OPDS(Open Publication Distribution System)カタログフォーマットの現行の仕様である ver.1.1を日本語に訳しましたので公開します。
OPDS Catalog 1.1 日本語訳[Open Publication Distribution System (OPDS)カタログフォーマット ver.1.1]
http://www.kzakza.com/opds/opds1_1_jpn.html
OPDS(Open Publication Distribution System)は 電子出版物のメタデータをRSSフィードに似た手法で提供・配信・交換するオープンな仕組みです。Internet ArchiveがBookServerプロジェクトに使用することを想定して仕様の策定をすすめていたフォーマットですが、その利用範囲はBookServerにとどまらず、プラットフォームに依存しない形で様々な場所で電子出版物へのリーチを担保することができるフォーマットです。
OPDSの概要については、ドキュメント類は高瀬拓史さんが以下で翻訳して公開してくださっておりますのでこちらをご覧ください。
opds-ja
http://lostandfound.github.com/opds-ja/
なお、1.1の仕様の翻訳にあわせて、OPDS 1.0の仕様の翻訳も若干修正しました。
OPDS Catalog 1.0 日本語訳[Open Publication Distribution System (OPDS) カタログフォーマット ver.1.0]
http://www.kzakza.com/opds/opds1_0_jpn.html
OPDS1.0とOPDS1.1の違いはまた別のエントリで紹介したいと思います。
カテゴリー: 電子出版
プラットフォームの束縛から電子書籍を解放する仕組みとしてのOPDSと課金(マイクロペイメント)レイヤー
先日、twitter上で以下の記事で触れられた電子書籍の「買いにくさ」についてちょっと盛り上がりました。
・電子書籍を買いたいと思ったのに買わなかった話 | 拝むように弾いてくれ
電子書籍については、マガジン航の以下の記事が指摘するように、購入する以前にその「探しにくさ」も問題です。
・電子書籍の「探しにくさ」について « マガジン航[kɔː]
プラットフォームが乱立していることが原因の1つであることは間違いないのですが、AmazonやAppleのような巨大プラットフォームが日本で電子書籍事業を始めると解決する、とも思えないのです。どうしたものかと以前から考えていたのですが、OPDSが話題になっているようなので、現時点における自分の考えをまとめてみました。
1. プラットフォームの機能をレイヤーごとに分けませんか
ほしい本を購入できるプラットフォームのアカウントを持っていない場合、そのアカウントの取得から始めなければなりません。
プラットフォームは主にコンテンツへのリーチ、権利保護(DRM)、コンテンツへの課金という3つの機能を保有しています。それらをユーザーのアカウントに結びつけることによって、プラットフォーム内であれば、コンテンツへのリーチから購入、そして、その後のコンテンツの権利保護までをスムーズに行えるようになっているわけです(もっとも、検索はアカウントがなくてもできることのほうが多いと思います。また、DRMはDRMフリーを売りにすることもがあるので必ずしもというわけではないです)。
特に電子書籍の場合に顕著な気がしますが、プラットフォームの大小に関係なく、プラットフォームがそれぞれで各レイヤーを用意しているケースは少なくありません(ここには、出版社が自社サイトでコンテンツを売るような場合もここに含まれます)。つまり、ユーザーは(ググれば粗く見つかることは多いとはいえ)それぞれのサイトで検索をしなければならないし、購入しようと思うとそれぞれのサイトでアカウントを取得しなければなりません。
これはユーザーにアカウントの取得という手間をとらせるだけではありません。アカウントを停止するまで1年に何回使うかもわからないIDやパスワードの管理を強いることになります。それもサイトごとに別のアカウントですから、利用するサイトが増えるほど、管理するアカウントが増えていくことになります。ユーザーはその煩雑さに避けるために、すでにアカウントを保有している巨大なプラットフォームを利用することを選択してしまうわけです。
そうなると、中小のコンテンツプロバイダは巨大なプラットフォームにますます依存しなくてはいけなくなる。これをなんとかできないかと思うのです。
そこで、ということで、ここからがようやく本題ですが、
レイヤーごとを機能をわけて横断的に使うことはできないか
と思うのです。以下のように各レイヤーを別々のしくみやプラットフォームに任せたほうがまだよいのではないかと。
