プリントディスアビリテリィのある人のためのテキストデータコンテンツの提供の課題

 視覚障害や学習障害など様々な理由で印刷物を読むことが困難な状態、つまり、プリントディスアビリティ(Print Disability)にある人のために、紙の書籍からテキストデータコンテンツ(テキストDAISYやプレーンテキストなど)を製作する図書館や機関、団体が増えてきています。紙からテキストデータを作成する場合には、まずOCRの認識率の問題、それに伴うテキスト校正作業のコストの問題が出てきますが、今回はそれは置いておいて、テキストコンテンツ記述面における提供の課題について整理したいと思います。
 一言で申せば、音声合成システム(TTS)では、読み上げられない文字が存在することに起因する問題です。

1. 音声合成システム(TTS)で読み上げられない文字

 「読み上げられない」というのは、漢字の読み間違いのような誤読が発生するという話ではなく、音声合成システム(TTS)がその文字の辞書そのものを持っていないという問題です。そのため、該当する文字に音声合成システム(TTS)が出会った場合に、そこに文字があるということそのものは認識するようですが、その文字を無視をして読み上げません。
 総務省が2015年7月に公開した「音声読み上げによるアクセシビリティに対応した電子書籍制作ガイドライン」に詳しいので、該当箇所をそのまま引用します。

図 3 TTS ソフトの読み上げ可能な領域と読み上げ不可の領域。音声合成システム
(TTS)が読める範囲は、JIS X 0208:1997の範囲、つまり、第2水準までの6879文字であり、JIS X 0213:2004に含まれている文字で第3水準以降の4354文字はTTSでの読み上げに対応してないことが示されている
日本語の文字は JIS 第 1 水準、第 2 水準を規定した JIS X 0208:1997 と、第 3 水準、第 4 水準を規定した JIS X 0213:2004、そしてこれらに含まれない外字などが存在する。TTS ソフトで読み上げ可能な文字は現状では JIS X 0208:1997 の範囲にとどまっており、JIS 化されている文字のほぼ半分が読み上げ対象外となっている。
from 「(PDF)音声読み上げによるアクセシビリティに対応した電子書籍制作ガイドライン」p11より

 なお、実際のところ、第3水準以降の全ての文字を音声合成システム(TTS)で読み上げられないというわけではなく、第3水準以降でも一部の文字については、読み上げるソフトもあるようです(多くが第2水準以下に含まれる漢字の異体字だと思われます)。とはいえ、多くの文字が音声合成システム(TTS)で読み上げられないという問題が存在することには変わりありません。第3水準以降の文字は、現在の日常生活ではほとんど見かけることにない漢字ばかりですが、地名や人名などに用いられることもあるため、そのような地名、人名がでてくる可能性の高い学術文献や旧字資料のテキストデータを提供する場合には、これに対する対応が求められます。
 漢字の読み上げで誤読をしても、その誤読から文字を類推することは可能ですし、その文字の存在をユーザーに伝えることもできます。また、熟語単位で読み間違えても一字単位に文字を読み上げることで、文字を確認することができますので、一定の確かさは保障されているとはいえます。しかし、音声合成システム(TTS)が音に出して読み上げることそのものができない文字はそれもできません。プリントディスアビリティのある人を想定してテキストデータを製作する場合は、これらの文字に対する何らかの対応が必要になります。

2. 音声合成システム(TTS)が読み上げない文字に対する対応

 対応する方法として次の(1)から(6)が考えられます。
 以下の(1)から(6)の例として、中国は清代末期の人物、「李沅発」(り げんはつ)の「げん」の字に用いられている

「沅」

の字を用います。第3水準の漢字。この人物の名前ですが、TTSで読み上げると、「沅(げん)」の字を読み上げずに「すもも はつ」と読み上げるものが複数あるようです。
※2016年2月16日追記
 最初、「宮﨑あおい」の「﨑」を例として挙げていましたが、「﨑」の字は複数のTTSで読めるという指摘を複数の人からいただきました。そこで、宮﨑あおいとは違い、この人物に全く思い入れはありませんが、「李沅発」(り げんはつ)(参考 李ゲン発 – Wikipedia)を例として使用することにしました。

