害児のためのわんぱく文庫」に提供 ・日本点字図書館、厚生省委託点字図書近代化事業を受け、点字資料のデジタル化を開始(5年間)(4月)
・全国点字図書館協議会、全国視覚障害者情報提供施設協議会に名称変更(11月)
・日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)、点字図書館部会の名称を「情報サービス部会」に変更
・DAISY Consortium設立
1997年
(平成9年)
・国立国会図書館、「全国の点字図書・録音図書製作速報」をHPに掲載開始 ・第23回全国視覚障害者情報提供施設大会開催(帯広)(全国点字図書館大会から変更)
・近畿点字図書館研究協議会、名称を「近畿視覚障害者情報サービス研究協議会(近畿視情協)」とする
・DAISY Consortium、DAISY 2.0の仕様を公開
・IFLA盲人図書館会議で DAISYがデジタル録音図書の標準規格になることが決定(8月)
1998年
(平成10年)
・国立国会図書館の「点字図書・録音図書全国総合目録」の冊子体が34号(1997年2号)で終刊 ・「てんやく広場」を全視情協に移管(7月)
・「ないーぶネット」に名称を変更(9月)
・視覚障害者読書権保障協議会、解散
・シナノケンシ、日本初のDAISY再生機プレクストークTK300発売(4月)
厚生省(現在の厚生労働省)の平成10年度~12年度(1998-2000年)補正予算事業。これによりDAISYの全国的な点字図書館への導入が実現
1999年
(平成11年)
・全国視覚障害者情報提供施設協議会、全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)に名称変更(6月)
・日本点字図書館と全視情協と協議の結果、類似した2つのサービスである日本点字図書館の「ニットプラス」と全視情協の「ないーぶネット」を一本化し、「点字図書情報ネットワーク整備事業」として、両者の協力のもとに全視情協が運営する「ないーぶネット」の構築を行うことで合意(12月)
・日本ライトハウス、DAISY図書製作・貸出開始
・日本点字図書館、DAISY図書(デジタル録音図書)の貸出開始
2000年
(平成12年)
著作権法改正(②)。点字の公衆送信が可能になり、著作権法第37条の2(聴覚障害者のための自動公衆送信)が新たに規定される(5月)
2001年
(平成13年)
・文部科学省、公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準に障害者サービスをはじめて明記 ・インターネット版ないーぶネット(総合ないーぶネット)本格運用を開始。Web上からの貸出申し込みが可能に(4月) ・著作権法(②)が施行(1月) ・シナノケンシが、DAISYのインターネット配信実証実験
・DAISY Consortium、DAISY 2.02の仕様を承認(2月)
・DAISY Consortium、DAISYの正式名称を”Digital Audio-based Information SYstem”から”Digital Accessible Information SYstem”に変更(12月)
2002年
(平成14年)
・DAISY Consortium、DAISY 3(ANSI/NISO Z39.86 2002)を承認(3月)
・米国の非営利の社会的企業Benetech社、Bookshareを立ち上げる。
2003年
(平成15年)
・「図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議」開始(1月)
・国立国会図書館、点字図書・録音図書全国総合目録をNDL-OPACにおいてインターネット公開(1月)
・大阪府立中央図書館、録音図書ネットワーク配信事業開始(4月)
・郵政公社発足。盲人用郵便物の表示が「盲人用」から「点字用郵便物」に変更(4月)
2004年
(平成16年)
・日本図書館協会と日本文芸家協会の間で視覚障害者のための録音図書作成についての許諾契約(公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書)を締結。「障害者用音訳資料利用ガイドライン」発表(4月)
・関係団体で「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」(リンク先はPDFファイル)設置(5月)
日本文藝家協会と交わした「公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」に基づく障害者用音訳資料作成の一括許諾開始(8月)
・DAISY配信サービス「びぶりおネット」が日本点字図書館と日本ライトハウス盲人情報文化センターにより開始(4月) ・DAISY再生機器が「日常生活用具給付制度」の給付対象に(4月)
・障害者基本法改正(6月)
2005年
(平成17年)
・録音図書ネットワーク製作事業「びぶりお工房」本格運用開始(4月)
・「びぶりおネット」に点字データ配信サービスを追加(10月)
2006年
(平成18年)
著作権法(③)改正。これにより点字図書館は、視覚障害者向けの録音データの公衆送信可能になる(12月) ・障害者権利条約採択(6月)
2007年
(平成19年)
・著作権法③施行(7月)
2008年
(平成20年)
平成19年度障害者保健福祉推進事業「視覚障害者に対する新たな情報提供システムに関する研究」報告書公開(3月) ・教科書バリアフリー法施行(9月)
2009年
(平成21年)
・「公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」に基づく障害者用音訳資料作成の一括許諾終了(12月) ・びぶりおネット個人ユーザーへのダウンロードサービス開始(2月)
・平成21年補正事業で、厚生労働省の委託事業として、日本点字図書館が「視覚障害者情報提供ネットワークシステム整備事業」を受託。「ないーぶネット」と「びぶりおネット」を統合した「視覚障害者情報提供ネットワーク(サピエ)」を構築(11月)
著作権法(④)改正。視覚障害者「等」のために録音図書に限定されず、必要な方式で製作できることに、また、点字図書館だけではなく、図書館等も複製の主体になる。また、第三十七条の二が全部改正され、(聴覚障害者等のための複製等)に(6月)
2010年
(平成22年)
「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」策定(2月) 視覚障害者情報総合システム「サピエ」運用開始(4月) ・著作権法(④)施行(1月) ・特定非営利活動法人大活字文化普及協会が専門委員会としての読書権保障協議会設置(12月)
2011年
(平成23年)
・国立国会図書館、国立国会図書館サーチで障害者向け資料検索機能の追加(9月) ・障害者基本法改正(8月)
・IDPF、EPUB 3の仕様を勧告(10月)
2012年
(平成24年)
DAISY Consortium、DAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)承認(7月)
2013年
(平成25年)
・盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)のある人々の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約採択(6月)
・障害者差別解消法成立(6月)
2014年
(平成26年)
国立国会図書館、「視覚障害者等用データの収集及び送信サービス」開始(1月)
・国立国会図書館の「視覚障害者等用データ送信サービス」と「サピエ図書館」のシステム連携。「視覚障害者等用データ送信サービス」のコンテンツが「サピエ図書館」から利用可能に。(6月3日)
・日本、障害者権利条約の批准書を寄託(1月。2月に効力が発生)
2015年
(平成27年)
2016年
(平成28年)
・障害者差別解消法施行(4月)