レイヤーがプラットフォームを横断するイメージは以下のような感じでしょうか。AppleやAmazonなどの巨大プラットフォームはDRMレイヤーや課金レイヤーを独自に持つことを選択するでしょうし、それでもやっていける。それでも、せめてコンテンツへのリーチはなんとかレイヤーを共有できないかと考えた図です。
上では「アカウント」レイヤーを共有するイメージを挙げていますが、他のレイヤーが横断的につかえるならば必要ないんじゃいか、そんな気もします。それが以下の図です。
2. アカウント
アカウントを共有する方法として、OAuth、OpenID、最近だとOpenID Connectもあるんですね。プラットフォームを横断してアカウントを共有するしくはいろいろとありそうです。しかし、このレイヤーは他のレイヤーが機能するなら、もしかすると必要がない、もしくは課金レイヤーが兼ねるのではないかという気もします。
1つ気になるとすれば、課金を課金プラットフォームに委ねるとしても、コンテンツプロバイダとしては購入した人の情報は知っておきたいと思うかもしれません。マーケティングに生かしたい、コンテンツのアップデートなどのサポートに生かしたい等々いろいろ理由はあるかと思います。これに対して、今のところ、回答らしいものは思いつきませんが、パッケージソフトのように購入後に会員登録を求めるとか、購入と会員登録を結びつけない方法は考えられそうです。登録をしないユーザーはそのデメリットを理解して会員登録しないわけですからね。書店で匿名で本を購入することが当たり前のように、電子書籍も匿名で購入するという手段はほしいなぁと思います。
3. リーチ(検索) -OPDS-
検索エンジンは、今更いわずもがなな感じがしますので、ここではOPDS(Open Publication Distribution System)について書きます。
「リーチ(検索)」と書きましたが、つまり、如何にユーザーに「発見」されるかということです。OPDSは簡単にいえば、オープンな出版物のメタデータ配信技術、もしくはオープンな出版物のメタデータ公開技術というべきもので、普及すれば、以下の図のようなことが実現すると思われます。
上の図のようなことが実現すると以下のようなことが可能になると思われます。
- これまでプラットフォームごとに検索する必要があった電子書籍をOPDSカタログを集約したサーバーを持つ検索エンジンによって横断的に検索できるようになります。
- プラットフォーム間のメタデータの交換といったB2Bな用途に使えます(実際にやるかどうかはともかく。どのプラットフォームでも検索だけは横断でできるようになる?)。
- プラットフォームを利用せずに独自に電子書籍を販売する出版社のコンテンツも1で集約されるので、読者により発見されやすくなります。
- 個人や企業、機関が自サイトに掲載するEPUBやPDFなど(「非商用電子書籍」)も1で集約されるので、検索できるようになります。
- 図書館は電子出版物のメタデータの収集(及び条件が許せばコンテンツ)を自動的に行えるようになります。
「リーチ(検索)」レイヤーの機能は主に1、3,4に該当します。Web上で無料で公開されているPDF形式のコンテンツなどが他の電子書籍と一緒に検索できるようになるとかなり面白いことになりそうですね。
【OPDSと関連しての】Linked Open Data
リーチとは直接、関係はないのですが、OPDSはせっかくWeb上でメタデータを公開することを前提としていますので、Linked Open Dataを絡ませてみたら非常に面白いのではないかと思います。しかし、とはいってもOPDSはAtomがベースとなっているフォーマットです。リソースに対する識別子があり、Linked Opend Dataに配慮された語彙を借用するならばどうであろうか。そもそもRDF形式でなくてもならないのでしょうか。可能なのでしょうか。
これは要検討、というよりも要勉強です。
4.DRM
DRMはほとんど調べていませんので、ここでは保留ということで、今回は飛ばします。
5.課金
最後に課金レイヤーですが、ここはPayPalのようなところなのかなぁとイメージしています。オーム社はPDF形式の電子書籍を自社のサイトで販売していますが、アカウントを取得せずともPayPalのアカウントだけでも購入できる選択肢を用意しています。何度もつかっていますが、すこぶる便利です。
もちろん楽天でもYahoo!でもいいですし、クレジットカード会社でもいいですし、携帯電話会社でもよいのです。レイヤーごとに機能を分断するのであれば、むしろ競争相手は多いほうが望ましい。しかし、マイクロ化が進むデジタルコンテンツの販売に対応できるマイクロペイメントサービスの展開が重要になってきます。クレジットカードや日本で課金代行サービスはまだまだ手数料が高く、マイクロコンテンツ向きではないように思います。少なくとも、いや、この場合は高くとも100円弱の課金でコンテンツプロバイダが利益を出せる手数料を提示できるか鍵になるのではないかと思います。