(1)の1 読みを補記する

 該当する文字の後ろに括弧でくくるなどして、読み情報を補記する方法です。

例(李沅発の後ろに読み情報である「り げんはつ」を追加)
 李沅発 → 李沅発(り げんはつ)
長所
  • 原本通りの漢字をそのまま使用したまま、正確な読み上げを一応担保できる。
  • プレーンテキストでも記述が可能である。
短所
  • 原本に存在しない情報が本文に混ざるため、原本に本来あった情報とあとで補記された情報が区別できなくなってしまう。
  • 原本に存在した情報とテキスト作成者が補記した情報を区別できたとしても、引用する時の作業で、注記を削除する作業が必要になる
  • 上の例の「李沅発(り げんはつ)」の場合、「李」と「発」の字は読み上げに対応しているため、その部分が二度読まれることになる(つまり、この場合、「すももはつ りげんはつ」と読まれる)。

 
※2016年2月13日追記 

(1)の2 読みを補記する(注記であることを明記する)

 (1)の1では、原本に本来あった情報とあとで補記された情報が区別できないという問題がありました。そこで、補記した注記であることをの説明を追加するという方法が考えられます。
  
 なお、以下の例では、わかりやすく「テキスト作成者注記 注記ここまで」と言葉で注記の範囲を示していますが、※(米印)などで置き換えてもよいかもしれません。その場合は、※(米印)で囲んだものが、テキスト作成者による注記であることを、冒頭に凡例の形で分かるようにしておく必要があります。

例(宮﨑の後ろに読み情報である「みやざき」、その前後に注記であることをの説明を追加)
 李沅発 → 李沅発(テキスト作成者注記 り げんはつ 注記ここまで)
長所
  • 原本通りの漢字をそのまま使用したまま、正確な読み上げを一応担保できる。
  • 原本にあった情報と注記としてテキスト作成者が補記した情報を区別できる。
  • プレーンテキストでも記述が可能である。
短所
  • 原本に存在した情報とテキスト作成者が補記した情報を区別できたとしても、引用する時の作業で、注記を削除する作業が必要になる
  • 上の例の「李沅発(り げんはつ)」の場合、「李」と「発」の字は読み上げに対応しているため、その部分が二度読まれることになる(つまり、この場合、「すももはつ てきすとさくせいしゃちゅうき りげんはつ ちゅうきここまで」と読まれる)。

※2016年2月13日追記ここまで 

(2)代替可能な漢字に置き換える

 異体字のような代替可能な漢字がある場合に限られますが、音声合成システム(TTS)が読み上げられる文字に置き換える方法です。

例(「沅」を異体字の「源」に置き換える)
 李沅発 → 李源発
長所
  • 音声合成システム(TTS)が読み上げられる上に、(1)のような二度読みをさけることができる。
  • プレーンテキストでも記述が可能である。
短所
  • 原本に忠実な表記ではない。漢字を置き換えたことを何らかの形で情報として提供しない限り、ユーザーがどこで漢字が置き換えられたか判別することができない。

(3)特に何もしない

 読み上げられない文字はやむを得ないと割り切って何もしないという対応です。

 李沅発
長所
  • 原本に忠実な表記である。
短所
  • 音声合成システム(TTS)が該当箇所を読み上げられない。

(4)構造化した読み情報を本文とは区別できる形で提供する(ルビをふる)

 原本本来の表記を維持し、かつ読み情報を本文と混同させないためには、読み情報を構造化し、本文と区別できる形で提供する必要があります。その1つの方法として、ルビをふるという方法があります。

例(ルビをふる)
 沅発げんはつ
長所
  • 本文と区別することができるため、TTSで正確な読みを担保した上で本文の確かさを保障することができる。
  • ルビの読み上げに対応しているDAISY閲覧ソフト、EPUB3閲覧ソフトは多い。
短所
  • EPUBやDAISY3ではこの方法をとることができるが、プレーンテキストでこの方法はとることができない。
  • ルビと漢字の両方を読む音声合成システム(TTS)が多いため、二度読みされる箇所がある。上の例の「宮﨑(みやざき)」の場合、「宮」の字は読み上げに対応しているため、その部分が二度読まれることになる(つまり、この場合、「みやみやざきあおい」と読まれる)。
  • サピエ図書館が定めるテキストDAISYの製作ガイドラインでは、ルビは原本にある場合にのみに使用するとなっており、音声合成システム(TTS)に対応していない文字に読み情報を追加する用途は、このガイドラインでは想定されていない。

(5)構造化した読み情報を本文とは区別できる形で提供する(SSMLを使用する)