主な参考文献

 

図書館関係

点字図書館関係

DAISY

Bookshare -プリントディスアビリティのある人を対象とした世界最大の電子図書館 –

 Bookshareは、視覚障害その他の理由で通常の印刷物を読むことができないプリントディスアビリティのある人にアクセシブルなコンテンツを提供するオンライン図書館です。非営利の社会的企業Benetech社が2002年に立ち上げたもので、プリントディスアビリティのある人を対象としたオンライン図書館としては世界最大のものです。

誰が利用できるのか

 米国の著作権法の権利制限規定またはそれにならって権利者から得た許諾に基づいてコンテンツを製作・収集・提供しているため、利用できるのは、プリントディスアビリティとしてBookshareに会員登録した人に限定されます。具体的には、視覚障害、肢体不自由などの理由でページをめくれない等の身体障害、読書に困難のある学習障害のある障害者で、専門家によってそれを証明してもらう必要があります。

 会費は個人会員であれば、基本的に入会費25ドル年会費50ドルですが、ユーザーの身分によって無料になったり、ユーザーがいる国によってディスカウントされることもあります。
 プリントディスアビリティがあることの証明のところで、ハードルが高くなりますが、海外の人間でもプリントディスアビリティがあることが証明可能であれば、登録することが可能です。

参考

利用できるコンテンツ

 Bookshareは2015年7月24日現在で約35万点のアクセシブルなコンテンツを提供しています。
 ダウンロードして利用できるコンテンツの形式は以下のとおりで、ソースとなるテキストデータから自動的にユーザーが選択したいずれかの形式に変換されてダウンロードできるようになっているようです。

  • テキストDAISY(DAISY3)
  • 音声DAISY(DAISY3。合成音声によって読み上げた音声データを格納したDAISY)
  • 音声データ(MP3形式。合成音声によって読み上げた音声データ)
  • 点字データ(BRF形式)

 35万点のコンテンツのソースは以下の通りです。Bookshareといえば、米国の著作権法の権利制限規定に基づいてボランティアが紙の印刷物をスキャニング・OCR処理して作成したものが有名ですが、現在では、全体から見れば一部にすぎず、出版社から直接提供を受けるデータの方が数としては多くなっています。

