大学図書館の「障害者サービス」について思うこと

 大学図書館では、障害者サービスがあまり積極的に取り組まれてないという話をたまに耳にします。大学図書館関係者自身からも「あまりきちんとやれてない」ということを言われることがあります。しかし、そういう話を聞く都度、「本当にそうなのかなぁ?そういう捉え方でよいのかなぁ?」と疑問に感じるところがあります。障害のある学生が大学におり、学生も大学生活を送る上で図書館を利用することは不可欠ですので、全くやれていないということはないのではないかと。あくまでわずかなデータとわずかな見聞を元に推測を重ねたものにすぎませんが、少し自身のもやもやをまとめてみたいと思います。最後にも述べましたが、大学図書館関係者に意見を聞きたい。
 

図書館の障害者サービスとは

そもそも前提として図書館の障害者サービスとは、という話です。障害者サービスは、「図書館利用に障害のある人々へのサービス」と呼ばれ、

全ての人に全ての図書館資料とサービスを提供する

という図書館の根幹ともいえる役割の「全ての人に」部分を担保する基幹サービスとされています。対象は図書館利用に障害がある人ですので、必ずしも「障害者」に限定されません。しかし、見方を変えると、そのサービスの範囲は、「図書館利用」の範囲に完結しているともいえます。
 
 また、上の意味での「障害者サービス」は、歴史的に公共図書館から端を発していると言えると思いますが、以下のエントリでもわかるように、公共図書館における障害者サービスは、対面朗読や録音図書、点字資料の製作など歴史的に視覚障害者に対するサービスから始まっています。これらのサービスも現在は、多くの図書館で視覚障害者だけではなく、読書に困難な者に対象を拡大していますが、図書館の障害者サービスにおいて、視覚障害者へのサービスから端を発したこれらのサービスの重要性は変わっていません。印刷物などの通常の図書館資料をそのままの形態では利用できない利用者に対して、代替となる資料を提供したり、製作したり、対面朗読などの代替手段を提供するというのが中心ではないかと思います。

  

「障害学生支援」というコンテキスト

 大学には、障害のある学生に対して大学全体として取り組むべき修学支援(以下「障害学生支援」)というコンテキストがあります。その支援対象範は、ここでは「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」を引用しますが、以下の通り、障害学生支援の対象範囲は、学生生活全般が対象と非常に幅広く、大学図書館の利用は、この中のほんの一部であることがわかります。

(検討対象とする学生の活動の範囲)
入学,学級編成,転学,除籍,復学,卒業に加え,授業,課外授業,学校行事,課外活動(サークル活動等を含む)への参加,就職活動等,教育に関する全ての事項
上記とは直接に関係しない学生の活動や生活面への配慮(通学,学内介助(食事,トイレ等),寮生活等)に関する事項
障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)について

 障害学生支援の場合は、障害学生支援室のような学生支援部局が中心になって、大学全体で取り組まれています(学生支援部局が孤軍奮闘している大学も多いですが)。障害学生に対する支援が積極的な大学ほど、その学生支援部局の体制も整備されていますが、「大学全体」には、当然、大学図書館も含まれており、図書館利用の範囲を超える上の範囲について、大学の一部局として支援を担うことも求められています。障害学生支援のコンテキストで、学生支援部局が上のような広い範囲の支援を主体的に担う中で、大学図書館単体だけで「支援」や「サービス」をきれいに切り出すことがなかなか難しいかもしれません。

 大学図書館における「障害学生支援」は、公共図書館における図書館の障害者サービスと重なるところは多々あると思いますが、重ならない部分も多くあると思います。例えば、「図書館利用」の範疇を超える部分についてです。図書館利用に直接関係しないけど、学生の活動や生活面への配慮が必要な場面では大学図書館職員が対応をする場面もあるのではないかという気も。例えば、図書館利用とは関係のなく、図書館のトイレを利用したい学生のための介助とか、あるいは、キャンパス内の建物の移動支援とか。

 障害者サービスのコンテキストで聞くと出てこない事例も、もしかすると障害学生支援の文脈で聞くと事例が出てくるかもしれません。だから、大学図書館は「障害者サービス」というよりは、「障害学生支援」というコンテキストで見ないといけないのではないかと。
 