 ルビは、読み情報を提供するだけではなく、説明をつけたり、様々な用途に用いられるため、かならずしも用途に適しているとはいえません。そもそもルビは人間であるユーザーに見せるために表示するものであって、機械、つまり、音声合成システム(TTS)に読み情報を伝達するというのは、ルビのあり方としては本来は副次的なものとも言えます。機械(TTS)に読み情報を伝えることを伝えることを本来の役割としているSSML (Speech Synthesis Markup Language)を用いるという方法が考えられます。

例(SSMLで記述する)
 <span ssml:ph=“リゲンハツ”>李沅発</span>
長所
  • 本文と区別することができるため、TTSで正確な読みを担保した上で本文の確かさを保障することができる。
  • 二度読みをさけることができる。
  • ruby要素を用いず、SSMLによって読み情報を持たせることができるため、サピエ図書館のテキストDAISYの製作ガイドラインとも衝突しない)。
短所
  • EPUB3はSSMLに対応しているが、DAISY3では対応していない。構造化できないプレーンテキストでももちろん利用することはできない。
  • EPUB3閲覧ソフトでもSSMLに対応しているものは皆無(ではないかと思われる)

(6)音声を追加する

 音声合成システム(TTS)ではなく、肉声で読み上げた音声データを追加する方法も考えられます。一言で言えば、DAISYまたはEPUB形式の「マルチメディアDAISY」として提供するということになります。マルチメディアDAISYとして提供する場合は、該当する文字だけではなく、全文テキストに対応する音声を追加することが前提となります。該当する文字だけ、または、それを含む文章に対してだけ音声データを追加する方法も考えられなくはありません。しかし、その場合は、読み上げる箇所に応じて音声合成システム(TTS)による読み上げと音声データに読み上げが自動的にうまく切り替えられる必要があると思いますが、そのような機能を備えたDAISYまたはEPUB閲覧ソフトはない気がします。

長所
  • 肉声で読み上げた音声を別につくるため、原本に忠実な表記を維持しつつ、正確な読み上げを担保することができる。
  • 不必要な二度読みも避けることができる。

短所
  • 音声データを別に用意する必要があるため、それを製作するたコストがかかる。
  • 音声データとテキストデータを関連づける編集作業コストもテキストの長さに応じてそれ相応にかかる。
  • 音声データを持つことになるため、ファイルサイズが重くなる。

  

参考

 マルチメディアDAISYについては、以下をご参照ください。

 学術活動における利用の場合は、テキストが引用されることも想定しなければなりません。原本と異なる文字が使用されたり、本来原本に含まれていない情報が補記として区別できない形で追加されてしまうとその利用に支障がでる可能性があります。そのため、学術活動でも利用されることを想定する場合は、原本に忠実な表記を維持しつつ、原本に本来あった情報と区別できる形で読み情報を音声合成システム(TTS)に提供することが求められます。その点では、上の(1)の2、(4)、(5)、(6)の対応が求められるということになります。その点では、上の(4)から(6)の対応が求められるということになりますが、製作コストやフォーマットによる制限で(1)から(3)の対応をせざる得ないこともあります。
 
 上でも少し触れましたが、次はテキストデータコンテンツを提供するフォーマットについても少し整理します。

3. 提供するフォーマットの課題

 プリントディスアビリテリィのある人にテキストデータコンテンツを提供するフォーマットとして、現時点では、プレーンテキスト、DAISY3、そして、その後継規格であるEPUB3が考えられます。上の2でも(1)から(6)の話の中で、触れているところもありますが、フォーマットごとに長所と短所をまとめてみました。DAISY3とEPUB3そのものについては、再掲になりますが、以下で紹介していますので、こちらをご参照ください。

(1)プレーンテキスト

 拡張子txtのテキストデータです。どの環境でも編集や閲覧ができるエディタは標準でインストールされています。編集も特別なICTスキルは必要なく、製作環境、閲覧環境ともにもっとも制約の少ないフォーマットと言えます。

長所
  • 構造化のコストもかからないため、低コストかつ短期間で製作することができる。
  • 製作環境を選ばないため、多くの人間が製作することが可能である。
  • 専用のソフト等のインストールが必要なく、閲覧環境にほぼ制限がない
  • ファイルサイズも軽量である
短所
  • 構造化できないため、コンテンツが大部になる場合のナビゲーションが不足する
  • 音声合成システム(TTS)が読み上げない文字については、上の2(1)〜(3)のいずれかの対応に限定される。

