Schema.orgが遅くとも2016年にpending.schema.org を公開していた。
schema.org の議論は以下で追える(私は追えてない)。
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Schema.orgが遅くとも2016年にpending.schema.org を公開していた。
schema.org の議論は以下で追える(私は追えてない)。
前々回のエントリ (041
フィールド)、 前回のエントリ (532
フィールド)に続き、2018年11月の変更で書誌データフォーマットMARC 21 (参考: MARC 21 とは)に追加されたアクセシビリティメタデータ項目を紹介します。今回のアクセシビリティメタデータに係る改訂でもっとも画期的と思われる新設フィールド341
フィールドです。
341
フィールドに導入されたアクセスモードという概念の画期性341
フィールドには、schema.org のaccessMode
の概念が導入されています。これらの語彙は、
メタデータの対象となる資料/データを利用するために、利用する人間がどのような能力/身体的な機能を備えている必要があるのか
という情報を伝えるものです。
これらの語彙の画期性は、アクセシビリティメタデータを提供する、ということを含めていくつかのエントリで書いたとおりですが、改めて。
図書館では、障害者が利用できる資料を点字資料、録音図書、大活字資料など、資料種別ごとに「障害者向け資料」という枠組みの中で管理しています。メタデータも資料の形態や特徴に係る情報が中心です。そのため、利用者は自分が利用できるものを選ぶためには、
ことが求められます。
まだ、2の条件にある各資料の特徴については、図書館司書に相談すれば自分にあった資料を提案してくれるかもしれません。しかし、そのためには自分の状況を説明できる必要があり、1の条件が必須となります。読書に困難を感じても、それを変だと感じずにそういうものだと本人が障害そのものを自覚していない、自身の特性を理解していない方は、最初の段階で躓くことになります。
schema.orgのアクセスモードは、対象となる資料/データの利用にどのような機能が求められるかを、視覚能力、聴覚能力、触覚、テキストデータを理解する能力に細分化して、利用に必要な要件を伝達する語彙ですので、自身の障害の特性を必ずしも理解できていなくても、現時点の自身の自分のできること/できないという観点から、自分が利用できる/利用できない資料を選定することができる可能性があります。
341
フィールドには、schema.org の以下の2つの語彙が導入されています。
これらの語彙は、EPUB3のアクセシビリティ仕様を検討していたEPUBコニュニティ側の提案を受ける形で検討され、2017年3月にschema.orgに追加された語彙です。ちなみにこれらの語彙はEPUB Accessibility 1.0仕様でも採用されています。
accessMode
は、メタデータの対象となる資料やコンテンツが
アクセシビリティ上の代替手段(図に対する代替テキストやDVDへの音声解説の提供など)が提供されないオリジナルの状態でその出版物を利用/理解するに必要な人間の能力/身体的機能を明示する
語彙です。
一方、accessModeSufficient
は、
追加されたアクセシリティ上の代替手段を考慮した上でその出版物を利用/理解するに必要な人間の能力/身体的機能を明示する
語彙です。
accessMode
とaccessModeSufficient
に記述する値として以下の値が用意されています(他にもいろいろ提示はされていますが、以下の4つに絞られそう)。
対象となる出版物が、例えばテキストと画像で構成される電子書籍ならば、画像を含めてオリジナルのが製作されたままの状態で正確に理解するためは、テキストを利用できる能力(音声による読み上げを含む)だけではなく、画像を認識して理解できるための視覚機能が必要であるため、accessMode
には
の2つの値を記述します。
画像に代替テキストが提供され、その代替テキストを活用することで、画像そのものを利用できなくても、画像の情報を取得できるのであれば、テキストを利用できる能力(音声による読み上げを含む)だけでも十分にその対象資料の内容を理解することができますので、accessModeSufficient
には、上の”textual, visual
“に加え、”textual
“のみのパターンも追加し、以下の2つを記述することになります。
accessibilityFeature
は、アクセシビリティ確保のために追加された機能や代替手段などに関する情報を提供する語彙で、WebSchemas/Accessibility – W3C Wiki(WebSchemas/Accessibility日本語訳)に掲載されるalternativeText
(代替テキスト) signLanguage
(手話)などの値を記述します。
341
フィールドの概要341
フィールドでは、 schema.orgの上述の語彙がどのように落とし込まれたかを見ていきます。
インディケーター
Application
# - No information provided
0 - Adaptive features to access primary content
1 - Adaptive features to access secondary content
サブフィールド識別子
$a - Content access mode (nonrepeatability code)
$b - Textual assistive features (repeatability code)
$c - Visual assistive features (repeatability code)
$d - Auditory assistive features (repeatability code)
$e - Tactile assistive features (repeatability code)
$2 - Source (nonrepeatability code)
$3 - Materials specified (nonrepeatability code)
