HTML5 Advent Calendarの10日目です。
Advent Calendarは、12月1日から25日までの間、毎日違う人が特定のテーマに沿ってブログ記事を書くというイベントです。HTML5 Advent Calendarの場合はHTML5について毎日違う人がブログを書くことになります。私はその12/10を担当しています。
・HTML5 Advent Calendar 2011 : ATND
ちなみにAdvent Calendarは他のテーマでもたくさん立ち上がっていています。年末をこういう形でワイワイやって盛り上がろうぜというノリ、いいですね!
・Advent Calendar 2011 (jp) 開催予定リスト – Life like a clown
というわけで、10日目の私はWeb上の課金の仕様化を検討しているW3CのWeb Payments Community Groupを紹介したいと思います。
・Web Payments Community Group
1. W3CのCommunity Group
そもそもこの”Community Group“とは何ぞやというところからです。W3Cには仕様の検討の場としてWorking Groupなどの検討体が存在します。しかし、Working Groupは設置してから実際に検討を開始するまでに少なくない手間と時間がかかってしまうため、そのハードルを下げる試みとして新たにW3Cに設けられた検討体がCommunity Groupのようです。Working Groupの前の段階に置かれているようで、Working Groupと比べると立ち上げるハードルがかなり低いために検討を素早く始められる上、仕様化が可能かどうかもわからない様々な可能性を探ることができる利点があるようです。
from W3C Community Groups: Web Payments Case Study(2011 W3Conf Manu Sporny氏発表資料)
Community GroupのほかにBusiness Groupという検討体も新たに設けられました。
詳しくはフロントエンド・エンジニアの矢倉さんのブログと2011 W3ConfにおけるManu Sporny氏の発表資料をご覧ください。
・ W3CのCommunity GroupとBusiness Group | Web標準Blog | ミツエーリンクス
・W3C Community Groups: Web Payments Case Study(2011 W3Conf Manu Sporny氏発表資料)
2. Web Payment Community Groupとは
Web Payment Community GroupはオープンなWeb上の課金の仕様化を検討するCommunity Groupです。W3CにCommunity Groupという新しい検討体が導入された時期に立ち上げられています。
このCommunity Groupが目指すところはCommunity Groupの仕様草案の冒頭で述べているように
The PaySwarm Web platform is an open web standard that enables Web browsers and Web devices to perform Universal Web Payment. PaySwarm enables the people that create digital content such as blog posts, music, film, episodic content, photos, virtual goods, and documents to distribute their creations through their website and receive payment directly from their fans and customers.
from “PaySwarm 1.0 – Web API“
ブログや音楽、写真、映像などのデジタルコンテンツを作り手が自分の作品のファンや顧客にAmazonやGoogleのような巨大なプラットフォームに依存せずに自分のサイトから直接、有料で配信するオープンな仕組みをつくる
ということのようです。
コンテンツのマイクロ化が進むと課金する金額もマイクロ化していくということで、MicroPaymentsの実現も当然対象になっています。多分、これはかなり重要だと思います。
PayPalでできるようなことを巨大なプラットフォームに依存せずにオープンかつ分散型システムで実現しよう、そんなことを目標としている感じがします。
ところで、仕様等でPaySwarmという言葉が散見されますが、すいません(汗)、なぜPaySwarmというのかはよくわかりませんでした・・・。
しかし、W3CのCommunity Groupとして検討される前からPaySwarmという形でWeb課金の検討が行われていたようです。Web Payments Community GroupはこのPaySwarmでの検討がベースとなっている、というよりPaySwarmでの検討がWeb Payments Community Groupに引き継がれたと考えてよいのではないかと思います。
以下はPaySwarmを紹介する動画ですが、Web Payments Community Groupの目指すところと共通しているようでもありますし、他の動画を比較してもわかりやすいと思われましたので掲載します。
3. 仕様草案
W3C非公式な仕様草案としてWeb Payment Community Groupからすでに”PaySwarm 1.0 – Web API“が公開されています。
・PaySwarm 1.0 – Web API
あくまでCommunity Groupの草案ですので、次の段階のW3CのWorking Groupの検討の対象になるかどうかは現時点ではわかりません。わかりませんが、Web標準で「課金」を実現するためには何が必要なのかという議論そのものに意義があるように思いますし、意義云々以前に面白いですよね。
といいつつも・・・
実は仕様書をまだ読み込んでいません(読んでもよくわかりません)。しかし、メタデータの交換にRDFaが利用されているようで、ライブラリアンとして、その点は興味深いので、もう少し深く追ってみたいところです。ちなみにWeb Payments Community GroupのManu Sporny(@manusporny)氏はRDF/RDFaの人でもありますので、LinkedDataなどのコミュニティと縁が深い仕様かもしれません。
仕様草案を実装したデモサイトがすでに公開されています。
・The PaySwarm Developer Sandbox
4.想定されるユースケース
PaySwarm 1.0 – Web APIで想定されるユースケースも公開されています。いずれもプラットフォーム非依存な事例です。
・PaySwarm – Use Cases
すべては紹介できませんが、想定される利用法として以下のような例が挙げられています。
- 小規模で独立したコンテンツプロバイダもしくは個人によるコンテンツ配信の取引に掛かる課金。コンテンツプロバイダというとそれでも個人というよりも組織を想起させますが、ブロガーのような個人のコンテンツ配信も対象です。
- コンテンツのライセンスとコンテンツの取引の切り離し。ライセンスは利用とアクセスの権利を規定するもので取引とは切り離すべきだと。
- 数千の個人からのマイクロペイメント。写真集を購入した読者に少額のオプションを提供したり、熱烈なファンからマイクロ後援を集めたりとか。
- モバイル端末による実社会での課金の利用。Web上に限定されるスマートフォン経由でお金を店頭でも支払おうよと。
- 外貨の両替。
- 地域通貨として。
- 電子版レシートの発行。とあるサイトでアーチストの曲をブラウザ経由で購入したとする。その際に受け取ったレシートをそのアーチストのもっていくと購入した際のレシートが要求されるので渡すと未発表の曲がダウンロードできたり様々な特典が受けられるとか。
スマートフォン経由で実社会でも利用できるようにしようと考えているのは少々驚きました。
5. 議論を追うには
電話会議の議事録は以下で公開されております。メーリングリストのアーカイブも公開されています。
・PaySwarm – Teleconferences
・public-webpayments@w3.org Mail Archives
Twiiter上では前述のManu Sporny(@manusporny)氏がWeb Paymentsの情報を発信してくれていますし、#payswarm や #futureofmoney という ハッシュタグでも議論や情報の交換がされているようです。
「おもしろい!」と少しでもお感じの方、議論をぜひ追ってみてください。