ボランティアによる製作

ユーザーからの製作のリクエストを受けて、ボランティアが製作したテキストデータで、米国の著作権法の制限規定に基づいて製作しています。音楽共有サービスNapsterにヒントを得て、図書をスキャニングしたデータを合法的に共有できたらよいのではないかというところからフルックターマンは、Bookshareを着想したと言われているそうで、Bookshareが2002年に立ち上がった当初から現在に至るまで行われています。
 製作フローは1人のボランティアが紙の書籍をスキャニング・OCR処理を行い、別のボランティアがそれをテキスト校正するという製作フローになっており、リクエストを受けてから数週間から数ヶ月で完成するそうです。

参考

出版社から提供を受けたデータ

 出版社からもデータの提供を受けています。現在は、500以上の出版社からデータの提供を受けており、Bookshareが提供する35万点のうち、2/3は出版社からデータの提供を受けたコンテンツではないかと思います。
 出版社から提供を受けているフォーマットはEPUB 2とEPUB3で、PDFは現在、受け付けていません。メタデータは、ONIX2かExcelによって提供を受けているとのこと。

参考

著者から提供を受けたデータ

著者からのデータ提供も受け付けています。これまで数百の著者から直接データの提供を受けたそうです。受け付けるファイル形式はEPUB 2、EPUB 3、Word及びRTFで、紙版の書籍とPDF版による提供は受け付けていないとのこと。

参考

初等・中等教育の教科書

 Bookshareの存在を際だたせているもう1つのコンテンツがこの初等・中等教育の教科書データの提供です。
 米国では、個別障害者教育法(IDEA 2004)により、教科書の購入者である州や地方教育局の求めに応じて教科書出版社は教科書などの教材のデータをNIMAS(National Instructional Materials Accessibility Standard)というフォーマットで提出することが義務づけられています。Bookshareは、このNIMASファイルを元にテキストDAISYを作成して障害児に提供しています。米国教育省のOSEP(Office of Special Education Programs)から資金援助をうけて、無償で提供しています。
 また、Bookshareは紙の教科書を裁断して、スキャニングしてテキストDAISY化もしています。
 詳細は、参考に挙げた近藤武夫先生の論文に詳しいので、そちらをご参照ください。

参考

大学からアップロードされたデータ(University Partner Program)

 読書障害のある大学生支援を目的に、各大学が障害学生のためにスキャニングして製作した教科書などのテキストデータを収集しています。2015年7月24日現在で35校の大学がこのプログラムに参加しています。各大学は、Bookshareのボランティアマニュアルにしたがって教材をスキャニング・OCR処理をしてテキストデータを製作し、RTF形式でアップロードします。ただし、ボランティアが製作したものと異なり、大学がアップロードしたものの場合は、テキスト校正のフローが省略され、すぐに提供に回すことができます。

参考

NFB-NEWSLINEの雑誌・新聞

 National Federation of the Blind(NFB)の新聞・雑誌の音声提供サービスNFB-NEWSLINEと提携してNFB-NEWSLINEのコンテンツを利用できるようになっています。

参考

コンテンツの利用方法

 Bookshareはウェブサイトから直接閲覧することができるブラウザベースの閲覧システムBookshare Web Readerを提供しているほか、

Bookshareのウェブサイトで一覧されているように、デスクトップPC上のアプリケーションや、タブレット端末・スマートフォン端末用のアプリケーションやハードウェアデバイス(再生機器)で利用することが可能です。中にはBookshareのウェブサイトを訪問してコンテンツをダウンロードしなくても、ソフトウェア、デバイス上でBookshareのコンテンツを直接ダウンロードできるものもあります。

参考

Bookshareを運営するBenetchとは

 Benetechはテクノロジーの力で世界をより良くしていこうと、人権、リテラシー、環境をテーマに取り組んでいる非営利の社会的企業です。ジム・フルックターマン(Jim Fruchterman)氏が立ち上げたもので、前身となるArkenstone社のプロダクトラインを2000年に他の企業に売却し、社の名前をBenetechに、組織形態を非営利の社会的企業に改めて生まれた企業です。なお、Arkenstone社は、視覚障害者向けのOCRソフトウェアを開発していた企業で、それを用いた音声読書システム(スキャナとOCRソフトウェアで紙の資料をテキスト化し、合成音声で読み上げるシステム)が1990年代に60カ国で3万5千台販売されたそうです。
 Bookshareは、Benetechが進めるGlobal Literacy Programの1つで、同プログラムの下には、他にアクセシビリティに関する標準化やツールの研究・開発を行うDIAGRAM Centerや、大人の読み書き能力の向上を目的としたリテラシー教育プロジェクトRoute 66 Literacyがあります。