(2)DAISY3

 日本では、プリントディスアビリィのためのテキストDAISYは、主にDAISY3で製作されていいます。ルビをふることで読み情報を補記することも「一応可能」です。

長所
  • 構造化できるため、大部なコンテンツでも様々なナビゲーションを提供できる。
  • ルビをふることが「一応可能」であり、ルビという形で本文とは区別される形で読み情報を提供することができる。
  • プレーンテキストに比べると閲覧環境に制約があるとはいえ、後で紹介するEPUB3と比べると閲覧環境はまだ整備されている(とはいえ、DAISY2.02で製作された音声DAISYと比較するとまだまだ限定的である)。
  • DAISY3に対応した閲覧ソフトは、プリントディスアビリティのある人が利用することを想定されているため、アクセシビリティに十分配慮されてる。
  • マルチメディアDAISYの製作も可能(ただし、日本では、ほとんどのマルチメディアDAISYはDAISY2.02で製作されている。)
短所
  • プレーンテキストと比較すると、構造化に製作コストがかかる。
  • ルビ表記は一応実現されているが、これは日本独自の実装によるもので、DAISY3本来の仕様には含まれているものではない。そのため、正式なコンバータでEPUB3に変換した場合には、ルビにいれた情報はおそらく落とされる。長期保存の観点から問題がある。
    (参考)DAISY3がruby要素に対応していないため、この手法が使用されてる。
    ruby要素を擬似的に再現する ≪ Archive ≪ Alias under the Azure
  • サピエ図書館が定めるテキストDAISYの製作ガイドラインでは、ルビは原本にルビがある場合にのみに使用するとなっている。音声合成システム(TTS)に対応していない文字に読み情報を追加する用途は、このガイドラインでは想定されていない。

(3)EPUB3

 電子書籍のメインストリームのフォーマットとして使用されていますが、DAISY3の後継規格でもあり、DAISYが備えるアクシブルな機能を継承し、さらには読み情報の構造化に関する機能など日本語にとって重要な機能が追加されています。純粋に技術的な観点でみれば、フォーマットとしては、これが解決策になりえますが、短所にも書いてあるとおり、閲覧環境が十分ではありません。

長所
  • 構造化できるため、大部なコンテンツでも様々なナビゲーションを提供できる。
  • ruby要素に仕様レベルで正式に対応している。
  • SSMLによって読み情報を持たせることが可能である。
  • マルチメディアDAISYの製作も可能(ただし、日本では、ほとんどのマルチメディアDAISYはDAISY2.02で製作されている。)
短所
  • プレーンテキストと比較すると、構造化に製作コストがかかる。
  • プリントディスアビリティにとって使いやすい閲覧環境がDAISY3と比較してもまだ十分に整備されていない(とはいえ、かなり改善されつつある)
  • SSMLに対応した閲覧ソフトも編集環境もまだない(と言い切ってよいと思う)。

(4)その他

その他に、WORDファイルもあり得るかもしれません。WORDファイルのアクセシビリティは私も勉強不足でまだよく分かっていませんので、ここでは、省略します。

4. まとまりのないまとめ

 マルチメディアDAISYや、SSMLを用いて読み情報を提供するEPUB3形式で提供できれば理想的と言えます。
 しかし、プレーンテキストからDAISYやEPUBを製作するには構造化のコストがさらにかかり、また、製作環境や閲覧環境も制約されるため、常にこれを選択できるわけではありません。特にEPUB3閲覧ソフトでSSMLに対応しているソフトは皆無ではないかと思われるため、現時点でのSSMLを用いたEPUB3形式での提供は時期尚早だと思われます。マルチメディアDAISYも上で述べたように音声ファイルの製作コストやそれにテキストデータを関連付けるコストがさらにかかります。
 製作コスト、製作環境や閲覧環境の観点からみれば、プレーンテキストが他のフォーマットに比べて優れていると言えるかもしれません。しかし、音声合成システム(TTS)が読み上げない文字に対する対応としてプレーンテキストでとれるものは、上の2にあげたものでは、上にあげた2の(1)から(3)のいずれかになります。(1)の1「読みを補記する」、(2)「代替可能な漢字に置き換える」、(3)「特に何もしない」は一長一短あり、全ての利用者層のニーズを満たすものはありません。かろうじて、(1)の2の「(1)の2 読みを補記する(注記であることを明記する)」が、広い範囲のニーズを満たすものと言えるでしょうか。どれも一長一短あり、全ての利用者層のニーズを満たすものはありません。
 音声合成システム(TTS)が読み上げない文字に対する対応の観点からは、プレーンテキストでは、(1)の2の「読みを補記する(注記であることを明記する)」の対応をしつつ、構造化では、EPUB3のSSMLの利用環境が整うまでは、DAISY3による構造化しかないかもしれません。(1)の2の対応では、構造化を見越して自動的に構造化できるような記述方法がとれるとなおよいかもしれません。
 なんとも歯切れのわるい話ですが、音声合成システム(TTS)が読み上げない文字に対する対応の観点から、現時点で100点といえるフォーマット、記述方法はないため、EPUB3のSSMLの利用環境が整うまでは、対象となるコンテンツと提供する利用者像を勘案して対応を検討するほかないかもしれません。
※2016年2月13日追記
(1)の2が追加されたことにともない、上のように修正しました。