大学に在学する障害学生の状況

 日本学生支援機構が毎年、全国の大学を対象に障害学生支援に関する質問紙調査「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」を実施しており、それによって全国の大学の障害のある学生の状況がわかります。現在、調査結果が公開されている最新の平成28年度(2016年度)の調査結果では、2016年5月1日現在で全国の大学に障害のある学生が27,257人が在学していることが分かります。障害種別の内訳は以下の図のとおり。

円グラフ。全障害学生数27257人。内訳は次のとおり。視覚障害 790人 2.9%、聴覚・言語障害 1917人 7.0%、肢体不自由 2659人 9.8%、病弱・虚弱 9387人 22.3%、発達障害(診断書有)4150人 15.2%、精神障害 6775人 24.9%、その他の障害 1186人 4.4%
障害学生数(障害種別)及び全障害学生数(上記調査報告のプレスリリースより)

 圧倒的に多いのは、病弱・虚弱 9387人(22.3%)で、精神障害 6775人(24.9%)、発達障害(診断書有) 4150人(15.2%)と続きます。視覚障害のある学生は790人で全体の2.9%にすぎません。利用者層が異なれば、求められるサービスが異なるので、公共図書館で行われているサービスをそのまま当てはめて判断してはいけないのではないか。

 公共図書館の障害者サービス利用者層と異なり、対面朗読や代替資料などを必要とする学生の数はどちらかという少数派で、合理的配慮の提供(運用で対応可能な個別の支援といいましょうか。)や障害の学生に接する際の必要な配慮を払うなどが主たる支援になり得てしまう層が多いかもしれません(プリント・ディスアビリティの範囲はとても広いので、あくまで「かもしれません」ですが)。

 「サービス」という言葉は、不特定多数を対象に一律に提供するというイメージがありますが、合理的配慮の提供や個々の学生に応じた接遇上の配慮などは個別具体的な対応になりますので、サービスと言う言葉に馴染みません。個々の利用者に対して個別に対応している場合、職員にとってもサービスを提供しているという意識がないかもしれません。例えば、車イスの学生が図書館を利用しようとしたとして、段差を乗り越えられない場合は、職員等が支援すると思いますが、そういう支援などはサービスというより、日常的に行っているものではないかなと思うのです。

 公共図書館の障害者サービスの視点からは、「できてない」という認識を大学図書館関係者自身が持っていても、実は個々の利用者に対しては、運用で個別に配慮や支援を行っていているということもあるかもしれません。

 いずれにしても、同じ障害者といっても、視覚障害者の利用者が多い公共図書館とは、利用者層が相当異なると思われますので、積み上がっている事例も公共図書館と大学図書館でだいぶ違うはず。結果として、公共図書館との比較で障害者サービスを見ると、できてないという意識をもってしまうかもしれない。
 

個々の学生と顔の見えた関係になっているのではないか

 全国に在学する障害のある学生総数2万7千人は、一見大きな数字ですが、大学ごとのに障害のある学生の数は、かなり少ないので、職員とその学生で顔が見えている関係が出来上がっているケースも多いのではないかと思う。

 上述のように、「サービス」というと、不特定多数と対象としたものをイメージしますが、A君にはこういう配慮が必要ねとか、B君は、こういうところで階段を登るところで、少し手伝ってあげる必要があるね、とか、個々の学生に対して、顔の見える関係が出来上がっていれば、サービスとして行っているという意識もなく、また、もしかすると、個と個の関係になって、障害者に対する対応という意識すらない場合もあるかもしれません(私自身も経験がありますが、個と個の近い関係になると、「障害者」というちょっと一歩引いた抽象的な意識を相手に持たないこともあるかも)。大学図書館の職員が個々の学生について、特に「障害学生支援」とか「障害者サービス」という片意地はらず、自然に支援しているということはないだろうか(という気も)。
 
 

 以上、つらつらと私が感じていることを書いてみましたが、実際のところどうなのかは、大学図書館関係者に意見を聞きたい。もし上の通りなら、もっと自信を持ってもいいのではないかという気も。

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