参考

関連エントリ

BookshareのDAISY化のためボランティアによるの紙の書籍のテキストデータ化・テキスト校正作業の流れ

 Bookshareは、米国の著作権法の権利制限規定に基づき、ボランティアによる紙の書籍のテキスト化(DAISY化)を行っています。ユーザーがテキストDAISY製作のリクエストをしてから、ボランティアが製作にとりかかり、提供に至るまでのフローの一部がボランティアマニュアルとしてBookshareのサイトに公開されています。

流れは以下の通りです。2のスキャニング・OCRと、3のテキスト校正は、クオリティコントロールのために、同一のボランティアが行わないようになっているそうです。ユーザーからリクエストを受けて提供するまでにかかる期間は、資料にもよりますが、数週間から数ヶ月とのこと。

  1. ユーザーからのリクエスト
  2. スキャニング・ OCR
  3. テキスト校正
  4. Bookshare管理者による承認・(DAISY化)・提供
  5. ユーザーからの指摘による修正
  6. 画像の説明文の追加

この作業に携わる者

 上では、「ボランティアによって」という表現を用いましたが、正確には製作には以下の3者がこの作業に関わっています。

  • 米国内のボランティア
  • Bookshareのスタッフ
  • 障害者(多くは聴覚障害者)を雇用している海外(インド、ラオス、ケニアなど)のパートナーへのアウトソーシング(雇用によって障害者のITスキルを向上させ、さらなる雇用につなげることを目的にしている)

 ボランティアを米国内に限定しているのは、おそらく著作権法上の制約なのだと思いますが、そうであるなら、海外にアウトソーシングしているのは、どういう法理なのかというところがよくわかりませんでした。

作業の流れ

1 ユーザーからのリクエスト

 Bookshareの登録利用者が本のテキスト化(DAISY化)をフォームからリクエストします。

 製作のリクエストを受け、ボランティアが製作に取りかかるのを待っているタイトルが以下で公開されています。

参考

2 スキャニング・OCR

2.1 スキャニングするタイトル選択

 ボランティアはWish Listからスキャニングするタイトルを選択します。選定時の注意事項は以下。

  • すでにBookshareにないコンテンツであること
  • タイトルページがあること
  • 著作権情報が掲載されているか、パブリックドメイン/CCライセンス
  • 35ページ以上の書籍の場合は、ページ数が記載されていること
  • New York Times Best Sellersと主な雑誌は定期的に製作されているので、対象から外す
  • 以下の製作は受け付けないこと
    • 電子書籍として出ているもの(過去に印刷版として刊行またはスキャニングされたことがあったとしても)
    • 共通テスト(standardized tests)
    • 教科書の教師版
    • 著作権保護期間中の脚本
参考

2.2 スキャニング・OCR

 ボランティアが自身で保有しているスキャナーとOCRソフトウェアで紙の資料をスキャニングし、OCR処理を行います。

  • スキャナの設定
    • ページの区切り(ページブレイク)は残す。
    • 原資料記載のページ番号を入れる(ヘッダーやフッター機能は用いない)
    • 画像を取り除く(自動的に行えなければ、ボランティアが手動で行う)、代わりに取り除いた画像の説明を追加してもよい。
    • リッチテキスト形式((RTF)で保存する。
  • タイトルページ、著作権情報が記載されているページ、空白のページを含めて全てのページをスキャンする。

 原本では、ボールド、イタリック体等になっていないのに、OCRをかけて製作したRTFファイルはそうなっていないか、1語が2語に分割されていないか等の確認を行い、問題なければ、次のステップのアップロードになります。
 

参考

2.3 アップロード

 BookshareのボランティアアカウントでVolunteer Homeにログインして2.2で作成したRTF形式のデータをアップロードします。ファイルは複数のファイルに分割せずに1ファイルでアップロードします

参考

2.4 メタデータの記入

 アップロード終了後にメタデータを記入する画面が表示されるので、その場面でメタデータを記入します。記入するメタデータは以下の通り(ISBNを記入することで自動的に記入される項目あり)。