「ANSI/NISO Z39.86-2005 (R2012)(いわゆるDAISY 3)(2005年4月21日付承認)」の仕様の日本語訳を公開します。

ANSI/NISO Z39.86-2005 (R2012)、いわゆるDAISY3の仕様の日本語訳を公開します。私自身のDAISY 3に対する理解のために個人的に訳したものであり、当然ですが、DAISY Consortiumの公式な日本語訳ではありません。また、翻訳の正確性、その内容について一切保証をするものではありません。ご注意ください。

 DAISY3については、DAISYの各バーションを紹介した以下のエントリをご参照ください。

DAISY3には関連ドキュメントがまだあるので、これで十分というわけではないのですが、DAISY2.02はすでに翻訳済みで、EPUB3の仕様一式はIMAGEDRIVEさんが翻訳してくださっていますので、DAISYの各バージョンの日本語訳が一応、一通りそろったことになるのかな(DAISY AI(ANSI/NISO Z39.98-2012)は見なかったことにしてる、使われているのを見たことがないので…)。

参考

図書館の障害者サービスと点字図書館関係年表(1825年から2016年まで)(テキスト形式)

 先のエントリにおいて、表形式で公開した「図書館の障害者サービスと点字図書館関係年表(1825年から2016年まで)」のテキスト版です。こちらのほうがスクリーンリーダーによる読み上げでもわかりやすいだろうということで、作成してみました。内容は表形式のものと同じです。
参考 表形式版
 各年ごとにその年に起こった出来事を図書館関係、点字図書館関係、著作権法関係、その他で分類してあります。
 年表中のリンクは、該当する機関や団体のホームページへのリンクだったり、関連する参考資料へのリンクです。

年表(1825年から2016年まで)

1825年

(その他)

  • ルイ・ブライユがアルファベットの6点式点字を開発

 

1854年

(その他)

  • ブライユ式点字がフランスで正式に採用

1880年(明治13年)

(図書館・点字図書館関係)

  • キリスト教宣教師ヘンリー・フォールズ、築地病院に「盲人図書室」を設置(日本における施設としての障害者への情報提供の最初の事例?)

1890年(明治23年)

(その他)

  • 石川倉次が日本語の6点式点字を考案、同年に東京盲唖学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)で採用

 

1901年(明治34年)

(その他)

 

1916年(大正5年)

(図書館関係)

  • 東京盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の学生である加藤梅吉が自身が所蔵する点字図書200冊を東京市立本郷図書館に寄託。それを受けて、東京市立本郷図書館は点字文庫開設(公共図書館による障害者への情報提供の嚆矢)

 

1922年(大正11年)

(点字図書館関係)

(その他)

 

1931年(昭和6年)

(その他)

1932年(昭和7年)

(点字図書館関係)

  • 岩橋武夫、自宅にて点字図書貸出事業を開始

1933年(昭和8年)

(図書館関係)

  • 第27回全国図書館大会で「点字図書及盲人閲覧者の取扱」というテーマで障害者への情報提供が取り上げられる。

 

1934年(昭和9年)

(その他)

 

1936年(昭和11年)

(図書館関係)

(点字図書館関係)

  • 日本ライトハウス、世界で13番目のライトハウとして公認される(4月)

 

1937年(昭和12年)

(その他)

  • ヘレン・ケラー、来日

 

1940年(昭和15年)

(点字図書館関係)

 

1948年(昭和23年)

(点字図書館関係)