$6 - Linkage (nonrepeatability code)
$8 - Field link and sequence number (repeatability code)
#
(情報なし)0
(第一のコンテンツ)1
(第二のコンテンツ)“primary”、”secondary”の意味するところが判然としませんが、コンテンツ本体の情報については、”0
“のインディケーター、DVDのケースなどに点字のラベルがついている、本についた付録のオーディオCDなどの副次的なコンテンツについては、”1
“のインディケーターを使用するようです。
以下の例だと、DVDに格納されているコンテンツそのものには、”0
“、DVDのケースに添付されたシール(墨字の文字と点字がついている)には”1
“が使用されています。”1
“については、後述の$3
のサブフィールドの記述が必要になるケースが多いのかもしれません。
例 (DVD)
341 0# $a auditory $c signLanguage $2 w3c
341 0# $a auditory $b captions $2 w3c
341 0# $a visual $d audioDescription $2 w3c
341 1# $a textual $e braille $2 w3c $3 container labels
以下は、付録としてついてきたオーディオCDの情報です。
341 1# $a auditory $b transcript $2 $3 accompanying audio CD
$a
フィールド (Content access mode) = accessMode
$a
には、accessMode
に相当する情報、つまり、アクセシビリティ上の代替手段が全く提供されないオリジナル状態でその出版物を利用するに求められる要件を記述します。値は上述の以下の4つが想定されています。
例えば、オーディオブックや音楽CDのようば音声資料は以下のように記述します。
341 0# $a auditory
ただし、複数の値を入力する場合は、上にあげたDVDの例の再掲ですが、フィールドを繰り返すことになるようです。
例 (DVD)
341 0# $a auditory $c signLanguage $2 w3c
341 0# $a auditory $b captions $2 w3c
341 0# $a visual $d audioDescription $2 w3c
341 1# $a textual $e braille $2 w3c $3 container labels
$b
から$e
フィールド = accessModeSufficient
+ accessibilityFeature
$b
から$e
フィールド には、accessModeSufficient
及びaccessibilityFeature
に相当するの情報をセットで記述します。
$b
(Textual assistive features) テキストベースのアクセシビリティ上の代替手段$c
(Visual assistive features)視覚情報ベースのアクセシビリティ上の代替手段$d
(Auditory assistive features) 音声情報ベースのアクセシビリティ上の代替手段$e
(Tactile assistive features) 触覚情報ベースのアクセシビリティ上の代替手段これまた、上述の例の再掲ですが、
例 (DVD)
341 0# $a auditory $c signLanguage $2 w3c
341 0# $a auditory $b captions $2 w3c
341 0# $a visual $d audioDescription $2 w3c
341 1# $a textual $e braille $2 w3c $3 container labels
上からこのDVDには以下がわかります。
$b
から$e
フィールドに記述に用いたどのコードリストの値を用いたかがわかるように、そのコードリストの識別ができる情報を記述します。
Proposal No. 2018-03 では$2 w3c
”、341 – Accessibility Contentでは、"$2
"という記述例が掲載されています。
w3c
は、WebSchemas/Accessibilityのことでしょう("w3c"だけでこれにたどり着くのはほぼ無理だと思いますが 汗)。は何を指しているのか、わかりませんでした。MARC Code Listsに追加されるのかもしれませんが、現時点でそれを確認できませんでした。
341フィールドで記述される情報が資料のどの部分にあたるのかを記述するようです。
記述例を見る限り、インディケーターで"1
"(secondary content 。副次的なコンテンツ)について情報を記述する場合に、用いられる例が多いのかもしれません。
341 1#$a auditory $b transcript $2 $3accompanying audio CD
341 1# $a textual $e braille $2 w3 c$3 container labels
textual
に対する疑問点ここまで書いていて、疑問に感じるのは、textual
の扱いです。
テキストが含まれる紙資料はtextual
を使用してもよいのか、それともvisual
のみを使用するべきなのか。
ということです。アクセシビリティ目的で追加する情報ですので、文字情報が主体のものでも紙資料の場合は合成音声で読み上げることはできません。visual
を入れるべきなのか。しかし、「テキストを認識できる能力」というのが、合成音声での読み上げの可否だけを判断基準にしてよいのか、というのは、確信を持ち得ないところがあります。
大活字資料ならば、紙資料でも利用することができるロービジョンの方もいます。その場合でも大活字本は、visual
なのか。テキストは利用するには、視覚情報を取得できるだけではできなくて、目に飛び込んでくるテキスト情報を読んで理解する能力が必要になるわけで、その観点からはtextual
もいろいろな視点がありえるのではないかともやもや。
このあたりは、MARC 21の改訂にかかる議論の中でも特に言及されていませんでした。 accessMode