  • 品質分析(アップロード時にエラーの数に基づいた判定結果によって自動記入されるフラグ)
  • ISBN
  • タイトル(タイトルページのタイトルに一致するタイトル)
  • 著者
  • 著作権者(原本の著作権情報ページの情報と一定している必要がある)
  • 著作権が発生した日(原本の著作権情報ページの情報と一定している必要がある)
  • 出版者(原本の著作権情報ページの情報と一定している必要がある)
  • 短い概要または長い概要
  • 著作権上の理由による利用にあたっての地理的な制約
  • カテゴリ
  • アダルトコンテンツ情報(18歳未満のユーザー及び公共図書館では利用させないために、セクシャルコンテンツにはそれを示すフラグをたてる)
参考

 アップロードが完了すると、Checkout Listと呼ばれるリストにタイトルが掲載され、テキスト校正を行うボランティアが作業できるようになります。

3 テキスト校正(proofreading)

3.1 タイトルの選定/テキスト校正の期限

 テキスト校正は、クオィリティコントロールのためスキャニングを行ったボランティアと別のボランティアが担当します。1タイトルにつき、1人のボランティアが責任もって担当する仕組みになっています。1人のボランティアが多くのタイトルを抱え、提供期間がおそくなることがないように、一度に引き受けることができる条件は5タイトルまで、校正のしめきりはタイトル選定後2週間以内(1度は延長可)となっています。
テキスト校正を行うボランティアは、Checkout Listからテキスト校正を行うタイトルを選定し、Bookshareの管理者の承認をうけて、2で作成されたRTFファイルをダウンロードします。

参考

3.2 テキスト校正

 ダウロードしたRTFファイルをWORDなどの編集ソフトで校正・編集します。
主なチェック項目。

 
 上で触れたように、フォントサイズが以下のようにきちんとサイズまで規定されています。 RTFファイルからDAISYに変換する際の構造化(見出しレベルのレベル1、レベル2、レベル3の設定や目次の作成など)に使用されるのでしょうか。
タイトル: 20 point and bold
部: 18 point and bold
章: 16 point and bold
節、小節: 14 point and bold
本文: 12 point (not bold) 

参考

3.3 アップロード

校正が完了したら、Volunteer Homeにログインした後にアップロードします。このタイミングで、2.4で記入されたメタデータに誤りがないかを再度確認します。

参考

4 Bookshare管理者による承認・(DAISY化)・提供

 3までの行程を経たコンテンツをBookshareの管理者が承認して、ユーザーに提供します。3までで製作されたテキストデータ(RTFファイル)のDAISY化については、ドキュメントが見つからないので、どのようにやっているかは不明ですが、1点1点手動でやっているようには見えないので、おそらく自動的にDAISYに変換するプログラムが組まれていると思われます。

5 ユーザーからの指摘

 提供に至ったコンテンツの中にはできのよくないものも存在します。そういうコンテンツに対してユーザーからの指摘を受けつけ、問題があるものは、再スキャンなどの処理に回されます。品質に問題があり、再スキャンというの作成の対象に挙がっているタイトルが以下で公開されています。

画像の説明文の追加

図のような画像データで表現する必要があるものは、スキャニングの段階で取り除かれてしまいます。図の説明はスキャニング・OCR時に可能なら入れてというスタンスで、ボランティアに委ねています。ボランティアが追加する場合は、以下のマニュアルに従って記述します。

 上のような運用であるため、Bookshareには図の説明がないコンテンツが大量に存在することになるのですが、これに対しては、Bookshare運営元の Benetechが立ち上げたDIAGRAM CenterPOETという、 DAISYやEPUBの画像にテキストの説明を挿入するためのオンラインツールを開発し、Booksahreがこれを用いた Image Description Projectを2012年から進めています。

参考

テキストデータの品質

テキストデータの品質は、メタデータの”Book Quality”という項目で確認することができます。以下の4つのランクで評価されています。Publisher Qualityが出版社から提供を受けたテキストデータで、Excellent、Good、Fairがボランティアが製作したコンテンツです。

  • Publisher Quality
  • Excellent(1ページに平均1つ以下のエラー)
  • Good(1ページに平均2つ以下のエラー)
  • Fair

その他

 以下は、いろいろ調べてみたのですが、よくわかりませんでした。情報求ム。

  • スキャニングする原本はボランティアが用意するのか、Bookshareが用意するのか。前者であれば、学術書などであれば、ボランティア側に相当な費用負担が発生するはずであるが、どう解決しているのか。
  • マニュアルを見る限り、スキャニング→OCRで作成したテキストデータ(RTF形式)のみをアップロードし、スキャニング画像はアップロードされていないようであるが、どうやってテキスト校正を行うのか。

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