課金レイヤーは、オープンな技術や仕様等々の話は無縁かなぁと思っていたのですが、昨年にはW3CにはWeb上の決済の標準化を検討するCommutiy Groupが立ち上がったそうです。オープンで安全なマイクロペイメントのWeb標準を志向しているそうで、仕様化されるかどうかはわかりませんが、そこで行われる議論だけでも価値は十分あります。
・Webでの課金の仕様を検討するW3CのWeb Payments Community Group
どこかのプラットフォームに依存しないで、Web標準な仕様で課金が実現できるなら、それがあるべき姿だと思います。期待したいところです。
6. まとめ
こうして改めて書いてみると、私の関心は一環してコンテンツをプラットフォームの束縛から解放するところに集中しているのだなあと改めて感じました。まだ、深く掘り下げられていませんので、どんどん深く掘っていきたいところです。
とくにほとんど手つかずのDRMは大きな問題ですので、機会があれば調べてみたいと思います。
OPDS(Open Publication Distribution System)に関する私のブログのエントリとその他関係ありそうなサイトのまとめ
ここ最近、コミュニティがあまり活発でなかったOPDS(Open Publication Distribution System)ですが、日本でにわかに活気づいてきました。
そのきっかけ、というか要因は明らかにEPUBのエヴァンジェリストである@lost_and_found さんが「いろんな場所で公私混同しまくってOPDSを連呼してゆく」と宣言して、OPDSのエヴァンジェリストに華麗に転生されたおかげです。
・「電子書籍元年」から3年目に考えていること – 電書ちゃんねる
そんなこんなでOPDSのツィート数もかなり増え、華麗なるエヴァンジェリスト@lost_and_found さんの手によって、OPDSについて日本語で議論するグループがfacebook内にローンチされたということで、議論の肥やしになればとの一心で過去に他のブログ(e-chuban blog)でOPDSについて書いたエントリをまとめてみました。肥やしだけでも何なので、自分のブログよりもずっと有用な他のサイトへのリンクも紹介します。
1. OPDSの概要とOPDSで実現できそうなこと
OPDSの概要とそれによって実現できそうなことを書いています。このときは妄想として書きましたが、できるっぽいです。
・OPDS(Open Publication Distribution System)はこんなことができる仕組みだろうか | e-chuban blog(2011/01/07)
ちなみに@lost_and_found さんがOPDSのドキュメント類を現在がしがし翻訳してくださっているようで、概要を知るにはこちらのほうがわかりやすいかもしれません。
About opds-ja
http://lostandfound.github.com/opds-ja/
2. 仕様
最新版はver1.1です。
OPDS Catalog 1.1
http://opds-spec.org/specs/opds-catalog-1-1
もうすぐver 1.2も公開されるそうで、ドラフトがすでに公開されています。
Draft of version 1.2 of the OPDS Catalog specification
http://code.google.com/p/openpub/wiki/CatalogSpecDraft
ver 1.0 の仕様については私が翻訳した日本語訳があります。ver 1.1やver 1.2と大きな違いはないようですので、参考にはなるかと思います。
Open Publication Distribution System (OPDS) カタログフォーマット ver. 1.0 仕様書(日本語訳)
http://www.kzakza.com/opds/opds1_0_jpn.html
3. 台湾
コミュニティが活発でない状況下で例外的な存在が台湾です。政府の後押しをうけてメタデータの交換技術としてOPDSの導入が積極的に進められているようです。本家を差し置いて、OPDSの理想を追求しているのではないかと思えるくらい。
台湾で電子書籍に関する技術の標準化を進めている電子閱讀產業推動聯盟(e-Reading Industory Promotion Alliance)が2011年3月16日に「電子書平台與電子書閱讀器之傳輸協定互通標準_v1.0」を公開しました。OPDS、OpenSearch、Open IDなどを利用し、プラットフォームの枠を超えた電子書籍の流通の標準化を志向しています。私が思い描いていたOPDSの利用法にかなり近いイメージだったので、これを見つけたときは結構興奮しました。