  • 日本盲人図書館、「日本点字図書館」と名を改める(4月)

(その他)

 

1949年(昭和24年)

(点字図書館関係)

 

1950年(昭和25年)

(図書館関係)

  • 図書館法公布

 

1953年(昭和28年)

(その他)

 

1955年(昭和30年)

(点字図書館関係)

  • 日本点字図書館、厚生省委託点字図書製作・貸出事業開始(1月)

(その他)

  • ヘレン・ケラー、3度目の来日

 

1957年(昭和32年)

(点字図書館関係)

  • 国際基督教奉仕団(現・日本キリスト教奉仕団)テープライブラリ発足(2月)
  • 厚生省が点字図書館設置基準暫定案を作成(3月)

 

1958年(昭和33年)

(点字図書館関係)

  • 日本点字図書館が録音図書の製作を開始し、「声のライブラリー」を設置

 

1959年(昭和34年)

(点字図書館関係)

  • 日本ライトハウス、「声の図書館」(テープライブラリー)を開設。

 

1961年(昭和36年)

(点字図書館関係)

  • 日本点字図書館・日本ライトハウス、厚生省委託声の図書製作・貸し出し事業開始。
  • 日本点字図書館、「声のライブラリー」を「テープライブラリー」と改称(4月)

(その他)

  • 郵便法改正(盲人用郵便が無料化)

 

1963年(昭和38年)

(点字図書館関係)

  • 日本ライトハウス、厚生省委託点字図書製作・貸出事業開始

 

1967年(昭和42年)

(その他)

  • 京都で視覚障害学生と点訳サークル学生を中心に関西SL(Student Library)発足(4月)

 

1969年(昭和44年)

(図書館・点字図書館関係)

  • 国立国会図書館と東京都立日比谷図書館に対して、日本盲大学生会・関西SL等が図書館蔵書の開放運動を行う。

 

1970年(昭和45年)

(図書館関係)

  • 東京都立日比谷図書館、視覚障害者サービスを開始(4月)

(著作権法関係)

  • 旧著作権法を全部改正した著作権法(①)公布。37条(点字による複製等)等を新たに規定(5月)

(その他)

  • 日本盲大学生会・関西SL等が視覚障害者読書権保障協議会(視読協)結成(6月)

 

1971年(昭和46)

(図書館関係)

(その他)

  • 著作権法(①)施行(4月)

 

1972年(昭和47年)

(点字図書館関係)

  • 京阪神点字図書館連絡協議会発足(参加4館) (6月)

 

1973年(昭和48年)

(その他)

 

1974年(昭和49年)

(図書館・点字図書館関係)

  • 京阪神点字図書館連絡協議会から近畿点字図書館研究協議会が発足(近点協)に(参加12館、うち公共図書館2館)(11月)

(図書館関係)

  • 大阪府立夕陽丘図書館開館、対面朗読サービスや郵送貸出を開始(5月)
  • 全国図書館大会で初めて障害者サービスの分科会「身体障害者への図書館サービス」が設置される(11月)

 

1975年(昭和50年)

(図書館関係)

  • 公共図書館の録音サービスが日本文芸著作権保護同盟から、著作権侵害と指摘する新聞記事報道(『愛のテープは違法の波紋』報道)(公共図書館における録音図書の製作が著作権者の許諾を取らなければ行えないということが明確に)(1月)
  • 国立国会図書館、学術文献録音サービス開始(10月)

 

1977年(昭和52年)

(点字図書館関係)

  • 第1回点字図書館館長会議(東京)開催

 

1978年(昭和53年)

(図書館関係)

  • 日本図書館協会(JLA)、障害者サービス委員会設置(最初から関東小委員会と関西小委員会があった)(4月)

 

1979年(昭和54年)

(その他)

  • IFLA/RTLB(盲人図書館会議)発足

 

1981年(昭和56年)

(図書館関係)

(点字図書館関係)

  • 全国点字図書館協議会、発足(4月)
  • 全国点字図書館長会議、「点字・録音・拡大資料の相互貸借に関する申し合せ」決議(11月)

(その他)

 

1982年(昭和57年)

(図書館関係)

  • 国立国会図書館、「点字図書・録音図書全国総合目録」(冊子体)を刊行開始(3月)

 

1984年(昭和59年)

(その他)

 

1986年(昭和61年)

(図書館・点字図書館関係)

  • IFLA、東京で世界大会開催(8月)

