EPUB 3のReadiumデスクトップ版Thorium Readerが6月に公開。NVDA、JAWS、ナレーター、VOに対応

European Digital Reading Lab (EDRLab)が2019年6月にEPUB 3のReadiumのデスクトップ版をThorium Readerという名前で公開しています。Windows、MacOS、Linux環境に対応とのこと。

スクリーンリーダーでは、現在、Windows環境ではNVDA、JAWS、ナレーター、MacOS環境ではVoiceOverに対応しているそうです。PC-Talker はどうなのかな。OPDSにも対応している。
数式については、MathJax が使えるようです。

過去の経緯はEBook2.0 Magazine の以下の記事が詳しいです。

電子書籍のアクセシビリティとDRM

 電子書籍のアクセシビリティについては、出版社に対して、(1)アクセシブルな電子書籍の刊行と、(2)それが難しい場合は、代替手段として、視覚障害者が求めてきた場合にはスクリーンリーダーで読み上げられるテキストデータの提供、を求める意見をよく伺います。
 これから書くことは、だいたいは昨年書いたエントリの昨年書いたエントリに重なるのですが、アマゾンのKindleパブリッシングガイドラインを見る限り、アマゾンが出版社にKindle Store販売目的で納品を求めている、言い方を変えると、出版社がアマゾンに出しているEPUB(この時点ではDRMフリー)は、それなりにアクセシブルなものです。電子書籍のアクセシビリティに関する問題の多くは書店側が提供するリーダーもしくはDRMに由来しているのだろうと思われますので、電子書籍のアクセシビリティについては、書店が付与するDRMにかかる問題を整理したほうがよいのではないかと思ったり。
 電子書籍に関するアクセシビリティ上の問題について、よく耳にするのが、

  1. 読み上げに対応していない
  2. リーダーが使いづらい/使えない

というものです。「読み上げに対応していない」は、リフローな電子書籍についていえば、それを妨げているのは、書店側がコンテンツに付与しているDRMです。スクリーンリーダーなどの支援技術からのアクセスを妨げているのです。「リーダーが使いづらい/使えない」もそれを提供する書店側の責任でもありますが、そもそもコンテンツを読む環境を特定のリーダーに紐付けているのもDRMです。100人中100人が使いやすいリーダーはあり得ませんので、本来は様々なリーダーで使えることが望ましい。しかし、できない。
 DRMは、コンテンツ保護の要望をうけた出版社の意見を受けてのものですので、書店だけの責任ではありませんが、いずれにしても、書店で購入する段階で付与されるDRMを問題にしたほうがよいのではないかと思っている次第。
 ちなみにDRMによるロックがなければ、今もメーカーのメンテが続いているDAISYであれば、EPUBに対応していますので、プレクストークPTR3などのような専用のDAISY閲覧機器でも利用できます。私は、DRMそのものを否定するつもりはありませんが、スクリーンリーダーなどの支援技術からのアクセスを妨げないDRMのあり方については、もっと議論したいところ。
 先のエントリで書いたとおり、European Accessibility Act (EAA)は、電子書籍のアクセシビリティの要件の1つとして、「デジタル著作権管理(DRM)によってアクセシビリティ機能を妨げないことを保証すること。」を明確に規定しています。2025年から欧州市場で販売される電子書籍については、この要件を満たすことが求められます。グローバルに展開するアマゾンやGoogle、Appleのような書店では、何かしらの対応すると思いますので、その恩恵は、日本にもあるかもしれません。しかし、日本国内のみを市場とする書店は・・・。
 いずれにしても、欧州でなされるはずの「デジタル著作権管理(DRM)によってアクセシビリティ機能を妨げないことを保証すること。」という要件に対する議論は要注目ですね。EDRLabが押すLCPが現状では採用される可能性高そうですが、ブロックチェーンの技術を活用したコンテンツ保護の話もでてきています。後者などは、GDPRの思想と親和性高そうだなと素朴に感じたり。
 ところで、視覚障害者が求めてきた場合にはスクリーンリーダーで読み上げられるテキストデータの提供の話。出版社が提供できない理由として、テキストデータを渡すことの出版社側の警戒感とあわせて、最終稿のデータが、出版社ではなく、印刷所に版下データとして残っていない(そこからテキストデータを抽出するのは、エクストラなコストがかかる)という話をよく聞きます。しかし、アマゾンなどの書店で電子書籍が販売されているタイトルについては、少なくとも出版社に書店に納品されていたEPUB(DRMフリー)があるはず。これはそのまま読み上げに対応しているはずです。これを渡せるなら、エクストラなコストはかからないはずですが、どうなんでしょうか。それが可能なら、リフローな電子書籍をもっと出すように市場を促していけば、結果として、対応できるタイトルも増えていきます。エクストラなコストが発生する版下データからのテキストデータ抽出を求めるよりは、従来のビジネスの延長の中で対応も考えられるかなと。無論、テキストデータを渡すことの出版社側の警戒感という問題は残るわけですが。