・台湾で電子書籍の流通の標準化を狙った仕様「電子書平台與電子書閱讀器之傳輸協定互通標準ver.1.0」が公開された | e-chuban blog(2011/04/02)
この文書を見つけた時にはどういう背景で公開されたものなのかがよくわかりませんでしたが、台湾政府の経済部(日本の経済産業省にあたたる行政官庁)が進めている「智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進計画)」の中で作成されたものらしいということが判明しました。本気なんだと。
・電子書籍の利用拡大と流通の標準化を目指す台湾の「智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進計画)」 | e-chuban blog(2011/09/23)
そういう状況下の台湾の流れの1つなのでしょうが、中華電子佛典協會がなんと仏典の叢書である漢文大蔵経のOPDSカタログを公開しています。ここは仏典のEPUBを作ったことにもっと驚くべきところですが。
台湾で漢文大蔵経のEPUB版が公開されている。OPDSカタログも公開。 | e-chuban blog(2011/10/06)
ちなみに台湾ではすくなくとも2010年12月にはOPDSの利用が検討されていたようです。早っ!
・台湾でOPDS(Open Publication Distribution System)が普及するかもしれない | e-chuban blog(2011/01/08)
4. 米国
・Internet Archive
まずはInternet Archive関係のエントリから。
・Internet ArchiveのOPDS(Open Publishing Distribution System)カタログ | e-chuban blog(2011/06/09)
・Open LibraryがOPDS(Open Publication Distribution System)のサポートを実験的に開始。 | e-chuban blog(2011/03/03)
・その他
以下にOPDSカタログを公開している出版社が掲載されています。
・MobileRead Wiki – OPDS
上に掲載されていますが、OPDSの仕様策定の中心的人物であるHadrien Gardeur(@Hadrien)氏のFeedbooksは敬意を表してここでも紹介しておきます。ちなみにOPDSの最新動向はこの方のツィートを追っていくのがお勧めです。
・Feedbooks | Free eBooks for Android & iPhone/iPad
出版社ではO’Reilly がOPDSカタログを公開しています。
上に掲載されていない出版社ではO’Reilly がOPDSカタログを公開していましたが、更新が2010年で止まってしまっているようです。残念・・・。
O’Reilly Media
http://opds.oreilly.com/opds/
※2012/02/26追記
後で改めて確認したらばりばり現役でした。すいませんでした > <
5. 日本
日本ではどうだ、ということですが、出版社では達人出版社さんが公開されています。昨日、公開しているOPDSのバージョンを1.0から1.1に上げたばかりです。
・OPDSを改良して1.1対応にしました – 達人出版会日記(2012-02-23)
・OPDSはじめました – 達人出版会日記(2011-01-18)
シナジーソフトウァアさんが運営するEPUB投稿、共有サイトのePubs.jpでもOPDSカタログが公開されています。
・ePubs.jp(フッター部分にOPDSヘのリンクがある)
その他、青空文庫が公開している書誌CSVの拡張版を利用した青空文庫OPDSカタログを公開してています。
・青空文庫OPDSフィード « 潮流工房(2011/02/20)
【おまけ】バッドノウハウとしてのOPDSのPodcast配信
iTunesはOPDSに対応していないので、少なくともそのままではPodcast配信はできない。しかし、以下で紹介しているように”enclosure”の値を持つrel属性のlink要素を組み込めばできるかもしれません(昔、試したことなのでちょっと自信なし)。出来たとしてもAcquisition Linkと重複するわけなので、バッドノウハウ以上のものではないのですが、AppleがiTunesをOPDSに対応させる可能性の低さを考えると1つの選択肢になるかも。
・OPDS(Open Publication Distribution System)を使って今からでもPodcast配信できるかもしれない。 | e-chuban blog
では、このあたりで
今後、純粋にOPDSに関する話はこのブログで公開していく予定です。中国語圏のOPDSという話なら、中国語圏の出版・図書館事情を主題とするもう1つのブログ、e-chuban blogで公開します。