はschema.orgに由来する語彙でもあり、さらに遡れば、ISO/IEC 24751-1:2008に由来する語彙で、メインとして想定されていた対象が電子データだったのかもしれず、紙資料については、議論されてこなかったのかもしれません。
341
フィールド 記述例以下の記述は 341 – Accessibility Content、Proposal No. 2018-03 より。
341 0# $a auditory $b captions $2
341 0# $a auditory $c signLanguage $2
341 0# $a visual $d audioDescription $2
341 1# $a textual $e braille $2 $3 container labels
(電子書籍)
347 ## $a text file $b EPUB3 $2 rda
341 0# $a textual $c displayTransformability $d synchronizedAudioText $d structuralNavigation $2 w3c
532 0# $a EPUB3
532 1# $a This EPUB 3 resource has been optimized to conform to DAISY Consortium specifications for text to speech playback.
(カラーのイラストが含まれる電子書籍)
300 ## $a 1 online resource (314 pages) : $b color illustrations
341 0# $a textual $c displayTransformability $2 w3c
347 ## $a text file $b EPUB3 $2 rda
532 0# $a EPUB3
532 2# $a Lacking alternative b&w images for color illustrations.
532 1# $a This EPUB 3 resource has been optimized to conform to DAISY Consortium specifications for text to speech playback.
(DVD その1)
Proposed:
041 ##$a eng $p eng
341 0# $a auditory $b captions $2 w3c
532 0# $a SDH
532 1# $a Open captions. Subtitles for the deaf and hard of hearing
655 #7 $a Video recordings for the hearing impaired $2 lcgft
(DVD その2 341が繰り返される)
041 ## $a sgn $a eng $q eng
041 07 $r ase $2 iso639-3
341 0# $a auditory $c signLanguage $2 w3c
341 0# $a auditory $b captions $2 w3c
341 0# $a visual $d audioDescription $2 w3c
341 1# $a textual $e braille $2 w3c $3 container labels
532 0# $a Closed captions
532 1# $a Described video.
532 1# $a Picture-in-picture signing
532 1# $a Container contains text in Braille.
655 #7 $a Video recordings for the hearing impaired $2 lcgft
655 #7 $a Video recordings for people with visual disabilities $2 lcgft
(点字資料)
300 ## $a1 volume of print/braille : $b illustrations ; $c 28 cm
532 1# $a Alternate leaves of print and braille.
546 ## $b Unified English Braille code (contracted braille)
(DAISY 図書)
347 ## $a audio file $b Daisy $2 rda
341 0# $a visual $d structuralNavigation
532 0# $a Daisy 3; Requires Daisy 3 software for access.
532 1# $a Full audio with structure.
(ウェールズ語のマカトンサインを含んだストリーミングビデオ)
041 ## $a wel $a sgn
041 ## $a bfi $2 iso639-3
341 0# $a auditory $c signLanguage $2 w3c
532 1# $a Includes Welsh language Makaton signs and symbols.
https://vimeo.com/75187116
https://www.makaton.org/aboutMakaton/DwylorEnfys/
ref. マカトンサイン
以下のディスカッション・ペーパーとプロポーザルに議論の経緯やサンプルの書誌が多く掲載されています。
先のエントリで、Schema.orgにアクセシビリティに関する語彙が追加されたことを紹介しましたが、さっそくEPUB 3 Accessibility GuidelinesにもSchmea.orgに関するガイドラインが追加されたようです。まだ、ドラフト段階の語彙である”accessMode”についても記述がありますね。
なお、EPUBにSchema.orgのprefixが組み込まれるのが、仕様がドラフト段階であるEPUB3.0.1からであるため、EPUB3.0.1の仕様が固まるまで、つまり、EPUB 3.0でSchema.orgの語彙を使用する場合は、prefixをドキュメント内に宣言して使用する必要があります。