(図書館関係)

  • 国立国会図書館、「点字図書・録音図書全国総合目録データベース(AB01)」提供開始。国会、行政・司法の各支部図書館、都道府県立・政令指定都市立図書館のほか、一部の点字図書館にオンラインで提供を開始。

(点字図書館関係)

  • 近点協、「製作資料の着手情報システム(NLB)」を開始(3月)

(その他)

 

1987年(昭和62年)

(その他)

  • 点訳絵本/点訳入りFDの郵送料が無料になる(8月)

 

1988年(昭和63年)

(点字図書館関係)

  • 日本IBMが点訳オンラインサービス「IBMてんやく広場」開始

(その他)

  • スウェーデン国立点字録音図書館(TPB)がデジタル図書開発を計画

 

1989年(平成元年)

(図書館関係)

 

1990年(平成2年)

(点字図書館関係)

(その他)

  • スウェーデンのラビリテンテン社、DAISYの開発に着手
  • 米国でADA法案可決(5月)

 

1991年(平成3年)

(図書館・点字図書館関係)

  • IFLA視覚障害者セミナーを東京(東京大学安田講堂、国立国会図書館東京本館新館講堂など)で開催(1月)

 

1993年(平成5年)

(点字図書館関係)

  • 運営を日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)点字図書館部会 特別委員会が引き継ぎ、「IBMてんやく広場」から「てんやく広場」に改名

(その他)

  • 障害者基本法公布

 

1994年(平成6年)

(点字図書館関係)

  • 日本点字図書館、厚生省委託事業として、「点字図書情報サービス事業」(点字図書・録音図書目録の一括化)を開始(1月)。
  • てんやく広場、国立国会図書館点字図書・録音図書総合目録(AB01)のデータを借り受けてテスト稼働(11月)
  • 第19回全国点字図書館大会(この年から「全国点字図書館長会議」が「全国点字図書館大会」に)

(その他)

  • 『障害者白書』が刊行される(12月)

 

1995年(平成7年)

(図書館関係)

  • 国立国会図書館、「NDL CD-ROM Line点字図書・録音図書全国総合目録」頒布開始

(点字図書館関係)

  • てんやく広場、1994年の点字図書・録音図書全国総合目録データのテスト稼働をもとにオンラインリクエストの試行を開始(2月)
  • 日本点字図書館と東京都公共図書館の蔵書目録を搭載した「NIT(ニット)」に国立国会図書館の点字図書・録音図書全国総合目録のデータを搭載し、ニットプラスと改称(6月)

(その他)

  • シナノケンシがデジタル録音図書の試作一号機を開発

 

1996年(平成8年)

(図書館関係)

  • 新しくオープンした大阪府立中央図書館が児童室の場所を「視覚障害児のためのわんぱく文庫」に提供

(点字図書館関係)

  • 日本点字図書館、厚生省委託点字図書近代化事業を受け、点字資料のデジタル化を開始(5年間)(4月)
  • 全国点字図書館協議会、全国視覚障害者情報提供施設協議会に名称変更(11月)
  • 日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)、点字図書館部会の名称を「情報サービス部会」に変更

(その他)

  • DAISY Consortium設立

 

1997年(平成9年)

(図書館関係)

(点字図書館関係)

(その他)

  • DAISY Consortium、DAISY 2.0の仕様を公開
  • IFLA盲人図書館会議で DAISYがデジタル録音図書の標準規格になることが決定(8月)

 

1998年(平成10年)

(図書館関係)

  • 国立国会図書館の「点字図書・録音図書全国総合目録」の冊子体が34号(1997年2号)で終刊

(点字図書館関係)

  • 「てんやく広場」を全視情協に移管(7月)
  • 「ないーぶネット」に名称を変更(9月)

(その他)

 

1999年(平成11年)

(点字図書館関係)

  • 全国視覚障害者情報提供施設協議会、全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)に名称変更(6月)
  • 日本点字図書館と全視情協と協議の結果、類似した2つのサービスである日本点字図書館の「ニットプラス」と全視情協の「ないーぶネット」を一本化し、「点字図書情報ネットワーク整備事業」として、両者の協力のもとに全視情協が運営する「ないーぶネット」の構築を行うことで合意(12月)
  • 日本ライトハウス、DAISY図書製作・貸出開始
  • 日本点字図書館、DAISY図書(デジタル録音図書)の貸出開始

 

2000年(平成12年)

(著作権法関係)

  • 著作権法改正(②)。点字の公衆送信が可能になり、著作権法第37条の2(聴覚障害者のための自動公衆送信)が新たに規定される(5月)

 

2001年(平成13年)

(図書館関係)

  • 文部科学省、公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準に障害者サービスをはじめて明記

(点字図書館関係)

  • インターネット版ないーぶネット(総合ないーぶネット)本格運用を開始。Web上からの貸出申し込みが可能に(4月)

(著作権法関係)

  • 著作権法(②)が施行(1月)

(その他)

  • シナノケンシが、DAISYのインターネット配信実証実験
  • DAISY Consortium、DAISY 2.02の仕様を承認(2月)
  • DAISY Consortium、DAISYの正式名称を”Digital Audio-based Information SYstem”から” Digital Accessible Information SYstem”に変更(12月)

 

2002年(平成14年)

(その他)

 

2003年(平成15年)

(図書館関係)

  • 「図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議」開始(1月)
  • 国立国会図書館、点字図書・録音図書全国総合目録をNDL-OPACにおいてインターネット公開(1月)
  • 大阪府立中央図書館、録音図書ネットワーク配信事業開始(4月)

(その他)

  • 郵政公社発足。盲人用郵便物の表示が「盲人用」から「点字用郵便物」に変更(4月)

 

2004年(平成16年)

(図書館関係)

(点字図書館関係)

  • DAISY配信サービス「びぶりおネット」が日本点字図書館と日本ライトハウス盲人情報文化センターにより開始(4月)

(その他)

  • DAISY再生機器が「日常生活用具給付制度」の給付対象に(4月)
  • 障害者基本法改正(6月)

 

2005年(平成17年)

(点字図書館関係)

  • 録音図書ネットワーク製作事業「びぶりお工房」本格運用開始(4月)
  • 「びぶりおネット」に点字データ配信サービスを追加(10月)

 

2006年(平成18年)

(著作権法関係)

  • 著作権法(③)改正。これにより点字図書館は、視覚障害者向けの録音データの公衆送信可能になる(12月)

(その他)

  • 障害者権利条約採択(6月)

 

2007年(平成19年)

(著作権法関係)

  • 著作権法③施行(7月)

 

2008年(平成20年)

(点字図書館関係)

(その他)

  • 教科書バリアフリー法施行(9月)

 

2009年(平成21年)

(図書館関係)

  • 「公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」に基づく障害者用音訳資料作成の一括許諾終了(12月)

(点字図書館関係)

  • びぶりおネット個人ユーザーへのダウンロードサービス開始(2月)
  • 平成21年補正事業で、厚生労働省の委託事業として、日本点字図書館が「視覚障害者情報提供ネットワークシステム整備事業」を受託。「ないーぶネット」と「びぶりおネット」を統合した「視覚障害者情報提供ネットワーク(サピエ)」を構築(11月)

(著作権法関係)

  • 著作権法(④)改正。視覚障害者「等」のために録音図書に限定されず、必要な方式で製作できることに、また、点字図書館だけではなく、図書館等も複製の主体になる。また、第三十七条の二が全部改正され、(聴覚障害者等のための複製等)に(6月)

 

2010年(平成22年)

(図書館関係)

(点字図書館関係)

(著作権法関係)

  • 著作権法(④)施行(1月)

(その他)

  • 特定非営利活動法人大活字文化普及協会が専門委員会としての読書権保障協議会設置(12月)

 

2011年(平成23年)

(図書館関係)

(その他)

  • 障害者基本法改正(8月)
  • IDPF、EPUB 3の仕様を勧告(10月)

 

2012年(平成24年)

(その他)

 

2013年(平成25年)

(その他)

  • 盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)のある人々の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約採択(6月)
  • 障害者差別解消法成立(6月)

 

2014年(平成26年)

(図書館関係)

  • 国立国会図書館、「視覚障害者等用データの収集及び送信サービス」開始(1月)
  • 「視覚障害者等用データ送信サービス」と「サピエ図書館」のシステム連携。「視覚障害者等用データ送信サービス」のコンテンツが「サピエ図書館」から利用可能に。(6月3日)

(その他)

  • 日本、障害者権利条約の批准書を寄託(1月。2月に効力が発生)

 

2016年(平成28年)

(その他)

  • 障害者差別解消法施行(4月)

主な参考文献

図書館関係

点字図書館関係

DAISY